パロで色々買い物してから港へ。バイゼル行きの定期船に乗らなきゃな。
 港には船が一つだけ着いていた。パロの人も見慣れないというが、いつものバイゼル行
きじゃないかと言う。まあ、土地の人もそう言ってるし、それしか船がなかったから、俺
らはそれに乗る事にした。
「何人でもタダだ…。乗っていきな…」
 ……なんて怪しい船員なんだ…。血の気がないぞ、血の気が。
「ちょっとぉ、怪しいんじゃない、この船!?」
 アンジェラが小声で言いながら、チラッとその船員を見る。
「でも、タダだってんだし…、ここは一つ、怪しくても我慢するとゆーことで…」
 パーティの財政管理を請け負うホークアイは節約を願っているようだ。
「気持ち悪すぎじゃないのよ、アレ!」
「文句言うなよ。おまえ文句多すぎだぞ!」
「なんですって!」
「あーもう、今はそこらへんにしてくれよ…」
 俺らのケンカが始まりそうになると、ホークアイがうんざりしたように額に手をあてた。
「だけどさぁ、こんっな怪しい船、信用できるの? タダだなんて、余計に怪しいじゃな
いの」
「…そう…だよなぁ…。タダは嬉しいけど、やっぱ次の定期船にするか…」
 ホークアイは残念そうにため息をつく。その言葉に、俺はちょっと安心したりして。じ
ゃあ、この船は乗らないようにしようと言おうと思った時、あちらの方で聞き慣れた声が
した。
「おーい、みんなぁ、早く行こうよー!」
 そこには、すでに船に乗ってしまっていたケヴィンが手を振っていた。
「ちょ、おいケヴィン!」
「あ、あれなんだろう?」
「こらケヴィン、戻ってこい!」
 ケヴィンに声は届かなかったようで、彼は船の奥に。俺たちは顔を見合わせた。

 結局、この船に乗る事になった。
 俺らは、船室の奥の部屋をあてがわれた。けど、おかしい事に他に客がいない。
「…なんか、この船、おかしくありません?」
 リースが怪訝そうな顔して言う。
「確かにな…。船員もあれっきりいなくなっちまうし、俺らの他に客らしい客もいねえし
…」
 ホークアイもうんうんうなずく。
「やっぱり、怪しいわよ、この船!」
「…だけど、もう乗っちまったしなー…」
 どうしようもねぇよ。
「んなことより、ごはんがでませんでち!」
 プウとむくれて、シャッロットが腰に手をおいた。
「他の客も船員もみねぇしなー…」
 まったくもって、怪しいとしか言いようがない。
「バイゼルにつくまで待つしかないですね。ここでこんなこと言ったって始まりませんし
…」
 それもそのとおり。結局、俺らは寝て待つ事にした。まぁ、ちょうどよかったんだけど
な。俺、昨日(今日とも言う)寝たの深夜だったから、ちょっと寝不足だったんだよ。
 それから、寝たんだけどさ。もうバイゼルに着いても良いハズなのに、未だ着かない。
もうだいぶ寝たつもりだから、かなり時間経ってるだろうし…。
「おっかしいな…。もうバイゼルに着いても良いころじゃねえか?」
「んだな…」
 ホークアイが、何かの仕掛けを作っているのか、なにやらナイフで削りながら答える。
コイツ本当に手先器用だな。
「オイラ、船酔いした…。うゲー…」
「吐くなよ。頼むから」
 もうたっぷり寝たし、俺もやる事なくて、剣を磨く事にした。それからすぐ…。
「キャーッッッッ!」
 耳をつんざく女の悲鳴がどっからかした。
「な、なんだ!?」
 ケヴィンもガバッと起き上がって、キョロキョロ周囲を見回した。
「アンジェラたちか?」
 俺らが顔を見合わせて、それぞれの武器を手に女たちの部屋へ駆けつけようとした途端、
バタンッと目の前の扉がひらいて、アンジェラとシャルロットが転がるようにはいってき
た。
「な、な、なによ、なによ今の!?」
「気持ち悪いでちぃーっっ!」
「今の悲鳴、おまえらのじゃないのか?」
 そう聞くと、二人はぶんぶん首を横にふった。
「今の、一体なんですか?」
 リースも、入り口で、心配そうに外を眺めている。
「……この船、やっぱなんかおかしいぜ。何が出るかわからん。一応武装して調べてみよ
うぜ」
「わかった。ホラ、おまえらもさ」
「う、うん…」
「ううううううう」
 不安そうなアンジェラと、今にも泣きそうなシャルロット。
 五分後、俺らはそれぞれ武装して部屋の前に集まった。
「んじゃあ、あっちから調べてみる…」
 ホークアイが言いかけると…。
 ガッシャーンッッ!
