「あいってー…」
「ジッとしててくださいまち」
 シャルロットが回復魔法の呪文をブツブツ唱えている。俺は左腕に火傷を負ってしまい、
赤くやけただれていた。あってー…。
「ところで、ありゃなんだい? アンジェラ、おまえの知り合いか? ありゃ」
「……そうよ…。あのコたちは、アルテナの、魔法王国アルテナの兵士なのよ…」
「はあ!? アルテナってあのアルテナのか!? それがどうしてここに」
「そうだ、そうだよ。なんでだよ?」
 問い詰めると、アンジェラはうつむき加減になって、話しはじめた。
「アルテナは、土のマナストーンを狙って、フォルセナに進攻しようとしてるの…。だか
ら…こんな所に。…みんな…ゴメンね、私のために…」
「……ったく、ほんとだぜ! アルテナってのはロクでもねぇ国だな!」
 王女のしつけもできねーみたいだし…。あの紅蓮の魔道士もいやがるしよー。なにより、
フォルセナに進攻って何なんだよ。
「な、なによ! あんたにそこまで言われる筋合いはないわ! あんたなんか橋と一緒に
落ちちゃえば良かったのよ!」
「うるせー! アルテナってのは王女のしつけもできねーのか?」
「なんですってぇ!?」
「おいおい、お二人さん…」
「現にだな、俺の左腕に負った火傷は…」
「もう治ったでちよ」
「え?」
 あ、ホントだ…。すでに治っている…。
「………………」
 思わず口をつぐんでしまう。
「ま、まあ、とにかくだ。橋は壊れちまったし、これからどうするか、だよ」
 気まずい雰囲気を、ホークアイはなんとかとりなす。
「迂回路、他にないんでちか?」
 俺は首をふった。あの橋だけがフォルセナに続く交通手段なのは、外敵から守るための
いわゆる一つの手段なのだ。
「どーするー? これじゃフォルセナに行けないぜ…」
「……そういえば、マイアのヘンテコオヤジが行ける、とか言ってましぇんでちたか?」
「……ヘンテコオヤジ?」
「デュランしゃんに勘定はらわせた、無銭飲食オヤジでち」
「ああ! あのムカつくヤツか!」
 そう言われれば、そんな事言っていたよーな…。あいつに頼むというのか?
 しかし、他に思いつく事もなくて、仕方なくまた俺らはえっちらおっちら黄金街道を戻
って、マイアまで戻る事になったのだ。
・
 無銭飲食オヤジの名はボン・ボヤジ。けっこう有名なヤツらしくて、家はすぐにわかっ
た。
 ノッカーをたたくと、中から可愛い声がした。それからドアが開いて、その声通りの可
愛い娘がでてきた。
「どなた?」
「あ…」
「俺たち、ボン・ボヤジって人に用事があるんだけど、いるかな?」
 何か言おうとする俺を押しのけて、ホークアイはいきなり割り込んできた。ったく、可
愛い娘を見るとすぐこれだ!
「あ、アニキの事」
「ええ!? あ、アニキって、あ、あのオヤジが君のアニキなワケ!?」
 本当かよ!?
