月読みの塔に入ってみたが、あの死を喰らう男はどこに消えたのか、姿形はどこにも見
かけなかった。
「あいつ、どこ行ったんだろ?」
「さあ…。でも、あいつすっごく邪悪な気配がしたよ…。ここには感じられないから、も
ういないみたいだけど…。あいつもマナストーンをねらってるみたいね…」
 うーん…。みんながみんなしてマナストーン狙ってるとなぁ…。
「でも、ここのマナストーンはまだ無事みたいですね」
 リースの言うとおり、月のマナストーンは力を解放されず、その不思議な輝きを見せて
いた。
「ええ…。まだ無事でよかったわ。こんなところに封印されてたのね…。ここがいつも夜
になってしまっているのはこのせいなのね…」
「へー、そうだったんだ」
 ケヴィン…。知らないだろうと思ったけど、やっぱり知らなかったんだな…。地元なん
だからそれくらい知ってろよとか思ったけど、しょうがないか…。
「そういや、あのアルテナ兵、どうなったんだ?」
 俺がそう尋ねると、アンジェラは悲しい表情で首をふった。…助からなかったらしいな
…。
「アルテナ軍は撤退してったわ…。いくらアルテナでも、月夜の森の獣人達にケンカふっ
かけるなんて無謀すぎるよ…」
 …そりゃあなあ…。
「…ウソでち…ヒースが堕ちた聖者だなんて…」
 さっきからグチグチ言っているのはシャルロット。彼女の憧れの神官がどんな人なのか
はよく知らないが、彼もさらわれてしまい、けっこう大変みたいだ。
 そういえばあのピエロみたいな怪しいヤツ、死を喰らう男と言うそうだ。なんつーか、
すげえ名前だよな。
「アルテナ、美獣、そしてあの死を喰らう男…それぞれがマナストーンを狙ってるんだわ
…。悪しき心の持ち主にマナの剣が使われてしまったら、マナの樹は枯れ、世界からマナ
が失われてしまう…。世界が大変な事になってしまう……。……どうして、こんな事……」
 事態はどんどん逼迫してくる…。それにつれ、俺達の肩の荷がどんどん重くなってくる
ような気がする…。
「…さあ、行きましょうみんな。残るは木の精霊ドリアードだけよ! 八精霊を集めれば
私でも聖域の扉が開けられる。早く、こんな事はやめさせなきゃ!」
「……そうだな。よし、善は急げだ。みんな、あともうひと頑張りだ。さっさとドリアー
ドを仲間にしちまおうぜ」
「おう!」
 俺の呼びかけに、みんな力強く答えてくれた。



 次の目的はドリアード。木のマナストーンについてはディオールの妖精王に聞くしかな
いと、陛下はおっしゃっていた。地図を見ながら、ディオールに一番近い砂浜に上陸する。
 ディオールに行くまでに通るこの森はランプ花の森というそうだ。うっそうとした木々
が広がるのだが、同じ森でも、月夜の森とはまた違った雰囲気だ。
 月夜の森ってのは、木の高さも高いし、葉っぱの色もみんな同一色に暗い。反対に、ラ
ンプ花の森は、木の高さは全体的にわりと低く、葉っぱとかの色も暗い色だけど変化があ
る。花もやっぱり暗い色ながらもやたらめったらに咲いていたりする。薄暗いから、華や
かな感じがしないけど。ヘンなあやしさがあるんだな、この森。
「シャルロット…。シャルロットね、今でも時々ぱぱやままの夢を見るんでち…」
「ん?」
 ちょっと小休止を取っている時、不意にシャルロットがつぶやきだした。
「それでね、夜に光る花とか、薄いピンクのきれいな花とか。とにかくお花が、たくさん、
たくさんあるんでちよ……」
「ふーん…」
 まあ、俺も時々、本当に時々。両親の夢を見るけどな…。
「花、ですか…。すると、シャルロットの出身は花畑の国ディオールなの?」
「…そうでち…。シャルロットはここで生まれたんでち…。育ったのは、ウェンデルでち
けどね…」
 なつかしいんだろうか? シャルロットは不思議な目をして、この森の景色を見ている。
「ま、とにかく行こうぜ。このままだと夜になっちまう」
 ホークアイが、深い木々のすきまから差し込む夕陽を眺めながら言う。そうすんべと、
俺達はランプ花の森を突き進む事にした。
