「ラヴィアン!?  あんたいつまでここにいるの!?  お昼食べないつもり!?」
  しびれを切らしたのか、アリシアが書庫の前のドアで怒鳴り散らした。するとすぐ
に、奥の方から足音が聞こえた。
「あ、あのねお姉ちゃん!」
  興奮したようなラヴィアンに、アリシアはちょっとたじろいだ。
「これ、これ見て!」
  古臭い本を目の前にバッと広げる。そこに並んでる文字を見て、アリシアは眉をし
かめた。
「ん?  ……なに…この文字…」
「知らない?  ルーン文字の一番古いヤツで、ハイエンシェント・ルーン。ほら、ウ
チの書庫にもこの字で書かれた本が多かったじゃない」
「し、知らない…」
  ルーン文字なら、アリシアも読める。エンシェント・ルーンは辛うじてであるが、
ハイエンシェント・ルーンまでは読めない。そもそもハイエンシェント・ルーンを読
める人はアルテナでもごくわずかなのだ。
「これは古代呪法とかが横行していた時代よりもさらに古いものなんだ。だから、マ
ナについて一番くわしく書かれてるヤツなの。ほら、マナと魔法の関係とか書いてあ
るでしょ!」
「そ、そうなんだ…」
  こんな絵なのか図形なのかも、さっぱりわからんモノを読んでしまう妹を、アリシ
アは怪訝そうな目で見た。
「そんなことより!  もうお昼よ!」
「わっとと…」
  いいかげん、おなかがすいていたアリシアは、ラヴィアンをぐいぐいと引っ張って、
お昼ごはんが待つ部屋へと急いだ。
「おう、今から昼か?」
  他の者はだいぶ食べ終わっていたが、ホークアイはまだだったらしい。チャーハン
を食べながら頭をあげた。
「ええ。ラヴィアンのせいで私まで遅くなっちゃって」
「先に食べてりゃ良かったじゃん」
「そういうワケにもいかないでしょ!?」
  なんだかんだ言ってお姉さんであるアリシアに、ホークアイはほほ笑みながら彼女
を見た。
「あそうだ、おじさんおじさん!  この本貸して!」
「え?  ……な、なんだ、この文字……」
  読解不可能のこの文字に、ホークアイも眉をしかめた。
「あれ?  おじさんも知らないの?」
「読める方が珍しいのよ!  ハイエンシェント・ルーンなんて!」
  アリシアが口をはさむ。そして、周辺の者を呆然とさせる勢いでしゃべりはじめた。
「つまり、神獣がマナストーンに変えられてまだ間もない頃のヤツで、マナストーン
の言い伝えができた同時期に書かれたものなんだ。だから、マナについてすごくくわ
しく載ってるし、まぁ、経た年月が年月だから、ボロっちいのはしょうがないにして
も、これだけ保存状態が良いのは珍しい事だし。やっぱり乾燥している上に真っ暗で
人も滅多に入らないってトコが良質保存のカギだと思うんだ。書かれたインクにして
も、当時にしてはすっごく珍しい事だけど、黒銀を溶かしてインクに使ってるんだよ。
でもこの技術はこの時代だけで終わっちゃったんだよね。それはともかくこのインク
のおかげでまだ字が……」
  バシッ!
