それから、ジャドを経由して、パロに行く。早いとこ、ジンを仲間につけなきゃ。
 でも、定期船が出るまで日数があるので、ジャドにしばらくとどまって、買い物をする
事にした。みんなで使うようなものを買っておいて、あとはそれぞれ個人的な買い物に。
 俺達にはもちろん、それぞれに小遣いみたいなお金がある。うまくホークアイが分けて
くれるんで、最近はヤツに任せっぱなしだ。
 俺はシャルロットとケヴィンと一緒に行動していた。
「デュランしゃーん! あっちで興行やってまち〜。また肩車してくだしゃぁい!」
「わかったわかった」
「ホラーホラホラ! デュラン! ネズミつかまえたぞー!」
「わざわざ見せにこなくて良いってば!」
 ネコか、おまえは。
「早く〜! 肩車!」
「あ〜、はいはい!」
 どうでも良い事なのかもしれないが、この二人といると、子守してる気がしてならない
んだが…。
 んで、船にのってパロに戻る。
「まぁた、この山登るのぉー?」
 不平をブーブー言ってんのはもちろんアンジェラ。シャルロットだってベーッと舌をだ
して、嫌がっている。
「しょーがねーだろ。行くしかねぇんだから」
「んもう! なんでこんな高山に城なんか建てんのよ!」
「いーじゃねーかよ。どこに城建てようがあっちの勝手なんだから」
「あー、もう信じらんないっ!」
 などと不平をもらしながらも、ちゃんと俺らについてきている。ケヴィンと俺の二人で
先頭きってモンスターを蹴散らしてたから、あまり戦ってないはず。そんなに疲れてない
と思うけど。
「…風の回廊ってここか?」
 リースたちのいるアジトよりもさらに上。大きな洞窟がポッカリ穴を空けている。
「そうみたいね…」
「ふう…。んじゃ、行くぜ」
「おう!」
 コイツ、ホント元気だよなー。ケヴィンの体力ってあきれる程だ。さすがに俺も、そこ
までの元気はない。
 んでよ、この風の回廊の中、あのドン・ペリのジジイが言ってるように、風をブボーッ
と吹いている像があってさ、うまく前に進めねーの。ダイヤルによって向きが色々変わる
んだけど…。
 ホークアイとアンジェラがいなきゃ、困った事になっていたと思う。ダイヤルは見つけ
にくい所にあるし、風神像をうまく動かさないと奥に進めないし…。
 ダイヤルをどう動かせば、どんなふうに動くのか。ホークアイがマッピングしてる地図
を見ても、俺にはよくわからんかった。
 というわけで俺はほとんど何もしなかった。ホークアイとアンジェラが話し合いながら、
ダイヤルを見つけ、風神像を動かしていく。俺は襲いかかってくるモンスターを蹴散らし
てただけだった。
「ねぇ、これ、あんたはどう思う?」
 ホークアイがつけてる地図から顔をあげて、アンジェラが俺を見る。
「わかんねぇ」
「なによ、見もしないで言わないでよ」
「見ても聞いてもわかんねぇからわかんねぇ」
「ったく、バカね、あんた!」
「んだとぅ!?」
「ほらほら、不毛な論争してもはじまんねーから」
 確かに、俺は頭よくねーよ。畜生。だからって、すぐに馬鹿馬鹿言わなくてもいいのに
よー。
 アンジェラの馬鹿扱いにもメゲず、俺たちは風のマナストーンを目指して歩く。
「しっかし、スゲエとこだぜ。見ろよ、海が遥か下だ」
「水平線でちねーっ」
「すいへーせんってナニ?」
 ホークアイたちは遥か下に広がる海をのんびり眺めている。さすがに、戦闘しながらこ
んな山を登ったりするのはいつもの倍疲れるから、ちょうど、みんなで休んでいるのだ。
 今は夕方で、夕陽が海に沈んで行くのが見える。
「ふうぅ…。今日も野宿かー…」
 アンジェラがうんざりした顔で嘆く。
「しょうがねえだろ。こんなトコに宿屋もなにもねえからな」
 パロから、ローラントまでの道程を天かける道というのだが、そこにはいくつか宿屋や
茶屋があったんだけど、さすがに風の回廊辺りにはそんなものはない。
