「あ…あ? …って、えええええぇぇぇっ!?」
「そ、そんなに驚かないでよ!」
「驚くよ! って、まさか、もしかして、うわあ…」
 この状況ともなれば、すぐに察しがつく。シロザリアは、ネルの妊娠の相手がアルベル
だとわかったようだ。
「も、もしかして、私がシランドに戻った時?」
 ロザリアの声に、ネルは暗い表情でうなずいた。
 これにはさすがのロザリアも絶句した。確かにあのとき、アルベルに酒をプレゼントし
てたきつけた。彼女はそれがどれだけ危険な事なのか、それほど把握していなかったのだ。
だからそんな事ができたとも言うが、あの後も、わりと牧歌的に、アルベルが殴られた跡
をつけられたのは、告白して玉砕されたものだと思っていた。
 だが、やる事やって殴られていたとは……。
 開けた口を閉められないまま、ロザリアはネルを凝視する。そう言われれば、この白い
ワンピースはマタニティドレスだ。
 先を越されたとかいう感想も一瞬ちらとかすめたが。けれど、これは、かなりまずい事
になっていると今更ながら思いはじめて、自分のやってしまった事の軽率さに激しく後悔
した。
「忘れようと思ったんだけどさ…。こんな事になって。仕事は休職だよ。自宅で強制療養
をとるように言われてる。けど、私はこんな目に合わせたあいつがどうにも許せなくてさ。
一発でも殴らないと気がすまなくてさ。一昨日、乗り込んで殴りに来たんだよ」
 未だ茫然としているロザリアに、ぽつりぽつりとつぶやくように言う。いつものネルが
持つ、落ち着きや覇気は無い。
「ネ、ネル…」
「え?」
「もしかして、お酒、飲まされた?」
「飲まされたというか…。誘われたから、自分から飲んだ。ちょっと、イライラしててさ。
いつもより飲んじゃってね…。途中、やめとけって言われたのは覚えてる。けど、止まら
なかった。確かに…確かにさっさと酔い潰れてスキを見せたのは私なんだ…」
「…ごめん! ごめんなさい! ネル、あのお酒…」
「知ってるよ。ロザリアがあいつにあげたものなんだろ? 一緒に買ったから、知ってる
よ、そんな事は…」
「いやあの…」
「良いよ。別に、あいつは最初から私を酔いつぶそうって考えていたわけじゃなかった。
最初に話しかけたのは私の方だったんだから」
「あの、でも…」
「一人で飲んでたアイツに話しかけてさ。誘われても断れば良かったんだよ。断ったとこ
ろでどうこう言う男でもないんだからさ…」
 どうやら、わりと成り行きでそういう事になってしまったらしいのは、わかった。それ
でも、酒をプレゼントしてたきつけたのはロザリアなのである。
「…まあ、あんたが酒じゃなくて、他の物をあげてたらとは思うけど、あいつの好みなん
て知らないだろうしね」
 アーリグリフの男が好きそうなものということで、単純に酒という発想になったのだろ
う。酒屋では、とにかく美味しい良い酒をと言って、よくわからないままに高い酒を買っ
ていた所からも、それは伺えた。尋ねてくれれば、甘い菓子でもあげとけと教えられたの
に。あの「歪のアルベル」が実は甘党などとは、知らなければわからないだろうし、想像
もつかないくらいネルにだってわかる。あの面構えだ。お菓子より酒が好きそうな雰囲気
はわからないでもない。
「…あんたに恨み言言ったって、どうにかなるわけじゃないしね…」
「ネル…」
「はぁ…。ロザリア、どうしよう?」
 珍しく弱気な顔を見せて、ネルはロザリアに軽く抱き着いた。今更ながら、ロザリアは
自分のやってしまった事の大きさに気づいて、青ざめた顔をしている。
 どれくらいそうしていたか、ネルがゆっくり身を離した。
「…はあ…。ごめん。愚痴ってしまって…。でも、吐き出して、ちょっとすっきりしたか
な。ありがとう、ロザリア」
「ネル…」
 謝らなければならないのは自分の方だと思ったが。
「…ふう…。それにしても、なんであいつは私に手を出してきたんだろう…。あんまり女