  よどみなくしゃべり続けるラヴィアンに、アリシアの張り手が炸裂した。
「な、なにすんの!?」
「あんた、その口はしゃべる事じゃなくて、食べる事に使いなさい!」
  そう怒鳴って、ビシッと目の前に盛られたチャーハンを指さした。
「あ………。お昼か」
「なんだと思ってたの!?」
  アリシアが怒るのも無理はないだろう。でも、彼女はこんな妹に慣れていた。慣れ
ていないのはホークアイの方だ。
  な、なんなんだ、この子は……。
  博学であることこのうえないが、本当に彼女は、彼が知っている親友たちの娘なの
か。言っちゃ悪いが、二人とも決して勉強好きではないのだ。
  姉妹はやっと昼食にありついている。
「で?  それにはどんな事が書いてあったのよ?  要約してよ」
  アリシアの最後の付け加えに、一緒に生活していた者であることがわかる。
「マナの復活の仕方」
「なにぃ!?」
  これにはアリシアも、ホークアイも、さらにそこにいた全員が驚愕させられた。
「ほ、本当なの、それ!?」
「うん。とは言っても、全部読んでないからね。くわしい事は言えないけど、その方
法の方法くらいは載ってると思うよ」
「あんた…。よっくそんなもん見つけたわね……」
  すごいと言うよりかは呆れ果てて、アリシアはチャーハンを口に運ぶ。
「だって、うちとこの本にも、この本の事が書かれてたよ」
「どこの本よ!?」
「…確か、地下2階の第四書庫あたりだと思うんだけど…」
「あんたまさかあの書庫全部把握してんの!?」
  アリシアはまた驚いてラヴィアンを見た。
「まさか。魔法書がほとんどじゃない。ウチの書庫。だから、把握してるっつっても
魔法書じゃないヤツばっかりだよ」
「魔法書じゃないと、その数も減るわけ?」
「すっごく減るよ。十万冊もないよ」
「ぶっ!」
  思わず、ホークアイは食べていたものを吹き出しかけた。彼はその10分の1だっ
て、本を読んだ事はない。
「どしたの?  おじさん?」
「…い、いや、なんでもない……」
  彼女たちはアルテナ出身だから、本を慣れ親しむのにたいした抵抗は感じなかった
だろうが、ここナバールでは、本を読むよりも一つでも多くの技術を身につけたほう
が良いのである。
  それでも、このラヴィアンにはなんら末恐ろしいものを少し感じた。


  ラヴィアンはその後、ナバール周辺のいらなくなった地図を借りていった。
  そして今度は夕食時に、やっぱり来なかったラヴィアンをアリシアが引っ張って来
た。今回もホークアイが一緒だった。どうやら彼、他の団員とはズレた時間で食べる
らしい。この時はイーグルもいた。
「でー?  なにかわかったの?  はしょってね」
「うん。マナについてだいぶわかったよ。やっぱり、この本にはマナを復活させる方
法の方法が載ってた」
「は?」
「つまりね。マナの石板ってのがここらへんにあるんだよ。ファ・ザード大陸南東っ
つったらここらへんの事だしね。神獣の一部を混ぜ合わせてつくった特別な石。もち
ろん、そんな製法、今じゃわかりっこないけど。
  ともかく、このマナの石板で書いてあることを、聖域でやれば良いみたい」
「聖域?」
「マナの樹があるとこだよ……」
  ホークアイがつぶやくように口をだした。
「そう。いわゆるマナの女神さまが眠る所」
「でも、聖域に行けるのか?」
「だからマナの石板。昔、マナ・ストーンってのがあったんでしょ?  それが8つそ
ろって…。たぶん、八つ分の力があってマナの聖域が開かれるんだと思う。くわしく
知らないけど」
「……………………」
「そのマナの石板ってのは、いわゆる小さなマナ・ストーンを八つ寄せ集めて作った
ものみたい。だから、その聖域への入り口も小さなもんらしいけど。でも、行けない
事はないみたい。とにもかくにも、まだ全部完璧に解読できてないし、その石板もな
いから、やっぱりよくはわかんないんだけど」
  そこまでわかりゃじゅうぶんだ……。
  ホークアイはため息をついて、水を一口飲んだ。
「で?  地図を借りてったのは何なのよ?」
「本の通りに地図の上にいろいろ書き込んでいったの。そしたらね、ここ、ナバール
の後ろって言うか、東に地下ほこらがあるんだってね」
「地下ほこら?  あるの?  そんなの?」
  アリシアはホークアイを見る。
「…噂で聞いた事あるけど、誰も見た事ないって言うぜ。昔話のでっちあげじゃない
かって話だけど…」
「見つけられなかったからだと思う。ねえ、東に小さな川とかは?」
「あるよ。ヒセリ川ってゆー、本当に小さな川がね」
「じゃあ、明日探してみるね」
  ラヴィアンが機嫌良さそうにほほ笑んだ。この時、だれもがほこらの事など本気に
しなかったのだが…。
  次の日、仕事が一段落して、ホークアイがお茶をすすっていると、部下が一人、慌
てて駆けつけてきた。
「首領!  首領!」
「なんだ?  大騒ぎして。何があったんだ?」
「あの、あのラヴィアンって娘、本当にほこらを見つけやがった!」
「なんだって!?」
  驚いて現場に駆けつけてみると、団員が数名、ワヤワヤ言いながら群がっている。
「あ、首領。見てくださいよ、これ…」
  ヒセリ川は小さな川で、たいした大きさではない。その川の真ん中に不似合いな大
きな石があったのだが、その石がぽっかりと口を開けて、階段を見せているのだ。
「あ、親父!  ラヴィアンのヤツ、本当に見つけちまったよ!」
「ああ。聞いた。ラヴィアンは?」
「中に入ろうとしたんで止めてさ、あそこに」
  なにやらまたアリシアとケンカしているようである。
「…だからあんたはバカっつってんのよ!」
「いちいちヒステリックに怒鳴らないでよ!  スカ女!」
「ぁんですってぇ!  姉に向かってその言葉!  聞き捨てならないじゃないの!」
「なんだよ!  いい年してお父さんに添い寝してもらうクセに!」
  うっ!