 俺たちは、さっさと夕飯の準備を始める。どうでもいいけど、ここって風が強くてなー。
こーいう岩陰なんかじゃないと、火が消えやすくてなー…。
「ねえ、デュラン」
「あん?」
「あんたってさ、そーいう料理とか、どこで覚えたの?」
 俺は、少しだけだけど、簡単な料理くらいは作れる。別に、そんなに興味もないから、
色々バリエーションとかを考える気にはならんけどね。
「おばさんに手伝わされてるウチに、な…」
「フーン…」
「ま、こんなの、料理に入るかどうかも疑問だけどな」
 なにせ、ナベにありきたりのモンぶちまけて、軽く調味料などをいれるだけ。もちろん、
闇鍋みたいにならないよう、材料は選ぶケドさ。時間かけて煮込めばけっこういい味だし
てくれる。
 今日はジャンケンに負けて、俺が料理作るハメになったのだ。なにせ、料理作れるのが
俺とホークアイしかいないってんだから、情けない。しかも、俺らだってそんな上手って
ワケでもねーからな。
「ゲホッゲッ!」
 それにしても、煙がこっちに来てつれぇぜ! ホークアイのヤツ、かまど作りと野菜切
りしか手伝ってくんねぇし…、他のヤツらは役にたたんし…。ったくもー!
 グツグツ煮立った雑炊を椀につぎ、みんなに渡す。
「あちーっ、あちーっ!」
 熱がっているのはシャルロット。はふはふ言ってただ闇雲に食ってんのがケヴィン。
「今日のは美味いな」
「そーでちねー。おいしーでち」
「本当、美味しい。見かけは悪いけど…」
「うるせー」
 確かに、今日のは美味くできた。この反応はちょっと嬉しい。
「さて、これからだけど、あとどれくらいでマナストーンなんだろ?」
 食べ終わり、みんななんとなくまったりした気分の時。ホークアイが口を開いた。
(マナの力がだんだん強くなってるから、近いわよ。ジンもその近くにいるはず)
 俺の頭の中で声がする。もう慣れたけど、最初の時はビックリしたよなぁ。
「フェアリーが言うには近いらしいぜ」
「そっか…。風神像ももうないみたいだし、あとは進むだけか」
 今日もみんな疲れてたから、すぐに寝た。幸い、ケヴィンが見張りをかってでてくれ、
俺も安心して眠る事ができた。


 俺らがマナストーンの所に着いたのはちょうど昼頃。
 ちょっとした洞窟があって、その中に入る。
「あ、あの石…」
 ケヴィンの声に、俺は目を見張った。
 俺の背丈なんかより倍以上もある大きな石。
 なんだろう…。すごく、不思議な感覚だ…。なんて言って良いかわかんねぇけど、そん
な不思議な力を感じる。…この力が、マナなのかな……。
 この洞窟内の不思議な空気。この石のせいなのか…。
「…これがマナストーン…。わたしも見るのは初めてだわ…」
 フェアリーはふよふよとマナストーンの辺りを飛びながら、しげしげと見つめる。
「不思議な石だな……」
「…ここから、神獣がよみがえり、世界が滅んで、また暗黒の世界に戻ってしまうのかし
ら…」
 なんて、いきなり物騒な事言い始めた。
「お、おいおい、物騒な事言うなよ!」
「あ、ごめん…。そうならないように頑張ってるんだもんね…」
「なあ、ところで、クラスチェンジっていうの、もうできるか?」
 そうなのだ。俺はそのために旅に出たのだ。司祭のじいさんはマナストーンの前でクラ
スチェンジができると言っていた。それをすれば、強くなれる。今まで以上に。あれから、
けっこう経験を積んだ。……はずだ…。
「やってみる? デュランがどれほど経験つんだか、よくわからないけど…」
「やるだけやってみる。どうやるんだ?」
「マナストーンの前に立って。ゆっくり目を閉じて。心を穏やかに、精神を集中させて。
いくわよ。…………、…………」
 俺はフェアリーの言われるままにして、深呼吸をする。
 フェアリーの呪文とともに、まわりの空気がビリビリしてきた。
「!」
 突然、言いようもない圧迫感が降ってくる! な、なんだこりゃ…!?
