メルシーの大砲で飛ばされてやって来たジャド。すでに、獣人兵たちは撤退したらしく、
元に戻っていた。
「さて。早速ラビの森へ行くか…」
「それはいいでちけど。ラビの森のどこらへんでちかね?」
「…………………」
 西の方…とだけしか情報がないんだよな…。
「んまあ、なんにせよ、行ってみなきゃわかんねえ。探すしかねえよ」
 ホークアイがそうまとめて、それもそうだと、一路ラビの森を目指した。
 ラビの森はやっぱりラビばっかり。襲ってこなきゃあ可愛いんだけどなー。まあ、俺ら
の敵じゃないから、軽くあしらいながらラビの森の西側を探索する。
 どれくらい捜し回ったんだろう? こっちに来た時は午前中だったのに、もうだいぶ陽
が傾いてきていた。
「んもーっ! どこにあんのよっ!?」
 アンジェラが草をばしばし蹴りながら、かんしゃくを起こす。
「見つかりましぇんねー…」
 シャルロットも疲れた顔をしている。
「あーあ…。ったくコロボッ…。………んんっ!? あ、おい!」
「ん? どしたー、ホークアイ?」
「い、いいいい今、こんくらいの人間が、いた!」
 と、手のひらでサイズを作って見せる。ちょうど、ちびっ子ハンマーでちっちゃくした
時みたいな大きさだ。
「あ、じゃあそれがコロボックルよ、どこに行ったの?」
「あっちあっち!」
 んで、ホークアイが見たという所を探っていたら、なにやらなにかの入り口みたいなの
を発見。
「でも、これ、ちっこくってはいれねーぜ?」
「んな時にはコレでちよ、コレ!」
 言うなり、シャルロットはまたもホークアイの頭をハンマーでポカリとやった。病み付
きなっているらしい。
「うおおぉぉぉぉーっ!?」
 あっと言う間に小さくなるホークアイ。
 確かに、このサイズでなら入れるよな…。んなワケで、全員ちびっ子になって、この入
り口に入って行った…。それにしても、ちびっ子になった時の視界ってすごいなぁ。草が
あんなに高い。
 中に入ると、髭もじゃだらけのコロボックルがテクテク歩いていた。
「ん? なんじゃ、おまえら? 見かけんヤツじゃの?」
「お、おう…。コ、今度、引っ越してきたんだ…。よ、よろしくな!」
「そうかそうか…。…にしても、おまえ人間の匂いがするぞ?」
 ウッ! ど、どど、どうしよう…。
「い、イヤでちねー、人間のバカタリにくっついてきたから、きっとその時に匂いが移っ
ちゃったんでち!」
 慌ててシャルロットがフォローしてくれた。
「ハッハッハッ! 人間のバカか。そいつはいいのう!」
「…そうでちか? あんたしゃんとはギャグのセンスが違うみたいでち…」
 そりゃおめぇはなぁ。ま、そのギャグは俺もわからんけど…。
「あー、ところで、ドン・ペリ様を探してるんだけど、どこにいるんだい?」
 シャルロットを押しのけて、ホークアイが前に出る。
「さあね? ここにはおらんよ。自分で探してみ」
 と、歩きながら冷たい返事。チェー。ケチだな。
 んでさ、俺らさんざんそのドン・ペリって野郎を捜し回ったんだけど、どこの家のコロ
ボックルに聞いても、いないって言葉が返ってくる。ヘンだなぁ…。ここのコロボックル
ってそんなに人数いないみたいだし…。
「おい、ドン・ペリ様なんてどこにもいないぜ?」
 ホークアイが疲れた顔で、歩いているコロボックルに話しかけると、ヤツは事もなげに
こう言ったんだ。
「いるさ。ワシじゃよ」
「へ!?」
「なんだよう、さっき自分でここにはいねえって言ったじゃねえか」
「あのときはな。ホレ、あのときわしは動きまわっていたからの。その瞬間瞬間で居場所
が違うから、ここにはおらん、とな!」
 ……ジジイ…。
