Dizzy "3"

  武道館に入ると、そこそこ人が入っていた。
「こっちよこっち!」
  フィアリー部長は強引にずかずかすすむので、私たちはそれに続いた。
「デュランは今年も優勝するかしらねえ」
「すると良いですけどね」
  妙にそっけなくホークアイが言う。
「気合が足りないわよ。ホークアイ。さ、これを広げるのを手伝って!」
  と、ケヴィンがもってたカバンから、なにやらなにか書かれた長い布を取り出す。
「えー?  まーた作ったんすかぁ?」
「私たちが作らないで誰が作るのよ。こういうのに、こういうのは必需品なのよ」
  それは、デュラン頑張れとデカデカと書かれた横に長い幕(?)だった。
「長さは5人分だからね。どーしても5人欲しかったのよー」
  だから、私たちが呼ばれたのか。
  ホークアイは人数あわせのためとかいって、体の良い口裏合わせだと思ったんだけど…。
部長さんから言われたっていうのは、本当だったんだ。
「他に部員、いないの?」
  思わず私が聞くと、フィアリーはにっこりとほほ笑んだ。
「ええ。デュランあわせて全部で4人なの。あ、なんなら、あなたたちもどう?  大学生
なんでしょ?」
「う…」
「あ…。今のところ…その…」
  私たちは思わず、苦笑して手を振った。


「私もねー、デュランが剣術やってなかったらこんなとこ来ないんだけどね」
  フィアリーはにこにことカメラを準備してる。…しまったな…。もってくれば良かった
…。
「剣術ってなかなか良いわよね。ほら、彼、フォルセナの出身でしょ?  フォルセナって
いったら、昔は騎士で有名な国だったじゃない。だから…」
  考古学研究会部長は伊達ではないようで、歴史が好きらしく、フィアリーはフォルセナ
の歴史をとうとうとしゃべっている。
  それに真面目に聞いているのはリースくらいで、ケヴィンはうとうと船をこいでるし、
ホークアイは持ってきていた小説に目を落としている。…慣れてるんだな…。
「あら、あなた槍術やるの?  もしかして、ローラント出身?」
「いえ。でも、祖先はローラントで、私の祖母の代からこちらに移り住んだんです」
「まー!  じゃ、あなたの祖先はアマゾネスなのね?」
「ええ」
「ならローラントの歴史も……」
  リースもよく真面目にやってられるわよねー。なんか、眠くなってきたなー、私。試合
はまだはじまらないしさー。
  フィアリーの飽くなきおしゃべりに終止符を打ったのは、試合がはじまったからだった。
  …剣術の感想は、本当のところ、良くわからない。
  だって、みんななんか声をあげて剣をがしがしかちあわせてるんだけどさ。
  けっこうあっと言う間に決着がついたりしてさ。
  せっかくデュランが出てきても、彼はさっさと決着つけちゃうの。
  はじまって1分たつかたたないうちに、もう決着ついちゃうの。
  応援するヒマもない。
「…剣術って…よくわかんないな…」
「しゃあないよ。ちゃんばらと違って、見せモンじゃないしさ。素人は早くて剣のスジと
か全然見えないから、なにがどうなってるかサッパリわからないのも、無理ないし」
  ホークアイはそう言うけど。
「…でも、デュランさん…。すごいですね…。早いし…正確だわ…」
  槍術やってるリースとしては、なにか通じるものがあるらしく、かなり真剣に見入って
いた。なんか…面白くないな…。
「わかるの?」
「ええ。なんとか」
「デュラン、早いよね。けど、焦ってる早さじゃないし」
「そうですよね。…あなたも、なにか武術を?」
「うん。体術やってる」
「まあ」
  ケヴィンはがっちりとした体つきをしてるので、そう聞いても不思議はなかった。それ
から、リースは少し専門的な事をケヴィンをなにやら話している。
  んー…。
  これはなにか武術をはじめろって事なのかしら?

