「んーと…。げ、参加料とるのか…」 とりあえずミスコンの事を調べなくてははじまらないので、例の掲示板に行って見てみ る。 「高いのか…?」 「いや、高くはないけど…。それで…ドレスと水着か…。まぁ、こんなもんだよな…」 「なに? ドレスと水着着るの?」 アンジェラも掲示板をのぞき込む。 「……もしかして、それ自前なのか?」 「……………………」 「そんなもんを買う金があるのか?」 「……………………」 「二人分もあるんだぞ?」 「……………………」 デュランの言葉とともに、ホークアイの顔がだんだん難しそうになってくる。やはりも っと建設的な案の方が良かったのではないか…と思いはじめる。 「………なぁ、アンジェラ…」 「なによ?」 「リースでも良いけど、本気で前向きにこれ、取り組んでくれるか?」 「…どういう事ですか?」 「…だから、ようはこれは賭けみたいなもんなんだよ。あたればでかいけど、外れれば俺 たちは破産だ」 「なんでそうなるのよ?」 「やる気だしてくれるか?」 ホークアイの言いたい事がわからなくて、アンジェラとリースは顔を見合わせる。 「俺たちはおまえらを優勝させるために今の全財産をつぎ込む。そういう事だ。だから、 破産しないためにも、どっちか優勝してもらわにゃならん、そういうこった」 「……全財産をつぎこむって、ちょっとおおげさじゃないですか?」 リースの言うことに、ホークアイは静かに首を横にふる。 「ミスコンに出るくらいだから、風呂は当然だし化粧も当然。ドレスや水着も当然ならそ の金はどこから出る? 化粧道具はアンジェラが持ってるかもしれんが、その他のものは 金をだして用意するより他ねーだろーが」 アンジェラとリースはまた顔を見合わせた。 「……よーし、わかったわ! やってやろうじゃない! 優勝の一つや二つ、とってやろ うじゃないのよ!」 意気込んで言うアンジェラをホークアイはジーッと見る。 「なによ、私がウソ言ってるとでも思ってるの?」 「本気かどうか確かめてるんだ」 「………本気よ」 しばらく、見つめ合うというよりかは、睨み合う感じの二人であったが、やがてホーク アイはふっと視線を外した。 「わかった。アンジェラ、おまえに賭けよう」 ふっと息を吐き出すと、今度はデュランに向き直った。 「デュラン。悪いけど、剣、かしてくれ」 「? 何に使うんだ?」 「質にいれる」 「ふざけんじゃねぇ! なんで俺の剣を質に入れねーといけねーんだよっ!」 「本気で殴るなよ、痛いじゃねぇか!」 数発殴られて、たんこぶをつくりながら怒鳴りかえすホークアイ。 「で、でも、ホークアイ…。質にいれるって…やりすぎなんじゃないですか…」 「だから言ったろう。賭けだって。俺のダガーを質にいれてもそれほどの額にならねーん だよ。俺らのもので金目のものっちゅーたらデュランの剣しかねーんだよ」 「なんだとー!?」 「じゃ、じゃあ、シャルロットのフレイルを出すでちよ。シャルロット、デュランしゃん ほど戦いまちぇんし…」 シャルロットのあげた声に、ホークアイはすまなさそうな視線を送る。 「ありがたいけど、おまえのフレイル、ススけちまってるだろ? あまり良い値はつかな いよ…」 「でも、このフレイルは…」 「わかってる、わかってるけど、相手はそのフレイルの良さがわかる相手とは限らんから な。見た目も良くて、手入れも行き届いてるっちゅーたら…」 やはりデュランの剣しかないのだ。 「んな、そんな…」 オロオロとデュランはみんなと自分の剣を交互に見る。 「………………はあぁーっ…」 そして、深い深いため息をついた。彼には珍しく沈痛な面持ちだ。 「……………絶対勝てよな……」 そう言うと、デュランは腰の剣を鞘ごと外した。 「……ホレ……」 「………悪い…」 剣をホークアイに手渡す。ホークアイは受け取るが、デュランは手渡しておきながら、 自分の剣が手放せない。 「…おまえなー…」 「けどよー、俺から剣とったら何が残るんだよー」 「ただの暴れん坊ね」 ホークアイが心の中で思った事を、アンジェラが口に出す。 「おまえなー」 「な、なによ、本当の事じゃない!」 激しく睨みつけられ、全然フォローになってない事を言うアンジェラ。 「…あ、あの、デュランにそこまでしてもらわなくても…。