 ガッと俺の肩をつかむホークアイ。おさえろとでも言いたいのだろう。
「いやー、さすがはドン・ペリ様。奥が深いや!」
「ホッホッホッホッなーに、なんてこたないわいね」
 ホークアイが機嫌を取っている最中、俺は必死になって殴りたい衝動をこらえた。
「ところで、ドン・ペリさん。噂じゃローラントのコロボックル村にイヤなネズミが巣く
ってね。占領されちゃったそうよ。どうにかして取り戻してあげたいんだけど、何か良い
知恵はないかしら?」
「うむ? ローラントか…。うーむ、ローラント…ローラント…」
 頼むぜえ、ドン・ペリさんよお…。
「ふむ! そうじゃ! ローラントの西に風の回廊っちゅうトコがあってのう。そこは風
神像の風が邪魔して入りにくいんじゃが、風神像は動かす事ができ、風の向きを調節でき
る」
「え? でも、ローラントの城内にある装置で動かすんじゃないの…?」
 アンジェラがすこし眉をしかめる。
「ローラント城内でなくても、風神像の近くには必ずそれを動かすダイヤルがあるんじゃ。
それを探せ。岩肌に少し色の違うダイヤルがあるじゃろ。うまく調節すれば、中に入れる。
入り口の風神像のダイヤルはひどく見つけにくいが、入ってすぐの右手の壁を根気よく探
せ。それからは、おぬしらで見つけて、考えて行け。そこの奥には風のマナストーンがあ
る。そこで精霊ジンを仲間につけるんじゃ。後は、眠りの花畑から、ジンの力で花粉を城
に送り込むんじゃ。これで、ローラントに巣くうナバール兵も一網打尽じゃ!」
 そ、そうなんだ。
「……あ、なに、じゃあ、あなた私らが人間だって知ってたの!?」
 へ!? そうなのか!?
「当たり前じゃ。世界中でコロボックルはもうここだけにしか住んでおらん。他にはおら
んのじゃ。それに、ホレ、そこのおまえさん」
 ドン・ペリは俺を顎で指す。
「俺?」
「さよう。おまえさんフェアリーに取り付かれとるじゃろ? わしにはわかる。フェアリ
ーが現れたという事は世界の危機。わしらだってこの世界に生きとるからの、協力せんと
いかん。さっきはからかって悪かったが、どーにもこればっかりはのうー…。やめられん
わい!」
 ………………ジジイ…。笑って言うんじゃねえよ…。
 ま、まあ、ローラントを救う方法もよく聞いたし…。もうここに用はねえからな。おサ
ラバするとするか…。
 コロボックルの村を出ると、とっぷりと夜が更けていた。
「うーん、遅くなっちゃたな…。これじゃジャドに今夜中に着くかどうか…」
「無理ね」
 アンジェラはそっけなく言い放つ。
「んじゃ、野宿だな…」
「んだな…」
「ここらへんに、宿場とかないの? ウェンデルに続く道なんだから、ウェンデル目当て
の旅人相手の、とかさあ」
 野宿が嫌なアンジェラは、どうにかしてでも、どこかに泊まりたいみたいだが…。
「湖畔の村アストリアがありまちたけど、そこは、もう…」
 あ、そっか…。獣人たちに滅ぼされちゃったんだよな…。
「んまあ、仮にも人が住んでた所だ。アストリアの屋根でも借りて今夜は休むか?」
「そうだな…」
 と、いうわけでアストリアにやって来た。
 アストリアは、あの時に見た地獄絵図のような情景はなく、ただ、静かな廃墟となって
いた。どうやら、だれかが片付けてくれたらしかった。それでも、死臭はそうすぐに消え
るわけもなく、なんとなく、胸糞悪い感覚がぬぐえない。
「…あっちの方のあれ…何でちかね…?」
 シャルロットが指さす先に、土が盛り上がったところに小枝や家屋の一部がさしてあっ
たりした。
「本当だ…。…墓みたいだけど…」
 あれだけの量…。誰が作ったんだろう…?