 モンスターを倒しながら進む森は、だんだん暗くなっていき、気味が悪くなってくる。
「まあ! みなさん、見てください」
 リースの嬉しそうな声に、俺もモンスターから金を取る手を止めて顔をあげた。
 見ると、さっきは白かった花が明々とピンクに光っているのだ。薄暗い森のなか、ぼん
やりと光る花は幻想的で、不思議な光景だった。
「な、なんだ、これ?」
「ランプ花じゃないの? これが」
「あ、なるほど。夜に光るからランプ花ってワケね」
 ホークアイが解説してくれた。あ、そっか…。
「でも、なんかこの花、道しるべみたいに続いて光ってるわね…」
 そうなのだ。まるでなにかの道を指し示すかのごとくに光りが続いている。
「………ディオールにまで続いてんのかな?」
 俺の問いにだれも答えなかった。でも、代わりにケヴィンがその光る花の道に従って歩
きだした。
「行こう!」


 あの光るランプ花は、ディオールまでの道順を示していた。なにしろ迷わずディオール
につけたんだから。
「ふーん…。ここがディオールね…」
 けっこうこぢんまりした感じの所。国というにはかなり小さいかも。ちょっと気になっ
た事と言えば国の入り口付近に誰かの墓があったこと。俺以外、みんな気づいた様子はな
かったけど。
「あ、すいませーん。妖精王…」
 ホークアイが妖精王の居場所を教えてもらおうと、耳のとがった女の子に声をかけたと
たん。
 ひきつった顔を見せ、すごい早さで逃げてしまった。
「あ、あれー…。な、なんで?」
「おまえがあんまり馴れ馴れしいんで、怖くなって逃げたんじゃねえか?」
「馬鹿言うな! 俺のどこが怖いんだよ!? おまえならともかくよー」
「なんだとぉ!?」
「ちょっとちょっと。んなことやってるヒマはなくてよ。さっさと妖精王に会わないとい
けないんでしょ?」
 アンジェラの言葉によって、俺はつかんだホークアイの襟首を離した。
 しかし、だれが声をかけても、ここの人々は逃げてしばうばかり。話にならない。怖が
っているというより、話しもしたくないっていう雰囲気なんだ。
「どうなってるんだ?」
「わかんねえ…」
「困ったでちねー」
「オイラ、半獣人でも、やっぱ人間か?」
「じゃあ、変身して話しかけてみたら?」
 なげやりに言ったアンジェラの言葉をケヴィンは実行してみたのだが、今度は本当に怖
がってしまい、人っ子一人いなくなってしまった。
「………困ったでちねー………」
「ゴメン…」
「まあまあ。ケヴィンのせいじゃないですよ」
 落ち込むケヴィンに優しく背中をさすってやっているのはリース。本当に良いコだなー
…。
 とにもかくにも、妖精王に会わないと話にならん。
「しょうがない。一件一件訪ねてみるか…」
 と、それを実行したら今度はカギをかけられてしまった。
「…どないせぇっちゅうねん…」
 ホークアイがブスったれた顔をするのも無理はない。きっと俺もそんな顔してるだろう。
だってみんなそんな顔してるし。
 ふと、アンジェラが何か思いついたようで、ケヴィンになにやら耳打ちする。ケヴィン
はこくんとうなずいて、力をこめ、狼男に変身!
「アォオオォォォーンッッ!」
 お決まりの雄叫びをあげる。そして、アンジェラはすうっと息を吸い込むと、ありった
けの大声でこう叫んだ。
「よぉうせぇいおぅっ! 聞いてんでしょっ!? 出て来ないとこの村、この狼男が襲いま
くっちゃうからっ!」
 これじゃ脅迫だ。しかし、それが功をなしたか、小さめの屋敷から、年老いたエルフが
ゆっくりとやって来た。とってもイッヤそ〜な顔してね。
「…人間たちよ、わしに何用だ…?」
「やぁっと出て来たわね…。ったく、出て来ないから、話にもなんないじゃない。ケヴィ
ン、もう戻って」
 狼男は小さくうなずいて、人の姿に戻った。妖精王はさも嫌そうな顔して、俺達一人一
人の顔を見る。しかし、妖精王はシャルロットを見た途端、著しいまでに驚いた。
「シャルロット!? シャルロットではないか!?」
「へ? なんでシャルロットのお名前を知ってるでちか。てゆーか、あんた、だーれ?」