あの、私も働きますから…」 リースの申し出は有り難かったが、ホークアイがみんなで働きたがらないもう一つの理 由があった。言っちゃなんだが、女の子たちは働き手としてまるで使い物にならないから だ。 言うのもアレなので口に出してはいないが…。 「…いや…まぁ…。もちろん、その方が良いのは確かなんだけど…、そんなに悠長な時間 もないし……ね…」 少し言葉をにごすホークアイ。地道に働く事を否定はしないが、なにせ今の彼らには時 間がない。それに、定住する気もないのだ。 ホークアイが金持ちから盗む、という手もなくはないが、潔癖なタイプがパーティにい るので、なるべくならそれは最後の最後にしたい。 「とにかく! 俺たちはおまえらにかかってんだからな! 優勝とってこいよ!」 「わかったわよ」 どこか見返してやりたい気分になって、アンジェラはデュランをにらみつけた。 ホークアイの多少あこぎな質入れ交渉で、かなりの額のお金が手に入った。元々デュラ ンの剣が素晴らしいものであったのも事実である。 ホークアイは女の子二人を連れて、ミスコン登録所に赴く。 登録所には、自分の美貌に自信のありそうな女性たちがわいのわいの集まっていた。 「……けっこう申し込む人が多いんですね…」 「…どうやら思っていたより規模がデカそうだな…」 なんとなく、勝率が減ってきたような気になる。 「あんなので出るつもりなのかしら? このコンテストを甘くみてるみたいで困るわね」 中にはススけた格好のアンジェラ達に陰口をたたく女まで出てくる始末。 「なんですって!?」 「ままままぁまぁまぁ! あーゆーのはコンテストで見返してやりなさいってば!」 いきりたつアンジェラをおさえて、ホークアイは引き戻す。 「しっつれいねー! 本当に」 「しゃあないよ。火事現場からそのまま来たよーなもんなんだから。ようはコンテストで ドレスアップすりゃ良いんだろ?」 「うー……」 ホークアイに諭されて、とりあえずアンジェラは黙り込む。リースはというと、こうい うコンテストなどあるのも初めて知ったので物珍しくてたまらない。 「どうしてこんなイベントが催されるんですかね? 何のためなんですかね? あ、あれ はなんですか?」 次々とホークアイに質問してくるので、彼も疲れてしまう。 「…ともかく。街へ繰り出すぞ。まず、銭湯。それから水着とドレスに化粧品。気合いれ ろよ!」 「わかってるってば」 「あ、ホークアイ、あれはなんですか? あの人ってどういう事やってるんですか?」 「…………………………」 銭湯でススを洗い流すと、さすがに二人とも美しい。ついでにホークアイも風呂に入っ て人々が振り返る3人となった。 「そういえば、デュラン達は?」 「別行動」 まずは買う程のお金はさすがにないので、ドレスは貸し衣装屋に頼る事となる。ミスコ ンのドレスを貸し衣装屋に頼むのは何もアンジェラ達だけではないようで、店の主人も話 がわかって早い。 「あらあら、お嬢さん達もあのコンテストに出るのね? なかなかレベルが高くって優勝 は難しいのよねー、あれ」 なんだかカマっぽい主人から、不安にさせられるようなセリフをもらうホークアイ。 「あら、あなたけっこう良い男じゃない。良いわねー。アタシもね、女だけじゃなくって 男もコンテストひらいてもらえないかって言ってるんだけどねー」 「はぁ…」 このテの人間の対応は初めてではないが、あまり気持ちの良いものでもない。ホークア イは気のない返事でごまかすしかない。 「うーん…、これもいいかな…」 「まぁ、お嬢さんお目が高い。そのドレスに目をつけるなんて」 「これは、クレメントのイブニングドレスに似せたものでしょ? 本物が良いんだけど、 本物は特注でないと作ってくれないし…」 「そうそう! そうなのよ! とはいえ、ウチもこういう商売だから、サイズっていうの もあるしねぇ…。それにやっぱり種類はそろえたいじゃない。ちょっと偽物だけど、でも 縫製もしっかりしてるし、そんなにひどいものなんかじゃないわよ」 「まぁ、ルアニューキ…じゃないみたいですね…。これも似せたものですね…」 「ああん、そうなのよ。しょうがないけど、それで我慢してるのよ。それにしても、お客 さん二人してお目が高いわぁ。さっきから良いものばかり選んできてるし」 なにやら衣装者の主人と話がはずんでいるようである。ホークアイにとってはわけのわ からない話題であるので、これはもう待つしかない。 