俺たちの死闘は凄まじさを極めた。これ以上にないくらいのダメージと、長い戦い。
 まさに持てる力のすべてを終結させて、そしてそれをみんなで合わせて。
 もう、みんなボロボロだった。でも、竜帝だってボロボロなんだ。
 俺は口の中で小さく治癒呪文をつぶやいた。さっきはアンジェラを回復させた。今、シ
ャルロットは瀕死のダメージを負ったケヴィンにつきっきりだからだ。
 ふと見ると。頭をねらっているリースに、横から竜帝の足が襲いかかった。
「リースっ!」
 俺が叫ぶと同時、ホークアイがリースを突き飛ばした。
 ドガァッ!
「ぐはァッ!」
「ホークアイ!?」
 リースが悲痛な叫びをあげた。ホークアイが大きくバウンドする。
「くっ! このぉっ!」
「グオゥッ!」
 リースは槍で竜帝を切りつけると、真面に効いて、竜帝はよろめき、バランスを失う。
「ホークアイ! 待ってろ!」
 俺は早口で回復呪文を唱えながら、彼が横たわっている所まで必死に走った。間に合っ
てくれ!
 ホークアイのすぐそばまで来ると、急いで呪文を発動させる。白い光が彼を包んだ。…
頼む…! 効いてくれ!
「うっく…」
 わずかにホークアイが動いた。良かった! …なんとか命だけは取り留めたぞ!
「どうですか!?」
 リースが今にも泣きそうな顔でこっちを見る。
「とりあえずは大丈夫だ!」
「そうですか…良かっ…!」
 リースは一瞬ホッとした顔を見せ、そして殺気に気づいて大きく跳び退る。そこを、竜
帝のレーザーブレスが通り過ぎた。
 …リースの動きがにぶくなってる…。いや、リースだけじゃない…。みんな、疲れの色
が濃くなってる…。
 …クッソー…。もうこれ以上は、みんな持ちこたえられそうにない…。なんと、してで
も…。なんとしてでもっ!
 俺は竜帝を見上げた。ヤツだってまいってるに違いない。動きだってフラフラしてきて
いる。
「う…」
 下からのうめき声に、我に返って俺は再び回復呪文を唱える。
「デュ…デュラン…」
「………しゃべるな。シャルロット程までにはいかないが、何回かかければ効くだろう」
「…俺の事はいいから…、ぐっ…、ゲホッ…、おまえは…」
 血を吐きながら言うホークアイに、俺はカッときた。
「黙らねぇと怒るぞ!」
「いいから…、おまえは竜帝と戦ってこいよ…。おまえが一番攻撃力あるんだろが…」
 俺はホークアイを無視して魔法をかけ続けた。
「聞いてんのか…? 俺にかまわず…戦ってこいよ。それに…だいぶ楽になったんだ。後
でシャルロットにも来てもらうから…。だから…頼むから…早く行け!」
「け、けどよ…」
「俺は…おまえの足手まといになりたくねぇんだよ…!」
「な…、んな事あるわけねぇだろ! いいから黙ってろ」
「行けよ! おまえは…戦ってこい! お前の役割は戦う事だろう。回復はシャルロット
にやってもらうから…、おまえは…、行け」
 無理して上半身を起こし、その震える手で、魔法をかけている俺の腕をつかむ。
 彼にここまでさせられては、俺も呪文をやめざるを得なかった。仕方なく立ち上がる。
…でもなぁ…。こいつをこのままにってのは…。そうだ。確かポケットに…。
「…じゃあ、俺は行くけど…。おまえ、これ食ってろ…」
 俺はポケットからまんまるドロップを取り出して、ホークアイの口に入れた。ヤツがち
ょっと微笑んだ。
「シャルロット! 次ぎはコイツだ! 頼む!」
 俺が叫ぶと、シャルロットはちょっとだけこっちを向いて小さくうなずくと、ケヴィン
への回復魔法を続行する。
 シャルロットも…、回復魔法かけっぱなしで疲れてきてるな…。
 ケヴィンとホークアイが動けなくなって、今は主にリースが竜帝の注意を引いて戦って
いる。それをアンジェラがサポートしている感じだ。
 …どうやって攻めよう…。
「アンジェラ!」
「な、なに…?」
 アンジェラがやや戸惑った顔で俺を見る。キレイな顔も汚れて、疲れの表情が色濃く出
ていた。
「…おまえ、一番強い魔法唱えてくれ。俺とリースでヤツの注意を引くから」
「一番…強い魔法…」
「そうだ。とにかく強いの!」
「…うん。わかった!」
 アンジェラは真っすぐな瞳で俺を見て、そしてうなずいた。
 俺は竜帝に向かって駆け出した。アンジェラはあそこにいるから、こっち側に注意を向
けなくては!