「そーよ。オヤジに見えるけど、あれはあれでけっこう若いのよ。アニキーっ! アニキ
に用事があるって人達が来てるけどー?」
「やかましい! 今、忙しいのじゃ!」
「うるさいわねっ! アニキのためにわざわざ訪ねてきてくれたんだから、会いなさいよ
っ!」
「……………」
 妹の一喝により、ボン・ボヤジは姿を現した。
「ん? キミたちゃだれだ?」
「……………コノヤロウ…」
 すっかり忘れてやがるぜ…。
「あのさー、あんた、前にフォルセナまで行けるどうのって言ってなかった?」
「ん? ゴージャス凄いぞ頑張れ僕らの大砲タロー君2号の事かね?」
 ……なんか、前と名前が違うような…。
「いやな、大地の裂け目にかかってる吊り橋が落ちちまって、フォルセナに行けなくなっ
ちまったんだよ。それで…」
「なんと! それなら今こそゴージャス凄いぞ頑張れ僕らの大砲タロー君2号の出番じゃ
ないか! おまえら、ウチの庭に来いっ!」
「どわあっとととっ…」
 ホークアイの手を無理やり引っ張って、彼はここの庭まで俺らを連れて行く。
 そこには、ばかでっっけぇ大砲が置かれてあった。
「はっはー…。こいつぁでけえ…」
「これでフォルセナまで飛ばせば、ひとっ飛びってなもんじゃ!」
 エッヘンと胸をはって大威張り。
「飛ばせばって、どうやって飛ばすんだよ?」
 まさか、俺たちをこの中に詰めて飛ばすなんて言うんじゃねえだろうな? みんな、俺
と同じ事を思ったらしく、ちょっと顔をしかめた。
「ん? それには……あ!」
 急に思い出したように大きな声を出すボン・ボヤジ。みんな彼に注目する。
「ニトロの火薬だ! ニトロの火薬を忘れとった。おまえら、ニトロの火薬を取って来
い!」
 ………………。
 俺らは無言で顔を見合わせ。
「フザケんじゃねえぞ、オヤジ…。いきなり何言い出すんだよ?」
 俺はボン・ボヤジの襟首つかんで、宙ぶらりんになるまで締め上げた。
「ウグググッ…。く、くる、くるし…、わ、わかったわかった! ちゃんと説明するから!」
 そう言ったので、下に降ろしてやった。ボン・ボヤジは首のあたりをなでまわしながら、
「ふ、ふう…。ニトロの火薬というのはな、ドワーフたちが穴を掘る時につかう強力な火
薬で、それさえあれば、この大砲は完成するんじゃ。それで、お前たちをフォルセナにま
で飛ばす事ができるんじゃ」
「本当かよ?」
「失敬な! わしゃ天才錬金術師だぞ! そんじょそこらのヤツにこんな大砲は作れ
ん!」
 …確かに、こんなでかい大砲はそうそう作れるシロモノじゃないだろうが…。
「……どうする?」
「他に道はないし…。仕方ないわ…。ドワーフのトコまで行きましょう…」
 アンジェラはため息混じりに判断を下した。
「で、ドワーフってドコに住んでるの?」
「大地の裂け目辺りにいるはずじゃが…」
 そういえば、俺もそんな事聞いたな。あそこらへんでドワーフを見たって人も少なくな
いし。でも、ドワーフの所まで行った、という話は聞かないんだよな。

・

 と、いうワケで。はるばる大地の裂け目まで行って! 会ってきたよ、ドワーフたちに。
ついでにジュエルイーターとかいうモグラのバケモノを倒して、ラッキーな事に大地の精
霊ノームまでも、仲間にする事ができた。
 ノームってのはドワーフたちにとっちゃあ守り神みたいなもんでね。ジュエルイーター
に捕らわれていたノームを助けたお礼にって、高価なニトロの火薬をタダでくれた。
 少し、気になったのはジュエルイーターの事。千年に一度、異変が起きる時にのみ姿を
現すって事だ。確かに、今はおかしな事ばかり…。これから、悪い方向に行かなきゃ良い
と思うんだが…。
 黄金街道行ったり来たりするのはもういい加減ウンザリなのだが、ここを通らないとど
うしようもないのだから、しょうがない。
「オラ! もって来たぜニトロの火薬!」
 俺らは、改めてボン・ボヤジの家を訪ねた。
「…………なにそれ?」
 ボン・ボヤジがきょとんとした顔で聞いてきた時は、本当に殴り飛ばそうと思った。み
んなに止められたけど…。
「あー…。あ、そうそう! 大砲だな、大砲! 任せておけ! 一発でフォルセナに飛ば
してやるわい! 通行量は五〇ルクだ!」
「…………………」
 俺は無言でボン・ボヤジの襟首をつかんだ。今度はだれも止めない。
「フザケんなよ…。ああ!? この前は俺に勘定払わせやがって! 今度は五〇ルクだあ!?」
「あああああ、はいはいはいっ! 無料でっ! 無料でやらせていただきますですハイハ
イ!」
 ボン・ボヤジの説得に成功。タダで飛ばしてもらう事になったのだが…。
「あのよー…。この大砲でどうやってフォルセナまで?」
「ん? 決まってんじゃろう。ホレホレ、はよ大砲の中に入れ!」
「え? え? え? 入れって…、この中にか!?」
 ホークアイは大砲を信じられないという顔付きで指さす。
「そうじゃ! ほれはよう!」
「ちょ、ちょっとちょっと…」
 ボンボヤジに背中をおされ、大砲の中へ。
「…せ、せまい……どわぁ!?」
「キャッ!?」
 いきなり、大砲は上を向いたもんだから、みんなもんどりうって引っ繰り返った。俺は
後ろの方にいたもんだから、みんなの体重を受ける事になり、まったくもってたまったも
んじゃない! ぁんだこりゃ!?
