「どうだ…?」
「骨折でしょうな。応急処置も的確でしたし、この様子ですと、大事にはいたらんで
しょう。後はこのままゆっくり、骨がくっつくのを待つのみです」
  ホークアイは安堵の息をもらした。
「どれくらいでくっつく?」
「…そうですね…。どんなに少なく見積もっても1カ月。6、7週間はゆっくり休め
た方が良いですね」
「わかった」
  ドアを開けると、ベッドに横たわるアリシアと、めちゃめちゃ落ち込んだラヴィア
ンがいた。
「あの…どう…?」
  真っ赤な目のラヴィアンが尋ねてきた。
「やっぱり骨折だ。1カ月半ほど、ゆっくりすれば治る」
「…ごめんなさい…、ごめんなさい……。あたしが…あたしががあの時……」
  もう何度謝ったかわからない。
「もういいから。前以て注意してなかった俺も悪かったんだし、そんなに自分を責め
るんじゃない」
「……うるさいわよ…、ラヴィアン……」
  眠ったかと思っていたが、静かな声でアリシアが言った。
「……あんた…、自己嫌悪に陥ると…しつこいからキライよ…」
「…お姉ちゃん……」
「…丸腰で、あんな所に入った私がバカだったのよ…。…それだけじゃない…。そん
なに、謝らないでよ……」
「……………………」
「……少し、眠らせて……」
「…わかった…」
  素直にうなずいて、ラヴィアンは部屋から出た。
「おい、ラヴィアン…」
  ホークアイが呼び止めても、ラヴィアンはとぼとぼと歩いて行った。その後ろ姿は
こっちが可哀想と思ってしまう程であった。
  アリシアの言うとおり、彼女は激しく自己嫌悪に陥ってしまうタイプらしい。
  それから、気を紛らわすと言って、ラヴィアンは持ってきた石板を眺めた。どうや
ら本当にマナの石板らしいのだが、姉のケガのショックで、彼女はちっとも嬉しそう
ではなかった。
「読めるのか?」
  イーグルが話しかけてみる。ラヴィアンはゆっくり首をふった。
「これ…、古代語よりもさらに古いヤツ…。古すぎて、どんな言葉なのか名前も忘れ
られちゃったヤツなの…」
「…なんでそれがわかるんだ?」
「そういうのがあったって言う、文献を読んだ事あるの…。これ、どうやったら読解
できるのかなぁ…」
「……頑張れよ」
  イーグルは、それ以外良い言葉を見つける事ができなかった。


  二、三日くらい、ラヴィアンはよく姉の世話をしていた。ホークアイの妻や娘たち
並び、ナバールの女たちみんなが手伝ってくれた。
「書けたか?」
「うん…」
  ラヴィアンは、几帳面な字が並ぶびんせんをちょっと見せる。
「じゃ、出してくるよ」
「ありがとう…」
  ホークアイと、ラヴィアンの手紙を一緒の封筒にいれ、アルテナ気付で彼女たちの
両親に出すのだ。アリシアを2カ月近く面倒見る事になるのだから、連絡はしておか
なければならない。
  アリシアがケガして5日くらい経った日の事。
「親父」
「ん?  なんだ、イーグル」
  イーグルがホークアイを探してか、この部屋にやって来た。ホークアイはとある富
豪の屋敷の図面から目を離す。
「アリシアが、親父に話があるんだと…」
「話…?」
  一体何であろうか?  ホークアイは早速アリシアの部屋を訪ねた。
「どうした?」
「…あの、ラヴィアンの事なんだけど…」
「うん」
  そこの椅子を引き、腰掛ける。
「あの子…、失敗する事が少ないから、落ち込むとしつこいの…。あれからずっと自
分を責めてるんだもの…。ラヴィアン、もしかすると、あの石板を持って一人でどこ
か行こうとするかもしれない…」
「どうして…?」
「…マナを復活させたいのよ。おじさまも少しはご存じでしょう?  今、アルテナが
どういう状況におかれているか」
「あ、ああ…」
  ホークアイはちょっとうつむいた。アルテナ国滅亡が、時間の問題であることを、
もちろん知っている。
「マナさえあれば…。これがあの子の考えよ…。確かに、マナがあれば回復魔法とい
うもので私の骨折も治るでしょうし、アルテナも復活する可能性があるわ…」