 どこからか、派手にガラスが割れる音がする。
「どどどどどうなってるんでちか!?」
 俺の腰あたりに力いっぱい抱き着いて、ほとんど半泣きしているシャルロット。
「…もしかしてさー、これがあの幽霊船ってヤツか?」
「…………………」
 ホークアイの言った事に全員が言葉を失った。
「…マジかよおい!?」
「やだーっ!」
「だから乗るのイヤだって言ったのにーっ!」
 なんてやってると、またどこからか、切り裂くような女の悲鳴。
「ウヒーッッ!」
「いててっ、シャルロット! 爪を立てるな!」
 大騒ぎしていると、フワリとフェアリーが俺からでてきた。
「フェアリー!」
「…あのね、ここに精霊の波動を感じるのよ……」
「…って事は、ここに精霊がいるって言うのか?」
「…わからない…、でもすごく弱ってるみたいで、波動がなんとなく薄いのよね…」
「…んー…。んじゃまあ、とにかく散策してみようぜ。精霊を見つけられたらラッキーだ
しさ」
「え!? 散策って、ここを散策するんでちか!?」
「そうだよ…」
「ねえ! 何か来るよ!」
 と、フェアリーが指さした先。そこにはゾンビやらグールやらなんやら…。アンデット
モンスターが、うじゃらうじゃらこっちにやって来たのだ。
「もういやもういやもういやーっっ!」
「うおおっ!? シャルロット! んなめちゃくちゃにフレイルを振り回すな!」
「いてぇっ!」
「キャーッ!」
 いやはや。シャルロットが混乱しちゃって大変だった。仕方なく、ケヴィンにおんぶさ
せて、俺らだけで散策する事になった。
「光の精霊よ、汝の聖なる力、悪しきものを打ち砕くとて、その力を以って破壊せよ、ホ
ーリーボールッ!」
 呪文が唱え終わると、いくつもの光の玉がゾンビ達に炸裂する。……よしっ、全滅!
 とにかくアンジェラの魔法が効くヤツらでね。俺らも奮戦してたけど、やっぱアンジェ
ラの魔法が一番だった。
「ここは? どんな部屋だ?」
 ある部屋に入った時の事。ここは、ゾンビとかもいなくて、いやに静かな部屋だった。
「なんか、不思議な部屋だな…」
 みんなで部屋の中を物色してると、俺は机の上の航海日誌を見つけた。
「ん? なんだこりゃ?」
 パラリとめくって驚いたのなんのって! だってページいっぱいどこ見ても『死』とい
う字が所狭しと並んでるんだぜ!?
「うわっ! 気持ちワリィ!」
 思わず航海日誌を投げ出す。
 その時だった。
「どーも…。こんにちわー…」
 と、見知らぬ男が姿を現したのだった。ヒョロッとしててな、ひ弱そーで、なんか、気
持ち悪い感じの男だ。
「な、なんだよ、おめえ…」
「いやー…。わたし、バイゼルに住むマタローという者ですー…。念願かなってやっと幽
霊になる事ができました〜。もう十分満喫しましたんで、この感動をあたなにもー、さよ
ーならー」
 と、一方的に言い放ち、俺の肩に手をポン、と置いたとたん。急に寒気と、重さが肩に
ズシッとのしかかってきた。
「な、な、なんだ!?」
 思わずひざまずく。と、今度は急に体が軽くなった。
「…ん? なんだ、どしたんだ?」
「あ! あああああ! ちょ、デュラン! あんたの体、透けてるよ!」
 アンジェラが俺を指さしながら叫んだ。
「なんだってぇ!?」
 う、ウソだろ!? どんなに目をこすっても、俺の体は透けて見える…。ま、まさか、こ
んな事で死んじまったって言うのか!? そんな! それってねぇぞ!