「なにが始まるんでちかねえ?」
「しらねーよっ!」
「ヤダ! ヘンなトコ触ったでしょーっ!」
「不可抗力だよっ!」
 しょうがねーだろう!? もうぎゅうぎゅうで身動きとれないんだから! キツくて感触
もクソもあったもんじゃない。
 一人嬉しそうなシャルロット以外全員。もう不安で不安で…。
「一応、落ちる時には衝撃を和らげるよう魔法がかかってるんでな。安心せい! いっく
ぞー!」
「どうなっちまうんだよー!?」
「しらねーってばっ!」
「ワクワクするでち!」
「しーんじらんなーいっ!」
 ぎゃあぎゃあ大騒ぎもつかの間。ジジジッと表でなんか音が聞こえたかと思うと…。
 とんでもない衝撃が俺の背中あたりからして、凄まじい音ともに俺らは吹っ飛ばされ
た!
 ズッドォォォーンッッ!
「うきゃほーうっ!」
「どっしぇええええぇっっ!」
「うぅおおおおぉぉっっ!」
「ウッソーッッッ!」
 景色がグルグルグルグル回ってもうなにがなんだか!
 そして、どんどん地上が近づいてきた!
「このままどーなっちまうんだーっ!?」
「しらねぇぇぇーっっ!」
「もーいやーっっ!」
「キャーハハハハハハハッッッ!」
 ドスンッゴロゴロゴロゴロゴロッッ!
 確かに地上に落ちる時の衝撃は一瞬和らいだような気がした。そう、気持ち分。これじ
ゃ衝撃和らいでねーじゃねーかとでも言いたいぞ、俺は!
 みんなもんどりうって、地べたをゴロゴロ転がって、やっっっと、止まった…。
「ううー…」
 目を回しているのは、俺だけじゃない。アンジェラやホークアイもそうだ。ただ一人、
シャルロットだけは、寝っ転がりながらも手足をバタバタさせて、きゃはきゃは喜んでい
た。アンジェラじゃねえけど、信じらんねえ根性…。
「イタかったでちけど、楽しかったでち」
「…………」
 ホークアイが無言でにらんでいたが、たぶん今の俺も似たような目付きしてただろう。
「やーん、もう玉のお肌が傷ついちゃうじゃない!」
「…ところで、ここがフォルセナなのか?」
 え!?
 ホークアイの冷たい声に周囲を見回すと、城下町とかじゃ全然なくて、ただ、のんびり
とした草原が広がっている。
「あ、あのヤロー、失敗しやがったな! ここ、フォルセナじゃなくて、モールベアの高
原だぞ!」
「なんだって!? フォルセナから遠いのか!?」
「いや。遠くはねえけど…」
 モールベアの巣穴だらけで落っこちやすくって、歩くのにスゲー不便なのだ。
「急いだほうが良いわね…。アルテナの軍勢がフォルセナに攻め入るかもしれないし…」
 あ…! しまったすっかり忘れてた! 国王陛下が…。
「お、おい、急いでフォルセナに行こうぜ!」
 俺は慌てて立ち上がった。事態が深刻とわかってくれたみんなは、すぐにうなずいて立
ち上がった。俺は先頭きって走りだした。
 が、しかし…。
「ちょっとー! 助けてーっ!」
「あててっ! ぁんだよ、これぇ!?」
「ひーん! また落っこちたでちーっ!」
 仲間のみんなはモールベアの巣穴に足をとられるは、穴にハマッてでられないわとまあ、
急ぎたいのに、急げない! シャルロットなんか一体何回穴に落ちたんだろう?