  デュランは着々と勝ち進んでいく。
  こう、まったく危なげないってのも、応援のしがいもないような気がするんだけどー…。
  それでも、どんどんと勝ち進むデュランは遠目で見ても格好良くて、なんか、すごくド
キドキした。来て良かった。本当に良かった。
  けど、やっぱりトーナメント戦だから、勝ち進めば強いのとかちあうわけで、最初の時
みたいにあっと言う間に勝ちって、事もなくなってきた。
  そして、決勝戦。
「これより決勝戦をはじめる。西経大学、デュラン。東証大学、ブルーザー。両者前へ!」
  わあああぁぁああぁあっ!!
  私も思わず立ち上がって幕を握って揺らす。
  胴着と袴を着たデュランはすごく格好よくて、カメラを持って来なかったのが本当に悔
やまれた。フィアリーに頼んで焼き増ししてもらうしかないかなぁ…。
  私は試合に熱中して、叫んで跳びはねるフィアリーを横目で見る。
  さすが決勝戦。楽勝ってわけにはいかなくて。
  ガン、カシッ!
  彼らは幾度も剣をかちあわせては、押したり引いたりしてた。
  ガッ!
  デュランのふるう剣(木製)が強かったか、相手は思わず落としてしまう。
  一瞬、水をうったような静けさ。剣の転がる音が聞こえたくらい。
「勝負あり!  勝者デュラン!」
  うおおぉぉぉおおぉぉ!!
「やったわぁあぁぁっ!」
  フィアリーは大喜びして、私に抱き着いてきた。実は私も大喜びしちゃって、リースと
3人で跳びはねてたんだけど。
  ふと見ると、クールに見えたホークアイもケヴィンと一緒に喜んでいた。

  表彰式も終わって、私たちはやれやれと席を立つ。
「リースさん。あなたの槍術の試合がある日は教えてね。私、応援に行くから。これ、作
ってさ」
「ええ、是非」
  フィアリーの持ってきたあの幕には、ちょっと苦笑したようだが、リースはにっこり微
笑んだ。
「オイラも行くぞ!」
  ケヴィンが元気よく言うと、リースも笑った。随分、仲良くなったみたい。
「おーい」
  私たちが歩いてると、デュランの声が。
「よ、おめでと!」
「さすがね!」
  ホークアイやフィアリーがよってたかってデュランをたたくと、彼も照れて微笑んだ。
それから、不思議そうに私たちを指さした。
「ははは。…ところで、なんでおまえたちが?」
「なによ、来ちゃいけないの?」
  思わず出る言葉。
「いけねぇってわけじゃねえけどよ」
「ほら、この幕持ってもらうには最低は5人いるのよ。去年は3人で持つのツラかったし
さ。ホークアイがアテがあるって言うから、連れてきてもらったのよ」
  フィアリーがケヴィンの持ってるカバンから、アレをはみ出させて見せると、デュラン
は苦笑した。
「ああ、それで…」
  フィアリーの性格は、私よりデュランの方がもっと知ってるんだろうな。
「やっほ!  おっめでとー!」
「おお?」
  いきなり、デュランの腕に抱き着く女の子。な、なにこのこ!?
「なんだおまえか…」
「なんだとはなによー」
  高校生くらいかな。栗毛の、すっごく可愛い女の子。…誰よ…。誰なの…?
「お、誰だよ」
  女の子が可愛いのでホークアイが反応する。
  それを聞いて、女の子は満面に微笑んで、こう言った。
「彼女でーす!」
  !!
「あのなぁ…」
「なによ。あ、やだこんな時間。もう行かなくちゃ。じゃ、あとでね!」
  女の子は腕時計を見てあわてると、デュランの腕を離してぱーっと走り去ってしまった。
「あ、おい…。ったく…」
「……おい、あの子は…」
「ああ、あいつ…」
「デュラン!」
「あ、はい!」
  剣術サークルの人だろうか。顧問っぽい人がデュランを呼ぶ。
「あ、今、行きます。悪い、あっちの打ち上げがあるんだ。打ち合わせとかあるし…」
「いいのよ。また集まれば良いんだもの」
  フィアリーがそう言うと、デュランはこちらにちょっと手をあげて、行ってしまった…。
「デュランったらすみにおけないわねー。あーんな可愛い彼女がいたなんてねー」
  フィアリーの気楽そうな声が胸にズキズキ突き刺さる。
  私の気持ちを知ってるホークアイとリースが私をのぞき込んでいるのがわかった。
  …気分が悪くなってきた…。
  ものすごく、ものすごく、気持ちが悪くなってきた。
「あの…アンジェラ…?」
「…………あ…その…。ちょっと、早退して良いかな…?」
  こんな時に、我ながらよく笑顔ができるものだと思う。
「どうしたの?  気分悪いの?」
  びっくりして、フィアリーが心配そうに顔をのぞき込む。
「…そう…みたいです。私…ついてますんで…今日は…その、失礼させていただきます」
「あ、うん。わかった。本当に大丈夫なの?」
  リースがフォローしてうなずくと、私の背中に手を回して歩きだす。
「車を呼びましょう。遠くありませんから、すぐ来てくれます」
「………ごめん…。その…」
  リースは無言で、私を支えて歩きだし、車を呼んでくれた。

                                                          to be continued..