自由都市マイアに着く頃には、もうとっくに昼は過ぎていた。
 マイアは初めてじゃない。港につくと、俺以外のヤツらみんなキョロキョロしている。
初めてのトコってついそうなっちまうよな。
「マイアって、けっこうにぎやかな所なんだな…」
「まー、ともかくどっか飯屋に入ろうぜ。俺、もうハラ減ってしょうがねぇ」
「同感でち。どっかいいとこはありまちぇんかねえ?」
 シャルロットは船に乗ってる間中ずっと眠っていたので、ホークアイが仲間に入った事
を知らない。改めて昨日の話をして、その事を告げたんだが、彼女はそれよりも、腹が減
った事のほうが重大であるらしかった。
「あそこのレストラン美味しそうでち! 行ってみまちぇんか?」
 と、シャルロットが指さしたのは、いかにもって所の高級レストラン。
「高そうだぜ。もっと安そうなトコ探そう」
「そだな」
「貧乏くさいとこなんて、やーよ」
 ホークアイは俺に同意してくれたが、アンジェラはちょっと顔をしかめた。
「いーじゃねーかよ。どこだってよ。腹ン中入っちまえば一緒だって。それよか、俺、お
前らの倍は食うんだからな。あんなトコじゃ絶対足りないよ」
「そうそう。成長期男子ってばかばか食うんだから」
 ホークアイもうんうんうなずいて、俺の肩を持ってくれた。
 俺らが入った飯屋は『海豚亭』という、大きめの居酒屋。中途半端な時間だから、そん
なに人はいなかったけど、酒の匂いやスパイス、調理の煙なんかで部屋の中はもうもうと
していた。
「ちょっと、こんなとこ入るのー?」
「こーゆートコが穴場なんだって!」
 不服そうなアンジェラを、ホークアイが言い含めている。
「いらっしゃい! 何人!?」
 肌黒い、威勢の良さそうなネーチャンがお盆を持ちながら聞いてきた。
「四人だ!」
「そっちに座って!」
 顎で指し示したトコにみんなはやれやれと、腰を下ろす。そして、机の横に立て掛けて
あるメニューを手に取る。
「うーん、どれ食おうかなー?」
「シャルロット、ケーキぃ!」
「そんなもん、こんなとこにあるかよ」
「えー…」
 今度はシャルロットが顔をしかめた。ちょうどそのとき、店のネーチャンが注文を取り
にやってきた。
「なんにする?」
「まだ、決めてねーんだが、とりあえずビールくれ」
「俺も」
「私はオレンジジュースちょーだい」
「…じゃあ、シャルロットはミルクを…」
「OK! 注文が決まったら呼んでね!」
 サラサラと紙に書き付け、ネーチャンは去って行った。
「さてさて。どーれが美味いかなー」
 ホークアイがメニューをひらく。おお、けっこう品数あるじゃねーか。
「やっぱ魚介類が多いよなー…。肉料理ねえか?」
「モールベアの煮付けってのがあるけど?」
「……やめとく…」
 アンジェラたちは、メニュー見ながらブーブー文句たれていたが、それでも決まったよ
うだ。
「はい、ビール2つにジュースにミルク!」
 ネーチャンが飲み物をテーブルに運んでくれる。ついでに注文しちまおう。
「えっとなぁ、このポークソテーと、サーモンテンプラセットと、カツ定食くれ」
「ちょっ、そんなに食べるの?」
 アンジェラは驚いているようだが、これくらいフツーだよなぁ。
「うん。ああ、あと海草サラダも」
「俺はキノコ雑炊とハンバーグ定食、あと海草サラダね」
「はいはい」
 ネーチャンはさらさらと、注文を書き付ける。
「わ、私はー、このマサリのバター焼きと、カレイのムニエルをお願い」
「シャルロットは、チキンの照り焼きとポテトサラダ!」
「はーい。ポークソテーにサーモンテンプラセット、カツ定食、キノコ雑炊、ハンバーグ
