結局、俺がみんなに頼んで、宿屋に泊まる事になった。
「おーい、デュラン。酒場に行こうぜーい」
「俺、いい」
 俺は剣を磨きながら、ホークアイの誘いを断った。酒場にも俺の知り合いが多くて、あ
んまり行きたくないのだ。
「はっはーん。おまえ、知り合いばっかなんで、イヤなんだな?」
「………。そーだよ!」
「まあ、いいじゃねえか。それくらい。俺、酒場の場所よくわかんねーんだ。こういうの
は地元の人間に限るんだから、ホラ、行こうぜ!」
「わっ、ば、バカ! 俺は行かないってば!」
「堅い事言うなってば! お、アンジェラ。おまえも酒場に行くかあ?」
 ちょうど、ドア付近にアンジェラがいたのだろう。ホークアイは軽い声で、アンジェラ
に話しかけた。
「うーん…。酒場、かあ…。ん、いいわよ。行きましょ」
 いつもなら断るくせに、今日に限ってアンジェラのヤツは乗り気だ。
「うっし、決まり! ホラホラ! デュラン行こう!」
「あ、あ、おい! シャルロットはどうするんだよ!? もう寝てるんだぞ」
「だーいじょーぶだって! シャルロット一人でだって何とかするさ!」
「いや、そーじゃなくて…」
 結局、強引に連れて来られてしまった。上機嫌な二人と比べ、俺の気は重い。
「ふーっ…」
「なによ、ため息ついちゃって! あっち座ろう!」
「あ、おいおい…」
 アンジェラに引っ張られ、奥のテーブルに腰掛ける。
「なぁなぁ、おまえの知り合いの可愛い娘、いたら紹介してくれよ!」
 てめーはそれしか頭にねえのか? ったく、俺を誘ったのってそれが目当てかぁ?
「はーい、なんにする? あらデュラン! 戻ってきたんだ!」
 看板娘のリンダが注文を取りにきて、俺に気づいた。
「……まあな…」
「なーによ。無愛想こいちゃってサ! こっちの人達はお友達?」
 リンダがホークアイたちを見ると、ホークアイはにこやかに手をあげて、アンジェラは
なぜかぎこちなく頭を下げる。
「そんなもんだ」
「もーう。相変わらずねー。そんなんだから、女の子近づかないのよ」
 リンダはどうにも余計な一言が多い。
「うるせえっ! おめえは注文とりにきたんだろっ!?」
「…オーコワ…。さて、なんにする?」
 俺が怒鳴ると、リンダは軽く肩をすくめ、すぐに笑顔に戻ってオーダーを取り始めた。
そういや、こいつも性格軽いんだよなぁ…。
「あ、俺、ビールね!」
「え、えと、その、私はオレンジジュースちょうだい…」
「OK! デュランは?」
「……ラム酒でいい…」
「はいはい。あのいつもの安いヤツね」
 軽くほほ笑んで、リンダは短いスカートをひるがえして厨房に向かった。
「かなり良い感じじゃん。なに、あの娘なんてーの?」
「リンダってんだよ…」
「へー、リンダちゃん! あの健康的な足がいいねえ。可愛いなー」
「そうかあ?」
「はっはっは、見慣れてると気づかないもんさ。特に近くいる女の子とかはね!」
 こいつの頭って、きっと半分以上が女の事なんじゃねーのかねえ。
「フーン…」
 しばらくして、リンダがグラスとかをガチャガチャ言わせ、注文したヤツを運んできた。
「はい、ジュースにビールにラム酒! それと、このつまみね」
 注文したヤツとは、また別に、枝豆が追加されている。
「え? 俺らべつにつまみなんて頼んでねーぜ」
「アタシのおごりよ! あんたこれ好きだったでしょ?」
「…ああ。…さんきゅ…」
「ねえねえ、リンダちゃん!」
「あら、アタシ名前教えたっけ?」
「コイツに聞いたの。キミさぁ可愛いよね!」
「もーう、口がうまいんだからぁ!」