  ホークアイはその内容に一瞬話しかけようとして、差し出した手を止めた。
「…うっ、うるさいわねっ!  あんただってお父様の財布から、お金を取った事ある
でしょ!  知ってんだからっ!」
「もっ、もう昔の事だから時効だもん!  ファザコン変態女!」
「ッキィーッ!  なによオタクチビ!」
  いつもよりさらにエスカレートしている模様。
  とうとう取っ組み合いのケンカになったので、二人はホークアイたちによって、引
きはがされた。
「……おまえらなぁ…。ケンカの原因は何だったんだ?」
  呆れ果ててはいるが、ホークアイは一応原因を聞いてみた。
「ハァッ、ハァッ……な、なんだったっけ…?」
「…フゥッ、フゥッ…………忘れた……」
「……………………………」
  どうやらケンカに熱中しすぎて、何でケンカしたのかさっぱり忘れているようであ
る。ホークアイはなんだか頭が痛くなってきた。
「あー、なんだか喉が渇いてきた…」
「そりゃあんだけ大騒ぎすりゃな…」
  イーグルがあきれたように言う。
「水、飲んでこようっと」
「あ、私も行くー」
  さっきまであんなに大ゲンカしていたクセに、二人は連れ立って水を飲みに行って
しまった。
  後には、呆然とたたずむナバール団があった。


「こんなに小さな川でさ、そんでもって流れが行きつく所は海でも湖でもなく、ナバ
ールの井戸。だから、この川は人工的なもんだって思ったの。あの本に書いてあった
通り、三角形をかたどる石があるでしょ。あそことあそことこれ。ちょっとわかりに
くいけどね。でも、見えなくもないし、なにより、他にあんな風にかたどってるのは
ないし。そしたら、これしかないじゃない。
  今度はその三角形の中心から東へ15歩、南へ20歩。歩数はけっこうアテになら
ないんだけど、そこに大木があったらしいね。もちろん、もうないけど。でも昨日調
べた文献によれば、この要塞と同じくらいの高さがあったらしいから、それと同じ高
さだと思って良いと思う。
  その大木の影の先にほこらの入り口があるんだって。何時頃の影なのか、よくわか
らないんだけど、正午と日没の間らしいんだよね。それなら、たぶん2時か3時ころ
の影だと思うんだ。高さから計算して、大体あの川あたりに影が届いたらしいんだ。
正確にはわかんないけど、影が届いた場所付近で、一番怪しそうなあの大岩を調べて
みたんだ。小さな川にあういうのって、なんか不自然じゃない。それに、大岩にしち
ゃ、質量がなさそうなんで動かしてみてもらったの。そしたら……」
「……………………」
  今の今まで、ここまでやった人物はこのナバールにはいなかった。感心するよりも、
なんだかあきれてしまう。
  …確かに、こんなヤツの事を天才と言うのかもしれないな…。ホークアイは、フッ
と息をついた。
「でね、おじさん。あたし、この中に入ってみたいんだ」
  それはたぶん、彼女だけじゃないだろう。いかにも入ってくださいと言わんばかり
に、ぽっかりと口を開けている。好奇心がむずむずしてくるのはホークアイもよくわ
かる。
  ここにいるナバール団員たちだって、実は中に入ってみたくてしょうがないのだろ
う。
「……わかった。で?  中にトラップとかはありそうなのか?」
「わからない」
「そっか…。じゃあ、準備はしてった方が良いワケか…。モンスターの心配もしとこ
うか。ラヴィアン、自分のえもの持ってこいや」
「うん!」
「首領!  俺も行って良いですか?」
「俺も俺も!」
  ラヴィアンが行ったとたん、ワッと団員たちがホークアイに群がった。…やっぱり
…。
「…おまえら仕事に戻ってろ!」
「ずるいー!」
「ぶーぶー!」
「戻れっちゅうに!」
  舌打ちしながら、団員たちは仕事にもどらされてしまった。
「準備は良いかー?」
「うんって…。おじさんも来るの?」
「悪いか?」
「親父もずっりーなー…。みんなは仕事に行かせて…」
「何を言ってるんだ。どんなトラップがあるかわからんのに、他のヤツらに任せてら
れるか」
  とは言うものの、彼の顔はなんだか笑顔である。内心、やっぱり好奇心でわくわく