定食、マサリのバター焼き、カレイのムニエル、チキンの照り焼き、ポテトサラダに、海
草サラダ2つで良いわね。それじゃ、お待ちください!」
 注文を早口で確かめると、ネーチャンはニッと笑って、厨房に向かった。
「んじゃま、とりあえずは、乾杯でもすっか」
 俺がコップを手にとると、みんなもコップを手にとる。
「冒険の前途を祝って、乾杯!」
「かんぱーい!」
 そう、元気よく、コップをぶつけあったのであった。


「つまりじゃな! ワシのスーパーウルトラゴールデンデラックスキャノンUなら、あん
な危険な黄金街道や吊り橋を渡らずに一発で行けるんじゃ!」
「あーあーあー! もうっ! あっちへ行ってよ!」
 酔っ払ったオヤジがアンジェラにからんできている。アンジェラって格好ハデだもんな。
今だって店の男たちの注目の的だし。
「ちょっと、あんたたち、食べてないでこのオヤジ追っ払ってよ!」
「あろれな…」
 アンジェラには悪いが、すごく腹が減っているので、今はなにより食べる手を止めたく
なかった。それはホークアイも同じだったようで、食いながら頷くだけ。
「んもーっ!」
 アンジェラは顔真っ赤にさせて、俺らとオヤジをにらみつけていた。
「シャルロット、もう食べられないでち!」
 満足そうにおなかをさすって、天井を仰ぎ見るシャルロット。あれだけでもう腹いっぱ
いになっちまうとは…。まだポテトサラダ残ってんじゃん。
「おまえ、ポテトサラダ残ってるぞー」
「ダメでち。もう食べられんでち…」
 首をプルプルふって、本当に腹がいっぱいになっちまったようだ。
「んじゃ、俺もらう」
 ちょうど良かった。まだ食い足りねぇと思ってたんだよな。
「あんた、ほんっとによく食べるわねー」
「フツーだって!」
 俺がポテトサラダを食べようと、手をのばすと、かのアンジェラにからんでいたオヤジ
がパッと食ってしまった。
「あーっ! てめえ、それ、俺が食べようとしてたヤツだぞ!」
「固い事言うな! これでもわしは天才錬金術士でな、ボン・ボヤジという名で…」
「バッキャローッ! てめえ、弁償しろ! 弁償!」
 ビールとラム酒が効いていたのもあり、俺はこのオヤジの首根っこつかんで、グラグラ
揺らした。
「うぐぐぐぐ! ゲホゲホッ!」
「おおい、デュラン! 落ち着けよ!」
 後ろでホークアイが俺の背中を引っ張っている。
「ゴホグケッ! うへぇ、なんつう乱暴なやっちゃ!」
「うるせえ! ポテトサラダ代だけでも出せよおめー」
「ちょっといただいたくらいでなんじゃ!」
「どこがだどこが! あれ、皿の半分は残ってたぞ。一口で食いやがって!」
「……みみっちいヤツじゃのー…」
「あんだとぉ!」
「デュラン! 落ち着けってば!」
 ホークアイが俺の肩をグイッと引っ張る。
「デュラン! もうほっとこ! 食事は終わったんだし、もう出よう!」
 アンジェラが口をとがらせながら、そういうので、俺もこのオヤジをにらみつけながら
も、この店を出る事にした。
 俺が勘定を済ませてすぐ。このオヤジが俺の背中をポンッとたたいて、
「勘定、こいつが払う!」
 と、言って走り去って行ったのだ。そのあの体型から思えないようなスピードにあっけ
にとられていると、カウンターの店員がすました顔で、
「では八八ルクお願いします」
 なんて、言いやがったんだ!
「ええ!? ちょっと待てよ! あれは…」
「しかし、こっちだって払ってもらわないと困るんですよ」
 それから、店員とモメていたが、結局払わされてしまった。クッソー、あったまにくん
なあ! 酔いも覚めちまったよ!