「…うっ…ぐぅっ………わぁっ!」
 俺は、思わず跪いた。
「! だ、大丈夫!? ……やっぱり…まだ無理みたいね…」
 フェアリーが呪文をやめると同時に、フッと身が軽くなる。
「ま、まだ無理って、そんな…」
「クラスチェンジは危険なのよ! 無理したら、耐え切れなくなって歩けなくなるかもし
れないんだから!」
「で、でも…」
「焦らないで! マナストーンはこれだけじゃないんだから!」
 フェアリーの真剣な様子に、俺は口をつぐんだ。
 あーあ…。くっそう!
「大丈夫。今のデュランならもう少しでクラスチェンジできそうよ。でも、焦りは禁物。
無理はしちゃダメ」
「……うん…」
 俺が一人で悔しがってると、ケヴィンがいきなりはいつくばって、怒鳴った。
「ここになんか新しい足跡あるよ!?」
「え? 本当か?」
 見ると確かに何か足跡がある。でも、それが新しいかどうかは、俺にはよくわからなか
った。
「フム…。確かに新しいな、コリャ。俺らがくる直前までいたみたいだぜ?」
 ホークアイは足跡を調べ、すぐにわかったようだ。戦闘以外はホークアイが一番役に立
つよなぁ。
「ええ? でも、俺らの前に人がいるような雰囲気なかったじゃん」
「なんにせよ、ここを通った人間がいるんだ。行ってみようぜ」
「んだな」
 で、五人でぞろぞろ足跡をたどると、やがて洞窟も抜けて、広々とした場所に出る。ふ
と、広場の真ん中に真っ黒い鎧カブトで身を固めた騎士が一人いるのに気づいた。
「あ、あれはジンだよ! ジン!」
 フェアリーは突如俺から飛び出した。黒い騎士の前にいるぷよぷよ太った体に大きな耳。
あれが、風の精霊ジンか?
 そのジンは、真っ黒い騎士によって、襲われようとしていた。やべぇ!
「おい、待てよ!」
 俺たちは、それぞれ武器をかまえて、黒い騎士の前までくる。
「……………」
 騎士は無言で、俺らを見つめていた。しばらくするとフッと消えてしまった。
 …なんだったんだ? アイツは…。
「ジン? ジン! 大丈夫?」
「………ウゥぅぅ…」
「しっかりして!」
 フェアリーはなにやら回復魔法をかけたようで、ジンの体に白い光をふりかける。その
おかげで、ジンはすぐに元気を取り戻した。
「…ふ、ふぃー…、た、助かったダスー」
「なんだったんだ? アイツ?」
「わかりません、ダスー…。いきなりやってきて、オイラに呪いをかけようとしたダスー
…。幸い、あんさんたちがすぐに来てくれて…。ところで、みなさん、どうしたんダスか?」
「…実はね……」
 理由を話す事三分間。後ろでケヴィンはあくびをしている。いや、いいんだけどさ、別
に…。
「…事情はわかったダス…。もちろん、協力させていただくダス。よろしくダス」
 ダスダスちょっと耳にうるさい。でも、なんか愛嬌あるからいいか。
「それにしても、あの黒い騎士、なんだったんでちかねぇ…?」
「さあ…。わからない…。でも、なんだか邪悪な気配がしたよ…。あの人も、マナストー
ンの封印を解こうとしているのかしら…?」
 不安そうにフェアリーはあの黒い騎士が消えた辺りを見る。
 なんとなく、この場の空気が重くなった。その空気をはらうように、ホークアイが明る
い声で言った。
「まあ、ともかくさ。リースんトコのアジトに戻ろうぜ」
「リース?」
「ん? ああ…。ケヴィンにはまだ教えてなかったっけ。ま、いいや。その時になったら
紹介するからさ」
「わかった」


 バストゥーク山を降りる事およそ数日。やっっっっと、リースの待つアジトまでたどり
着く事ができた。
 よくよく考えると、俺たちの目的はジンを仲間にすることだから、リースたちに付き合
う必要はもうないんだけどね。でも、手伝うって約束したし、ここまでかかわっておいて
手伝わないなんて、道理じゃないし。
