「……………あ、あれ…」
 気がつくと、俺は簡易ベッドに寝かされていた。防具だけ外されていて、仲間の武器防
具、荷物と一緒にはじっこにまとめられてあった。
 起き上がって、横を見ると、シャルロットとアンジェラはスースー寝ている。ホークア
イは隣で目をこすっている。どうやら目覚めたようだ。
「……ここ、どこだ?」
「…知らねえ」
「………なんで、俺たち、ここにいるんだ? 眠り草の花畑で気を失ったハズだろ?」
「うん…」
 ここは、岩肌をくりぬいたと思われる造りで、どっかの洞窟なんだろうか?
 おや? 足音がするな。だれか来るのかな?
「あ、気が付いたようですね」
「あ!?」
「ああっ!」
 俺とホークアイが声をあげたのも無理はない。さっそうとやってきたこの娘は、パロで
ホークアイがお熱になっていた、やたら可愛いあのコだったのだ! いっきに眠気が覚め
ちまった。
 しかも今日はきっちりと武器防具で身をかためて、なにやら勇ましい。
「なにー? なんなのー?」
 俺らの声に目覚めたか、アンジェラが目をこすりながら、ムックリ起き上がった。
「なに? なんなの、ここは?」
 完全に寝ぼけ眼で、アンジェラは俺に聞いてくる。もちろん知らない俺は首をふった。
「……ここは、バストゥーク山の中腹にある洞窟です。みなさん、眠りの花畑に倒れられ
ていたので、モンスターに襲われては危険と、ここまで運びこみました」
「…そっか…。ありがとう。で、君は誰だ…? 確かパロで…会わなかったっけ…?」
「………そうですね…。…私はリースと申します」
 なんか、ちょっとつっけんどんな態度。警戒されてるみたいだなぁ。
「…俺はデュラン。こっちはホークアイ、アンジェラ。寝てるのがシャルロットだ」
「少し、質問させてください。なぜあなたたちはこの時勢、バストゥーク山を登ってきた
のですか? そんな少女を連れてまで」
 俺たちは思わず顔を見合わせた。ま、助けてもらったんだし、少し事情は話しておかな
きゃなあ…。
「風のマナストーンを探しにきたのよ。このへんにあるっていうから」
 俺がどう言おうか考えていると、アンジェラが先に話しだした。
「風のマナストーンですか? …あなたたち、風のマナストーンを求めてここまで来たの
ですか? この危険な道程を? どうしてですか?」
「…マナストーンの近くには精霊がいるでしょ。そっちが目当て」
 リースはやや困惑して、顔をしかめた。
「おまえに話してもらった方が早そうだな。フェアリー!」
「はいはい」
 俺の頭のあたりから光り輝くフェアリーが飛び出してきて、リースは息を飲んで後ずさ
った。
「私はフェアリー。マナの聖域から来たの。今、世界の情勢は大きく乱れているわ。それ
はあなたも感じているんじゃないかしら? 私はこのデュラン達と一緒に精霊達を集め、
マナの聖域に行くの。そのために、風のマナストーンの近くにいるはずの精霊ジンに…」
「…フェアリーにとりつかれしって…、まさか、あなたウェンデルで司祭様がおっしゃっ
ていた人ですか!?」
「え? あ、…まぁ…そう…かも……かな…?」
「フェアリーに取り付かれてるなんて、あんたしかいないじゃないのよ」
 …でも、陛下にも昔…。あ、今はいないんだっけか…。
「…わかりました。そういう事だったんですね。光の司祭様から多少聞いております。…
女神さまに会いに行かれるのですね?」
「まーな」
「緊張感ないわねぇ」
 フェアリーが腰に手をあてて小言を言ってくる。
「うるせー」
「…あなたたちの素性がわからなくて、どうしようか迷っていたのですが…。そのような
事情なら、納得します」
「ところで、君はアマゾネスか?」
 ローラントの軍人は全員女で、アマゾネスと呼ばれ有名なのだ。
「ええ。申し遅れました。私はローラントのアマゾネス軍団長、リースです」
「…ローラントの軍団長はずいぶん若いんだな」
 似たり寄ったりなトシのくせに、ホークアイがそんな事を言う。…まぁ、俺もそう思っ
たけど…。
「…ローラントの王女でした」
「はぁ!?」
「なにぃ!?」
 俺とホークアイはそろって素っ頓狂な声をあげた。まじ!?