「…どうやら、あの人に呪いを移されちゃったようね…」
 俺が一人でパニクってると、またフェアリーが出てきた。
「呪い?」
「うん。だれかに移せばあなたの呪いは解けるけど…」
 だれかに…。思わず、俺は仲間たち見る。その視線の意味を察したか、みんなはドタド
タと俺の側から離れ出した。
「あ、なんだよ!? てめぇら!」
「私たちのだれかに呪いを移そうと思ったんでしょ!? やあよ、私そんなの!」
 うっ…。シッカリ見抜かれている…。
「とにかく、ここになにか元凶があるはずだから、それを倒せばデュランもこの幽霊船も
どうにかなると思うよ」
「そっか…。じゃあ、あんたはそこで持ってて、私らがやって来てあげるからさ!」
 フェアリーの言葉を聞いてから、アンジェラが薄情な事を言い出した。
「ええ!? そりゃねえよ!」
「だって、やだもん、私。幽霊になるだなんて!」
「そーそー」
「シャルロット、お化けキライなんでち」
「オイラも好きじゃない」
「あの、辛抱して下さいね…。すぐに片付けてきますから…」
 なーんて薄情な事言って、ヤツらは行ってしまった…。
「っけーっ! 友達がいのねえやつら!」
 チェッ。この姿じゃ剣の手入れもできねえしよぉ…。はぁーあ…。俺もとんだ疫病神に
触られちまったもんだぜ…。
「ま、ため息ついたってしょうがないじゃない? あれでも、みんな腕は確かなんだし、
仲間を信用して待ってれば?」
 今度はフェアリーまでも皮肉を言い出す始末。
「……おまえも、言うことキッツイなぁ…」
「あはは。でも、みんなの腕が確かなのは、あなたもわかってるでしょ?」
「まーな…。みんな、なんだかんだ言ってけっこう強いし…」
「そうよ、すごい人達がパーティ組んでると思うよ。みんな、その道のプロじゃない」
「そうかぁ?」
「そうよ。アンジェラの攻撃魔法。あれで駆け出しなんて信じられないくらいに上達して
るし、シャルロットもそう。元々の素質がない限り、あれほどの上達は不可能だわ。ホー
クアイにしたって、彼のシーフ技能は目を見張るものがあるのよ。デュラン、知ってた?」
 キランッと飛んで、俺の透けた肩に乗るフェアリー。
「うーん…。まあ、なんとなくすごいんじゃないかなって程度かなー? 俺、シーフ技能
とかどれくらいなのかよくわかんねえから」
「んもー、デュランってば剣術以外は、ほんと、無関心ねー」
「まあ、その…」
「でも、本当によくこんな人たちばかり集まったなって思うわ。不思議なめぐり合わせよ
ね。…やっぱり、女神様はどこかで見守って下さってるんだと思うわ」
「そうか?」
「うん! だって、デュランを選んだ時は本当に切羽詰ってたから。あの後、不安になっ
たり、後悔したりしたんだもん。この人で本当に大丈夫なのかって」
 フェアリーの笑顔が俺を憮然とした顔にさせる。
「悪かったな…。でも、他に代えられねーんだろ?」
「うふふ。でも、それは今の話じゃないよ。前の話」
「本当か?」
「本当よ」
 俺の肩にいると話しにくいと思ったか、今度は座り込んでる俺の膝の上に乗ってきた。
…そういや、フェアリーと面と向かうってあんまりなかったな。頭ン中で話してる時は声
がするだけだし。
 他にやる事があるわけでもないし、ヒマだったからね。フェアリーとかなり話し込んだ。
こんなに話し込んだのは、初めてなんじゃないかな。いつもは、こいつと話してると、独
り言をつぶやく怪しいヤツになってしまうから、お互い、あまり話しかけないようにして
るけど。
 この時、フェアリーから色んな事を聞いた。
 聖域の事とか、このフェアリーの他に、あと三人フェアリーがいた事とか、みんな力つ