「あ、みなさん。お帰りなさい! どうでしたか?」
 リースは、あの可愛い笑顔で俺らを出迎えてくれた。
「ああ。ドン・ペリのジジイからうまい方法も聞いてきたし、風の精霊ジンも仲間にいれ
たし、準備は万端だぜ」
「それで? どうすればよいのです?」
「えっと…」
 早速その方法を説明する。この作戦に眠りの花粉の免疫は絶対に必要だから、ローラン
トに攻め込む連中はみんなで眠りの花畑へ。案の定、ケヴィンはばったりと倒れ、眠り込
んだが、俺たちはもう大丈夫みたいだった。
 リースのアジトで一泊して作戦の最終打ち合わせを行う。そして、いざ、作戦決行。
「ジン!」
「はいダスー。この花粉をローラント城まで運べば良いんダスね? 高さから、大体三〇
分くらいかかると思うダス」
「じゃあ、三日後の夕方に、頼むな」
「はいダス。役目を終えたら、ご主人様の所に戻るダス。あんまり宿主を離れてるのは不
安ダス…」
「わかった」
 俺は苦笑してうなずいた。ローラント城までおよそ二日と半日はかかる。アマゾネスの
使う近道を使えばそれくらいで着けるらしい。
 打ち合わせで、三日後の夕方に乗り込む事に。時間をあわせ、ジンには乗り込む直前に
眠りの花粉を送り込んでもらう。
「さあ! 行きましょう!」
 そして、リース先頭に、ローラント城へと向かったのだ。
「ったくもーう。一体何回上り下りしなきゃいけないのよ、この山!」
「文句言うなよ」
「文句の一つや二つ言いたくもなるわよ。もー…」
 アマゾネスの使う近道はわかりにくい場所にあって、地元の人間でないと知りようもな
い道だ。けっこう人数いるけど、この道なら、確かに気づかれにくい。
 ローラント城近くには少し早めについたので、少し休む事に。けど、これからの事を考
えるとだれもリラックスなんかできないようで、アマゾネス達は緊張を隠せないようだっ
た。
 やがて、約束の時間がきた。ジンは打ち合わせ通りの時刻に花粉を飛ばしてくれ、花び
らとともに大量の花粉が強風とともにローラント城に舞い込むのが見えた。
 眠りの花粉がどこまで効いているかわからない以上、寝ずに起きているヤツらもいるだ
ろうとの事。もっとも、正気がないのだから、仲間と助け合うなんつう事もないみたいな
んで、大丈夫だろうってさ。
 リースはそれを確かめ、槍をぎゅっと握りしめ、アマゾネス達を見回す。そして、深呼
吸を一つ。
「…アマゾネス軍、全軍突撃! みんな、行くわよ!」
「おおーっ!」
 リースの声に、アマゾネス軍はときの声をあげた。俺は、戦争のあの独特の緊張感を思
い出す。
「では、みなさんも気をつけてください。私は先に行っています!」
 リースは俺たちにそう声をかけると、先頭きってローラント城に走りだす。
「我々もリース様に続けぇーっ!」
 アマゾネスたちが次々と中に入って行く。俺達とアマゾネス達は基本的に別行動。やる
事に、さしてかわりないはないのだが。俺たちが参戦する事にリースはやっぱりまだ渋り
を見せていたし。
「さて、俺らも行くか!」
「おう!」
「おうでち!」
 仲間を引き連れて、俺らは城内へと。城内は眠りの花粉によって、至る所にニンジャた
ちがバタバタ倒れていて、アマゾネスたちに捕らえられていた。
「…………」
 ホークアイは厳しい顔付きで、そのニンジャたちを見ていた。きっと知り合いとか、け
っこういるんだろうな。ホークアイは何も言わないけど、あいつはあいつでショック受け
てるみたいだ。
 ふと、アマゾネスが一人、ニンジャと戦っている。アマゾネスの槍もニンジャの素早い
動きに翻弄されて、いいようになぶられている。
「俺が相手だ!」
 前に出て、ニンジャに切り込む。やはり、ニンジャだけあって動きが素早いが、翻弄は
されないっ! 動きを読んで………、そこだっ!