「…風の回廊の奥に風のマナストーンがあるといわれています。しかし、回廊の入り口に
は風神像という不思議な像があり、いつも強風をふかせています。城を取り戻せれば、城
内にある装置を使って風を操り、中に入る事が可能になります……けれど……」
 ローラントはナバールに占領され、滅ぼされた。ローラント城にいるニンジャ軍団を追
っ払わないと風の回廊に入れないってか…。
「…そうか…。…困ったなぁ…」
「ここはローラント城をナバール軍団から奪回するためのレジスタンスのアジトなのです。
もうしばらくお待ちいただければ、ローラントを奪回し、あなたがたを風の回廊へと案内
いたします」
 そっか…。それじゃ警戒されても仕方がないよな。潜伏してる最中にわけのわからない
連中を連れ込むってかなり危険だし…。よく助けられたな、俺たち…。
「じゃあ、俺達もそのローラント奪回とやらを手伝うぜ。人数はいた方が良いんだろ?」
 俺がそう言うと、リースは首をふった。
「お気持ちは嬉しいんですが、これは私たちの戦い。あなたがたにご迷惑はかけられませ
ん。ここでお待ち下さい」
「…いや、迷惑じゃなくってさ…。こっちも急いでるし…戦力はあった方が良いだろ?」
 しかし、リースは頑固に静かに首を振るだけだった。
「あなたがたの事は私から説明します。窮屈かもしれませんが、我慢して下さい」
 そう言うと、会釈して、リースは部屋から去って行った。
「……どうする……?」
「どうするったって…。ここでジッと待つの?」
「そんなに弱そうに見えるのかな、俺たち…」
「……信用しきれないんじゃないのか?」
 …まぁ…あの様子じゃな…。笑えばきっと可愛いだろうに、顔、こわばってたよなぁ、
あの、リースって娘。
「んにゃふー…。だれかいたんでちか?」
 俺たちがやれやれとベッドから起き出して、荷物チェックをしていると、シャルロット
が目をこすりながら起き上がった。
 しかし、さっきから妙に頭が痛むなと思っていたら、たんこぶができていた。いつの間
にこんなのできてんだよ…。

 とりあえず、俺たちはアジト内をちょっと散策させてもらう事にした。もちろん、入れ
ない所は入れないんだけど。
 アマゾネス達は会釈したり、信用しきれないから、ツンとそっぽ向いたりと、反応は様々
だ。
 奥の方にナバール兵が捕まってるって言うので、ホークアイはちょっとそこをのぞいて
きたらしい。
「どうだった?」
「ダメだ…。完全に操られて、正気を失ってる…」
「そっか…」
 それにしても、アマゾネスって本当に女だらけの軍団なんだな。噂に聞いた事あるけど、
見たのは初めてだ。手に手に槍をもち、いかめしそうに立っている。
 そのアマゾネスたち、かのリースが戻ってきた事で随分士気があがってるみたいだ。
「リース様が戻られた!」
「我々も頑張らねば!」
「リース様が戻って来て下さって、良かったぁ…」
 とまあ、リース一人いるだけで、士気がかなり上がってるいるみたいだ。
「頼りにされてるんだなー、あのリースってコは…」
「あ? ああ、そうだな…」
 どーもホークアイはさっきから元気がない。ナバール兵を見た後だから、しょうがない
という気もするが、その前からも元気ねえなあ。あのパロの様子見てから、元気がでねぇ
みたいだ。
「で、どうするの?」
 一通り見終わって、アンジェラが俺に聞いてくる。…困ったなぁ…。
「ともかく、ここでジッとしてんのは性に合わねぇし、もう一度リースに会ってみよう」
 んで、リースに会おうと、リースのいる部屋を訪ねた時だった。
「よー…」
「うおうおう、リース様が無事になって戻られるとは、このじい、こんなに嬉しかった事
はございませんぞ! おうおう、ウッ、ゲホゴホグエッ!」
「じい! 落ち着いて落ち着いて!」
 リースはそのじーさんの背中を慌ててさする。大変そーなんだな…。
「あ、みなさん…」
「いや…、なんか、取り込み中だったみたいだな…」
「だ、大丈夫ですよ…」
 リースは苦笑して手をふった。少し恥ずかしがってるみたいだ。
「…ふー…。さて、リース様、どこまで話しなすったかのう?」
「え? ああ、どうすればあのローラント城を取り戻せるかって所よ」