「…そうだな…。それで?」
  軽くあいづちをうち、続きをうながす。
「あの子は、これ以上、人に迷惑をかけたくないと思ってる。一人で行けば、迷惑は
きっとかからない…」
「そんな!  それこそ迷惑だって事が…」
「わからないのよ…。一人で行けば、みんなに迷惑はかからないと思ってるの…。確
かに直接的な…物理的な被害はみんなに及ばないでしょうけどね…。
  あの子…、確かに頭は良いわ…。天才的なくらいにね。でも、やっぱりわかってな
い事が多いし、よく考えてもいないのよ!  自分が傷ついたら、私が悲しむなんて考
えてない…。私が傷ついたらあんなに悲しむクセして!」
「アリシア……」
「おじさま…。ラヴィアンを見ていて下さい。あの子、自分で目的を決めたら何が何
でもやり通すわ。どんな無茶をおこすかしれない…」
「わかった。さりげなく監視してよう」
  ホークアイがうなずくと、アリシアはホッとした笑顔を見せて、ゆっくり横たわっ
た。
  どうやらこの事が気になってよく眠れてなかったらしい。
「ふむ…」
  ラヴィアンは悪い子じゃない。むしろ良い子だ…。だが……。
  ホークアイがさりげなく見ているように、妻や娘たちに頼んだその次の日に事件は
起きた。
  すでにラヴィアンはこの字が読めそうな者に見当をつけていた。ラビの森に住むと
いうコロポックル…。彼なら読める確率が高い。
  そんなことをイーグルにもらしたその夜。
  一人の少女がナバールを抜け出した。計算しつくされた脱出だった。この時刻は門
番はここにいない。ここは通る人が少ない…。
  その夜が明けた朝。
「ふああぁあ…」
  ホークアイは大きなあくびをして、首筋をぽりぽりかいた。
「お父さん!」
  ドバンッ!
  ドアが勢いよく開いて、少女が転がりこんできた。その激しさに、隣の妻も目を覚
ましたくらいだ。
「アイシャ!?  どうした?」
「ラヴィアンが、ラヴィアンがいない!」
  少し早起きしたので、ちょっと様子を見ようとラヴィアンの部屋をのぞいたら、も
ぬけの殻だったのだ。
「な、なんだって!?」
  眠気も吹っ飛び、ホークアイは跳び起きた。
  寝間着のまま、ホークアイは部屋から飛び出した。
「ラヴィアン!  ラヴィアン!?」
  ドアをノックしてから部屋に入ると、人がいたような形跡はなかった。ベッドに潜
った様子もない。部屋を見回す。ラヴィアンの荷物と剣がない。決定的だった。
「やられた…!  アイシャ!  ラヴィアンがどこへ向かったか見当つくか?」
「ご、ごめん、わからない…」
「母さんは!?  ……そっか……」
  後ろの妻に話しかけるが、彼女も知らないらしい。
「とにかく、どこ行ったか見当つきそうなヤツを探してくれ!」
「わかった!」
  アイシャはうなずき、走りだそうとした。
「あっ!  ちょっと待て!」
「え?」
「アリシアには、なるべく知らせないようにしてくれ」
「……うん!」
  アイシャは強くうなずくと、急いで走りだした。アリシアの心配事が的中してしま
ったのだ。
「ったく…!」
  その頭脳はまさに天才的だが、行動は子供だ。下手に知恵が働くだけに非常に厄介
である。
「なんとしてでも、見つけなきゃ…」
  ナバールは盗賊団であるから、人知れぬような土地柄に要塞がある。道は複雑で、
慣れないものでは、そう簡単に出入りはできないのだ。


「…ラヴィアンのヤツ、ジャドへ向かったんじゃねぇか?」
  イーグルは必死で昨日の事を反すうしていた。いい加減に聞いていた事が悔やまれ
る。
「ジャド?」
「ああ。昨日の昼間ごろかな。もしかすると、コロポ、プク…?  なんとかが、読め
るかもしれねぇとか言ってた…」
  ホークアイの目が見開いた。
「それだ!  おそらく、コロポックルのドン・ペリを訪ねに行くつもりだ!」
「コロポッ……ドンペ…、誰…?」
「ああー、いい、いい!  知らなくて良い!  あの子はジャド周辺のラビの森へ行く
