Dizzy "2"

  そして、やってきました切符販売機。ホークアイは小銭使えって言ったけど、なんだ、
カード入れる場所があるじゃない。
  へー、駅の切符販売機ってすすんでるのねぇ。カードで買えるんだ。
「あれ?  なんで、カード入らないのよ」
  いつものカードをカード入り口に差し込むけど、このカードが厚くて、販売機に入らな
い。
「おっかしーわねー。カード入れろって書いてあるクセに」
  何度もガチガチ押し込むんだけど、駄目。入らない。
「なにやってんだよ!?」
  ホークアイが驚いてカードを入れようとする、私の腕を引っ張る。
「なにって…。カード入れろって書いてあるから…」
「そのカードはいつもあんたが使うクレジットカードは使えないの!  駅で販売してる専
用のカードしか使えないんだよ」
「えー!?  なによ、カードに対応してるんじゃないの?」
「してねぇもんはしてねぇんだよ。ほら、とっとと小銭使えよ」
「もー…」
  私はカードを財布に入れて小銭入れをひらく。あいにく、小銭がなかったので、お札を
入り口に差し込んだ。
  ところが、何度いれても、お札は返ってくるばかり。
「?  な、なによこれ」
  この自動販売機壊れてるの?
「そこはそんな高い札使えねーんだよ。五〇〇ルク紙幣のみ使用可って書いてあるだろ?」
「えー?  そんなの持ってないわよ!」
「あーもう。これ使え!」
  ホークアイは情けない声を出して、硬貨を2枚ほど自分の財布からつまみだすと、私の
手に押し付けた。
「このボタン押すんだぞ」
「わかったわよ」
「すみませーん。どのボタンを押せば良いんですか?  なんか、全部光ってるんですけど
…」
「あーもう…」
  リースに呼ばれて、ホークアイは頭をばりばりかきながらそっちに向かう。
  しょうがないじゃないのねえ。私たち、こうやって切符買うのって、初めてなんだもの。