 ちょっとビックリしたようで、少したじろぐと、小首をかしげて妖精王を見る。
「…そうか、おまえがここを出たのはとても小さい時だったからな。覚えていなくとも無
理はあるまい…」
「…シャルロットの小さい頃…?」
「そうだよ。おまえの両親と一緒にね…」
 さっきのスッゲー嫌そうな顔とはうってかわって。優しい顔付きと口調でシャルロット
の目線に合わせてしゃがむ。
「ぱぱと…ままと…」
 妖精王はおじいさんの顔で、ゆっくりうなずく。
「…シャルロットね、ちょっとだけ…。ほーんのちょこっとだけ。ここにいた事を覚えて
るでち…。でも…」
「そうか…。少しは覚えているのか…。…まあ、立ち話もなんだから…。こちらへ来ると
良い…」
 あまりの態度の軟化に思わず俺達は顔を見合わせた。
 これもシャルロットのおかげと言うべきか。俺達は妖精王の屋敷に招き入れられること
になった。
「あ、あの…。あのね…」
「ん? なんだね?」
 シャルロットは何か気になっている事があるらしく、妖精王の袖を引っ張った。
「……シャルロット、今でもぱぱとままの夢を見るんでち。でも、でも二人はいつも、シ
ャルロットをおいてどこかに行ってしまうんでち…。ねえ、どうして? どうして、シャ
ルロットのぱぱとままは……」
 最後まで言葉にならず、つまってしまう。そんなシャルロットを、ちょっと悲しそうに
見ていたが、ゆっくり話しはじめた。
「……エルフと人間が結ばれるには、とある呪法を用いねばならず、それは、お互いの命
を削ってしまう程のものなのだ…。だから、わしも、光の司祭殿も二人の結婚には反対し
たのだ。しかし、『命よりも大切なものがある』と言って、ここで暮らし始めたんじゃ…」
 ため息を一つつく妖精王。そんな妖精王を、シャルロットは不安そうに見上げていた。
「ここでの二人はとても幸せそうだったよ…。そんな二人を見て、わしは説得をあきらめ
た…。そしてシャルロット。…おまえが生まれた。……しかし、禁断の呪法は、子供が生
まれるとその恐ろしい力を発揮する……。そのために、二人は………」
 え? って事は…。
「…じゃ、じゃあ、シャルロットが生まれたから、だからぱぱとままが死んでちまったん
でちか!?」
「シャルロット! そういう意味じゃなくて…」
 あわてたように妖精王が、シャルロットを見るが、彼女は首をぶんぶん振った。
「……シャルロットが…、シャルロットが生まれなかったら、ぱぱとままは死なずにすん
だんでちか!? シャルロットのせいで、ぱぱとままが死んじゃったんでちか!?」
 シャルロットの顔が見る見るうちにゆがんでいく。語尾の方はすでに涙声になっていた。
「違うシャルロット。二人はそんなことを…」
「ひっく…うっく…。ふえええぇぇぇんっ!」
 妖精王の言葉に耳を貸さず、シャルロットはわんわん泣き出した。
「うわぁぁぁぁぁんっっ!」
「シャルロット!?」
 泣きながら、シャルロットはどこかへ走り去ってしまった。慌てて彼女の後を追いかけ
る。
 しかし、どこをどう行ったのか、シャルロットが見つからない。
「シャルロット! おーい、シャルロット!」
「シャルロット! どこだ!?」
「シャルロットーっ!」
「妖精王! たとえ事実だとしたって、なんでいきなりそんな事言うのよ! 配慮がなさ
すぎるじゃない!」
 アンジェラが、妖精王に怒鳴りつける。
「……すまぬ…」
「私に謝ってどうするのよ!?」
「おい、やめろよ、アンジェラ! 妖精王に怒鳴りつけたって、しょうがないじゃないか」
 ホークアイが彼女の肩を取った時、ケヴィンが叫んだ。
「あ、シャルロット!」
 ケヴィンの声に、みんながハッとなる。見ると、シャルロットがなにかの触手つかまっ
ているではないか! 
「なんだありゃあ!?」
 緑色のばかでかい球根が、無数の触手をうねうねくねらせながら、もぞもぞとこちらの
近づいて来やがる。シャルロットをつかまえたまま、球根の先がぱっくり割れた。あいつ、
シャルロットを飲み込む気か!?