「ねぇねぇ、あなたは良いの? あなた、良い男だからまけてあげるわよ?」 カウンターによっ掛かって待っているホークアイに主人が話しかけてくる。 「あいや、俺は…別にコンテストに出るわけじゃないし…」 「おしいわね。そんなススけた格好してるなんて。あなた、中身が良いんだからもっと洒 落た格好しなきゃだめよ」 「はぁ…」 やっっっとドレスが決まり、当日届けてもらう約束をして、前払い分のお金を払う。 「うふ。あんたいーおとこだからまけたげるわ。おじょーさん達もかわいーし」 お金を払う時、主人にギュッと手をつかまれて、全身にムシズが走る。が、まけてくれ たし、じゃけんにするわけにもいかずにホークアイはとりあえずは我慢して、愛想笑いを 浮かべた。 「ちょっとー、いつまで手を洗ってるのよー。いかないの?」 そのへんの井戸で何度も何度も手を洗っているホークアイに話しかける。 「あー、気持ち悪かった…」 未だ青ざめた顔で、ホークアイは戻ってくる。 「どうしたんですか?」 「……別に……、じゃあ、次、行こうか…」 説明するつもりも気力もないので、質問には答えずホークアイはすたすたと歩きだした。 アンジェラとリースは不思議そうに顔を見合わせた。 女の買い物が長い事は知っていたし、覚悟もしていた。 しかし。 「はぁー…」 ため息はつきたくなるのである。 衣服と靴と水着と化粧品を選ぶだけでなんでこんなに時間がかかるのか。暮れなずむ夕 日を眺めながら、ホークアイはなんだか物悲しい気分になってきた。 「なによ、さっきからため息ついちゃって。で? これからどうすんの?」 「……うん…。まあ、とりあえず当日まで宿屋で待機って事になるかな。まぁ、そんなに 悪い宿屋じゃないから、安心しろ」 「うん。わかった」 「言わなくてもわかってるだろーけど、ミスコンに備える事はやってくれよ。本気でおま えらにかかってんだから」 「……う、うん…」 今更ながらに責任を感じはじめて、アンジェラは神妙に頷いた。 「じゃ、ホテルに行こう。こっちだ」 「もう決まってるの?」 「おまえらの買い物があんましおせぇから決めてきちったよ」 そしてまた、アンジェラとリースは顔を見合わせる。 「ところで、デュラン達はどこにいるの? 別行動って、何してるの?」 「さぁな。あっちはあっちでデュランに任せてるから」 「じゃあ、コンテストの日まで会えないの?」 「そうなるかもな」 「……………そう………」 「さぁ、ともかく、お前らはコンテストだけ考えてくれ。こっちだ」 言って、ホークアイは歩きだした。 ホークアイが二人を連れてきたのは、バイゼルでも中堅に位置するホテルだった。いつ も安宿ばかりとっているので、これには驚きだった。 「どうしたの? いきなりこんなとこだなんて」 「…個室に風呂付きで一番安いのはここだったんだ。…安いったって、個室風呂付きて比 べたらだけどな…。それに、ミスコン出るならこれくらいのホテルから行かないと、ハク もつかんしな…」 「ふーん…」 「ミスコンまでの宿泊費はもう払ってある。食事も込みだ。ただ、ルームサービスは頼む なよ。余計に金かかるから」 「……………とりあえず、ボーイを呼ばなきゃいいのね」 「そうだな、いつも使ってる宿屋の感じで良いよ。サービスはないものと思えばそれで良 いかな。ほれ、カギだ」 それから、ホークアイからいくばくかの金をそれぞれにもらう。 「じゃ、頼むぜ。ミスコンの日になったら迎えに来てやっから」 「迎えにって…、じゃあ、あんたはそれまでどうしてるのよ?」 「俺は俺でなんとかする。んじゃな」 そう言うと、ホークアイはくるりと背を向けてホテルを後にした。 「……なんか…そっけないわね…」 「…そうですわね……」 「へー…。こういうトコ泊まるって初めてよねぇ」 「そうですね。まぁ、バイゼルってけっこう眺めが良いんですねぇ」 あてがわれた部屋はいつもなら絶対に泊まりそうもない部屋の一室であった。きちんと 掃除も行き届いているし、ベッドも安物ではない。調度品もそこそこそろっている。 「いっつもごわごわベッドだもんねぇ。ドワーフ村の宿屋なんてワラのベッドだったし」 ベッドにひっくりかえって、天井を眺める。なんだか久しぶりのふわふわベッドだ。い つも疲れているので、ベッドの寝心地も確かめるヒマもなく眠ってしまうのだが。 