 未だ城も見えないが、フォルセナ方面から幾筋もの煙りがあがってる! もう、アルテ
ナの進攻が始まっちまったのか!?
 そして、やっっと、なつかしいフォルセナの門が見えてきた。あの中に城と城下町があ
るのだ。みんな、大丈夫かな!?
  門をくぐると、門番と思われる兵士がたくさん横たわっていた。
「! お、おい! しっかりしろ!」
 見覚えのある兵士を軽く抱き上げ、軽く揺さぶる。
「う…。ま、まほう、王国…アルテナが攻めて…キタ…。は、はやく…。陛下が、あぶな
…」
「わかった! おまえはもうこれ以上喋るな!」
 ふと気づくと、町の有志が兵士たちの手当にあたりはじめていた。どうやら敵は城内に
攻め込んだらしい。
「おや、デュラン! いつここに!?」
 なかには知り合いのオヤッサンとかも見かけた。
「あ? あ、さ、さっき…。俺、陛下のトコに行ってくる!」
 もしかして、もしかしなくても、あのステラおばさんの事だから、有志としてすぐにこ
こにやって来るだろう。本当は会いたいけど…、でも、目的を達するまでは、会えない…。
事態が事態だから、フォルセナに来ちゃったけど、本当は来たくなかった。
「みんな! 城はこっちだ!」
 みんなを誘導して、城まで一直線に走る。背中に、かすかにオバさんの声を聞いたよう
な気がしたけど…。

・

 城に来ると、たくさんのフォルセナとアルテナの兵士たちが倒れていた。
「こ、これは…」
「大丈夫! この娘も気絶してるだけよ! どちらにせよ、これ以上犠牲が出ないよう早
く止めなくちゃ!」
 アルテナの兵士の様子を見ていたアンジェラが叫ぶ。ホークアイもうなずく。
「とにかく、国王陛下をなんとしてでもお守りせねば! 行くぜ!」
「あ、ちょ、ちょっとぉ!?」
 俺はかまわず突っ走った。陛下の御身にもしもの事があってはならない!
 駆け込んだ城内には、なぜかモンスターがうじゃうじゃいた。
「な、なんだこりゃ!?」
「ま、魔法生物! だれかが召喚したのね…。それにしても、この数…。紅蓮の魔道士の
仕業としか考えられない…。英雄王さん、冗談ヌキでヤバいわよ!?」
「ちっくしょーっ! しゃらくせえっ! どけよっ!」
 俺らに群がって来る魔法生物を蹴散らし、なぎ倒し、国王陛下のおわす広間に急がなけ
れば!
 途中、魔法生物らしきモンスターから背後からまともに魔法をくらってしまった。焦っ
てスキを見せたか。
 焦りは禁物と思いながらも、どうしても、焦ってしまう。
 腕が痛い。足に傷がついている。背中も火傷しただろう。でも、そんなことかまってら
れない。
 階段を駆け登って、ドアを開けて…。
 バンッッ!
 俺が勢いよく両開きのドアを開けると、あの、あの紅蓮の魔道士が陛下の前にいて、今
にも魔法をぶっ放そうとしていた時だった。
「待てっ!」
 俺は声を振り絞って叫んだ。
「ほほう…。いつかの小僧ではないか…」
 陛下は、座ったまま凍ったように動けないでいる!