「うらぁ!」
 飛び出し、竜帝の首辺りを切りつける。
「クゥッ! こざかしいコワッパめ!」
 竜帝は口をクワッと開けて、ブレスを打ってくる。
「へっ! 当たるかよ!」
 俺がブレスをよけていると、リースが槍でついてくる。俺たち二人の攻撃に、竜帝の方
も攻めあぐねているようだった。
「えぇいっ! わらわらとっ!」
 忌ま忌ましげに竜帝が唸る。ふと、竜帝が何かに気づいたようだ。
「むっ!? エインシャントか!?」
 ゲッ! 竜帝のヤツがアンジェラの魔法に気づきやがった!
 っかーっ! こんちくしょう!
 アンジェラの魔法を邪魔されちゃたまらない。俺は夢中になってヤツの足を切りつける。
「リース?」
 いつの間にか、俺の近くにリースがいた。リースは俺に近寄って、小声で話しかけてき
た。
「デュラン! すみませんが、竜帝の気を引き付けててくれませんか? アンジェラの魔
法が終わったらすぐに攻撃に移れるよう、パワーアップの魔法をあなたにかけますから!」
「…わかった! おまえは下がってろ!」
「はい!」
 リースが駆け出すのを確かめると、俺はまた竜帝を切りつけた。
「グワッ! えぇい、うっとうしい!」
 竜帝の目が光り、ブレスが打ち出される。俺がそれを避けると、その先をねらって、ヤ
ツの翼が覆いかぶさるように、襲いかかってきた!
 しまった!
 ぶわっ!
 何とか避けたものの、風圧で弾き飛ばされ、俺は竜帝からだいぶ離されてしまった。
 クソッ! 急いで起き上がり竜帝に向かって突っ走る。急がないと、アンジェラが危な
い!
 竜帝は、アンジェラに向かってブレスをはこうと、息を吸い込んだ。間に合わない!
「でやぁアッッ!」
 ズドムッ!
 ブレスをはこうとしていた竜帝に、ケヴィンの拳がめりこんだ。回復したんだ!
「グアァ!?」
 竜帝がよろめいた。ケヴィンのパンチがかなり効いてる!
「エインシャント!」
 そのスキに、アンジェラの魔法が完成した。
 イイ…ィィィィィィィンン…
 耳にくる妙な音がしたかと思うと、凄まじいまでの隕石群が竜帝に次々と激突する。
 ドウンドウンドウンドカン!
 ここまで凄まじい攻撃魔法は見た事がなかった。アンジェラのヤツ、いつの間に…。
 その間に、リースのパワーアップの魔法が完全に俺にかかった。
 あの魔法は相当な魔力を消費するらしくて、アンジェラは膝をつく。でも、俺と目が合
うと、弱々しくだけど、ほほ笑んでくれた。
 エインシャントを食らって竜帝は動けないでいる。とどめをさすなら今しかない!
 俺は剣を大きくふりかざし、マナの木を足場に、竜帝目がけて高く高くジャンプした。
「なにぃっ!?」
 竜帝の目がカッと見開いた。
「でやああぁぁぁぁぁっっっ!」
 狙うはヤツの眉間! 俺は思い切り剣を振り下ろした。
 なにっ!?
 竜帝が危険を察したか、頭をよじらせる。俺の狙いが外れたっ!
 それでも、剣は竜帝の頭に深く突き刺さった。
 ズザシュゥッッ!
 返り血が俺にかかる。
「グウゥゥオオオォォォオウウゥゥウウゥゥウッッ!!!」
 耳をつんざくほどの咆哮をあげる。ヤツは苦しみ悶え、激しく頭を振り回す。その勢い
に俺は振り飛ばされた。
 ドンッ!
「グッ!」
 俺は少し離れた場所に打ち付けられる。一瞬息が詰まり、呼吸ができなくなる。
「…クッ…くそぉ! 畜生めっ! 許さん…許さんぞっ! ワシは超神だ! 超神なの
だ! 貴様ら人間なんぞに…やられはせんっ!」
 竜帝は噴水のように血をしぶきあげ、目茶苦茶に暴れ始めた!
