「はーぁうあ…」
  憂鬱そうに、ケヴィンがため息をついた。
  月を眺めてみるが、解決策が見つからないらしい。
  うなだれて、ベランダのてすりに顎を引っかけてみるが、もちろんそんなので
良い案は浮かぶワケでなし。
「よしっ!」
  一念発起すると、きびすを返して、ビーストキングダムの城を後にした。


  聖都ウェンデルは、感謝祭の真っ最中であった。
  各国からたくさんの人々が集まり、すごいにぎわいを見せていた。
「………………」
  ケヴィンはウェンデルの入り口で、口を閉められないでいた。こんなにたくさ
んの人を見たのは初めてのような気がする。
  この人ゴミの中に入るのに、戸惑っていたようだが、やがて意を決するとゆっ
くりと町中に進んでいった。
  ウェンデルは人、人、人、とにかく人である。人ゴミの中を進むのが下手なケ
ヴィンはあっちに流され、こっちに流されしてると、今度は道に迷ってしまった。
「…………………」
  呆然とするケヴィン。
  ここがウェンデルのどこなのか、自分が今どこにいるのか。どこに行けば目的
地につけるのか。サッパリわからない。
  一瞬、泣きそーな顔になるが、それでも心を持ち直し、今度は人に尋ねてみる
事にした。
「あ、あの〜」
「そいでさぁ…」
  ケヴィンの声が聞こえなかったようで、女の子たちはキャッキャッとおしゃべ
りしながら、通り過ぎていく。
「……………………」
  差し出した手の行き先がない。
「あの〜…」
「ねぇ、ママ。あれ買ってぇ」
「はいはい」
  やっぱり聞こえなかったようで、親子連れはケヴィンを無視して通り過ぎてい
く。
「………………………」
  また失敗。今度こそは!
「あのっ!」
「はい?」
  今度は大丈夫。おばさん連中3人組を呼び止める事に成功した。
「あの〜、光の神殿、どこ…?」
「ああ、ごめんなさいねぇ。私たちも他国から来たもんだから、わっかんないの
よ。ごーめんあそばせ、おほほほほ!」
  笑いながら、おばさんたちは去って行った。
「………………」
  やっぱり、ケヴィンは一人、そこに残されてしまった、
「うぅ〜…」
  なんだかどんどん気分がショボけてくる。元気もなくなってきて、そこのベン
チに腰掛けた。
「あーっ!」
  聞き覚えのある声がどこからかする。ケヴィンはハッとなってベンチから立ち
上がると、辺りをきょろきょろ見回した。
「ケヴィンしゃん!  ケヴィンしゃんじゃないでちか!」
  間違いない。シャルロットの声だ。だが、いかんせん、どこから声が発されて
いるのかわからない。
「シャルロットー!?  どこだー!?」
「ここ、ここ!  ここでちよ!」
  見ると、シャルロットがデュランに肩車されてこっちにやって来るではないか。
道理で上の方から声がすると思ったら。
「シャルロット!  デュラン!」
「お久しぶりでちー♪」
「よぉ、ケヴィン。やっぱりおまえも来てたんだー」
  こっちにやって来る二人が、ケヴィンには救い神に見えた。
「良かったぁ〜、オイラ、光の神殿、行こうと思って、迷ってたんだ」
「わかりまちよ〜。シャルロットも、何度も迷いかけちゃって大変でちたよ。他
に、ホークアイしゃんとかいたんでちけどね。はぐれちまったでちよ」
「ホークアイもいるのか?」
「ああ。みんな来てるぜ。おまえんとこに祭の招待状、来なかったのか?」
  初耳である。ケヴィンは目を丸くさせた。
「知らないぞ」
「ありゃま。ケヴィンしゃんトコには行かなかったんでちか!」
  シャルロットも驚いて、そしてずり落ちてきたキャラクターお面を上に上げる。
「まぁ、何にせよここに来たんだから、良いじゃねぇか」
「それもそーでちね」
  言って、シャルロットはオモチャを口にする。ストローの先に丸まった紙袋が
ついていて、息を吹き込むと長くのびるあのオモチャだ。吹き戻しと言うものら
しい。
  ピューっと軽い音をさせて、派手な模様の紙袋が真っすぐのびる。
  ピューっ、ピューっ。
  シャルロットが遊ぶたびに、伸びた紙袋の先がデュランの頭にぱしぱし当たる。
「……おまえなぁ!  さっきから人の頭に当てやがって!  いい加減にしない
と怒るぞ!」
「ぶ〜っ!  デュランしゃんの怒りんぼ!」
  頬をふくらませて、下のデュランを見る。
「…じゃあ、みんないるのか?」
  話を元に戻すケヴィン。
「ああ。みんないるよ。でっかい祭りだからな。各国首脳陣とかも来てるんだけ
ど…。おまえのオヤジも来てるんじゃなかったのか?」
「知らない」
  ケヴィンは首をぷるぷると首を横にふった。
「おいおいおい…」
  さすがのデュランもあきれた顔をする。
「でも、おかしいでちねぇ。本当に招待状、来てなかったでちか?」
「う〜ん……。どんなのだ?」
「どんなのって、ケヴィンしゃんには、ピンクの花柄の封筒に、ちゅーりっぷの
シールをはっつけたお手紙でちよ」
  えらく少女趣味な手紙を送ったものである。
「ああ!  あれかぁ!」
  思い出したようで、ケヴィンはぽん、と手を打った。
「届いてるんじゃないでちか!  どーちて読まなかったでちか?」
「読もうと思ってたんだけど、ゲイルの飼ってるペットのヤギに食われちまって。
読めなかったんだ。どーしようと思ってたんだけど、そのまま忘れちまった!」
「………………………」
  あまりの事実に、シャルロットとデュランは言葉を失った。
「……あ、あんたしゃんのお友達はヤギ飼ってるんでちか…」
「おう。白いのに黒縁のあるヤギなんだ。丸焼きにしたらうまそーなんだけどな
…」
  あのヤギを思い出して、ケヴィンは思わずツバを飲み込んだ。
「………………………」
  シャルロットとデュランの顔が引きつっている。
「ま、まあなんだ!  おまえもここに来たんだからさ、祭りを楽しもうぜ!」
  気を取り直して、デュランが努めて明るい声で言った。
「そ、そーでちよ。しぇっかくのお祭りでちもんね!」
  シャルロットも調子を合わせてそう言った。
「綿菓子とか、リンゴ飴とか、おいしーものもたくさんあるでちよ。一緒に行き
まちょー!」
「おう!」
  食べ物の話を出され、ケヴィンはヤギの事など忘れたように上機嫌になってう
なずいた。



                                  続く