 あのリンダと対等に軽い会話をこなしているホークアイ…。やっぱこいつって…、いや、
いい…。人は人だもんな…。
 俺がラム酒を飲んでると、なんだかアンジェラが元気がないのに気づいた。
「ん? どうしたアンジェラ?」
「え? あ、ああ。なんでもないよ」
「あ、そうだデュラン! あんたのお友達紹介してよ!」
「へえ? あ、うん、いいぜ。こっちの男がホークアイで、こっちがアンジェラだ」
 しごく簡単に紹介をすると、ホークアイはリンダに握手を求めてきた。
「ヨロシクーッ!」
「はいはい、ヨロシク。あ、そっちの女の子もね!」
「う、うん。その、よろしく」
「大変でしょ。デュランってば、すーぐ頭に血が上っちゃう人だから」
「うっるせーな…。おめぇは…」
「ウェンディちゃん、すごく心配してたわよ。会ってあげないの?」
「……いいんだよ!」
 ドッカと椅子に背もたれて、腕を組む。
「んもうー。これだもんね。そんなんじゃ…」
「どーでもいいから、おめー仕事中なんだろっ!?」
「なによ。機嫌悪いんだから。あっ、じゃあ、大変だろうけどコイツの面倒みてやってね
ー!」
「おめーが言うな! おめーがっ!」
 リンダはあははと軽く笑うと、また仕事に戻った。
 っとにぃ…。
「……おまえ、ウェンディってだれだ?」
 意外そうな顔して、ホークアイが聞いてくる。
「あ? ああ、言ってなかったっけ。俺の妹だよ」
「ええええーっっ!?」
 ホークアイとアンジェラの声がキレイにハモる。
「な、なんだよ、んな大声だしてよ」
「おっ、おっ、おまえに妹なんていたのかっ!?」
「ウッソー!」
「あのなあ。なんで妹いる事ウソつかなきゃいけねーんだよ」
「じゃあ、なんだ? 妹も、おまえみたいに剣術バカなのか?」
 …コイツ…。
「……殴るぞテメエ…」
「いや、ま、冗談だけど…。へー、デュランに妹がいたとはねえー…。へー、そう…」
 ホークアイはへーを連発しながら、顎をさすっていた。
 それからしばらく酒場で過ごして、宿屋に戻った。アンジェラがちょっと元気なかった
みたいだけど、宿に戻る頃には直ってたから、平気だろ、たぶん。

・

 またまた大騒ぎしながら大砲に乗って、今度はバイゼルへ。バイゼルから、パロへ行く
んだけど、定期船なもんだから、ちょうどよく船がぽこぽこ出てるワケじゃない。あいに
く、今日は出てないんだとか。
「あーあ…。次ぎの定期船は明日だってさ!」
 船乗りに聞いてたホークアイがそう言いながら帰って来た。定期船って毎日出てるわけ
じゃないから、下手すりゃ一週間近く待たされてしまう事もある。おまけに最近、海が荒
れやすいとかで、便の数も減っている。
「えぇ!? そうなの?」
「そうなの。しゃーない。どっかで一泊でもするか」
「そうね…」
 とゆうワケで、宿屋を探して、一泊する事になった。
 安っちい宿だから、当然夕飯は出ない。だから、みんなで食べに行く事に。
 飯屋で聞いたんだけど、ここにはブラックマーケットと言う、夜にしかひらかない市場
があるそうなんだ。
「へぇえ〜、面白そうじゃねぇか。行ってみようぜ!」
 ホークアイがえらい乗り気でね。まあ、一目見ておくのも悪くないってんで、みんなで
ブラックマーケットに行く事になった。
 ブラックマーケットはなんか不思議なところ。露店が所狭しとならんで、夜でもかまわ
ず活気が良い。屋内なもんだから、熱気がたまっちゃってるし。
 占い屋からドレイ売り(!)まで、もうピンからキリまでそろってますって感じ。
 色々珍しいものがあって、見てるだけでも楽しい。