きちゃった事とか…、色々…。
 と、いきなり、ゴゥンという地響きがした。船らしからぬ揺れ方だ。
「ん?」
「あ、みんながやってくれたみたいよ! もう呪いは解けてる。行きましょう!」
 おお、本当だ! 俺の体がちゃんとあるわ。
 急いで、船の甲板に出ると、みんなが疲れた顔して、俺を出迎えた。
「みんな、なんか疲れた顔してんな…」
 俺がそう言うと、アンジェラが一番にムッときたみたいで、疲れてるくせに俺に怒鳴り
かかった。
「当たり前でしょっ! ゾンビやらグールやらスペクターやら…気色悪いアンデットの次
は、出たり消えたりのヘンな幽霊の親玉と戦うわやってたんだからっ!」
「へー、大変だったんだなー」
「あんた、他人事ね…」
「だって、俺今まで幽霊やってたんだもん、しゃーねーだろ?」
「……………」
 アンジェラはブスったれた顔をして、俺を睨みつけていた。
「まあまあ…。ケンカもそこらへんにしてくれよ。シェイドっつう闇の精霊が現れたんだ
からよぉ…」
 ホークアイはさらに疲れた顔をして、顎で闇にまぎれて浮いてる目玉を指した。
 目玉? いや違う。闇にまぎれて見えにくいが、コウモリみたいな羽をパタパタさせて
浮いているんだ。
「あ、シェイドさん! こんな所にいたのね! でも、あなたがここにいるという事は、
闇のマナストーンもこの船の中に?」
「…いや…、闇のマナストーンは失われし石。もはや現世には存在しないだろう…」
 随分と鷹揚な口調の精霊だよなー。今まで見た事のある精霊っての、みんな軽い口調の
ヤツばっかだったから、妙に浮いた存在にも思える。
「…え…?」
「かつて世界大戦がおこり、古の神獣以来、世界が二度目の危機を迎えた時に、闇の力が
増大し、闇のマナストーンだけ、封印が解けてしまったのだ」
「え!? じゃあ、闇の神獣が!?」
「いかにも…。大昔、人間たちは古代魔法と呼ばれる呪法によって、マナストーンのエネ
ルギーを平和に使っていたのだが、その絶大なるエネルギーのため、やがて人々は奪い合
うようになった…。闇の魔物たちはここにつけ込み、世界を戦乱のうずへと巻き込んでい
ったのだ…」
「あ、それ聞いた事あるでち! おじいちゃん、シャルロットが眠る時よく話してくれた
でち! こむずかしいんで、よく眠れるんでちよ、これがまた!」
 てめーにとっちゃあ良い子守歌かい…。ま、いいや…。シャルロットだもんな…。
「…そしてついに、闇のマナストーンの封印が解け、神獣と闇の魔物たちにより、世界は
滅亡寸前にまで荒廃した…。それ以来、マナストーンは失われ、すみかをなくした我が魂
はこうしてさ迷える幽霊船となり、長い?時?を航海してきたのだ…」
「……その後、闇の神獣はどうなったの? 滅亡寸前で回避できたのはなぜ?」
 疲れたのか、フェアリーは俺の肩に腰掛ける。
「…わからない…。なぜか、忽然と闇の神獣は魔物たちとともに消えてしまったのだ…」
「そう…」
「それから長い年月が過ぎ、世界はよみがえった…。しかし、闇の神獣は消えたわけでは
ない…。おそらく、この世界とはまた別の世界で、再びマナストーンに姿を変え、この世
界のどこかに影を落としている事だろう…」
「…だとすると、人間たちにはマナを減少させる方法がないのにこんなにもマナが少なく
なってしまったのには、闇のマナストーンが関与している可能性があるわね…」
 フェアリーは考え込むように爪を軽くかむ。
「……でも、どうして……」
 ズ…、ゴゴゴゴゴ!
「な、なんだ!?」
 船で縦揺れっておかしいんじゃねぇか!?