「陛下に何をした!?」
「なに、魔法をちょっとね…」
「やめろぉっ!」
 俺は紅蓮の魔道士に切りかかろうと、走りだそうとした時だった。
「待ちなさいよっ!」
 背後から、アンジェラの厳しい声がした。
「おや、これはこれはアンジェラ王女様…。こんな所でお目にかかれるとは思ってもいま
せんでしたよ…」
 紅蓮の魔道士は、チラッとアンジェラを一瞥した。彼女の背後から近づく仲間の気配に
も気づいたか。
「……邪魔が入ったようだな…。……小僧、覚えておいてやろう。また近いうちにな!」
 そう言って、フワアッと浮いたかと思うとスッと消えてしまった。
「あ、ま、待てよ! 俺と勝負しろよっ!」
 しかし、声は届くはずもなく、魔道士は本当に消え去ってしまった…。
「……チックショオ…」
「デュラン…」
 後ろから、アンジェラの声もした…。俺は、ため息をついて…。気をとりなおす事にし
た。陛下の御前だものな…。
「陛下、ご無事でなによりです…」
 跪いて、陛下に頭を下げる。
「デュラン…。戻ったのか…」
「はい…」
「どうなっちまったんでちかね!? 急にモンスターいなくなっちまったでちよ!」
 ドアの方からかん高い声がする。疑いようもないくらいのシャルロットの声だ。あいつ、
陛下の御前だというのに…。
「あら…、ろ…。と、ここは王様の部屋か?」
 ホークアイもちょっと戸惑ったようだが、陛下がうなずくと、黙りこくった。
「英雄王様!」
 いきなり、フェアリーがフワリンッと出て来たのだ。さすがに今のはビックリしたぞ。
「おまえはフェアリー! と、いうことは世界に危機が迫っておるのか!?」
「…ええ…。聖域のマナの樹が枯れはじめてきてるのです…。英雄王様! お願いです。
マナストーンについてお教えください! 一刻も早く精霊達を仲間につけ、聖域の扉をひ
らかなくてはならないのです!」
「……なんと…。フェアリーが出るとは…。しかもデュランに取り付いておるとは…。な
んと因果なことか……」
 陛下は複雑な表情で俺の方を見ていた。……?
「………ああ、…そうだ…マナストーンの事だな…」
「はい。ウィスプとノームはすでに見つけました」
 陛下は小さく頷いて、それからマナストーンの事を教えて下さった。
 まず風の精霊ジンを見つけること。ジンはローラント地方のバストゥーク山にいること。
風のマナストーンもそこにあるということ。そして、山のふもと、漁港パロ行きの船がバ
イゼルから出ているから、そこから行くと良いということ。俺は陛下の言葉一つ一つを頭
に刻み付けた。
 それから、ジンを見つけたら、また戻って来いとのこと。最後に、俺に頑張れと声をか
けて下さって、すごく嬉しかった。
「しかし、どうしてアルテナがここを?」
 さっきまで黙って聞いていたホークアイが、陛下に聞いた。言われてみれば、確かにそ
うだ。アルテナがここを攻めた理由というのが、よくわからない…。
「……アルテナは…。アルテナは各地のマナストーンを手に入れるためにこんなことして
るのよ…」
 内部事情にくわしいアンジェラが話しはじめた。そういえば、この前聞いても教えてく
れなかったんだよな。
「マナストーンを?」
「……マナが少なくなって、アルテナは以前のような暖かさが保てなくなってきたの…。
お母様の魔力でもね…。この事態をなんとかするために、各地のマナストーンを集めるた
めに、侵略しようとしてるのよ…」
「そういえば、アンジェラしゃんってアルテナの王女様だったんでちね」
 どうやら、シャルロットはその事をすっかり忘れていたらしい。
「…アルテナの王女!? では、まさか、まさかあのヴァルダの娘だというのか!?」
 それを聞いた陛下の態度が一変した。ん?
