タビダチ
  僕はルカ様に別れを告げると、水の神殿を後にした。しかし、ルカ様って可愛い顔して
るけど、中身はやっぱりおばあちゃんなんだなあ…。
  途中、一軒家があるので立ち寄ってみた。
  『ニキータの店』看板にはそう書かれてあった。冷やかし程度に中をのぞくと、黒猫が
一匹、店番をしていた。
「ようこそナゴ!」
  その黒猫、モミ手をしながら、僕をみた。しかし、僕をジッとみて、
「もうかってるかニャ?」
  そんなワケない。僕は苦笑しながら、首を振ると、急に冷たい目になって、
「あっそ。商売の邪魔だにゃ!」
  と、いきなりそっけなくなくなった。居心地が悪くなったんで、僕はさっさとニキータ
の店から出て行った。
  しかし、あんな所に店かまえてて売れるのかな?
  ニキータの店を出ると、辺りは暮れかけていた。もう、そんな時間なのか。パンドーラ
王国を抜け、ガイアのへそに行く予定だけども、急いでいいのか、ゆっくり行っていいの
か、イマイチよくわからない。
  僕は野宿の準備をすることにした。野宿ってあんまりしたことないけど、キャンプと似
たようなものだと思う…けど。
  とにかく、火を絶やさなきゃいいと思うんだよね。
  その考えは半分合っていて、半分間違ってたんだ。なぜなら、動物は火を恐れるけど、
モンスターは火を恐れないから。
  だって、夕飯食べて、横になろうと思って、上半身を倒したんだ。すると、なにか背中
に当たる。
  なんだと思い、振り向くと、ピンクにハートの模様の少女趣味としか思えない傘を持つ、
デカいキノコが、不機嫌そうな顔して、そこにいるんだ!
「わああぁぁあぁぁああぁああっっっ!?」
「ういっ!?」
  そいつはキノコ人間マイコニド!  どうやら背後から襲うつもりだったらしい。
  でも、僕があんまり驚いたんで、逆にマイコニドも驚いて、どこかへ走り去った。一応、
命拾いしてんだよね。
  その時、火を炊いてればいい、という考えが甘いことを思い知らされた。
  しょうがないから、僕は木のうえで寝るという手段を選ばざるをえなかった。空飛ぶビ
ービーがちょっと心配だけど、あいつら夜行性じゃないからまず、大丈夫だろう。
  しかし、木の上というのは寝にくいもんだ。疲れてるのに、なかなか寝付けなかった。

  夜が明け、朝がくる。最初、僕はベッドで寝てるつもりだった。
  固いベッドだな…、なんてぼんやり考えていると…
  ズルズルドタンッッッ!
「うげっ!」
  木から転げ落ちて、思いきり背中を打ってしまった。
  僕はしばらく息ができなかった。
「くぅ〜、いってー…」
  したたかに打った背中をさすり、ベッドでは寝てないことを思い出した。もう、一生ベ
ッドで寝れないのかな…。
  そんな心配がよぎる。いや、そんなことないよ。たぶん…。
  昨日の悲しいことを思い出さないように、僕は支度を始めた。


  村を追い出され、五日くらい経ったと思う。剣はまだ慣れないけど、それでも初めより
は随分慣れた。
  パンドーラはまだかなぁなどと、ボンヤリ考えながら歩いていたのがいけなかったらし
い。
  いきなり僕の目の前にゴブリンが二匹、躍り出たのだ!
「うわぁっ、ゴブリンだ!」
  身構えるよりも早く、ゴブリンたちは僕を取り囲んだ。そして、いきなり後頭部に痛烈
な痛みが走った。
  ガツウッ!
  それからの記憶はない。