 ちっくしょう! 俺の攻撃が効いてねぇのか!?
「わーっ!?」
 近くにいたケヴィンが撥ね飛ばされた。ケヴィン!
 チキショウ! なんでアイツ死なねぇんだ!? どれだけ攻撃したらヤツは死ぬんだっ!?
 だが、俺のブレイブブレードはヤツの頭に突き刺さったままだ。どうすれば良い!? ど
うすれば良いんだ!?
 シュゴォッ!
「キャーッ!」
 ブレスを乱れうち、アンジェラのすぐそこを横切る。
 ヤツのブレスは聖域の木をたやすく薙ぎ、草を燃やす。あんなの今食らったら、みんな
ひとたまりもない!
 ホークアイは手負いで動けない。シャルロットは、彼につきっきり。ケヴィンはさっき
撥ねられて、動けないでいる。アンジェラは足をくじいたらしく、あそこにうずくまって
いた。
 動けるのは…、俺と、リースだけ……? 俺とリースだけで、ヤツをどうしようってん
だ!? しかも、俺の剣はヤツの頭に突き刺さったまんまなんだぞっ!
 混乱と焦りが、心臓を苦しくさせる。俺は……どうすればいいんだ…!? このままじゃ
みんなヤツに…。ヤツに……殺される……?
 そんな…。…そんなのやだ…。いやだ! 殺させない。ヤツなんかにみんなは殺させね
ぇ! 絶対に殺させるもんか! どうにか…、何とかしなければ! 
 けど…、どうすればいい!? どうしたら、ヤツを殺せるほどの攻撃ができる!? どうす
れば…、俺の剣がなくても…どうしたら……、………剣? ……そうだ!
 …………これしか……ないっ!
「リィースッ!」
「な、何ですか?」
 リースはビックリして、叫ぶ俺に反応する。彼女の近くでホークアイがシャルロットに
回復魔法をかけてもらっていて、彼もこちらを見た。
「俺の荷物を取ってくれ!」
「え? え?」
「早く!」
 俺の声にただならぬものを感じたか、リースは急いで俺の荷物を取りに走り、そこから
投げてよこす。俺はその中から折れたブロンズソードを取り出した。急いでまいてある布
をはがす。
 古ぼけたブロンズソード…。折れちゃってるけど、剣は剣だ。
 ブロンズソードが、にぶく自分の顔を映し出した。竜帝の返り血とかで、汚ぇツラだっ
たけど、不思議と落ち着いた瞳をしていた。剣は己の心を映す鏡、か…。
 ……父さん…。俺、今なら父さんの気持ちわかるよ…。
 俺はブロンズソードを握り締め、竜帝に向かって駆け出した。竜帝は動けずにいるアン
ジェラを狙っていた。…させねぇぞぉぉっ!
「デュラン!? 何をする気ですか!?」
「竜帝ッッB」
 俺がヤツに向かって吠えると、竜帝は血で判別できなくなった顔を向けた。そして、裂
ける程に口を大きく開き、方向転換すると俺に襲いかかってきた。だが、俺はかまわず突
進した。
「何しようってんだデュラン!?」
「聖なる光よ、我が剣に集え…」
 俺は走りながら、剣に力を集める。ブロンズソードが徐々に光を帯び始める。竜帝が放
ってくるブレスを避けながら疾走する。
「デュランしゃあぁんっ!」
「呼び寄せられし、大いなる光よ…」
 ブロンスソードの光はさらに強くなってくる。折れたブロンズソードでは俺の必殺技も
それ程の威力を発揮する事ができない。だが、至近距離でならば…!
「デュラン! ダメだ、止まれ!」
「込められたる力を解放し、邪悪なるものを打ち砕け!」
 竜帝の喉の奥までもが見えるくらいに、ヤツの口が迫って来る。今だ! ブロンズソー
ドを突き出し、竜帝の口の奥へと突っ込んで行く。ヤツは俺をかみ砕くつもりなのか、上
顎を素早く閉じる。だが…もう遅いっっ!
「デュラン! やめてえぇぇぇーっ!!」
 くらいやがれっ! 
「閃光剣っっ!」
 ブロンズソードが目映く光り輝いた。俺の目の前は、すさまじい光で何も見えなくなっ
た。

 ズドガンッッッッ!!!!

 竜帝の頭が閃光ごと爆発した。




                                                             to be continued...