 ドシュッ!
「うぐぁっ…!」
 血しぶきが飛ぶ。ガックと膝をつくニンジャ。
「デュラン! た、たのむ! 峰打ちにしてくれ! 頼む!」
 やはり仲間がやられる所は見るに忍びなかったか、ホークアイが叫ぶ。
「ホークアイ…。…わかった。俺もどれだけ手加減できるかちょっとわからんが、やれる
だけやってみる。ケヴィン、おまえも殺すまではしないでくれ」
「わかった!」
「大丈夫でちか?」
 シャルロットがなぶられていたアマゾネスに駆け寄る。
「わ、私は大丈夫…。それより、リース様を…、リース様が…」
「リースが? 先に向かったのか?」
 ホークアイもアマゾネスに駆け寄った。
「…リース様を、お願いします…。天守閣に…。そこの右のドアから…」
「右の…。わかった。行こうぜ!」
 荷物という邪魔なものがない(城の前にいるアマゾネスに管理してもらってるのだ)の
で、ホークアイも存分に動き回れそうだ。ダガーを両手に装備して、俺らに怒鳴る。
 俺も、うなずいた。
 かのアマゾネスが言っていた右のドアをくぐって、階段を上ると…。
「ゲッ!? モンスター!? くっそーっ、イザベラが呼んだのか!?」
 ホークアイがうめくくらいに、そこは、モンスターの巣窟と化していたのだ。
「イザベラ?」
「…ホークアイの敵の名前らしい。俺もくわしくは知らないが…」
「そういえば、そんなこと言ってたわね」
「まぁ、今はそれはいいか。ニンジャはともかく、モンスターはやっつけちまおう。アン
ジェラ、魔法援護、頼むぜ」
「まっかせなさい!」
 モンスターを倒し、ニンジャたちを気絶させ、階段を駆け登る。後ろでヒーヒー言って
いるのはもちろんアンジェラとシャルロット。
「デュ、デュラン、わ、わた、私もう疲れたーっ!」
「シャルロットもーっ!」
「んなこと言ってる場合か!? リースが先に行ってんだぞ!?」
 ホークアイが一喝するが、そんなんで聞くような二人じゃない。
「シャルロット、オイラがおぶろうか?」
「本当でちか!? わーい!」
 現金なもので、シャルロットはケヴィンの背中につかまると、きゃっきゃっとはしゃぎ
はじめた。
 今は夜。ウェアウルフに変身したケヴィンは冗談じゃないくらいに強い。変身すると、
能力が飛躍的にアップするそうで、シャルロットあたりをおぶっていても、そんなにつら
くないそうだ。
「いーなー…」
「おめえはもうデカいんだから。我慢しろよ。ホラ、来いよ!」
 アンジェラの手を引っ張って、階段を駆け登った。それにしても、ホークアイのヤツ、
足速いよなー。
 モンスターを蹴散らして、なぎ倒して、ずんずん進む。
 ドアを出て、ちょうど渡り廊下みたいな所までやってきた。月明かりでそんなにハッキ
リしないけど、あちらの方に人がいるのが見えた。
「あれは!?」
 よくよく見ると、リースがニンジャ二人につかまって、なぶられていた!