  気がつくと…。
「うわあああっ!?」
  なんと、僕はグツグツと煮だっている大きなカメに入れられてるじゃないか!  もうお
湯というより、熱湯近くの温度になってる!
「うわ、あちちちちちっっ!」
  僕があんまり動くもんだから、一匹のゴブリンが、
「コラ、オマエ、ウゴクトナマニエ。ジットスルヨロシ」
「オマエトテモウマソウ!  ハエアルイケニエニ、エラバレ、オマエトテモメイヨ」
「うわあ、やめてくれえ!」
  ちょっ、冗談じゃないよ!  ゴブリンに食われておしまいだなんて!
  僕がパニクってると、妙な音楽が流れ出した。
「ウホ、オドリガハジマッタ!  ワレラモオドラネバ!」
  どうやら、ゴブリンたちは大の踊り好きらしく、踊りに熱中している。しかし…!
「ちょっと…」
  こんな情けない一生だなんてあんまりだ…。どーして僕だけこんな目に…。
「ちょっと君!」
  村を追い出さ…、え、ええ?
  声をかけられ、後ろを向くと、年頃が僕と同じぐらいの女の子が、こちらに近づいて来
ている。
「バッカねー、なにやってんの?」
「た、助けてくれよう!」
  僕は必死になって願った。こんなんで死ぬなんてどう考えても嫌だ。
「シッ!  静かに」
  その女の子は、用心深く注意をはらい、ゴブリンたちがこちらに気づきそうもないとわ
かると、僕の襟首をつかみ、ヒョイッとカメから投げ出した。
「さあ!  逃げるよ!」
  急き立てられ、僕はあわててこのゴブリン村から走り去った。