 中心のステージでは、キレーなネーチャンが怪しい音楽にあわせて踊ってる。なんでも、
オーロラシスターズとか言うらしい。
 バイゼルって、けっこう開放的なんだなぁ…。あの申し訳程度に体をおおう衣装とか、
それでいてあの激しい動きの踊りとか…。
「いいぞー! ねぇちゃーん!」
 ホークアイが隣で口笛を吹いている。
 俺たちが踊り子さんたちに見入っていると、いきなりガン! と後頭部を殴られた。
「いでっ!」
「だっ!」
「な、なんだよ!?」
 振り向くと、青筋はいったアンジェラがそこにいた。…ゲ…。
「行くわよ! あんたたち!」
「な、ちょ…」
「まだっ、まだ踊りを全部見てないのにっ!」
 耳を引っ張られ、泣く泣くそこのステージから引き離されてしまった。…ああ…。
「良いじゃねぇかよ、踊りくらいよぉ」
 そうそう。
「なによ、だっらしなく口開けちゃってサ。見てて情けなくなるじゃない!」
「いーじゃん別に。だって俺たち健康優良児だもんなー。キレーなおねーさんに見とれて
何が悪いってんだ」
 完全に開き直ったようなホークアイ。そこまで開き直れる彼が、俺はちょっとうらやま
しかったりする。
「なに居直ってんのよ。キレーなおねーさまだったら近くにいるでしょ!」
「………どこに?」
 バン!
 容赦ないアンジェラの杖が飛んでくる。
「いってぇなぁ!」
「フンだ! シャルロットのトコに行くわよ!」
 ったく。すぐ機嫌悪くなりやがって。
 アンジェラの背中を追いかけて、シャルロットがいる所へ。見ると、シャルロットはど
こかのばあちゃんとしゃべってる。
「シャルロット?」
「あ、みなしゃん。いきなりで悪いんでちが、シャルロットに一〇ルク貸して欲しいんで
ち」
「……良いけど…。何に使うんだ?」
 俺はシャルロットに一〇ルク渡しながら尋ねた。
「これでち!」
 シャルロットがにこにこ顔で見せたのはおもちゃのハンマー。……んー…。一五歳っつ
っても、やっぱ中身はまだ子供って事か…。
「じゃあ、五〇ルク!」
「はいよ、どうもね!」
 このばあさん。このブラックマーケットで商売してるようには見えないんだけどー…。
なにしろ、売り物ってのがそのシャルロットのもってるおもちゃのハンマーくらいだし。
ま、いいか…。
 帰り道。やけに満足顔のシャルロットに尋ねた。
「それ、おもちゃのハンマーだろ?」
「違うもーん。こりはちびっこハンマーとゆって、叩いた人をちっちゃくできるハンマー
なんでちよ!」
「おいおい、シャルロット! そりゃダマされたんだよ!」
 ホークアイが慌ててそう言うと、シャルロットはムッとなった。
「シャルロット、ダマされてないでちもん! あのおばあちゃんウソつく人じゃないでち
もん!」
「あのなぁ、シャルロット。そーゆーヤツに限って危なかったりするんだぜ?」
「じゃ、今やってみるでち!」
 そう言って、シャルロットはそのハンマーでホークアイの頭をピコッと叩いた。その瞬
間。
「うおぉぉぉぉー!」
 ホークアイの悲鳴がどんどん小さくなって、そして消えてしまった。
「な、なにぃ!?」
「ちょ、ちょっとシャルロット! あんたいったいなにしたの!?」
「ちびっ子ハンマーで叩いただけでちよう! ちびっちゃくなっただけでちから、ホーク
アイしゃんも近くにいるでちもん」
 頬をふくらませて、ちびっ子ハンマーを振り回すシャルロット。
「ホークアイ! ホークアイ!」
「ここだここだ!」
 小さな声に足元見ると。
「ゲゲッ!?」
 手のひらにでも乗っかりそうな小さなホークアイが、俺の足元で跳ねている!