に不自由しなさそうなのに…」
「それは……」
「え?」
 言いかけて、ネルの目を見て気が付いた。彼女、未だアルベルが自分に惚れている事に
気づいてないのだ。ロザリアがたきつけたのだって、アルベルの気持ちにロザリアが気づ
いたからだ。
 それは、ロザリアの口から言うべきなのか。彼女は迷った。そして、口を閉じる。やは
り他人が言う事ではないと思ったからだ。
「それは、アルベル殿本人に聞けば良いんじゃないかな。…で、彼はなんて?」
「さあ。夜遅くにならないと帰って来やがらないから、なんとも」
「子供はどうするの?」
 ロザリアのこの問いに、ネルは少し顔をあげる。
「…とにかく、産む事には決めた。それだけは…決めた」
「ネル…」
 昨日今日と、考えて。とにかく、それだけは決めたのだ。
「あいつがさ、自分一人でも育てるとか言い出してさ。…まあ、相手はどうあれ、私の子
供である事には変わりないからね。私が一人で育てるのも悪くないさ」
「…一緒に育てようっていう発想はないの?」
「………………」
 当然のようなロザリアの突っ込みに、ネルは黙り込む。
「そんなにあの人が嫌いなの?」
「…前は、嫌いじゃなかったよ。…好きでもなかったけど。でも、こんな事になって、イ
ヤになってる。…はあ…」
 考えただけで悪寒が走るとか、全身全霊をかけて拒否する程ではないものの、とことん
気は進まない。
「ネル…」
 まるで元気のないネルの背中をさすって、ロザリアの方も泣きそうな顔になってきた。
自分の軽率さを呪いながら、どうにか言葉を捜していた。
「…ネル…。とにかく、これから、どうする?」
「ん…。それを話すためにここにいるんだけどね。あいつも忙しくてさ。昨日だって、か
なり夜遅く帰って来たから。話し出せなくてね」
「そ、そう…」
 夫にアルベルの休みを都合してもらおうかと、王妃は頭をめぐらせる。
「何か、私にできる事はない? なにか、さ…」
「ロザリア…」
 気遣わしげなロザリアの瞳を見つめて、ネルは少し寂しげにほほ笑んだ。
 勢いで乗り込んだアーリグリフだが、その勢いが止まってしまうと、この体ではシラン
ドにまで戻るのは大変で。食事はほとんど喉を通らないし、おかげで体力も減ってフラフ
ラしている。とてもじゃないが長旅に耐えられる体調ではない。それに、そんな事をした
ら流産の可能性は高くなるし、母体であるネルへの影響も良い事などないだろう。
 気が付けば、ネルはここでひどく孤立している気分だった。
 そして、こんな所で出会えた親友は本当に心強くて、心底嬉しかった。
「こうやって訪ねてきてくれて嬉しいよ。ここじゃ、ほとんど知り合いがいないからね」
 話ができそうなのは、事の張本人であるアルベルと、世話をしてくれるマユくらいだ。
おまけにマユはアルベルとネルが結婚すると思い込んでいるらしく、将来は修練所のおか
みさんですねなどとぶっ飛んだ事を平気で言ってくる。悪気無く言っているのがなおさら
タチが悪い。わりと気のつく子で、それさえなければ良いのだが…。
 戦争中の事とはいえ、ここでここの兵士たちと殺し合いもした事のあるネルである。兵
士たちがネルをどう思っているのかだって不安なのだ。マユによれば、漆黒のメンバーが
当時とだいぶ替わった上に、あのアルベルの子を身ごもっているというので、敵意よりも、
好奇心や興味の方が強いとの事なのだが。
 とはいえ、あまりアーリグリフ兵士とは会いたくないので、アルベルの私室からほとん
ど出歩いていない状態だ。
「…私も、そう毎日来られないけど、手間が空いたら来るから」
「そこまで気を使わなくて良いよ。王妃様なんだから、そう何度もここに来ちゃまずいじ
ゃないか」
「でも……」
「まあ、たまに来てくれる分は嬉しいな。……本来なら、私がそっちに行くべきなのかな?」
「そんな事、気にしなくて良いから」