してるのだろう。
  早速、ホークアイ先頭に、この階段を降りていった。中は少し湿っぽく、二人が持
っているカンテラのみが明かりだ。
  不意に、ラヴィアンが声をあげた。
「あれ?  お姉ちゃんも来るの?」
「え?」
  いつの間にか、アリシアが一緒に歩いている。そしてなぜかイーグルも来ていた。
「おまえたち…」
「だ、だって、妹の事が心配になってさー…」
「いやその、親父の手並みを拝見しようかと…」
  要するに好奇心に勝てなかっただけだろう。
「…イーグルはともかく、アリシアは戻れ」
「えー!?  どうして!?」
「だっておまえ、丸腰じゃないか。何かあった時どうするんだ?」
「大丈夫よ!  だってここ、何もなさそうなんだもの」
「しかし…」
「ねぇん、お願ぁい、お・じ・さ・ま!」
  アリシアが甘い声を出して、ホークアイにしなだれかかる。彼は困った顔をしてい
たが、まぁ、いいかと思ったらしい。確かに、たいしたトラップもなさそうなので、
ホークアイはもう言わない事にした。もっとも、単にキレイな娘に甘いというか弱い
というのもあるだろうが…。
「本当に暗いだけで何もないわねー」
  少し、残念そうな声のアリシア。
「……マナがあったら、魔法の仕掛けとかあったかもしれないよ。マナがあるんなら、
石板は別に必要なものじゃないと思うし…」
「……それにしても、ナバールの近所にこんなものがあったとはなぁ…」
「人工的にくりぬいたんだね…。昔の技術って、やっぱり魔法が主だったのかな…」
「…さあな…」
  この暗いだけでたいして変哲のないこの洞窟に、飽きはじめたのか、アリシアとラ
ヴィアンがかしましくおしゃべりしている。
「なんかさ、こういう雰囲気って、二人で探検ごっことかしてたの思い出すわね。あ
んた覚えてる?  みんなに内緒で、氷壁の迷宮に行った時の事」
「あの、後でメチャクチャ怒られたヤツ?」
「そうそう。迷子になって、モンスターに囲まれた私たちをお父様が助けに来てくれ
たじゃない。あのときのお父様、騎士の中の騎士って感じでカッコ良かったわよねぇ
…」
  夢見心地のアリシアの口調を聞きながら、ホークアイは何か違うと思った。
「…そう…かなぁ?  あたしは、すごくお父さんが怖かったけどなぁ…。だってメチ
ャメチャ怒ってたじゃん」
「そりゃあ、私だって、あそこまで怖かったお父様はないと思うけどさー。あんた、
覚えてない?  お父様の騎士姿を。白銀の鎧着て、すっごいカッコ良かったのに」
「覚えてないよ!  お姉ちゃんおかしいよ。なんだってそういう時に格好良いって思
うのさ?」
「あら。娘として見るべきトコは見ておかなくちゃ」
  ラヴィアンがアリシアは究極のファザコンだと言っていたが、本当にその通りだ。
しかし、ホークアイは、こんなに美人に育った娘に、ここまで慕われて、ちょっと羨
ましいとも思ったりする。
「…あーあ…。どうして、お父様、お母様と結婚しちゃったのかしら…」
「………そしたら、あたしら生まれてないじゃない……」
「でも、もしかして、お母様が浮気してできたのが私かも。ホラ、私思いきりお母様
似じゃない?」
「そーゆー事言うから怒られるんだよー」
  呆れたようなラヴィアンの口調。もっとも、ラヴィアンでなくても呆れる事だろう。
「だぁって、女として見てるのはお母様の方なんだもの!  私は娘としてしか見てな
いのよ!」
「そのまんまだからじゃないか!」
  ラヴィアンの口調が荒々しくなってきた。聞いているホークアイ親子の方も頭が痛
くなってきた。
「あんたは良いわよねー。ちょっとでもお父様に似てるトコがあってさー。私なんか
全部お母様譲りだもんなぁ…」
「さっきと言ってる事が矛盾してるよ!  もう、お姉ちゃんとお父さんの話しするの
ヤダぁ!  話題変えてよ!」
  ホークアイ親子の方も、いい加減話題を変えてほしかった。
「ひっどい事言うのねー!  お父様から剣術直伝してもらってるクセに!」
「だったら、お姉ちゃんも習い続ければ良かったじゃんか!」
「そんな事言ったって、私、剣術の才能全然ないんだもの!」