「魂が解放されたので、この船も消えてしまうようだ…」
「なにーっっ!?」
 みんなハモって叫んで、シェイドを見た。
「ちょ、この船が消えるって…」
「冗談じゃないわよ! この海の真っ只中にほうり出されちゃうんじゃないっ!」
「ど、どうにかなんねーのか!?」
「え、え、えっと…、ジンにこの船ごと吹き飛ばしてもらえば何とかなるかも!?」
 リースがそう叫んだ。後から考えればやたら無謀な考えだったが、その時はものすごい
名案に聞こえた。
「そ、そうだな! お、おいジン! 頼む!」
「は、はいダスッ!」
 急に呼び出されて、ジンは慌てて手足をバタバタさせた。
「お、思いっきりね!」
「ヤァーダァー! もう消えかかってる!」
 アンジェラの悲鳴を契機に、ジンはものすごい風を巻き起こした。
 シュゴォォオォオオォオウウウッ!
「どわーっ!」
「キャーッ!」
「ひえーっ!」
 船も仲間もなにもかも。竜巻にも勝るとも劣らない凄まじいジンの風はすべてを吹き飛
ばした。


 気が付いたら、みんなどこかの砂浜に落ちていた。
「……う…、うーん……」
 なんか、ジャリジャリする……。みんなは、無事かな……?
「おーい…。みんな無事かぁ…?」
 見回すと、ちゃんと五人いる。向こうには、俺たちの荷物もあった。フウ。みんな一緒
みたいだな…。
「う、うう…」
「ペッペッ! 砂が口ん中入ったでち!」
「やーん、砂だらけぇ〜…」
「食い放題…」
 みんな好き勝手な事つぶやきながら、体を起こす。
「みんな気がついたか? ここは一体…」
 言いかけてズズズッと地響きがた。何事かと見上げると、火山灰をもくもくと噴き上げ
ている山が見えた。
「火山…って事は、ここは火山島ブッカ! 噴火が近いって聞いたけど、こんなトコに着
くなんて信じらんなーいっ!」
 アンジェラが悲鳴をあげる。本当にとんでもねえトコに着きやがったな!
「…しょ、しょうがねえよ…。ジンを責めるワケにもいかねーし…」
 一生懸命にやってくれたんだし…。
「それより、とにかくなにか脱出する手立てがねえか?」
「あるわけねえだろ。んなもん」
「………………」
 ホークアイがミもフタもない事を言う。
「…と、とにかく。なにか行動してみましょう。手掛かりみたいなものがあるかもしれま
せん。ここでジッとしてるよりはずっとずっとマシなハズです!」
 リースが良い事を言った。それもそうだ、とみんな納得して、とにかく島を歩き回る事
に。
 ちょっと東に行った時だったかな。なんかスゲェバカでけーカメなんだか、ペンギンな
んだか、ようわからん生物が徘徊していた。
「な、なんだありゃ!?」
「さあ…」
 もちろん、だれも答えられなかった。
 それからまたブッカをうろうろしていると、ここの原住民のダークプリーストの村に出
た。
 彼らダークプリーストの話を聞くと、海のヌシというバカでけーヤツがいるそうで、ヤ
ツに頼んだら助けてくれるかも、というハナシ。
 さっきのワケわかんねえ生物がそのヌシなんじゃないかってホークアイが言ってたけど、
確証はなかった。
 この村から西に行った洞窟の奥深くに、そのヌシがいるそうだ。とにかく、ここでジッ
としていられるワケがない。
 俺らはここに住むダークプリーストらみたいに、自然に身を任せるだのなんだのって言
う程の余裕はない。やれるだけやってみなきゃあ、ね。
 んで、その洞窟ってのがまー、長いの長くないのって…。噴火が近いから、のんびり行
くワケにも行かず、とにかく突っ走り続ける!