「アイツめっ!」
 今度見つけたら一発殴ってやんないと気がすまねえ。
「まあ、とりあえずは宿屋探そうぜ」
 とりなすように、ホークアイがそう言う。
「どこらへんがいいかね?」
「汚いトコ、やーよ」
 ワガママ言うのはやっぱりアンジェラ。
「なあ、デュラン。金、どんくらいあんだよ?」
「んー? さっき勘定はらった時はけっこうあったからな。四人分の宿代くらいどうって
事ねえだろ。あとは、なんか良い武器か防具があったらそろえてぇしな」
「ナルホド」
 きょうびのモンスターっていうのは金持ちでな。モンスターが落としていく金ってのが、
こりゃまたけっこうなモノになるんだ。
「ねえ、あんなホテルはどうでちか?」
「あん?」
 と、シャルロットが指さしたホテルというのが、そのー、いわゆるラブホテルというヤ
ツだったのだ。
「お城みたいな外見でちね。シャルロット入ってみたいでち」
「………………」
 そうも無邪気に言われると、どう答えていいかわからず、思わず絶句する俺ら。いつの
まにやら、裏街道に入って来てしまったようだ。
「いや、あの、あれはー、ちっと…」
「相手がいないことには…」
「は? 相手?」
「………………」
 シャルロット相手に本当の事など言う気になれないのか、ホークアイは渋い顔したまま、
言葉が見つからないようだ。
「ま、まあ、ここはまた今度っつうことで、な。あっちに行こう!」
 ごまかす事にしたか。ホークアイはシャルロットの手をひいて足早に歩きだした。俺た
ちも無言でそれについていく。
「…ところで、ねぇ、デュラン」
「ん?」
「あのホテル、結局何なの?」
「…………………………」


 そんな事もあったが、とりあえずは宿屋を見つけ、一安心。これからどうするか、話し
合う事にして、みんなが一部屋に集まった。
「フェアリー!」
 俺が呼び出すと、フェアリーはふわりと俺らの前に姿を現す。
「これから、どうすりゃいい?」
「…そうね…。とにかく精霊たちを集めなくちゃいけないのよね。それには、まずマナス
トーンの場所がわからないと、どうにもならないわ」
「おまえ知ってるか?」
「……………」
 首を横にふるフェアリー。
「……ゴメン、私、方向音痴なの…。ウェンデルに行きたくてもけっこう迷ってたくらい
だから…」
「あっ、じゃあ、もしかちて、アストリアに出現した謎の光ってフェアリー?」
 シャルロットが思い出したように言う。
「………そ、そう…」
「…んじゃあ、あんたしゃん、あのとき、ずぅーっと迷ってたんでちか!?」
「…………………」
 返事しないとこを見るとどうやら図星らしい。おいおいおい…。
「で、でも、ホラ、獣人たちに見つかったりしたら大変だし……」
 そりゃそうかもしれんけど……。ま、いいか…。
「しょうがない…。とにかく誰かに聞くしかないか…」
 俺はため息混じりに言った。

 聞き込みに行こうと、宿屋から出ようとした時だった。
 ホークアイが宿屋の入り口で、誰かと話していた。
「ホークアイ?」
「あ、ああ。来たか。いや、この人も、ジャドからの船で逃げてきたって言うからさ。ち
ょっと話してたんだ」
「へぇ…」
 見た感じ、水夫っぽいおっちゃんだった。あれからのジャドの事とか、知ってるんだろ
うか。
「…なあ、じゃあ、あれからジャドとか、どうなったんだ?」
 おれがそう尋ねると、シャルロットも興味があるのか、こっちに顔をだしてきた。
「なんでも、ウェンデルの光の司祭様が命懸けで古代魔法の結界を張ったそうだ。そのお
かげで獣人達は撤退したらしい。今はジャドでくすぶってるって噂だ。…ただなぁ、その
魔法が元で、司祭様、病気で寝込んじまったそうなんだ…」
 シャルロットが、ギュッと俺のスボンをつかんでいる。
「それで、その病気は治せるのか?」
「治せない事はないらしい…。しかし、その病気を治せるのが、ヒースっていう神官らし
いんだが、そいつも行方不明でさ…」
「じゃあ、どうしようもないのか…」
 そう聞くとと、オヤジも顔をくもらせた。
「ああ…。せっかく獣人達が撤退したのに、司祭殿が倒れられるとはなぁ…」
 オヤジの話に、シャルロットはがくがく震え始め、俺のズボンのすそをギュッとつかむ。
 それから、オヤジは自分の取った部屋に行くため、階段を上がって行った。俺はそれを
ちょっと見送って、足元で震えているシャルロットに視線を移す。…大丈夫かな…?
