城塞都市ジャド。なんだか、この町は異様な雰囲気がした。船員も、その気配を察知し たようで、ちょっと緊迫した面持ちをさせながらこう言う。 「なんだか、町の様子がおかしい。あんたも気をつけな!」 他の町から来た船も、このおかしな気配のせいで、出航できないみたいだけど…。一体 町でなにが起こってるんだ? 町のほぼ中央部。噴水の前ですべてが氷解した。ビーストキングダムの兵士たち、つま りは獣人たちによって、ジャドが占領されていたのだ。 町の至る所に獣人たちがはびこっていて、その数ときたらない。いくら、腕に自信があ るって言っても、この数…。 ったくぅ…。どーしろってんだよ…。門という門は封鎖されてるし…。これじゃ行きた くても行けねーじゃねーか。 武器屋をのぞいてみたりしたのだが、獣人たちに武器類をすべて取り上げられて、売っ ていないという。しゃーねーなー…。 他にやる事のない俺は、酒場にでも入る事にした。みんな酒を飲む気にはなれないない らしくて、人はまばらだった。 カウンターに腰掛け、とりあえずラム酒でも注文する。 「よ、あんたも旅の者かい?」 隣の男が、気さくに声をかけてきた。年齢は俺と同じくらいだろうか。いわゆる美形と いうヤツで、ホッソリした感じの男だが、ひ弱そうな雰囲気はない。 「まーな…」 「どーしちまったんだろーねー。この町も戦争…。俺の故郷でも戦争…。ここだけじゃな い…なんか、世界全体がおかしい…」 「そうだな…」 俺は、もらったラム酒を飲みながら、男の話を聞く。 「しっかし、どうにかならねえかな。あれじゃここから出れやしねえ…」 「まったくだ…」 隣の男もため息をついた。お互い酒を飲みながらため息をついていると、店のマスター もこちらの話に加わってきた。 「お客さん。獣人たちって、普段は人間と見分けがつかないんですが、夜になると変身す るって知ってますか?」 「んなこと知ってるよ」 なにをいきなり…。けど、マスターはいきなりヒソヒソ声で、 「実はソコが狙い目ですよ。奴ら、変身中は血が騒ぐのか、ジッとしてられないんです。 警備は昼間よりグッと手薄になりますよ…」 「!」 俺は、隣の男と顔を見合わせた。なんだ、そうだったのか。それなら、夜にここを出発 すれば良いって事なのか。 じゃあ、夜になるまで、待たないとな…、なんて考えていると、隣の男は、入ってきた すごく可愛い娘を見かけて、ナンパし始めた。…よくこんな時にそんな根性あるもんだ。 俺はそいつを放っといて酒場を後にした。 夜まで時間があったので、俺は宿屋で一休みしてから、出る事にした。宿屋でちょっと ハプニングがあったが(自分の部屋と間違えて、着替え中の女の部屋に入ってしまったの だ…。しかもその女にどつかれた…)、とりあえず何事もナシ。夜もかなり更けてきたので、 ちょうど頃合いだろう。 マスターの言うとおり、夜の警備は、これでいいのか? というくらいに手薄だった。 途中、変身した獣人たちが襲いかかってきたけど、たいした数じゃなく、どうってことな かった。 話に聞くと、ラビの森というラビだらけの森を通って、滝の洞窟を抜ければウェンデル だと言う。けっこう距離があるらしいけど、ま、修行の一つだと思って、ね…。 夜の森は、うっそうとしていて、けっこうブキミだ。でも、月明かりのおかげで、迷う 事もなさそうだ。 町から出れば、モンスターは出る。それは昼だろうが夜だろうが関係ない。ラビなら、 夜だと寝ているが(これがけっこう可愛い)、マイコニドは襲ってくる。まぁ苦戦する相手 じゃないけど。 むしろ、心配なのはどこをうろついているかわからない獣人たちだ。あとは、なんとか 大丈夫だろ。 そう思った俺がいけなかったんだろうか。もう少しで滝の洞窟だって言うのに…。 「ブシュッ!」 なんの! マイコニドの攻撃を防いだ時だった。 バキィン! 当たりどころが悪かったんだろうか、それとも古いのがいけなかったんだろうか。俺の ブロンズソードがちょうど真ん中で折れてしまったのだ。 「ゲ、う、ウソだろーっ!」 せ、せっかくの形見の剣なのにぃーっ! しかししかし。マイコニドはそんな俺にかまわず襲いかかってくる。 「クソッたれえ!」 力任せに殴りつけ、なんとかマイコニドを倒す。 