「ギルダーバイン! どうして村の中に…」
「ホークアイ! おまえは妖精王を頼む! あとはあいつに一斉攻撃を仕掛けるぞ!」
 呆然とする妖精王をホークアイに任せると、俺はみんなに呼びかけて剣を抜いた。
「OK!」
 にわかにみんなは戦闘体制にはいり、大きな大きな植物に戦いを挑んだ。
・
「うっく…。えっぐ…」
 ギルダーバインを倒して、無事シャルロットも助けだしたのだが、心の傷が深いようで、
部屋のすみっこで泣いてばかりいた。
 ギルダーバインに飲み込まれていたという木の精霊ドリアードも仲間にして、八精霊全
部仲間にしたのは良いけれど、シャルロットがあの様子じゃあ…。
「シャルロット…」
「ほっといでくだしゃい!」
 と言うばかりで、慰めようがなくてみんな、困り果ててしまった。
「シャルロット…。もう泣かないで…」
 ケヴィンは心底弱り果てたように言う。しかし、シャルロットは泣き止まない。
「シャルロットは、シャルロットは生まれちゃいけない子だったんでち…。生まれなかっ
たら、ぱぱも、ままも…」
「シャルロット。それは違う…」
 妖精王がシャルロットに呼びかける。シャルロットは聞いているのかいないのか。ただ
しゃくりあげている。
「言っただろう? おまえの父リロイも、母シェーラも。『命よりも大切なものがある』と
言っていたと…。二人はおまえを生む事を決して後悔などしていなかった。むしろ、おま
えが生まれるのを心待ちにしてたんだ。そんな二人がおまえをそんなふうに思うわけない
じゃないか」
「……だって…。だって…」
 えぐえぐと、しゃくりあげ、目を何度も何度もこすっている。
「シャルロット…。もう泣き止みなよ…。そんなに泣いてたら、きっとシャルロットの両
親も悲しむと思うな」
 ホークアイが優しく声をかける。シャルロットは何も言わない。
「そうよ。あんたを生む事を全然後悔してなかったんでしょ? だったら、あんたが元気
にしている方が喜ぶに決まってんじゃない」
「そうそう。そんな悲しいふうに考えるなよ」
「でも…。でも、シャルロットが生まれたせいでぱぱとままが死んじゃったのは事実でち
…」
 シャルロットはまだ顔をあげてくれない。
「そりゃそうかもしれないけどさ。おまえを生むために亡くなったんだろ? おまえのた
めにおまえを生んだんだろ?」
「………………」
「シャルロット。そんな考えはご両親を悲しませるだけよ。ご両親、あなたが大好きなの
よ。だから、産んだのよ。生まれちゃいけないなんて、そんな事あるわけないじゃない。
それに、あなたがいなかったら私たち、ここにいなかったかもしれない」
 優しく、ゆっくりとリースが話しかける。
「……リースしゃん…」
「そうそう。おまえの回復魔法はよく効くからな」
「ティンクルレインも最高!」
「みなしゃん…」
 やっと、シャルロットは涙でぐちゃぐちゃになった顔をあげた。
「オイラ、シャルロット好き! みんなも、シャルロット好きだぞ! だから、シャルロ
ットが生まれてなかったら、きっと、寂しい」
「……………」
「オイラたち、トモダチだろ?」
 ケヴィンがシャルロットの顔をのぞき込んだ。
「………………へ、へへ…」
 やっと、シャルロットが少しばかりほほ笑んだ。
 シャルロットはごしごしと目をこすった。まだ目が赤いままだったけど、まだちょっと
顔がひしゃげていたけど、懸命に笑っていた。
「シャルロット、かっちょ悪いでち…。こんなに泣いて…」
「シャルロット…」
「シャルロット、もう泣かないよ。ヒースやおじいちゃんを助けるっていう目的があるん
でちもん…。天国のぱぱもままもきっと応援してくれてるでちよね…」
 そう言って、シャルロットはニッと笑った。
 みんな、安堵の息をもらした。良かった…。


 エルフが住む、花畑の国ディオールを後にして、俺達はフェアリーが言う、忘却の島へ
とやってきた。
 忘却の島って言われるくらいだから、フェアリーに教えてもらうまで、こんな島がある
ことなんて、知りもしなかった。
 マナストーンエネルギーの中心地…。それがこの島。マナストーンから力を得る古代魔
法を封じた結果が、この島を忘れさられた島にしたとか。力を求め、奪い合った結果がこ
れか……。なんか、空しい話だな……。
 それはともかく、八精霊も仲間にしたし、いよいよフェアリーに聖域の扉をひらいても
らう。
「ついにここまで来たか…。さあ、早速聖域の扉を開こうぜ!」
 心なしか、みんなの顔が緊張している。
 マナの女神像の石像がい並ぶ道をたどり、開けた場所へとやってくる。
 そこまで来ると、フェアリーが俺から飛び出した。フェアリーは俺達に振り返る。
「…旅の途中にもどんどんマナが少なくなっていったけど、でも、今ならまだ間に合うか
もしれない。みんな、ありがとう…」
「よせやい。まだ終わってねえじゃねえか」
「…ふふ…。そうね…」
 ホークアイがそう言うと、フェアリーはちょっと笑って。そして、天に向かって祈りを
捧げる。
「マナの女神様。私に力をお貸しください!」
 フェアリーが意識を集中し始める。俺から、次々と精霊たちが飛び出してきて、フェア
リーを中心にして丸くなって囲んだ。
 フェアリーを中心にして、光がフェアリーを包む。光の中に、精霊たちが見え隠れする。
 やがて、フェアリーの目の前に虹色の空間の入り口とおぼしき何かが現れる。それは、
小さな丸だったけど、だんだんと大きく広がってくる。
 こ、これが聖域の扉…?