「おい、シャルロット…」
 シャルロットの肩に手をおいて、彼女の目線にあわせ、立てひざをする。
「シャルロット、シャルロット…、おうちに帰るでち! おじいちゃんが病気だって…」
「無理だよ。さっき言ってただろ? ウェンデルはおろか、ジャドにも行けないって…」
「で、でも!」
 半泣きしながら、俺にくってかかるが、無理だという事はわかっているんだろう。がっ
くり肩を落としてシクシク泣き出してしまった。
「シャルロットのせいでち…。シャルロットがおじいちゃんに心配ばかりかけるから…。
どうしよう…。…おじいちゃん…」
 ちゃんと自覚してたのか…。
「ホラ、泣いたってしょうがないだろ。フェアリーが言ってたじゃんか。マナの女神様に
でも、じいさんの病気を治してもらえばいいじゃねえか。な?」
 優しく背中をさすってやる。どうにも、コイツを見てると、ウェンディを思い出す。元
気にしてるかな、アイツ…。
「うっく、ひっく、えぐえぐ…」
 しゃくりあげながらも、うんうんうなずくシャルロット。
「とにかく、マナストーンについて聞き込まないとわかんねえからな。泣いたってはじま
んねえだろ? な、行こうぜ」
「わ、わかりまちた…」
 ごしごし涙をふいて、シャルロットは泣き止もうとしていた。もう大丈夫かな。俺が立
ち上がると、アンジェラが意外そうな顔で俺を見ていた。
「ん? なんだよ」
「いや、あんたってお子様の扱い上手いなーと思ってさ」
「シャ、シャルロットはお子様じゃありまちぇん! これでも、一五歳なんでちから…」
 …………。え? 一五歳?
「えーっっ!?!?」
 俺らの声がいっせいにハモった。ちょっと待ってくれよ、一五歳だとぉ!? ウェンディ
よりも年上なのかよ!
「おま、おま、おまえ本当に一五歳なのか!?」
「ウッソーッ!」
「冗談だろ!?」
「ウソでも冗談でもないでち! シャルロットはよーせーの血をひいているから、ちょっ
と成長がみなしゃんより遅いだけでち! 本当なんでちから!」
「え、えー…」
「本当に本当に本当に本当に本当に本当(中略)本当なんでちから!」
 どーにも信じられない俺らに、シャルロットは本当を連発して、何度も念をおした。
「あ、あー…。わかった、わかった…」
 しまいにはぽかぽか殴ってきたし、どうも本当にウソはついてないらしい。……しっか
し、これで一五歳とは…。わからんなー…。


「ったく、このモンスターの数…。これじゃ、確かに交通量もへるわなー」
 ホークアイがダガーをしまい、モンスターの懐をあさりながらボヤく。
 ここは黄金街道。マイアでの聞き込みによって、フォルセナの英雄王。つまりは国王陛
下がマナストーンについてご存じだというので、これからフォルセナに行くトコなのだ。
 目的を達するまでは、戻らないと決めた手前、戻りたくないんだが、陛下が一番ご存じ
なのだから、仕方ないと言ったら仕方ない。
「ねえねえ! こっちのアサシンバグが宝箱なんか落としたわよー」
 アンジェラが向こうで手をふっている。
「宝箱!? モンスターのくせに宝箱なんかもってやがるのか」
 ポロンの死体を飛び越え、俺とホークアイはアンジェラたちの所まで駆けて行く。
「ホラホラ!」
 なるほど。そんなに大きな宝箱じゃないが、子供が抱えるくらいの大きさのヤツ。シャ
ルロットが宝箱にへばりついて、色々調べてるみたいだが、よくわからないようだ。
「まーまー、俺に貸してみなって」
 シャルロットから、宝箱を取り上げて、つぶさに調べはじめる。そして小さくうなずく