「ホ…、ホークアイ!?」
「え? ホークアイ? どこよ?」
 俺はホークアイをつまみ上げ、アンジェラの目の前にまでもって来た。
「キャア!」
 アンジェラ驚いて飛び上がった。
「ほ、本当にホークアイなの?」
「そーだよ! おい、シャルロット! 元に戻せよ!」
「シャルロットの事をバカにするからでちもん! 元に戻してあげないでちー!」
「なにぃーっ!?」
「おいおい、シャルロット…」
 しかし、シャルロットはヘソを曲げてしまったらしく、ツンとあっちを向いた。
「…ところでシャルロット、あんた、元に戻す方法、知ってるの?」
「……………………」
「その沈黙はなんだーっ!?」
 半泣きしそうな声で、ホークアイは俺につままれたまま、ジタバタしている。
「まさか…、まさか、一生このままじゃねえよな?」
「…いや、その、俺は、よくわからんけど…」
「たはははは…」
 ガックリと肩を落とすホークアイ。
「たぶん、そんなことはないわよ。魔法のアイテムのひとつじゃない? これ。それなら、
そんな、一生だなんて事ないと思うけどな」
「本当か?」
「たぶんね。状態変化を起こす魔法って、そんなに持続性ないもの。それより、宿屋に戻
ろ。それから考えたって良いじゃない」
 そりゃそうだ。
 とゆーわけで、宿屋に戻ってきた。
「おい、本当に元に戻れるんだろーな!?」
「たぶんね」
 ホークアイの問いにほとんど上の空で答え、アンジェラはそのちびっ子ハンマーをしげ
しげと調べている。
「もし、一生このままだったら責任とって、おまえの胸の谷間にでもずっと入れといてて
くれよ」
「なに馬鹿な事言ってんのよ!」
 余裕あるなぁ、ホークアイのヤツ。
「なんかわかったかぁ?」
「あんまり。でも、魔法のアイテムなんでしょ? だったらプイプイ草でじゅうぶんじゃ
ないかな。あと、もう一度叩くとかね」
「もっと小さくなったりしないか?」
「試してみようか?」
「やめろよ!」
 ホークアイが怒ってぴょこぴょこ跳ねた。
「こり、プイプイ草の煎じ液でちけど、本当に効くんでちかね?」
 いちいち戦闘の時は煎じるヒマなんぞないので、先に煎じといたヤツをビンに入れて持
ち歩いてるのだ。シャルロットはそのビンを取り出してきた。
「効くんじゃない? 月の精霊魔法で体をちっちゃくしちゃうやつってあったハズだもの。
それだって、これが効くんだから。ヘーキヘーキ!」
 アンジェラの軽い口調がどうしても引っ掛かるようだったが、ホークアイが煎じ液をな
めると、見る見るうちにホークアイが元の大きさに戻った。
「おお! 戻った!」
「ホラねー? 言ったでしょー。プイプイ草が効くんだから、シャルロットのティンクル
レインでも大丈夫よね。あれって浄化の魔法でしょ」
「あ。そー言われればそーでちよね。なぁんだ、ホークアイしゃん。元に戻る方法、けっ
こうありまちよ!」
「…まあ、それはともかくとして、いきなりそんな得体の知れないもんを使うなよ。ビッ
クリするじゃねぇか」
「だって、ホークアイしゃんがあんな事言うからでちもん!」
「だからって、いきなり使うこたねえだろ。もし、危ないもんだったらどうするんだよ?」
「……だって、だって…」
「あぁ、もう……、…今度から気をつけろよ」
 シャルロットが泣きそうになってしまったので、ホークアイはそれ以上言うのをやめた。
 まぁ、そんなことがあったものの、次の日、俺たちは定期船に乗ってパロに向かった。
「おっふねー、おっふねー!」
 いつでもどこでも、明るく跳ね回っていられるシャルロットは幸せそうだ。あれで一五
歳とは未だに信じられない。
 定期船がやっとパロに着き、俺らは船を降りたんだが、なんか町の様子がおかしい。
「…なんか、町の様子おかしくねえか?」
「…うん…。どうしたんだろう…」