 徹夜して、洞窟の奥を目指す。モンスターを次々と蹴散らして進む。ケヴィンやリース
も一緒に蹴散らしてくれたんで、かなり助かった。
 気になるのは、さっきから地震が何度も繰り返されている事だ。とっととヌシというヤ
ツを見つけないと、冗談抜きで噴火が始まってしまう。
 噴火が近いせいなのか、洞窟内の温度も高い。
 もう、外は夜明けなんじゃないか…。みんな目の下にクマつくって、殺気立った様子で
とにかく洞窟の奥に着く事ができた。そこは今までの廊下のような作りではなく、開けた
空間で、天井も広い。ただ、地面は狭く、すぐそこの崖下には海があった。確かに、海の
ヌシというヤツが、そこからひょっこり顔でも出しそうな雰囲気だ。
 ところが、そこにいるのは海のヌシからぬヤツだった。真っ黒いマントを着て、銀髪に、
目がランランと赤く光る不気味な男だった。
「う、海のヌシか…!?」
 ケヴィンが怪訝そうな顔してこの男を見た。熱さと疲れからなのか、相当目付き悪い。
「違うんじゃないか…? 海って感じしないだろ、コイツ…」
「あんたしゃんが海のヌシでちか? それでちゃんと泳げるんでちか?」
 シャルロットがそう聞くと、コイツの顔が引きつった。
「あっ!」
 一番最後にやって来たリースが、コイツを見るなり叫んだ。知り合い…か…な?
「赤い目の男…! バイゼルの奴隷商人が言っていたのはあなたね! エリオットを…弟
をどこにやったの!?」
 俺たちと出会う前に、リースも色々情報を集めていたらしい。
「…ほう、ではおまえはローラントの王女か…。…おまえの弟は我々が預かっているよ」
 リースの声に、赤い目の男は表情を変えた。
「エリオットを返して!」
「返せと言われて返せるものではない。それに、ヤツの体を、黒の貴公子様が必要として
いるのでな…」
「なんですって…。…おまえは一体何者です!? 一体なんのために…」
「…私は邪眼の伯爵…。…黒の貴公子様の予言に従い、貴様たちを始末しに来た。予言に
よれば貴様たちは黒の貴公子様にとって邪魔な存在になり得るとの事なのでな…」
「なにいきなり出て来て勝手なこと言ってんのよ! 始末しにきたってんなら相手になっ
てやるわよ! かかってらっしゃいよ!」
 徹夜でイライラしてるんだろう。杖をかまえて、アンジェラがすごい目付きで怒鳴った。
「ふっ…。しかし、貴様らごときはこの私の相手ではないな…。黒の貴公子様も心配性な
…。…まぁ、私が手を下さなくとも、ここの噴火がもうすぐはじまる。噴火の餌食にでも
なるのだな…」
 完全に俺たちを見下している。ヤツは軽く鼻で笑って宙に浮かびあがった。
「誰なんだよ、その黒の貴公子ってのは!?」
 海のヌシでもねぇくせに、紛らわしい場所に出てきやがって!
「貴様らが知ってどうする…。知らなくても良い……」
「だったら、そんな名前出すんじゃねぇっ!」
 俺の声が届いたのか届かなかったのか。伯爵はスゥッと消えてしまった。その次ぎの瞬
間、揺れが一層ひどくなって、天井からバラバラと埃や土砂が振ってきた。こりゃ冗談ぬ
きにヤバイぞ!
 これから戻るにも入り口にたどりつくには時間がかかる。ま、間に合わねぇよ!
「やーん! とうとう噴火が始まってしまったのね!? あーん、もう! こんなところで
死にたくないよーっ!」
「俺だって死にたかねーよーっ!」
「うわひゃーんっ!」
「食い放題ぃーっっ!」
 ぎゃあぎゃあみんながわめいている時だった。あの、浜で見かけたワケわかんねえ、あ
のカメみたいなヤツがやって来たのだ!
 そして、なにやら手(?)をバタバタさせている。
「ん? な、なんだ?」
「なに!? 乗れって言ってるのか!?」
 ホークアイがそう言うと、カメは大きくうなずいて、背中を、つまり大きな甲羅を俺ら
に向けた。
「……………」
 ちょっと無言で顔を見合わせたけど、もう時間がない! あわててそのお子様ランチを
彷彿させる旗がささっている甲羅に飛び乗った。

                                                             to be continued...