つもりだ。あそこに行くにはサルタン経由でしかない。サルタンにつくまでに見つけ
るんだ。あの子の足で今日中につくとは思えない!」
  ホークアイはナバールの人員のおよそ3分の1を出動させて、ラヴィアン探しにあ
たった。
「……どうしたの?  なんか、騒がしいけど?」
「え?  特に、何でもないのよ。ちょっと大物をねらうだけよ…」
  アリシアの食事を手伝いながら、一生懸命にはぐらかす。彼女は食事の世話をする
際に、ホークアイからラヴィアンの事を口止めされている。
「…あなた、何か隠してるわね……」
「……そ、そんな別に……」
  アリシアはゆっくり首をふった。ウソはつかなくて良い。そう言いたいのだ。
「……聞きたいけど、聞かない方が良いのね…」
「アリシアさん……」
「ごめんなさい。困らせちゃったわね…」
  そう言って、女を見透かすような目で見た。
  この日の昼間、ナバール団員がゴールドバレッテと奮戦している少女を見つけた。
「お、おい、あれじゃねぇのか?」
「ん?  あ、そうだ!  あの子だよ!」
  ナバール団員は慌てて駆け出した。
  ガキィン、キン!
「くっ!  かたい…!」
「グァオ!」
  猛然と突進してくるゴールドバレッテをかわし、剣をさらに強く握る。
「…ハァアアアアアッッ!」
  ガキョオン!
「…グ…」
  ドスン、とゴールドバレッテの動きが止まり、力無く横たわった。
「か、勝った………けど」
  不慣れな戦闘と、熱い日差し。そして予想外の体力の消費に、ラヴィアンは頭がク
ラクラしてきた。
「だ、ダメだ…。ここで倒れたら…。あの、木陰に……」
  木陰を目指してフラフラと歩き、そこについたとたん倒れ込んだ。ナバール団員が
追いついたのはその時だった。
「ま、まさか死んだのか!?」
「冗談じゃない。死なれたら…」
「落ち着け!  まだ脈があるぞ!  気絶しただけらしい…」
  手首をとって確かめると、みんな安堵の息をついた。
「…ホォー…。ビックリさせんなよ…」
「でも無事でよかった…。さ、運ぼう」


「バカヤロウッ!」
  連れ戻されたラヴィアンを待っていたのは、ホークアイの怒声だった。
「…………………」
  一瞬、ギュッと縮こまったが、目は余計な事してくれたとでも言ってるようだった。
「おまえなぁ、一人でどうにかできるとでも思ってたのか!?」
「…でも、やってみなけりゃわからないじゃない!」
「やってみてどうだった!?  できたのか!?」
「…………………」
  連れ戻される途中、気が付いて暴れたのだが、取り押さえられてしまった。
「自分でできる範囲もわからずに、突っ走るんじゃない!  挑戦と無謀は違うんだ
よ!」
  怒鳴られて、ラヴィアンは奥歯をかみしめた。ホークアイの言ってる事が正しいだ
けに、無性に腹立たしいのだ。
  そこまで怒鳴って、ホークアイはフーッと息をついた。ラヴィアンが見つかったと
聞いて、体中の力が抜けるようだった。
  ラヴィアンを見ると、納得いかなそうな顔が浮かんでいる。
「…何か言いたそうだな……」
「……何で助けたの?」
「おまえなぁ!  自分で死にたいとでも思ってるのか!?」
「…そこまで言わないけど、でも、あそこで倒れたのは、あたしの力が足りなかった
から。あたしの自業自得でしょ!」
「馬鹿!  ガキがわかったような口をきくな!」
「じゃあいつまでがガキだってんのさぁ!?」
「それがガキだってんだ!  おまえにもしもの事があったら、俺はどのツラさげてお
まえの両親に会えって言うんだ!?」
「っ!」
  両親の話が出たとたん、ラヴィアンの顔がこわばった。
「お前たちを招いた以上、お前たちの事は俺が責任を持たなきゃならん!  そんな事
もわからんで、自業自得なんて言うんじゃない!」
「…………………」
  責任。これは、今までラヴィアンにはあまり縁のないものであった。今回の旅だっ