 不気味な程静かな町の様子に、俺らは慎重に歩いていると、だれかが立っているのが見
えた。
「だれかいるな…」
「ああ…。すいませーん……。わったたヤベエ!」
 いきなりホークアイは血相変えて、俺の後ろに隠れた。しかし、その突っ立ってる人の
様子がおかしい。
「ん? 俺がだれだかわからないのか? おーい」
 ホークアイは、その人の目の前を手でぱたぱた振ってみる。反応ナシ。
「おーい、なんとか言ってみろよー」
「………パロは、我々ナバール盗賊団改め、ナバール王国が占領した! おとなしくして
いれば、危害は与えない!」
「ゲッ!?」
 思わずうめいた。そうか、それでホークアイが慌てたんだな。
「ん? どしたんでちか?」
「…あのな、ホークアイってナバールの人間だった、てのは知ってるよな?」
「うん」
「んで、ホークアイはナバールの奴らに追われてるんだってよ」
「…………そりは大変じゃないでちか!」
 今更ながらに驚くシャルロット。遅いんだよ、オマエ…。
「…しかし、この様子だと、ナバールの奴ら全員、イザベラのヤツに操られてるのか…。
クッソー…」
 ホークアイが悔しそうに、舌打ちする。こいつもこいつでけっこう大変なんだよな。
「ま、いいじゃないの。おかげであんた、堂々とこの町出歩けるわよ」
「………そりゃそうだけど…」
 ホークアイは苦い顔してアンジェラを見ていたが、ため息をついて、歩きだした。
 パロの至る所にナバール兵がいるのだが、だれもかれも、正気のない目でウロウロして
いるだけだった。ハタから見るとかなり怖い光景だ。
 途中、ネコ男が路上のはじっこでブツブツなにやらつぶやいている。
「ひょーう、ナバールってネコしゃんもいるんでちか!」
「なんだって!?」
 シャルロットの声に、過剰に反応して、ホークアイはそのネコ男の所に走り寄った。
「おい、おいニキータ! ニキータ!」
 ネコ男をがくがく揺らすが、ネコ男はいっさい反応ナシ。
「クッソー…。イザベラめ! ニキータまで…」
「…このネコ男、おまえの知り合いか?」
「……ああ…。ナバールで俺を慕ってくれていたヤツさ…。チックショー…」
 なんだか、ホークアイがシリアスしてる所を久しぶりに見たような気がする…。

 とりあえずは、バストゥーク山へ登らなきゃならんのだが、俺はともかくアンジェラや
シャルロットがバテるのは目に見えてる。体力を十二分に回復させてから登ろうってんで、
今日はパロに泊まる事にした。
「…俺、酒場に行ってくるわ…。なんか、良い情報あるかもしれないから…」
 元気のないホークアイ。……………。
「待てよ。俺も行く」
 アンジェラとシャルロットは先に寝てるというので、俺らは酒場に行く事にした。
 酒場は、ナバール兵が数人いるだけ。やはり占領されて酒を飲む気にはなれないんだろ
う。
 隣で、ホークアイがため息ついた時だった。
「ん? ………おお!」
 落ち込んでいたはずのホークアイがにわか喜びの声をあげたので、ちょっと驚いてホー
クアイの目線をたどると、可愛い娘が一人、酒場のウェイトレスと話しているではないか。
「あの娘は…」
「知り合いか?」
「うんにゃ。でも、でも前に一度会った事がある!」
 本当かよ…? 俺の疑わしそうな視線に一切気づかずに、ホークアイは彼女をナンパし
にかかった。
 彼女、本当に可愛いんだ。可憐って言うのかな、長い金髪に、大きな瞳。ちょっと生真
面目そうだけど、そこが良いというか、なんと言うか。もう、ほんっとに可愛いんだって
ば。ホークアイの好みって、あんな感じの娘なのかな。
「ねえねえキミ!」
 ホークアイは迷わず彼女に一直線。早速口説きはじめた。
「は、はい?」
「俺の事覚えてるかな? ジャドで会ったさぁ」
「え、えっと?」
 戸惑ってるぞ、あの娘…。いいのか…?