  またケンカになだれ込みはじめた。
「話題変えるよ!  クイズ!  与えられた関数について、独立変数の限りなく小さい
変化に対する従属変数の変化の割合を求める方法を何て言うの!?」
「知らないわよっ!」
「もういい!  俺が話題を提供してやる!  ナバールの医務室の前に張られている張
り紙は何て書かれている!?」
  とうとう我慢しきれなくなったらしく、イーグルが割り込んできた。
「覚えてない」
「『静かにしろ』じゃなかったっけ?」
「当たり。頼むから静かにしてくれよ…」
  こうして。聞くとひどく疲れてしまう、姉妹の魔の会話(?)はめでたく終結した
のであった。
「ん?  あれなんだ?」
  ふと、ホークアイがカンテラを上げて見せる。行き止まりなのだが、何かある。
  どうやら、何かを置いている台座のようなのだが…。
「マナの石板!?」
「あ、こら!」
  ラヴィアンは思わず駆け寄ってそして…
「まだ取るなっ!」
  ホークアイが叫んだと同時に、台座の上のものを取ってしまったのだ。
「これが…」
  ゴ、ゴゴゴゴゴゴ………。
「…え?」
  なにか、行き止まりの奥で低い物音がする。ラヴィアンの顔が引きつった。
「チィッ!」
  ホークアイは舌打ちして、呆然と突っ立っているラヴィアンを引き戻す。
「ご、ごめんなさい、あたし…」
「今はいい!  何か…、来るぞっ!」
  素早くダガーを二本、取り出してかまえるホークアイ。イーグルも同じくダガーを
かまえ、ラヴィアンはもたもたとバスターソードを取り出した。
  バカァァッッ!
  正面の壁をぶち破り、ユニコーンヘッドがわらわらと出てきたのだ。そして、4人
を見るなり突進してきた。
「イーグル!  攻めよりも守りに徹しろ!」
「わ、わかった」
  丸腰であるアリシアが一番危険なのは、みんなよく知っていた。
「はぁっ!」
  バシバシュッ!
  ホークアイのそのダガーさばきは目を見張るほど素晴らしいが、みんな見てられる
程の余裕はなかった。
  みんなを見てられる程の余裕があるのはホークアイくらいだが、主力が彼である以
上、フォローしきれる範囲ではない。
  イーグルは、ホークアイからにしてみれば物足りないが、彼なりによく頑張ってい
る。ラヴィアンの方はと言うと、かなりの剣さばきだが、精神的な余裕がない。実戦
はおそらく不慣れなのだろう。
「くそっ!  キリがねぇぜ!」
「焦るな!」
  イライラしてきたイーグルに、するどいホークアイの声が飛ぶ。
「キャアッ!」
「お姉ちゃん!」
  アリシアの悲鳴と泣きそうなラヴィアンの声が洞窟内に響く。
  しまった!
  無防備なアリシアが攻撃されてしまったのだ。
  あと四体だってのに!
「くそっ!  残りは四体だ、攻めにまわれ!」
「お、おうっ!」
  猛然と襲いかかるホークアイに、ユニコーンヘッド三体はあっさり切り捨てられて
しまった。
「でやぁっ!」
  最後に一匹はイーグルが片付けた。
「おい、大丈夫か!?」
  しゃがみこんでいるアリシアに、今にも泣き出してしまいそうなラヴィアンが、ひ
っついていた。
「わ、わかんない!  お姉ちゃん大丈夫?  大丈夫?」
「イタッ…。う、腕が…」
  ホークアイはアリシアの右腕を見た。少しおかしな方向に曲がっているようにも見
える。ちょっと触るとものすごく痛がった。骨折か?
「イーグル!  おまえのダガーの鞘を貸せ!」
「あ、はい!」
  慌ててイーグルが鞘を差し出すと、ホークアイはそれで彼女の腕につけ、懐から取
り出した布でぐるぐる巻き始めた。
「こ、骨折?」
  目に涙をためて、ホークアイの手つきを見てるラヴィアン。
「たぶんな」
「イ、イタタッ!」
「あ、スマン!  これなら…どうだ…?」
「だ、大丈夫…」
「よし!」
  応急手当がすむと、ホークアイはアリシアを抱き上げた。
「急ごう。イーグル、先だって明かりを頼む!」
「わかった!」
  イーグルがカンテラを持って走りだす。ホークアイとラヴィアンはそれに続いた。

                                  - 続く -