て、責任を持ってるのはアリシアの方なのである。
「…ったくぅ!」
  ホークアイはため息をつき、頭をかいた。ラヴィアンに何事もなくて、一番ホッと
しているのは、彼なのだ。
  ラヴィアンはうつむき、床をにらみつけている。その様子はあまり反省したように
見られない。また機会をねらっているのだ。2度とやるなと言っても、返事だけにな
りそうである。
『あの子はこれと決めたら、何が何でもやり通そうとする。絶対にあきらめない…』
  アリシアの言葉がホークアイの頭の中で反すうする。あの目は全然あきらめていな
い。
  あきらめない事は、悪い事ではない。何事もやり通す力は、やはりラヴィアンの長
所だろう。だが、何が何でもやり通せば良いというものではない。
  彼女には時間が必要なのに、彼女はかける時間を必要としていない…。
「…なんだって、性急に事を起こそうとするんだ?  お前なら、あと4、5年もすり
ゃどこでも十二分にやってけるだろう」
「……4、5年なんて待ってられないよ。時間がないんだもの…」
「どうして?  お前まだ14だろ?  じゅうぶんすぎる程の時間があるじゃねぇか」
  しかし、ラヴィアンは首をふるだけで、何も言わない。
「……アルテナか…?」
  ピクッ。
  わずかに震えたのを、ホークアイは見逃さなかった。
  アルテナ滅亡はもう時間の問題だ。あと、四、五年も持つかどうかわからないそう
である。それは、アルテナの王女である彼女が一番よく知っているだろう。
  この小さな体で、国のために一生懸命なところを見てると、もう何も言えなくなっ
てしまった。
  ホークアイとて統治者である。ナバールは国と名乗っていないものの、その規模は
小国並と言ってよい。
「……とにかく。アリシアが完治するまで、ここにいろ」
「…………………」
「これ以上、アリシアに心配かけるな!」
「……………ハイ……」
  やっと素直な返事を聞いて、ホークアイは息をついた。
「さぁ、疲れてるんだろ?  メシでも食って、今日は寝ろ」
「………はい…」
  ラヴィアンがホークアイの妻に肩を抱かれ、部屋を後にする。
  ドアが閉じられたとたん、ホークアイは椅子の背もたれに力無くもたれかかった。
そして、今日の中で一番大きく、深いため息をついた。
  ホッとしたのと、精神的な疲れが一緒に出たのだ。
「……国の滅亡……か……」
  もしも、ここいらの土地が緑化に成功していなかったら……。どうなっていたんだ
ろうか…。


「やっぱり、あの子やっちゃったのね…」
「で、でも安心して。もう戻ったから!」
  アリシアに問い詰められ、無事に戻った事もあって、アイシャはアリシアに今日の
事を話して聞かせた。
「うん。ありがとう…。ごめんね…、妹が心配かけちゃって…」
「気にしないで!」
  好意的にほほ笑んでくれるアイシャに、アリシアもちょっと笑って見せた。
「で?  今、あの子どうしてる?」
「今は、お母さんがついてるんじゃないかな」
「…そっか…。なんか、何から何まで世話になっちゃって…」
「だから、気にしないでってば!  余計な気兼ねは返って失礼よ」
  明るいアイシャの笑顔には、妙に元気づけられるトコがある。
「アリシア?  ちょっと良いか?」
  ドアがノックされて、ホークアイの声が聞こえる。
「あ、お父さん。…良い?」
  アリシアを見て、彼女の反応を見る。アリシアがうなずくと、アイシャは扉を開け
た。
「おう、アイシャ。ゴクローさん」
「…わたし、出た方が良い?」
「…そうだな。悪い、席を外してくれ」
「はい。それじゃあ」
  食器などを盆の上にのせ、アイシャはこの部屋を後にした。
  しばし、アイシャが出て行った扉を見つめていたが、ホークアイは本題に入る事に
したらしく、そこの椅子を引っ張って、腰掛けた。だが、先に口を開いたのはアリシ
アの方だった。
「ラヴィアンと同い年とは思えないわね…」
「アイシャがか?」