と腰のポーチから針金を取り出す。
 しばらく鍵穴に針金いれてカチカチやっていたが、カチンという快い音がここまで聞こ
えてきた。
「開いたぜ。さーって、なにが入ってるんかなー?」
 こういうのって、なんかワクワクすんなあ。ホークアイはゆっくりめに宝箱を開ける。
中にはなにやら瞳をかたどった水晶玉が入っていた。
「…なんだこりゃ?」
「…知らねえ…」
「なんに使うんでちかねえ?」
 みんなでのぞき込んでたけど、用途はわからない。でもま、もらってソンのないような
ヤツだったから、とりあえずもらって置く事にした。



 黄金街道の途中には大地の裂け目っていう深い深い谷があって、そこにかかってる吊り
橋を通ってフォルセナへと行く事ができる。
 この黄金街道っていうのはけっこうな道程でさ。マイアから大地の裂け目まで、最低で
もたっぷり四日は歩きずくめを覚悟しなきゃならない。俺が一人で通った時はすんごく無
理して、なんとか二日で行けたんだが、アンジェラやシャルロットの体力の事を考えると、
そうもいかない。
 旅人目当ての小さな宿屋があったから、そこで一泊する事にした。
「やあやあ、よくぞおいでなすった。モンスターが出てからというもの、めっきり利用客
が減っちまって…」
 そりゃそうだよなあ。客は俺らとあともう一人いるらしいだけで、他はいない。モンス
ターが出なければ、もっと客がいるだろうにさ。
「へー、じゃ、みなさんフォルセナに?」
 宿屋の女将さんが、食卓に座った俺らにお茶をだしながら聞いてくる。
「ああ。陛下、もとい英雄王様に会いにな」
 お茶をずびずび飲みながら俺がこたえる。
「あちーでちー」
 ふーふー吹いて、お茶を冷ましているのはシャルロット。熱くてカップにも触れないよ
うだ。猫舌なんだろうか。
「………………」
 ん? アンジェラのヤツ、さっきからなんだか神妙な顔して、静かだな。
「どうした? アンジェラ?」
「…なんでもないわよ!」
 俺をギンッとにらみつける。…なんでそんなに不機嫌なんだよ…。お茶にも手をつけよ
うとはしていないし。
「おまえ、お茶飲まないの?」
「うるさいわね!」
 …なんだよ、いきなり不機嫌になりやがるなぁ。
「んじゃ、俺がもらっていいか?」
 全然口つけてねーし、なによりもったいない。
「……………」
 信じられない、と言った顔で、俺を見ていたが、お好きなように、とか言ってさっさと
部屋に戻ってしまった。
「なんだぁ? アイツ…」
「女の子の日かねえ」
「ブッ!」
 ホークアイの言葉に思わずお茶を吹き出す。向かいでシャルロットが顔をしかめている。
「けほっごほっ、な、なんだよ、おめーいきなり…」
「いやー、言ってみただけなんだけどー」
 頭をぱりぱりかいてヘラヘラ笑ってる。んっとに、もう…。
「……で? 本当にそうなのか?」
「知らねえ。けど、ホラ、なんとなく機嫌悪いじゃん?」
「……機嫌悪いとそうなのか?」
「さあ? でもな……っと、なんでもない…」
 ホークアイはシャルロットをチラッと見て、それ以上話すのをやめた。確かに、これ以
上話すとワイ談に行きそうだったので、やめておいた方が良いだろう。ちびっこいとは言
え、シャルロットも一応女の子だし…。
 取った部屋は四人部屋。アンジェラは男女別々が良かったらしいんだが、大部屋の方が
安かったから、こうなった。
「ちかれまちたー」
 ベッドにコテッと、寝っ転がるシャルロット。早速あくびなんかしている。
「シャルロットはもうお風呂はいっちゃった?」