「…で、どこらへんで一泊するの?」
「んー…。ホークアイ、頼む」
「へいへい。適当なトコを探すから。ちょっと待ってろな」
 ホークアイが色々物色して、適当なトコを決めてくれた。シーフってこういう時に便利
だよなー。鍵かかってるトコとかさ。
「シャルロットもう眠いでちー…」
「コラ! 一人でそんなに場所とるな! あっち行け、あっち!」
「でもさ、大丈夫かなぁ?」
 アンジェラがちょっと心配そうに、天窓を見上げた。
「ん? なにだがよ?」
「だって、アストリアって村人全員全滅しちゃったんでしょ? もしかして、コレ、出る
とか?」
 コレ…。アンジェラは腕を軽く前に出して、力無く手だけをたらす。幽霊お得意のあの
ポーズだ。不謹慎なヤツだなぁ。
「まさか。出るわけねーだろ」
 俺が軽く否定して、ホークアイもうんうんうなずいたんで、アンジェラもそうよねって
言って納得したんだけど…。
「ん? どした? シャルロット」
 ホークアイの声にシャルロットを見ると。シャルロットは真っ青な顔してガタガタ震え
ている。
「まままま、まさかホントに、出る…とか言いまちぇんよね!?」
 …あー…。…シャルロットのヤツ、こういうのダメなんだな。
「ははーん。シャルロット、おまえ、この手のモノって苦手なワケ?」
「ううううううう!」
「そういや、これ、砂漠に伝わる話なんだけどよぉ、夜な夜な女の悲鳴が…」
「ヒィーッッ!」
 ホークアイが面白がって怪談話とかしてたけど、俺は馬鹿馬鹿しかったので、ほっとい
てさっさと寝た。

 俺は小便を終えて、寝てた所まで帰ろうかとしていた時だった。
「…………、…………」
 だれかの話し声が聞こえる。誰なんだろうと思って、その声の方をヒョイとのぞいてみ
た。すると、シャルロットと、狼男がなにやらボソボソとしゃべっている。
「シャルロット!?」
「あい!? あ、ああ…。デュランしゃんでちか…。ちょーどいいでち! デュランしゃん、
このケヴィンしゃんも仲間にいれてあげてくだしゃい!」
「ん?」
 ケヴィン? だれだよ、それ…。狼男がおずおずと、俺をのぞき込んだ。
「オ、オイラ、ケヴィン…。そ、その…」
「狼男…。って事は、おまえ獣人なのか!?」
「獣人でも、悪い獣人しゃんじゃないでちよ!」
 慌ててシャルロットが言葉をはさむ。ん…?
「…どうしたんだよ? …なんか理由でもあんのか?」
 俺はこっちの獣人を見る。確かに、凶悪そうな雰囲気はまるでない。
「…オイラのカール。大切な、トモダチ、カール…」
「あのさー、言ってる事、よくわかんねーんだけど…」
「でちからね、このケヴィンしゃん、お友達にカールっていうチビウルフがいたんでちっ
て」
 すかさずシャルロットがフォローしてきた。
「うん…。オイラのトモダチ…。大事な大事なトモダチ。カールもオイラも母さん、いな
い。だから、いつも一緒だった…。オイラたち、あんなに仲良しだったのに、カール、い
きなりオイラを襲った…。その後は、よく覚えてない…。体中熱くなって…。気が付いた
ら、オイラ、この手でカールを…」
 そこまで言って、狼男はまたシクシク泣きだした。でも、すぐに涙をはらい、
「カールがおかしくなった理由、獣人王が仕組んだ事だった…。オイラ、戦いを挑んだけ
ど、とってもかなう相手じゃなかった…。…オイラ、なんとかカールを生き返らせようと、
ウェンデルに行った…。そして、司祭にカール生き返らせてくれって言ったけど、ムリだ
って…。でも、でも……マナの女神様なら生き返らせてくれるかもって言うから、フェア
リーに取り付かれたヤツ、探してた…」
「それって…」
「デュランしゃんの事でちよね! フェアリーしゃん! 出て来てくだしゃい!」
 シャルロットの呼びかけに応えて、フェアリーが俺からフワリと出て来た。
「こ、これがフェアリー?」
 獣人はビックリして、まじまじとフェアリーを見た。
「…そうよ」
 フェアリーが小さくうなずいた。