「助かったよ。どうもありがとう。でも、なんだってこんなところに?」
  そう。ここいらもモンスターだらけで危ないというのに…。
「ある人を探しをしてたら、連れてかれるのが見えたんで、まさかと思ったんだけど…。
人違いだったみたい。助けて損しちゃった」
「そんなぁ…」
  そんなひどい…。可愛い顔して、ひどい事言うなあ。
  彼女は輝く金髪を上でまとめ、透き通る青い瞳。可愛い顔してるけど、そのちょっと偉
そうな態度はいただけないかも…。
「冗談よ。じゃあ、君も早く町に帰りなさいよ!」
  そう言うと、その子はさっさかと、走ってどこかへ行ってしまった。
「あ、ちょっ…、あーあ…。行っちゃった。まだ名前も聞いてないよ」
  後でお礼もできないな…。
  僕はさっきの女の子をちょっと気にかけつつも、パンドーラ王国に向かった。
  先に進もうとして、僕は重大な事に気づいた。剣が、聖剣がないのだ。
「ど、どこやったっけ!?」
  焦らないで落ち着け。えっと、ゴブリンにさらわれる前は持ってたんだから…。ゴブリ
ンに襲われた辺りを探せば…。
  祈るような気持ちで、そして恐る恐るゴブリンにさらわれた場所におもむく。
  あった!
  錆びた剣では、だれも見向きもしないんだろう。そのまま、落っこちてあった。
  ああ、良かった。
  これがないと、ガイアのへそに行く意味もなくなっちゃうもんね。
  途中、マイコニドや、人食い花バドフラワーなんかを、苦労して倒しながら、進んだ。
  ヘトヘトになりながら、やっとのことで、パンドーラ王国にたどりついた。
  入り口には兵士がたっていた。入れてもらえるかな?
「あのー…」
「ああ、ジェマ殿が言っていたランディ君だね。通ってもいいぞ」
  と、すんなり通してくれたのだ。
  へえ!  ジェマってすごいんだな。一体どういう人なんだろ?  
  そう思って、ジェマについて兵士に聞いてみた。
「ジェマ殿?  さあ、タスマニカ共和国の騎士らしいが…。今はお城にいるぞ」
  へー、騎士か…。タスマニカ共和国と行ったらパンドーラに負けず劣らず大きな国。じ
ゃ、まずお城に行ってみようっと。
  でも、兵士もあまり知らないようだ。僕が中に入ろうとすると、
「あ、それから、町の人には話しかけない方がいいぞ!」
  と、声かけた。
  ?  どういうことなんだろう。しかし、それにしても大きな町だなぁ…。城下町だけあ
るよ、うん。一度、行ってみたかった所なんだよね。思わずきょろきょろとお上りさんし
てしまう。
  でも、やるなと言われてやってしまうのが人間だと思う。とりあえず、そこらへん歩い
てる人に話しかけてみた。
「あのー…」
「……………」
  ちょっと、僕の方をみたけど、すぐに無視して歩いて行った。失礼だなあ。
  僕はそれから色んな人に話しかけてみたけれど、半分以上が同じような反応を示した。
どうなってるんだ?
  正気と思われる人に聞いてみると、このごろ町ではそういう人が増えているんだそうだ。
本当にどうしたんだろう。
  一応、ジェマがいるお城へと行くことにした。
  お城ってのがこれまた大きい!  僕、こんなに大きな建物初めてみた。さっすが王様が
住んでいる所だなーって思わせる。
  門番の兵士もジェマから僕のことを聞いていたみたいで、すぐに通してくれた。
  内装も凝っていて、絨毯が贅沢に敷き詰められてる。歩くのが悪いみたいだ。
  僕はやっぱりキョロキョロしながら歩いていた。だって、珍しいものばかりなんだもの。
  途中、ディラックという聞き覚えのある名前が聞こえたんで、よく聞いてみると、小さ
な子供が、そのディラックと遊ぶ約束をしたんだそうだ。
  あの人、こんな小さい子供からも慕われてるんだと思うと、なんだか、本当に同じ人間
なのかなって思う。
  広い城内を歩き回り、謁見の間への道を聞く。階段を上ろうとすると、女の人が、
「そうそう、謁見の間の隣の部屋で、大臣エルマン様の娘さんがお見合い中だから邪魔し
ちゃ駄目よ」
  と、言われた。へー、大臣さんの娘の見合いねえ。貴族の人って、お城で見合いしちゃ
うんだ…。
  階段を上り切ろうというところで、前方でバタンッと派手に戸を開ける音が聞こえた。
「パパなんか大っキライッ!  自分のことは自分で決めるわ!」
  そう、吐き捨てるように言い、そしてまたバタンッと派手に戸を閉める。随分と怒って
るようだ。
  あれ、あの娘は…。
「あら?  あ、この前の間抜け男!」
  うっ…。いきなり人を見てそれはないよ…。
「恥ずかしい所をみられちゃったわね…」
  と、ちょっと気まずそうな表情を見せた。
「あれ?  君、剣士なの?  そんな立派な剣なんか持っちゃって!」
  彼女は、早速僕の手にある、聖剣に気がついた。でも、錆びててとても立派とは思えな
いんだけど。
「え?  あ、そのこれは…」
「そうだ!  君、ちょっとあたしに付き合いなさい。妖魔の森に魔女を退治しに行ったデ
ィラックを助けに行くのよ!」
  え、そんな…。
「でも、僕、地底神殿に行かないと…」
「そんなのあとあと!」
  そんな自分勝手な事言わないでよ。
「えーと、君は?」
  あ、そういえば、名前を言っても聞いてもなかったんだっけ。
「…僕、ランディ」
「フーン。あたしはプリム。よろしくね!」
  よろしくねって、そんな一方的な…。
「ところでどこ行くの?」
「謁見の間。ジェマって人がいるはずなんだ」
「へー」
  彼女は、僕が謁見の間に用があるとは思わなかったらしい。意外、という顔をしてる。
  話しは通っているらしく、僕はすぐに謁見の間に通された。謁見の間ははとにかく豪華
な造りだった。あ、ジェマがいる。
  ジェマも僕に気づいた。
「おお、ランディ。おまえも来たか」
「ええ…」
「おまえも町の様子をみただろう。なぜだかわからんが、北の魔女エリニースが人々の生
気を吸い取っているようなのだ」
  どうやら、そのエリニースとかいう魔女のせいなんだな。
「わたしはその調査のため古代遺跡に行く。おまえは地底神殿に行け」
  堂々としたジェマと対照的なのが、パンドーラ王国の王様。青い顔をして、沈んでいる。
  その隣では王妃様らしき人もいた。彼女もまた、暗そうな雰囲気だ。
「…では、ジェマよ、頼んだぞ」
「はい」
「……あの…。北の魔女の仕業なのに…なんで古代遺跡なんですか…?」
  僕はさっきわいた疑問をジェマにぶつけてみる。
「うむ。生気を抜かれた人々はどうも古代遺跡でぬかれたようなのだ。もしかすると、エ
リニースは古代遺跡にいるやもしれんしな」
「はぁ…。じゃ、北にはいないんですか」
「北の妖魔の森にはエルマンの勧めで魔女討伐隊を派遣したが、音沙汰がなくてな…。ど
うやら全滅してしまったらしいし…」
  それには王様がため息混じりに答えてくれた。
「なんですって!」
  それを聞いたプリムは、非常に驚いた。
「ディラックはパパの差し金で魔女討伐隊に任命されたのね!  あたしたちを引き離そう
として…。許せない!」
「無礼者!」
  あんまりプリムが騒いだので、プリムは近くの兵士に怒られた。でも、彼女はそんなの
ものともしない。
「ふん、なによ!  行こう、ランディ!」
「え?」
  彼女はプンスカ怒って、すたこら謁見の間から出て行く。
「ちょっと…」
「早く!」
「はいっ!」
  思わず、返事をする。だって、なんか、こわいんだもん…。

                                                          to be continued..