「もう、はいりまちたでち。でちから、ホラ、ちゃんと寝間着着てるでしょ?」
 水色で腹の所に、ラビのアップリケのついた寝間着をアンジェラにホラホラと見せる。
これで一五歳って本当なのかなぁ…。
「あんたたちは?」
「とっくに」
「俺も」
 ホークアイはなにやら金勘定してるし、俺は俺で剣をみがいている。金勘定や、やりく
りとかホークアイの方が上手そうなので、全部任せる事にしたのだ。
「ん? なに、おまえまだ入ってなかったの?」
「う、うん…」
「とっととはいって寝ちまえよ。明日また黄金街道行くんだし。モンスターも出るんだろ
ーしな」
「そーそー」
 紙幣とコインをぶつぶつ言いながらまとめ、数えている。
「な、なら入ってくんね…。あ、それと、くれぐれものぞかないでよ!」
「へーへー」
 と、言いながらもホークアイの目が一瞬光ったような気がしたが…。俺はかまわずに、
剣を磨き続けた。
「フム…。こんなもんか…」
 金勘定が終わったか、ホークアイは一息ついて、ベッドの上にひろげた金をかき集める。
そして、それを財布につめると、シャルロットの方を見た。
「………ヒース…むにゃむにゃ…」
「シャルロットちゃーん。起きてますかー?」
 急に猫なで声をだして、シャルロットの耳元でささやいている。
「ううーん…。もう食べられないでちー…」
「……………」
 寝てるな…。完全に…。ホークアイの口元がニッと笑う。
「じゃ、行ってくる」
「どこへだ?」
 軽く右手をあげて、いそいそと部屋から出て行こうとしている。
「やぁだもー、デュランちゃんたらぁ。わかってるくせにぃー」
「…………俺も行く…」
 剣を鞘におさめ、俺も立ち上がった。
「やっぱり気になるぅ?」
「…ま、まーな…」
 静かに歩きながら、風呂場を目指す。確か、外から見えると下見していたホークアイが
言う。外は虫がリーリーと鳴いている。風呂上がりにちょうどいい温度で、けっこう気持
ち良い。
 ふと、風呂場の前に二人の人がいるのを発見。
「ゲ…、先客がいる…」
「それってねえ…。ん? おい、デュラン、おかしいと思わないか?」
「え?」
「ふつー、女将さんも女風呂をのぞくと思うか?」
「………………」
 のぞいている人をよく見ると。この宿屋の主人と女将さんではないか。一体なんで…。
「もしかして、あの女将さんオカマだったとか…」
「まさか! オカマが女風呂のぞくかよ。そのテの趣味のヤツは、女風呂より男風呂の方
にだな…」
「……おまえ、くわしいんだな…」
 俺がそう言うと、急にホークアイは慌てて、しどろもどろな口調になった。
「あ、いや、その…。仲間が、じゃなくて…。なんで女将さんが女風呂をのぞいてるか、
だよ。同じ女なんだから、堂々と入っていけるんだぞ? それがなんで…」
「なんか、うしろめたいトコでもあんのか?」
「さあ…」
 しかし、先客が、しかも女将さんがいちゃあノゾキもできないワケで。どーしようかと
考えあぐねていたら、女将さんたち二人は去ってしまった。
「………どうしたんだろ、本当に…」
「おーい、デュラン…。もうあがっちゃってるみたいだぜー…」
 ホークアイが悲しそうにそう言う。あっちゃー…。
「チェッ、戻ろうぜ」
「ああ…」
 ホークアイは、なんだかスッキリしないような顔をしていたが、やがて俺と一緒に歩き
だした。

                                                             to be continued...