「…やっぱり…今日も疲れたわよね…。考えてみれば、昨夜はブースカブーの上で寝てた のよね…」 ブースカブーの甲羅の上の寝心地なんてあるわけなく、疲れで横になるスペースがある というだけなのだが。 「そうですね…。一眠りしますか? 夕食の時間になったら起こしてあげますよ」 「……ん……お願いするわ……」 「はい。おやすみなさい」 「……おやすみ……」 久しぶりに寝心地の良いベッドで、アンジェラもぐっすり眠れそうだった。 一方、デュラン達はというと何とか日雇いのバイトを探していた。長期滞在するわけで もないので、そういうバイトを探さなければならない。 できれば宿泊費のかからない、住み込みのバイトが有り難い。 バイゼルの職安のような場所でそういうのを探すと、まぁなくはなかった。 「そうだな、これなんかどうだい?」 「ミスコン会場設置…」 「ああ。ブラックマーケットを大々的に会場にしちまうからな。人手があっても足らない くらいなんだ」 「んー…、悪くないけど、住み込み、みたいなのは…」 「ああ、希望者には宿舎もあるよ。メシも多少でるし。まぁ、そんなたいしたもんじゃな いけど…」 無論、デュランの方もさして期待していない。 「……んー…じゃ、これでいいか」 「いいよ」 ケヴィンはデュランがどんな職を選んでも良いと言うだろう。 「じゃ、これ持ってきな。えーと、宿舎利用希望だな?」 「ああ」 なにやら書類のようなものに書き込み、それをデュランに手渡す。 「これを持って行きな」 「サンキュ。それじゃ」 それを受け取ると、デュラン達はこの場所を後にした。 「ねぇねぇデュランしゃん。これから、どーすんでちか?」 「…んー…、ま、少しずつ金を稼ぎながら、だな…。とりあえず、夜にホークアイと連絡 する事になってんだけどよ」 「はーあ。アンジェラしゃん達はドレス選びで、シャルロット達はバイトしゃんでちか。 なんか、ものがなしいものがありまちねー」 「…………仕方ねぇな……」 デュランはそう言うしかなかった。 ミスコン設置。ようは力仕事である。よってシャルロットに仕事はない。それでも、雑 用をする事になった。弁当を配ったり、掃除したり、伝達をしたり。オマケみたいな仕事 なので、給料もそれなりとしか言いようのないものだ。 それでも留守番とかそういうのよりは良い。 木材を運びながら、デュランはちらっとシャルロットを見る。どうやらバケツに水をい れて運んでいるようである。おそらく、仕事を頼むほうもさして期待はしていまい。 「ひあ〜、くたくたでち…。もんすたーとの戦いも疲れまちけど、お仕事っていうのも疲 れまちねぇ…」 「慣れないからな」 パンをスープにつけながら、デュランが言う。 デュランの思った通り、宿舎も簡易設置された適当なものだし、この配給された夕食も、 固いパンに肉と野菜が少しだけはいった薄いスープだけだった。 「かたいでちよ、このパン」 噛みきれなくて、シャルロットは何度もパンにかぶりつく。 「スープにつけて食え。少し柔らかくなるぞ」 「こ、こうでちか?」 ちなみにケヴィンは柔らかくしなくてもそのままバリバリとパンを食っている。 「……もうないのかな…」 あっと言う間に食べ終わり、指をくわえるケヴィン。 「お代わりはできたはずだけど…。でもきっとそんなにねぇぞ」 「ううー…」 「あー! このスープ、ニンジン入ってまち! シャルロットニンジン嫌いでち!」 「じゃちょーだいそれ」 「はい。あ、でも、ニンジンだけでちよ。他の取っちゃだめでちよ」 シャルロットの椀の中のニンジンをフォークでさして、ケヴィンは口の中にほうり込む。 「もったいねーなおまえ。ただでさえ具が少ねースープなのに…」 「うう…、嫌いなものは嫌いなんでちよう」 「おかわりもらってこようかな…」 やっぱりまだ足らなくて、ケヴィンは配給所をちらちらと見ている。 「…ケヴィンしゃん、よくこんなパンとスープをお代わりする気になれまちね…」 「え? そうか? …そんなに不味くないけど…」 「…………………」 ケヴィンの味覚に疑問を抱きながら、シャルロットはスープをすすった。吐き出すほど 不味くはないけれど、おなかがすいているし、暖かいからどうにか腹に入れられる、そん な味である。 to be continued... |