「あのー、私、急いでるんですけど…」
「ちょっとくらい、いーじゃん。ね?」
 ホークアイのヤツ、よっぽどあの娘が気に入ったと見える。普段なら、脈なしと思った
らとっととあきらめるのに、今回に限っては全然あきらめる気配がない。
 あーあー、彼女、本当に困ってるぞ…。そんな時だった。ウェイトレスがいきなりドン
ッと彼にぶつかってきた。
「うわっ!」
「あっ、スミマセン!」
 その拍子に、グラスの中の水がホークアイにぶちまけられた。
「うえーっ!?」
「ああ、スミマセンスミマセン!」
「ちょっと、これ…」
 なーんて騒いでいるうちに、可愛いあの娘はスタコラ逃げ出してしまった。
「あ! ねえ、ちょっと君! ………チェーッ…」
「おめーがあんまししつけーからだよ。ホレ、とっと拭けよ」
「本当に、どうもスミマセン…」
「あーあー…。ジャドで会った時から目ぇつけてたのにぃ…」
 本当に残念そうに、ホークアイはガックリうなだれた。
「ま、あきらめろよ。あーんな可愛い娘、おめーじゃ釣り合わないって!」
「うっるせーな、おめえは。こーいうのはだな、釣り合う、釣り合わないの問題じゃねー
んだぞ」
「そうなのか?」
「そうなの!」
 ムスッとした顔をさせて、またホークアイはため息をついた。
 結局、たいした情報も得られないまま、俺らは宿屋に戻った。

・

「ハアッ…、ハアッ…、ハアッ…」
 やっぱり、世界一高いというバストゥーク山は、アンジェラ達にはツラそうだった。そ
れでも、出会った頃よりは彼女たちも随分体力ついてきたのは確かだけど。
 やっとこさ、山の中腹まで上って来れた。下界を見下ろすと、パロがあんなに小さく見
えて、ここまで上ってきたんだなぁっていう実感がわく。
「さて、ここで問題です。右と左。どちらが正しい道でしょう?」
 ホークアイが、別れ道の前にたって芝居がかった口調で言う。別れ道には立て札があっ
たようだが、誰かにぶっ壊されていた。地図とかちゃんと用意したかったんだけど、あい
にくパロはナバールの統制が入り、地図が手に入れられなかったのだ。
「うーん…」
「シャルロット右が良いでち!」
「俺、どっちでもいーや」
「私も…」
「なんだよ、二人とも付き合いわりぃなぁ。けど、どっちが合ってるかなんて、わからな
いもんな。…しゃーない、右に行ってみっか」
 そーゆう事で、俺らは右に行く事になった。吊り橋を渡って、ひたすら歩く。
 ここにいるモンスターをやっつけながら進むから、そんなに早くは進まないんだけどさ。
でも、だんだんモンスターの数が少なくなってるような気がするなぁ…。
「あーっ!」
 コカトバードをフレイルでぶっ飛ばしてから、シャルロットがいきなり叫ぶ。
「なんだよ?」
 チビデビルをなぎ払い、俺はシャルロットに聞いた。
「ホラ! ホラ、あそこにお花畑があるでち! シャルロット、行ってみるーっ!」
「あ、おい待てよ!」
「おーい、どこ行くんだよー?」
「置いてかないでよっ!」
 と、四人一緒に花畑に突入したのがまずかった。ここにいるだけで、急激に猛烈な眠気
におそわれた。
「うっ…。こ、これは…」
「眠り草の花…?」
 俺も聞いた事がある。花粉に強烈な眠り作用のあるものが含まれているとか。
「し、しまった…」
「スースー…」
 俺の意識は、シャルロットの寝息を聞きながら、暗転していった…。


                                                             to be continued...