「ああ、そうでしたな…それで…」
「ちょっと待って下さい。あなたがたは何故ここに?」
 どこかで見た事あるような顔のアマゾネスが待ったをかけ、俺たちを見る。そりゃ他人
に作戦会議を聞かれるわけにはいかねーもんなー。
「ここで待ってろと言われたけど、そういうのは性に合わないんだ。信用しろっつっても
無理かもしれんけど、俺たちにも何か手伝わせてくれ」
「えぇ!? 私も?」
 アンジェラは嫌そうな顔で俺を見た。
「…嫌なら、ここで待ってろよ。別に、俺だけでも俺はかまわねーし」
「シャルロットも行くでちよ! なんだかよくわからんでちけど、シャルロットも行きま
ちよ!」
 シャルロットはぴょこぴょこ跳びはねて手をあげた。よくわからんくせについてくると
いうのもヘンなヤツだな。…ま…可愛いけどさ…。
「…シャルロットというのね。…ねぇ、シャルロット。これは遊びではないのよ? …戦
争なのよ…」
 リースは少し身をかがめて、シャルロットに話しかける。…なんか、ずいぶん俺たちと
の態度に差があるような…。
「よくわかんないでちけど、わかるのでち!」
「どっちなんだよ」
「わかるのでち! 危険なんでち! こわいんでち! でも…そんなこと言ってられない
んでち!」
 …まぁ、ようは、そうなんだけどさ…。
「…どうしてあなたのような女の子が、彼らと一緒にいるの…?」
「どうしてって…、シャルロットはヒースという恋人を探しているのでち。ゆくえふめい
なんでち。探してるんでち」
「…………この人たちと?」
「そうでち。シャルロットのこぶんなんでちから、当然でち!」
「いつ、おまえの子分になったんだよ…」
「うるしゃあでち!」
「…この人たちでないとだめなの?」
 リースが真剣な瞳でシャルロットを見据える。シャルロットはしばしその瞳を見て、そ
れから静かにうなずいた。
「…どうして…?」
「…どうしてもでち…」
 その様子を見て、リースは顔をあげて、ゆっくりと俺たちを見る。
「……わかりました。何をお願いするかわかりませんけど、なにかお手伝いをしてもらい
たいと思います…」
「ああ」
 とりあえず、少し信用してくれたみたいでホッとした。
 そしてまた、作戦会議が再開された。
「ナバールニンジャ軍の数はこちらの倍以上はいる…」
「風はいつも吹いているし…。難攻不落の城も、こうなると逆に…」
「正攻法ではまず無理……ね…」
 俺たちはこのへんの地理とか情勢とかさっぱりなので、ただ聞いてるだけなのだが。
「…そうじゃ! 賢者ドン・ペリ様に知恵を借りれば!」
 突然、じいさんがポンと手をたたいて大声をあげた。
「ドン・ペリ?」
 聞いた事もねーや。俺は隣のアンジェラに聞いてみた。
「おまえ知ってるか?」
「知らないわよ」
「ドン・ペリ様はな、あの竜帝との世界大戦の時、強大な力を誇る竜族を出し抜き、フォ
ルセナの英雄王に勝利をもたらした奇跡の戦術士なんですじゃ!」
 そんな事があったんだ…。
「では彼に頼めばなにか良い知恵を? じゃあ、早速会いに行きましょう。で、彼はどこ
に?」
「ジャドの南西にある、ラビの森奥深くにいるはずですじゃ」
 へー、あのラビの森にそんなヤツがいるんだ。
「…もしかして、リース様。まさかリース様ご自身が行かれるつもりでは?」
「そうよ。ジャドは私も行った事があるし、最低限の人数で動きをとりたいわ。そのため
には、少数精鋭でなければならない。この時勢、旅路がどんなに危険か、じいもわかるで
しょう?」
「お待ちくだされ! せっかくリース様が戻られたというに、また行ってしまうのです
か? リース様のおかげで、みな、希望を持ち始めたんですよ?」
 じーさんにそう言われ、リースはなんとも困った顔。……んじゃ、そーゆー事なら…。
「じゃあ、俺たちが行こう。旅ならいつもの事だし」
 俺がそう言うと、そこにいた全員が俺に目をむけた。
「…でも…」
「君はここから動かない方が良いみたいだし。それに、早くローラントを奪回してくんな
きゃ、俺たちも困るしさ」
 アマゾネス達はそろって顔を見合わせた。そして、最後にリースを見る。
「……よろしいんですか…?」
「いいよ、別に。助けてくれた礼もあるしな」
「…………………」