「お、お願い! オイラの大事なトモダチのカール、生き返らせて! お願い!」
 泣きそうな顔になって、ケヴィンは、フェアリーに懇願する。こいつ、よっぽどそのカ
ールっていうヤツが好きだったんだなあ…。
「…マナの女神様なら、きっと生き返らせて下さると思うわ…」
「ほんと!? オイラ、なんでもやるから、お願い! 仲間にいれて!」
「……デュランしゃん! シャルロットからもお願いするでち」
 と、今度シャルロットも手を合わせて俺を見た。…やれやれ…。ま、いいや。
「……まぁ、俺はいいぜ。ただ、ホークアイ…いやアンジェラがなんつうか…」
「オイラ絶対役に立つから!」
 なんだか泣きそうな顔で、必死に懇願してくる。
「わかった、わかった! いいよ。一緒に行こう」
 俺がそう言うと、狼男はパッを顔を輝かせて、俺に何度も礼を言った。見かけは怖いが
けっこう可愛い性格をしてるナ、コイツ。

・

 朝起きたら、ホークアイとアンジェラは仰天した。いや、俺もビックリした。昨日見た
時は立派な狼男だったんだが、今朝になったら、フツーの人間になってんたんだから。
「だ、だれよコイツ?」
「お、オイラ、ケヴィン…」
「ケヴィン?」
「あ、あのでちね」
 シャルロットと俺が二人で説明して、二人はなんとなくわかったような顔をして、仲間
に入る事を承知した。
「と、ところで、えーと…」
「ケヴィン」
「そうそう、ケヴィン。おまえ、歳いくつなんだ?」
 けっこう童顔なのに、こんなにガッシリした体つきしてるんだもんなぁ。
「オイラ、一五…さい…」
「一五!? マジ!?」
「おう」
「うーん…」
「シャルロットと同い年でちね」
 まあ、俺らはシャルロットの年齢聞いた時よりは驚かなかったけど、それでもけっこう
驚くよな。
「え!? お、オイラと同い年だったの!?」
 今度はケヴィンが驚いていた。無理もないか…。
「そうでちよう。あ、それと。ケヴィンしゃん、獣人なんでちって」
「獣人? 獣人って、あの獣人か!?」
「ちょっと大丈夫なの!?」
 ホークアイとアンジェラが驚いて、そろって大きな声を出す。それに、ケヴィンは悲し
そうな顔をした。
「でも、人間にも色々いまちから、獣人にも色々いまちよ」
「…そりゃ、そうだけど…」
 ジャドや、このアストリアの事がまだ引っ掛かってるんだろう。ホークアイは、うかな
い顔をする。
「それにしたってさ、でも…」
「いいだろ。何だってさ。ジャドにいた獣人達とは違うみたいだし」
「…そ、そう…?」
 アンジェラは眉をしかめてケヴィンを見る。
「大体、こいつがジャドにいた獣人達みたいだったら、俺たち寝首かかれてるだろ」
「…おまえにしちゃめずらしく、道理を言うじゃん」
 ホークアイがやたら失礼な事を言う。
「怒るぞ!」
「冗談だよ。ともかく、わかったよ。俺はホークアイってんだ。よろしくな」
「お、オイラ、ケヴィン。よ、よろしく…」
「そんなに脅えなさんなよ」
 おどおどしたケヴィンにホークアイは苦笑した。
「…アンジェラよ…」
「よ、よろしく」
 アンジェラはちょっと不服そうだったけど、自分以外のみんなが認めたかららしく、こ
れ以上文句は言わなかった。
 パーティが一人増えて総勢五人。ケヴィンは体術、ようするに格闘技が得意らしい。ナ
ックルを手にはめて蹴ったり殴ったり。ラビを蹴散らしてくれる。ちゃんと基礎から格闘
技習ってたみたいで、ハッキリ言って、強い。
 もっとも、世間はあまりというか、全然知らないみたいで、船に乗ろうとしたら、ビッ
クリした目で見てたっけ。
「ふ、船に乗るのか?」
「そうだけど…。おまえ、船に乗るの初めてなのか? んじゃ、どうやってビーストキン
グダムからここに来たんだ?」
「泳いで」
「ゲッ!? マジかよおい!」
「本当!」
「っかー…」
 これには俺もビックリしたね。いやはや。

                                                             to be continued...