「へぇ…」
「これが地下鉄…」
  さっきから仏頂面のホークアイの後に続いて、私たちは階段を降りる。
  地下鉄って、随分汚いのねぇ。床に点々としてる黒いのって何だろう?
「こっちだよ」
「随分枝分かれしてるんですね…。迷路みたい…」
「このへんはな。ここで電車を待って。それに乗って三駅で武道館だ」
「ふーん…」
「ま、すぐだよ」
  なんて言ってるうちに電車が来たので、ちょっとドキドキしながら電車に乗る。
「…この丸いの何?」
「吊り革も知らねーのか…」
「つりかわ?」
「電車は揺れるから、立つ時、ここを持つの」
  言って、ホークアイは白くて丸いのを握って立って見せる。なるほど。
「でも、どうして立つんですか?  席はたくさんありますよ?」
「……今日はすいてるけど、曜日や時間帯によってはこの席以上に人が乗るから、その時
に使うの」
「えー?  時間帯によって人がたくさんいるってどーゆーことよー」
「………………」
  ホークアイは何故か深々とため息をついた。
「あのな。おまえらんトコにも高校に登校する時は、登校の時間とか決められてただろ? 
 その時は、人がわっと集まっただろ?」
「うん」
  送迎カーラッシュと呼んでいたのを思い出す。大学だと、みんな登校時間はバラバラだ
から、高校の時ほどではないけど。
「それが電車でも同じなんだよ。ガッコやカイシャに行く時の時間帯がみんな似通ってる
から、人が集まるんだ」
「へー」
「そうなんですかー」
「……………」
  リースや私の眼差しもちっとも嬉しくないらしく、ホークアイは渋い顔をするだけだっ
た。
  私たちは長い椅子に腰掛けた。電車の中はまばらで、何故か、空いてる席にも座らず立
ってる人とかいた。
「それにしても、デュランさんって凄かったんですね。こういう雑誌に乗るってよっぽど
ですよ」
  言いながら、リースはバッグから雑誌を取り出した。見たこともない、マイナーそうな
剣術の雑誌だ。
「…そんなの買ってるの?」
  ホークアイはびっくりしてそれを指さす。
「いいえ。槍術のものは買ってるんですけど、剣術のものは初めてですよ。剣術も武術の
ひとつですからね。後学にもなると思って、買いました」
  言ってペラペラとページをめくる。思わずのぞきこむホークアイと私。
「今日は決勝が行われるんでしょう?  見たら、今日の決勝って相当なものじゃないです
か」
「あー、そうらしいな。最近、付き合いやめてそっちに専念してたし、アイツ」
「でもこれって部活っていうか、サークルで出るものなんでしょ?  個人と団体があるし。
あんた、デュランとサークル同じって云ってたけど、あんたも剣術やってんの?」
  記事を読みながらホークアイに尋ねる。
「いや。あいつが掛け持ちしてんだよ。試合が近くなると、ウチのサークルには顔を出さ
なくなるし」
「なんで掛け持ちしてんの?」
  聞けば、高校の時から、デュランの剣術はすごかったそうだけど。
「部長に強引に入れられたんだよ。あいつ、だまされやすいしさ」
「ふーん…」
「ところで、ホークアイさんはどういうサークルなんですか?」
「考古学研究第二同好会ってトコ」
「考古学ぅ? 似合わないわねー…」
「うるせぇなぁ…」
 こいつみたいなのが、スコップとかもって発掘してるのって、なんか死ぬほど似合わな
い感じがするんだけど。
「しかし、その第二同好会って…」
「ああ。なんか、ウチの部長が大学の考古学研究部の連中と折があわなくなって、勝手に
作ったんだよ。そんで、第二同好会」
 …なんか…よくわかんないところねぇ…。
「けど…、リースって武術かなんかやってんの?  興味あるみたいだけど…」
「ええ。槍術を子供の頃から」
「そうじゅつって…あの、槍をぶんぶん振り回す、アレ?」
「ええ」
「リースはねぇ、国体じゃ優勝するくらい凄いのよ」
  友達がすごいって、なんとなく自慢したくなるもの。私は自分の事のように言う。
「え!?  ウソ」
「本当。ね?」
「母もやっておりましたし」
  リースがにこにこと肯定すると、ホークアイは思わずリースを凝視した。
「…まじ…?」
「本当だってば。そのへんの男じゃリースにかなわないわよ」
  実際、幾度か痴漢を撃退した事もある。
「…ふーん…。そー…」  
  なぜか、ホークアイはすこし引きつった顔をした。


  実は武道館は初めてじゃない。リースの槍術の試合は応援にも行くし。ただ、さすがに
地下鉄使ってってのは初めてだったんだけど。
「武道館…か…」
  色々感慨があるのか、リースは武道館をぼんやりと眺めている。
「ホークアイ!  こっちよー!」
  女の声に振り向くと、知らない女と、見た事のある男が1人。
「部長。早いっすね」
「ふふふ。まあね」
  どうやらあれがホークアイが属するサークルの部長さんらしい。長く、色の薄い銀髪で、
黒目がちの可愛い感じ。ホークアイが先輩って言うくらいだから、私と同い年か、少し上
か…。
「あら、きれえな人達ねえ!  お目が高い」
  意味ありげにホークアイを見ると、彼は素知らぬ顔をしている。
「…この人達は…?」
  リースの言葉に、女の方が反応した。
「ああ。自己紹介がまだっだたわね。考古学研究第二同好会部長のフィアリーよ」
  同好会なら会長じゃないかなぁとか下らない事を考えてみる。
「で、部員のケヴィン君」
  あ、この子は知ってる。褐色で、ガッチリしてる男の子。彼は少しおどおどと頭を下げ
た。
「リースです」
「アンジェラよ」
「じゃ、今日はよろしくね!」
  確かに、どこか強引さを感じる人だなぁ…。

                                                          to be continued..