「そうよ。英雄王さん。母をご存じなの?」
「………まさか、ヴァルダに娘がいたとは…。し、しかしなぜ王女がここに?」
「……アルテナを追われたのよ…。お母様、私を抹殺しようとして……」
「なんだと!? あの優しかったヴァルダが娘をだなんて…。一体…」
「……英雄王さん?」
 陛下のご様子に疑問をもったか、アンジェラがいぶかしげな顔付きで陛下を見た。
「あ? ……ああ、悪い…。……なんでもないんだ…」
「なんでもないって、そんなミエミエのウソつかないでよ。気になるじゃない! もった
いぶってないで、教えなさいよ!」
「こらっ! 無礼者!」
 アンジェラの、陛下に対しての、さん付けに苛立っていた俺は、思わず声を荒げた。
「なによっ!?」
「あー、もうおまえさんがた、こーゆートコではやめとけってば…」
「いや、かまわん…。いずれ知る事になると思うが、今は知らない方がいいだろう…」
 俺がアンジェラをしかりつけると、陛下はそう言って、俺をいさめられた。でも、そう
おっしゃられると、アンジェラじゃなくても、なんだかちょっと引っ掛かるナ…。
 とにかく、今度はバイゼルまで行って、パロに渡らなければならない。どうやって戻ろ
うか、なんてみんなで相談してたら、知り合いの兵士が俺らに話しかけてきた。
「ああ、それなら、城の中庭に大砲が設置されてるから、そいつを使ってくれ!」
「た、大砲!?」
 俺らはギクリとした。また飛ばされなきゃならんのか!?
「ああ。なんでもマイアの錬金術士の弟が来ててな。大地の裂け目を通りたい人のために、
サービスで始めたらしいぞ。あんま利用客はいないみたいだが…」
 そりゃそうだろう。でも、急がなければならない。あまりにのんびりしてると、またフ
ェアリーにせかされるんだろうしなー…。
「ま、まあさ、別に今すぐ行かなくてもいいだろ? 今日はもう疲れたしよ。フォルセナ
で一泊してこうぜ!」
 ホークアイの意見にみんな賛成だったので、そうする事になった。俺は反対したんだけ
ど、あっさり却下された。俺、ここに長居したくねえんだけどなー…。
 気は進まなかったものの、やって来てしまった城下町。昼間の騒ぎも、夕方になると、
だいぶおさまっていて、いつもの活気を取り戻していた。
 みんな強いなぁ…。その立ち直りの強さが、なんかすごく嬉しかった。
「ねえねえ、どこ行くんでちか?」
 シャルロットはどこでもたいがい明るい。笑顔と愛嬌ふりまいて、確かに可愛らしいの
は認めるが、単にノーテンキなだけなんじゃないかと思う…。
「あ、ねえ、デュラン!」
「あん?」
「フォルセナってあんたの故郷なんでしょ? 私、あんたの家行ってみたい!」
 うっ…!
 アンジェラがとんでもない事を言い出した。
「ああ、そうでちそうでち! シャルロットも行ってみたいでち」
「どんなトコなんだー? おまえの家って」
 おまけにみんな乗り気になってるし…。
「…あの、その……スマン! 今は、ダメだ…。…その、俺、旅に出る時、目的を達する
まで、絶対家に戻らないって決めたんだ…。だから、今は、勘弁してくれ…。後で、後で
目的達したらみんな招待するからさ。だから、ゴメン!」
 俺が手を合わせて謝ると、みんなは顔見合わせた。うーん…。まだ言ってくるかなぁ…。
「…ふーん…。わかった。じゃ、今はいい。デュランってそーゆートコ頑固よね」
 意外にも、アンジェラが理解を示してくれた…。ホッ…。
「でも、残念だな。デュランの部屋見てみたかったのに…。あー、もしかして、エッチな
本とかあって見せられないとか?」
「なっ! ば、バカヤロッ!」
 いきなり何を言い出すのかと思ったら! アンジェラは、冗談のつもりだったのか笑っ
てるけどよー…。
「はははは」
 アンジェラと一緒にホークアイも笑い出した。チェッ…。

                                                             to be continued...