 とにかく後ろめたいロザリアは、自分にできる範囲の事なら何でもやるつもりだった。
「ありがとう。…ねえ、ロザリア」
「なに?」
「私さ、勢いでここに来ちゃったから、故郷のみんなに行き先さえも言わずに出ちゃった
んだよ。…心配…してるよね…?」
「当たり前じゃない!」
 ロザリアは思わずちょっと大きな声を出してしまった。
「手紙も考えたんだけどさ。…その、父親がアーリグリフ人だとか、まだ知らせない方が
良いのかな?」
「あ、そうか…。………う…ん…。じゃ、じゃあ、ネルのお母様とか、クレア…はどうか
な…ともかく、絶対的に信頼できる人にだけ、内密で書くとかはどうかな? とにかく無
事だけは知らせてさ。なんなら、私から出す事にして、カモフラージュでもする?」
「ん。そうしてくれると助かるかな。……頭の良いクレアの事だから、私がアーリグリフ
にいるってだけでも、アルベルの事、バレちゃうかな…」
「見当はつけられるかも…」
 顎に手をやり、考えながらロザリアが言う。相手がクレアならありえそうだった。
「そっか…」
「でも、いつかは言うつもりなんでしょ?」
「…そうだね…。じゃあ、ロザリアからクレアになら、不審がられないよね…母さんは…
どうかな…」
「う…ん、ちょっと変よね。おばさまも私からの手紙には、何事かと思うんじゃないかし
ら? それならさ、クレアへの手紙の中に同封でもしたら? クレアから手渡してもらえ
ば良いんじゃないかな」
「そうしようか。じゃあ、私、母さんとクレアへ手紙書くからさ。ロザリアから渡してよ」
「わかった」
 だんだんと手筈が決まってくる。一人では煮詰まっていた事も、こうやって話し合って
いくと次々と解決できる。
「じゃ、すぐに書くから。待っててよ」
 言って、ネルは立ち上がるが、未だ勝手がわからないこの部屋で、戸惑いの顔を浮かべ
た。
「あれ? あいつ、手紙書く道具なんて持ってんのかな?」
「そんなに慌てなくて良いよ。文面だってゆっくり考えたいだろうし」
 ベッドのへりに腰掛けたまま、ロザリアはネルにそう言った。
「でも、どうやってあんたに届けるんだい?」
「アルベル殿に頼めば良いじゃない」
「あいつがそんな使いっ走りみたいな真似するかい」
 手紙を届けるためだけに、彼がわざわざ王城に出向くとは思えなかった。もし、出向く
事があるなら、ついでくらいにはやってくれるかもしれないが、そのためだけに動いてく
れそうにない。
「別にアルベル殿が届けなくても、彼の部下か誰かに頼めば事足りるわけだし」
「あ、そうか」
 ネルは自分の頭に手をやった。彼は顎一つで修練所にいる全員を使えるのである。
「………でもさ」
「なに?」
 部屋の中央に突っ立ったまま、ネルはロザリアを振り返る。
「あんたへの差出人は私じゃなくて、あいつって事になるんだろ? そんな手紙をもらっ
て、あんた、不審がられない…?」
「まぁ、変な噂をたてる人はいるかもしれないわね。でも、事実関係がはっきりすれば平
気でしょ。それに、どちらかというと、私とよりあなたとの事の方がよほど噂になると思
うんだけど…」
「……………」
 施術王国としても名高い、シーハーツの施術部隊トップ、クリムゾンブレイドのうち一
人なのだ。近隣諸国でも名高いその存在であるネルをアルベルが孕ませたと、修練所内は、
今その噂で持ちきりなのである。一応、アルベルが緘口令を出して口止めしているが、ど
こまで押さえられるか甚だ疑問だ。それに、故郷のシランドでも、ネルの妊娠は噂になっ
たのだ。
「すぐにはシーハーツまでには伝わらないと思うけど。時間の問題よね」
「……どうしよう……?」
「結婚しちゃえば?」
「……あんた、気軽に言ってくれるね…」
 さすがのネルも、顔に青筋をたてた。
「まあ。大事な事だから、アルベル殿とよく話し合わないといけないわよね。…ともかく、
