「しっかし、さすがドラゴンズホールだな! ドラゴンばっかりだぜ!」
 ホークアイがボヤくのも無理はない。それっくらいここはドラゴンのオンパレードだっ
た。
 もう、どれくらいの敵を倒したか…。時間もどれくらい過ぎたのかわからない。途中、
もちろん休んだりしたが、今が何時で、入ってからどれくらいの時間が経ったのかもサッ
パリ。でも、ケヴィンが獣人に変身できた所を見ると、どうやら今は夜のようではある。
 ドラゴンズホールはやたら広く、トラップも多くて、イヤになっちまう。そんな、もの
すごく時間が経ってるワケじゃあないんだけど、もう一週間くらいもいるような気分だ。
 いつのまにやら、ごつごつした岩肌ではなく、ちゃんとした建物の造りの所に来た。わ
りと、豪華な造りで、だだっ広い感じの宮殿内といったところだろうか。
「……なんだろうな、ここは?」
「さあ…。あ、こっちに扉があるわよ」
 アンジェラが指し示す方に確かに立派な両開きの扉がある。そこに入る以外に道はない。
「おい、ホークアイ。罠がねえか見てくれよ」
「OK」
 ホークアイはやや慎重にノブをカチャカチャ言わせていたが、小さくフムとうなずいて、
懐からなにかの道具を取り出した。
 どうやら何か罠があったらしい。しばらく道具を使って何かやっていたが、それが終わ
ったらしく、道具をしまうと、ガチャリとドアを開けた。
「開いたぜ。行こう」
 ホークアイ先頭に、中に入る。そこは、屋上のような広間で、高い壁の向こうにはドラ
ゴンズホール内と同じ景観が広がっている。そして、その広間の中央にはあの紅蓮の魔導
師と、その隣に顔にまでもウロコに覆われたガッシリした中年がいた。
「紅蓮の魔導師!」
 俺は腰の剣を抜いて駆け出した。
「デュラン…。まさか本当にここまで来るとはな…」
「黒耀の騎士はやられたようだな…」
「うるせぇ! さては貴様が竜帝か?」
「いかにも…。おまえらが神獣を倒してくれたおかげで、わしは超神になる事ができる。
神獣すべてのパワーがマナの剣を通じてわしに流れ込んできている…。そろそろ終わるな
…。さて…」
 と、竜帝が取り出したのは一振りの見事な剣…。その剣は!
「マナの剣! どうするつもりよっ!?」
 フェアリーが俺から飛び出した。
「ふふ…。知りたいか? まぁ、見てるがよい…。……はぁぁっ!」
 ドバチィッ!
 黒い稲妻がマナの剣に炸裂した。その時、マナの剣にヒビが入ったのを俺は見た。
 まさかっ!?
 ビキイィィィンッッ!
 マ、マナの剣が……。そんな…。
 しかし、マナの剣は俺たちの目の前で粉々に砕け散ってしまった…。
「な、なんて事を…」
「くっはっはっはっ…。苦しいか? 苦しいであろう? マナをより所とする貴様にとっ
てはさぞ苦しかろう…。もうマナの剣など必要ない! 見るが良い! わしが超神へとト
ランスフォームする瞬間を! 絶望にうちふるえるが良い! がっはっはっはっ………
…? ゲハァっ!」
 いきなり、竜帝はひざをついて、ガクンと前かがみになった。
「りゅ、竜帝様!?」
「グハァはあっはあっ…。な、何の力だ…。何の力がわしの邪魔を…。…こ…これは、こ
の波動はマナの女神の力かっ! ぅおのれ、死に損ないめがぁ…」
 憎々しそうに宙ををにらみつけ、竜帝はうめく。
「クッ…。待っておれ。わしが今あやつの息の根を止めてやる! この世に神は二人もい
らぬ! 紅蓮の魔導師よ、おまえも後から来い。まずはそこのコワッパどもを始末するん
だ」
「御意。では…」
「うむ!」
 竜帝は鷹揚にうなずくと、ふわっと飛び立ってしまった。
「あっ! 待て!」
「貴様らの相手は、私だ」
 紅蓮の魔導師が俺らの前に立ちはだかった。
「紅蓮の…魔導師!」
 俺は、コイツを倒すために旅立った。コイツを、倒すためだけに。フォルセナの仲間を
殺し、陛下を侮辱した…。憎くて憎くてしょうがなかった。
 …今は、その時ほど憎んではいない…。アンジェラに、こいつの生い立ちを多少なりと
も聞いていたのもあるだろう。あの時、マナの剣に激しく拒否されながらも持とうとした、
こいつの異様な瞳も忘れられなかった。
 強さを求めるという事はどういう事なのか。旅だった時も、今も、強さを求めるという
事に変わりはないけれど。本当の強さとは、どういうものなのか。旅を通して、ほんの少
しわかってきたような気がする。ともかく、当初思っていたものとはだいぶ違うというの
だけは、わかった。
 だが、こいつと勝負したいのは、前も今も変わらない。もう一度、こいつと勝負したか
った。この紅蓮の魔導師と!