 リースはしばらく考えて、そして頭を下げた。
「……では……お願いします…」
「よし、決まりだ。で? そのドン・ペリってのはラビの森のどのへんにいるんだ?」
「ラビの森でも、ずいぶん西の方にいるんですが…、ここで問題が…」
「問題?」
 俺が聞き返すと、じーさんはうなずいた。
「実はドン・ペリ様というのは、人間じゃないんですじゃ。コロボックルなんですじゃ。
おまけに大の人間嫌いときている。会ってくれるかどうか…」
「コロボックルってなんでちか?」
 シャルロットがまったく緊張感のない声で聞く。
「コロボックルというのは小人族の事。手のひら程の大きさの人々の事を言うんじゃよ」
「………んじゃあ、シャルロットのちびっ子ハンマーでちっちゃくなりゃOKでち!」
 ああー、その手があったか。
「ちびっ子ハンマーですと?」
「そうでち。バイゼルのブラックマーケットで手にいれたんでち! これをこーちて…」
 シャルロットは、やおら取り出したハンマーで(どこに持っていたのやら)、いきなりホ
ークアイの頭をうりゃっとばかりに叩いた。
「どへぇーっ!?」
 油断していた、ホークアイは見る間に小さくなって、シャルロットの手のひらにのっけ
られた。
「どうでち?」
「おーっっ!」
「すごいわ!」
「な、どうしたの!?」
 思わずみんなびっくり眼になる。びっくりしないのなんて、俺らくらいのもんだった。
「こらーっ! シャルロット! 早く元に戻せ!」
 ホークアイはシャルロットの手のひらの上でぴょこぴょこ撥ねているのだが…。
「ほほほほほほ」
 シャルロットの笑いが不気味だ。このまま握り潰す気なんだろうか…?
「おいおい…シャルロット…」
「ちゃ、ちゃんと元に戻しますでち!」
 ちゃんと、シャルロットはホークアイを元に戻したが、残念そうな顔をしていた。
「これでどうでち? そのトンベリだかドンベエだか、知りまちぇんがちっちゃくなった
ら人間とわかりましぇん!」
「ドン・ペリです。じゃあ、本当にお願いしてよろしいんですね?」
「ああ! 任せとけって!」
 深々頭を下げるリースに、軽くこたえる俺。ん? なんか、アンジェラがこっちをにら
みつけてるぞ?
「…なんだよ? アンジェラ」
「別に…」
 おかしなヤツ…。ま、いいや。善は急げだ。早速行くか。
「んじゃ、早速行くからさ」
「早速って…今からですか?」
「……何かおかしいか?」
「…みなさん、疲れてるんじゃないんですか? 旅費の事も…」
「いいよ、それは。俺たちが勝手に行くんだし」
「………でも…。もう少しあなたたちの事が知りたいのです。食事をしながら、今までの
事を、少し聞かせてくれませんか? フェアリーの事も…」
 俺たちはちょっと顔を見合わせた。
「シャルロットおなかへったでち」
「……そっか…。じゃ、そうしようか」
「あんた、なんでそんなに軽いのよ」
「……そうか…?」
「もう少し考えてものを言ったらどうなのよ」
「うるせー」
 なにはともあれ。俺たちはここで一泊する事になった。
 食事が終わる頃には、少し打ち解けてくれたアマゾネス達の素顔が少しだけ、垣間見え
たような気がした。


 翌朝。リースからとんでもない話を聞かされた。
「みなさん、ジャドに行くんですよね。それで、ウチのアマゾネスにメルシーっていうの
がいるんですけど、彼女に頼めばええと、大砲ってもので飛ばしてくれるそうです」
「ゲッ!? 本当!?」
 あのボン・ボヤジ一家ってのはどこにでもいるもんなのか!?
「ええ。メルシー! メルシー!」
 呼ばれて出て来たのは、やはりアマゾネス。そう言われてみれば、ボン・ボヤジの妹ボ
ン・ソワールにどこっとなく似てるよーな気がする。でも、気のせいかもしれない…。
「はい、リース様」
「この方たちを、あの例のもので、ジャドまで送ってさしあげて」
「はい!」
 うーん…彼女ってばやっぱりボン・ボヤジ一家の一人なんだろうな…。後で聞いてみた
んだが、彼のイトコだそうだ…。なんだかなぁ…。


                                                             to be continued...