「リースだ!」
 とどめをさそうとしていたニンジャたち。駆け寄ってきたホークアイに気づいた。俺ら
も慌ててホークアイの後を追う。
「おまえら、ビルとベンだな! ビル、ベン! やめるんだ!」
 どうやら、彼らニンジャはホークアイの仲間だったらしい。
「チッ…。だれか来やがった…。美獣様に報告だ!」
「おう」
 そう言って、ニンジャたちは足音もさせずに、天守閣へと入って行った。あの素早さ、
他のニンジャ達とだいぶ違う…。
「リース! しっかりしろ!」
 ホークアイがリースを抱き起こす。
「だいじょぶでちか? 回復魔法かけまちか?」
 シャルロットがいいかげんケヴィンの背中から降りて、切迫した顔で言う。それくらい、
リースのケガはひどそうだった。あの可愛い顔も傷だらけ、所々青アザ作って、相当なダ
メージだ。
「い、いいえ…。わ、私は平気です…。それより…敵の将軍が天守閣に…」
「しゃべるなよ! ジッとしてろ!」
「で、でも…。お父様の仇、この命に変えても…!」
 そう言って、なんとか動き出そうとする。こんなにボロボロなのに、まだ動こうとする
なんて自殺行為だ! 俺がそう言おうと、口を開きかけた時だった。
「バカヤロウッ!」
 怒られていないシャルロットがビクンと小さく撥ねた。ホークアイの叱咤に、リースも
目を丸くさせた。いや、俺も実は驚いた。なにせ、本気で怒るホークアイって初めて見た
もんだから…。
「ホークアイしゃんも本気で怒るんでちか…」
「バカヤロォ!」
 今度は余計なこと言うシャルロットに向かって怒鳴りつけ、そして、またリースに視線
を戻す。
「こんな大ケガしてるのに、なに言ってんだ!? それじゃむざむざ死にに行くようなもん
だ!」
「……でも…」
「でももなにもねーぜ! そんなに死にたいのか!? おまえ、あのアマゾネスたちの気持
ちを考えてるか!? アマゾネスたちは、あんなにお前を頼ってくれてる、慕ってくれてる
じゃねぇか。それを裏切るのか? もっと自分を大切にしろ!」
「……ホークアイ……」
 リースは意外そうな、それでいてビックリした顔をしてホークアイを見つめていた。そ
ういえば、ホークアイ、アマゾネスのアジトではいつもより口数が少なかったし、おどけ
たところしか見せてなかったからな…。俺も意外に感じたんだけど…。
「おまえを頼りにしてるヤツらがいる…。おまえを必要としてくれてるんだ。おまえだっ
て、自分にとってそんな人を失いたくないだろう? アマゾネスたちだってそうさ。それ
をちゃんとわかってやらなきゃ。王女様なんだろ? さあ、後のことは、俺たちに任せて、
ここでジッとしてろ」
「………………」
 ホークアイの説得に、リースはうなだれて、そして小さくうなずいた。
「よっし、いい子だ、リース。コレでも口にいれてな。だいぶ違うぜ」
 そう言ってまんまるドロップを取り出して、ソッとリースの口に入れた。
 ホークアイがほほ笑むと、リースは弱々しく笑みを返した。大丈夫そうだな…。
「今は敵の将軍のトコへ行きまちけど、あとでちゃんとした回復魔法をかけたげるでち!」
「ありがとう…」
 そう言って、リースは壁にゆっくりもたれかかった。やっぱり無理してたんだな。
「さ、行くぜ!」
 リースを一瞥し、ホークアイは先頭きって天守閣に乗り込んで行った。
「なーに、張り切ってんだか…」
 アンジェラが面白くなさそうにそうつぶやいたけど、ホークアイには聞こえなかったろ
うな。

                                                             to be continued...