「勝負だっ! 紅蓮の魔導師!」
「良いだろう。闇の魔力の前に、貴様らがいかに無力であるか思い知るだろう」
 リースの槍の穂先が俺の視界に入った。俺は無言で左手をリースの前に出す。みんなに
は悪いが、どうしてもサシで勝負したい。
「…デュラン…?」
「一騎打ちでもやらかすつもりか、おめーは!? 剣と魔法のサシ勝負じゃ相性が悪すぎる
ぞ!」
 俺はそれには答えず、紅蓮の魔導師をにらみつける。
「愚かな…」
「どうとでも言え。つけておかなきゃならん勝負なら、フェアでやろうじゃねーか」
「フン。一人、死に急ぐか…」
 紅蓮の魔導師の手のひらに魔法の光が灯る。俺は剣をしっかり握りしめ、構えた。
 ………勝負!

「………して、……たまえ…エアブラスト!」
 ズバズバッ!
 風の刃が俺に向かってくる。クッ! 盾で…、防ぎきれんっ!
 ズバッ!
 ぐっ! いってー…。クソ…、あのやろう、あんなに連発で魔法をうってきやがって、
まともに近づけやしねぇ!
 なんとか近づいて、魔導師を幾度か切りつけ、だがまたヤツの魔法で後退するという状
況が続く。どれくらいその繰り返しが続いたか、あっちにも疲れが見え始めた。
「ハァ、ハァ、ハァ…、くっ!」
「ハァッ、ハァッ…、風よ……雷雲を呼び寄せ…ハァッ、かの者に裁きの…ハァッ雷を…
…」
 こっちもツライけど、あっちだってツライんだ。魔法をうってくる間隔が遅くなってい
る。
「サンダーストームッ!」
 ドガッシャーンッ!
「ウギャァッ!」
 雷が真面に俺に落ちた。全身がビリビリする! い、いてぇ…。
「ぐ、ぐふっ…」
 腹から何か、熱いものが込み上げる。手でぬぐうと…血…? ええい、クソったれが!
「デュラン! いい加減にしてくれよ!」
「デュラン! もう…、もうやめてよ!」
 向こうから、みんなの声が聞こえる。だが、振り向かなかった。コイツは、コイツだけ
は俺が倒す! 倒すんだ!
「邪魔…しないでくれ! コイツだけは、コイツだけはっ!」
 倒させてくれ!
 クッソー、負けて…たまるかよ! どうにかして、どうにかしてアイツに近づかなきゃ! 
あっちは体力がそんなにない。接近戦に持ち込めば、勝機はある!
「……観念したら…どうだ…?」
 肩で息をしながら、紅蓮の魔導師が俺に言う。その手には魔法の光りが灯っている。
「うるせぇ…。てめぇだって、だいぶ息があがってんじゃねぇか…」
「フン…! …なら、死ね! ……エクスプロード!」
 ヤツが言葉を放つと同時に、俺の周りの空気が急に熱くなった。
 ヤバイ!
 俺はとっさに横に飛び、盾でかまえた。
 ズドズドンッ!
 俺のいた辺りが派手に爆発した。直撃はさけられたものの、爆風や熱、粉塵などが容赦
なく俺に襲いかかる。
 …ちくしょ、負け…られない…、負けられねぇんだよ!
 ……ん…? これは…。
 俺は、辺りが煙でいっぱいになっている事に気づいた。しめた! これならヤツはどこ
に俺がいるかわからんハズだ!
 爆発によって生じた煙の中、俺は全速力で魔導師へと突っ走った。ヤツの呪文詠唱によ
って生じる力が目印になる。
 紅蓮の魔導師……、いたっ!
 剣を大きく振りかぶって紅蓮の魔導師にきりかかった。ヤツは、こちらに…今…気づい
た!
「な、なにっ!?…」
 紅蓮の魔導師の信じられないという顔が近づく。くらえぃっ!
「でやぁっ!」
 ごっ!
 俺は、ヤツの脇腹を剣の峰で思い切り打ち付けた。
「グアァーッ!」
 吹っ飛ばされ、魔導師は広間を取り囲む壁に激しく叩きつけられた。
 ドンッ!
「っくっ…。か…」
 ヤツは、ずるずると血を流しながら壁からずり落ち、しりもちをつくと、もう動かなく
なった。勝負は…、ついた……。
「ックハァッハアッハァッ!」
 もちろん、俺の方もノーダメージというわけにはいかなかった。激しい痛みとめまいで、
思わず跪く。やっぱりヤツの魔法がこたえている。頭が…、クラクラする…。
「デュラン!」
 アンジェラがすぐに駆け寄ってきた。そして、俺をのぞき込む。た、立たなきゃ…。俺
は…、まだ…、大丈夫…。
 剣を床に突き立て、なんとか立ち上がる。うくっ…。頭が…。
「あ、デュラン!」
「だ、大丈夫、大丈夫だ……」
 立ちくらみを起こす俺を支え、アンジェラが泣きながら怒鳴った。俺の周りにわらわら
とみんなが集まってくる。
「ウソよ! そんなボロボロになるまでこんなバカなマネして! どれだけ私らに心配か
けりゃ気が済むのよ!?」
 アンジェラ…。
「デュラン! もう無理しちゃダメだ!」
「そうだよ。一体、何のための俺たちなんだよ。一騎打ちなんかしやがって」
「もっと…、もっと自分を大切にして下さい!」
「そうでち! もうシャルロット、こんなボロボロなデュランしゃん見たくないでち…」
 ………みんな…怒ってた…。……泣きそうな顔で…。
「……みんな……。……ゴメン……」
 いきなり、フゥッと気が遠のいた。
「わーっ!? シャ、シャルロット魔法、魔法!」
「あわわ、デュランしゃん、死んじゃダメでち!」


                                                             to be continued...