私にできる事があったら言ってね。協力するから。できる限り相談にも乗りたいし」
「…ありがとう、ロザリア…」
 ネルの顔がふっとゆるむ。この部屋で一人、鬱々と過ごしていたので、親友の笑顔は清
涼剤にも思えた。
「…でも…」
 ロザリアは、ため息をつきながら立ち上がり、ネルの側まで寄ってくる。
「え?」
「いいな…。赤ちゃん…。先を越されちゃった…」
 膨らんでいるような、いないような微妙な大きさのネルのおなかをさすって、心底羨ま
しそうにつぶやいた。
「あのね。こっちは欲しくもないのに、孕んじまってさ」
「……本当に欲しくないの?」
 思わず言った言葉に反応して、ロザリアはじっとネルの瞳を見つめる。
「いや…その…それは……その……」
「本当に?」
「だから…その…今は、欲しくなかったよ。将来的には、わかんないけどさ。しかも、相
手が相手だし……」
「…そんなにアルベル殿って悪い人じゃないと思うんだけどな」
「どの口がそんな事を言うかね。あんた、あいつの事よく知らないからそういう事を言う
んだよ」
「悪い人じゃないじゃない? ああ見えてけっこう優しいみたいだし」
「ええー」
 ロザリアの意見に、ネルは不平そうな声をあげた。その様子に、ロザリアが来るまでの
陰鬱とした表情はない。親しい友人と話して、少し元気が出たようだ。
「アルゼイ様が気に入ってる人だし」
「そういう基準かい」
 そんな意見に呆れ果てて、ネルはため息をついた。
「……あんたの旦那だから、あんまりどうこう言いたくはないけどさ」
「…まあ、シーハーツから見れば、ネルの意見で普通なんだけどね。でも、アーリグリフ
から見れば、アルゼイ様は名君よ。立場が違えば見方は変わるものだから。アルベル殿だ
って、…まあ、ちょっとアレな方だとは思うけど、軍人としては名将よ」
「ちょっとどころかだいぶアレだろう。ったくもう…」
「アルゼイ様が言ってたわ。アルベル殿、だいぶ丸くなったって。可愛くなったって」
「なんて言うかもう…」
 ロザリアの価値基準が、ほとんどアルゼイであるのには呆れ果てるが。あの男も、アル
ベルのあの凶悪な面構えをつかまえて、どこが可愛いと言うのか。
「でも、そのおなかの子については、きちんと責任とるつもりなんでしょ?」
「それは…だから…、…その、…当然じゃないか。人をこんな目に合わせてさ」
 普段のネルなら、あまりこういう事は言わないためか、彼女は口ごもりながら言う。
「まあ、産むのはネルだからね。出産のリスクを彼が負うわけじゃない」
 優しい目付きで、ロザリアはネルをながめて、戸惑いを浮かべる顔をそっとなでる。
「でも、私はちょっと驚いてるよ? あのアルベル殿が本当にちゃんと責任とるつもりっ
ていうのにね」
 けっこうひどい事を言っているのだろうが、ネルも本当にそう思うから、黙り込んでし
まう。
「お見合いの話とか、山ほど来てるらしいのに、その全部を蹴ってるそうよ。浮いた話も
聞かないし。あまり女性に興味がないみたいだし、王妃である私にでさえもそっけない態
度をとるし。仕事はともかく、対人関係に関する事は、本当に良い噂を聞かないわ。そう
いう人が……ね…。もしかすると、ああ見えて根は真面目なのかもしれないよ? 不器用
なだけで」
「………どうだろうね…。わからないよ」
 言われてみれば、思いあたるフシはあるものの、ネルは素直に認められない。
「それに、あなたのために私をここに呼んだのはあの人よ。一人で王妃の私室の前に来て
ね。すごく来にくそうだったけど。態度も相変わらずだったけど。みんな驚いてたわ。あ
のアルベル殿が王妃の私室を訪ねるとは何事かって。彼にとって、私の私室に来るってよ
っぽどの事だったみたいよ。私も、訪ねられた時は本当に驚いたけど。あの人、私が王妃
でなかったら、私の事なんて、たぶん視界にも入らないんじゃない?」
 確かに、戦闘力のないロザリアは、アルベルにとって興味もない対象だろう。自国の王