「ええ。ラヴィアンは、あそこまで明るくもないし、優しくもないわ。…素直でもな
いしね…」
「…そうか…?  俺はラヴィアンの方がアイシャと同い年とは思えんが…」
  あの天才的な頭脳にくわえ、剣術もそこそこ以上にできるなんて、彼の14歳の通
念を引っ繰り返しそうである。なにより、あの隠し地下ほこらを見つけた事はまさに
驚異であった。
「まぁ、それはともかく、だ。ラヴィアンの話は聞いたか?」
  アリシアはこっくりうなずいた。
「すまない。忠告を無駄にしちまった」
  そう言って、ホークアイは頭を下げた。アリシアはその行動にちょっと驚いたよう
だ。
「…無事ならいいの。むしろよく見つけてくれたって、こちらがお礼を言わなきゃい
けないわ」
  彼女から感じられる気品は、やはり母親譲りなのだろう。
「…ところで、アリシア。その、聞きにくい事なんだが…、アルテナは、そんなにヤ
バいのか?」
  ホークアイの質問に、アリシアは目を見開いた。だが、うつむいて、そしてゆっく
り話しはじめた。
「……お母様は私たちに詳しい事は言わないわ。お父様もね。でも、やっぱり……も
うダメなのかしら…。国民は年々減っていくわ。土地を離れたり、寒さに耐えきれず
亡くなったり…。おばあさまの時代の国民人口が逆に信じられないくらいよ…」
「そんなに…ひどい事になってるのか…?」
「…この事は、おそらく私よりラヴィアンの方がくわしいでしょうね。下手すると、
お母様と同じくらい、把握してるんじゃないかしら?  色々調べてたみたいだし…。
……あの子、旅に出してもらう予定の年を一年早くしてもらったのよ。そりゃもうね
ばってねばって。お父様たちが出した条件ことごとくクリアしちゃって。とうとうお
父様たちを根負けさせちゃったわ」
「…すごい執念だな…。とすると、それくらいアルテナは……」
  アリシアはツラそうにうなずいた。
「たぶん…もうダメ…。お母様のため息が、多くなったわ。…もしかすると、お母様
たちはもうあきらめてるのかもしれない……」
「アリシア……」
「…自分の生まれ育った国が、無くなっちゃうってツライわよね…。でも、それはき
っとお母様の方がツライんだと思う。繁栄時代のアルテナを知ってるから余計にね。
私たちが帰ったらすぐ、お父様の実家に行く事になる…なんてのも有り得るでしょう
ね……」
「……………………」
「………私は、お父様と一緒ならどこでも平気。ついでに、お母様や可愛くない弟妹
がいれば、まぁ、なんとかやってけるわね。そもそも、マナがないのに、魔法王国っ
て言うのに無理があったのよ……」
  遠くを見る目で、アリシアはそう言った。すこし、声が震えていた。
「……ツラい話させちまったな…」
「ううん。もういいの。私、この旅で心の整理をつけたかったの。おそらく、もう免
れられない事なんだと思う………。
  おじさまは良い方ね。お父様が親友と認めるだけあるわ」
「そうか?」
  ちょっと苦笑して、ホークアイはアリシアを見た。
『あたしには時間がないの!』
  まず間違いない。アルテナ滅亡はすぐそこまで来ているのだ。あのラヴィアンの事
だから、どれくらいヤバい事なのか、よく知っているのだろう。
「…娘が一所懸命になるのか……。なんか、やりきれねぇなぁ……」
  たとえ天才的と言えど、14歳の子供になにができるのであろうか?  はたして本
当にマナは復活するのか?
  両親は、アリシアの言うとおり半ば以上あきらめているのだろう。魔法中心の魔法
文化国であるアルテナは、魔法に源であるマナがなくてはどうにもならないのだろう。
  それでも、アンジェラが女王として国を治めていたのは、アルテナ国として、何と
か維持したかった一念からであろう。だが、彼女があきらめたとなると、もはや絶望
的と言って良いのだろう。

                                                                     - 続く -