 みんな、固唾をのんで見守った。だんだんと大きくなって、大きくなっ…。あっ!
 フェアリーがバテてしまったのか、その丸はどんどん小さくしぼんでしまった。
「ったーぁ、惜しい! ガンバレもうちょっと! あきらめるんじゃない!」
「フェアリーさん、頑張って!」
「頑張るでち! シャルロットがついてる!」
「あとちょっとだったのに、次はきっとうまくいくよ、頑張って!」
「あきらめないで、もっと自分の力を、みんなの力を信じるんだ!」
「うーっ、おしかった…」
 次々と仲間の声が飛んで、フェアリーはツラそうながらもほほ笑んだ。
「…ハアハアッハア…。み、みんなありがとう…。もう一度やってみる!」
 キッと前方を見上げ、フェアリーはもう一度チャレンジ!
 今度は、今度は成功した! 大きく大きく広がって、そしてふわーんと…え!? あんな
に高いトコに上がっちゃったぞ!?
「フェアリー!」
「わ、私何もしてない! と、扉が勝手に開いちゃった!」
「な、なんだって!? それはどういう…」
 その時だった。いきなり、目の前が爆発した。
 ドッグアアアッッ!
「うきゃーっ!」
「うわーっ!」
「キャーッッ!」
 みんな飛ばされてしまった。そして、忘れもしねえ、あの憎き紅蓮の魔導師の声が遥か
上空から…!
『ご苦労だったな! 古代魔法をかけただけでは発動しなかったのだが…。おまえらのお
かげで聖域の扉が開いたようだ』
 歯を食いしばって、見上げると、なにやら物々しいデザインのばかでかい船が浮かんで
いるのが見えた。
「何だありゃあ!?」
「空中魔導要塞、ギガンテス…!」
 アンジェラの固い声が聞こえた。魔導…要塞!? あんなもん、浮かしちまうのか!?
 そして、戸惑う俺達に紅蓮の魔導師の声がさらに降ってくる。
『これで我らも聖域に入れると言うものだ…。ほんのわずかばりの礼だが…。受け取って
くれたまえ!』
 なんつって、上から大砲か何か撃ちやがったのだ!
「げっ!?」
 ヒュウゥゥィゥゥ…
 再度の砲撃が…、来るっ! 爆弾は、真っすぐアンジェラに向かっているのが見えた。
バカ! アイツなにボーッとしてんだ!
 とっさにダッシュして、アンジェラを突き飛ばす。次の瞬間、激しい衝撃が俺の背中を
たたきつけた。







 ―デュラン…。
 だれか…呼んでる……。だれだろう……。
 ……いてぇ……。背中が……、メチャクチャ…いてぇ…。なんなんだ……、この痛さは
……。口の中が……すごく苦い。これは……鉄…いや、……血の味。
 景色が…、すごくボンヤリする……。よく、見えないな…。…ここは、どこなんだ…?
 ―…デュラン…。デュラン…。
 …聞き覚えのある声が…たくさん…聞こえる…。誰だっけ…? でも…、この声…随分
遠く聞こえて…、誰が、誰の声なのか……。…俺を、呼んでるのか…?
 ……あれ…? 向こうに見えるのは……、母さん…? …ここ、草原…? 俺、草原に
来てたっけ…?
 なに…? なに言って…るんだ…? 母さん、よく…聞こえないよ…。よく………見え
ないよ…。
 …手が…暖かい…。誰か…俺の手を握っているのか…? ……おばさんと…、母さんと
…、父さんと…、手をつないだ日はいつだったか……。
 俺の名を呼ぶ声が…、また小さくなっていく………。
 ………手……あったかいな……。……………。
 ……この手は…………。
 ……………………。






                                                             to be continued...