妃だというのに、名前さえもきちんと覚えているのかも疑問だ。
「ネルのために、彼なりにできる事をしてるんじゃないかな。実際、特に不自由はしてな
いんでしょ?」
 遠回しにアルベルがネルに惚れている事をほのめかすロザリアだが、どうにもこういう
所が鈍いネルは、それには気が付かないようだ。
「それは…その…。き、着替えとか、無くて困ってる」
 勢いで来たのだから、そのへんの用意とかろくにしていなかった。
「言えば良いじゃない。まぁ、そのへんは私が都合してあげても良いけど。サイズとか、
教えてくれれば用意させるわよ。…っていうかこのマタニティ、どこから調達してきた
の?」
 羨ましくて、ロザリアは思わずネルの着ている白のマタニティドレスのすそをつまみあ
げる。
「ここで世話してくれてる娘さんとこのお母さんから借りてね。ちょっと小さいけど、用
途が用途だからね。どうにか」
 言われてみれば、確かに足が出過ぎていて、つんつるてんになっている。
「…私が王妃じゃなかったら、一緒に買い物に行くんだけどね」
「ロザリア…」
「さ、じゃあ、早速サイズを計りましょう。可愛いの仕立てて贈るから」
 ネルの両手をぎゅっと握ってロザリアはにっこりとほほ笑んだ。
「いいよ、普通ので」
「だーめ。いっつもあの隠密服か、施術部隊の服かじゃない。私服も地味なのばかりだし」
「地味って、あんた…」
「えーと、それじゃ、あのマユっていう娘にメジャーを借りようか。女の子なら持ってる
だろうし」
「ちょっと、ロザリア!」
 ロザリアは強引に話をすすめると、嬉々として、私室の扉を開け放した。そして、部屋
の外で待機している侍女とマユも招き入れられる事となった。
「ネルさんって施紋こんなに施してたんですね」
 結局、ネルは裸同然にされて、ロザリアやらマユやら侍女やらに全身のサイズを計られ
ていた。マユはネルの全身に走る施紋に驚きを隠せなかった。
「仕事柄ね」
「マタニティですから。胸やおなかが膨らむ事も計算にいれないといけませんね」
 侍女が事務的な事を言いながら、てきぱきとサイズを計っていく。
「そでとか膨らませると可愛くなるよね。花柄の生地で注文しようか?」
 やたら上機嫌で、ロザリアはできあがりのデザインなどを楽しんでいるようだ。
「あんたね…」
 呆れのため息を吐き出す。そして、ネルは色々とあきらめたのであった。
「はい、腕をあげて」
 嬉しそうなロザリアの声に指示されて、ネルは両腕を上げる。メジャーがネルの胸をま
わり、女3人がほぼ裸体のネルを取り囲む。ロザリアとマユがキャッキャッと談笑しなが
らネルの胸からメジャーを外した時だった。
 ガチャリ。
 開くはずのない私室の扉が開かれて、アルベルがのっそりと姿を表したのだ。
 思わず硬直する4人。当のアルベルの方も目を見開いて、4人を見た。しばらく無言の
まま見つめ合っていたそれぞれだが。
「あー…。…………わりぃ」
 それだけ言って。ぱたんと頭を引っ込めて扉を閉じる。
 一人、ほぼ裸体だったネルは顔を真っ赤にして、怒りに打ち振るえており、彼女を取り
囲む3人は冷や汗を流しながら、お互いに顔を見合わせた。
 もちろん、この後、アルベルはネルに盛大にどつかれるのだが。

「ノックもしないのかい!?」
「自分の私室にノックなんかするか!」
「王妃が来てるって報告受けなかったのかい!? しかも、呼んだのあんたじゃないか!」
「誰がてめえらがんな事してるなんて想像するかよ! ちょ、おい! その椅子…」
 がごげっ!
 女3人は思わず目を閉じた。それから、そっと目を開けると、大きな執務用の椅子の下
敷きにされた漆黒団長がいた。

                                                          to be continued...