「あーあ…。クッソー…。どうしてくれんだよ、コレ…」 しかし、倒れたモンスター相手に文句言ったってしょうがないというもの…。…フウ…。 しょーがない…。ウェンデルかどこかで武器を新調するか…。クソッ! 折れた剣でも、無いよりはマシだから、そのまま鞘におさめておく…。あーあー…。つ いてねえなあ…。 ため息をつきながら、俺は滝の洞窟と書かれた看板通りに、道を進む。看板の通り、滝 が流れ落ちる向こうに、ぽっかりあいた口が見える。あそこだな。 中、暗いのかな…? カンテラとか用意しねえとダメかな、やっぱ…。 などと考えながら、洞窟に入ろうとした途端! ビィンッ! 「うおっ!?」 目には、なんの変哲もないように見えるのに、俺は見えない力に押し戻されてしまった。 「な、なんだよこりゃあ!?」 それから、何度も何度も試してみたが、ダメ。入れやしねえ。 「ったくぅ…。本ッ当についてねーなー…」 もー…。 ため息しか出ねえじゃねえか。 これからどうしようかと考えてみる。そういえば看板に湖畔の村があるって書いてあっ たな。そこにでも行ってみるか…。道具とか、武器も新調できればいいし…。 やっぱり俺はため息をつきながら、湖畔の村、アストリアへ向かう。そこについた時に は、すでに朝になってしまっていた。 村は、安穏としていて、ジャドでの騒ぎも知らないようだった。 ホント、のんきな感じの村。そこじゃあ、小さな女の子がキャッキャッと跳ね回ってる し、ジーサンバーサン、今日も平和って感じでひょこひょこ歩いてるし。 とりあえずは、武器屋だな…。 田舎の武器屋だけあって、全然イイモンなかったけど、んなこと言ってられない。 幸い、フトコロもちょっと暖かいし、武器も良いヤツにするかな。…って言っても、そ れほど大したものではないんだけど…。 「なあ、オヤジさんよぉ」 「はい?」 「あそこの滝の洞窟、どうしたって言うんだ? 入れやしねえぜ」 なにか知ってるかと、俺は店のオヤジに聞いてみる。 「ああ、あそこね。ここ最近、獣人たちの事とか、湖に現れたとかいう不気味な光とか。 色々物騒だろ。だから、光の神殿から遣わされた神官が結界を張ったんだよ」 「結界…」 どーりで入れねえワケだよ…。 「んで、その不気味な光って…」 「うーん、あっしは見てねえんだが、ボート屋のデレクという男が見たって言うんだ。あ っしはどうも信じられねえんだけどね」 「そっか…」 武器屋を後にして、俺はそのデレクっつー男に会ってみる事にした。結界が張られてる っていうんじゃあ入れないし、でも、なんとかしなくちゃいけないし。それに、その不気 味な光っつうのも、なんか気になるんだよなー。 湖に面した小さなボート屋。きっと船遊びするためにあるトコだろう。小さなボートが 四つ五つばかし、湖にプカプカ浮いてる。そのボートを縄でまとめてる男がいた。あの男 がそうだろうか。 「おーい、あんたがデレクさんかい?」 軽く声をかけると、そうらしくて、男がこっちを向く。 「武器屋のオヤジさんに聞いたんだけどよ、ここで不気味な光を見たって本当か?」 俺がそう問いかけると、デレクはダダダダッとこちらに勢いよく走ってきた。 「ほ、ほ、ほ、本当なんだってば! だれも信じてくれないけど、本当に俺は見たんだ! きっと、きっと今夜も現れるぜ!」 「いや、ま、あ、うん、わかった。わかったから…、そんな顔を近づけないで…」 このデレクという男、信じてもらえなかったのが余程気に食わなかったらしく、俺と鼻 先がくっつくくらいに顔を近づけさせて熱弁をふるった。俺はそういう趣味は持ち合わせ てないし、苦笑して、こいつを引き離す。 「本当なんだってば!」 「あ、うん…」 「信じてないんだね! でも本当に本当で…」 しまいには泣きそうな顔になってしまい、俺は何度も信じるって言ってやって、やっと 彼は落ち着いて、自分の仕事に戻った。 あー、気持ち悪かった…。 デレクの話が本当かどうか、それは知らないけど。世界中、何かどこかおかしいという のは、俺も感じてる。 まあ、ともかく。あの洞窟に入れない以上、今はどうする事もできない。とりあえず、 道具屋や雑貨屋で旅に必要と思われるものを買っておいて、宿をとる事にした。寝るには まだ早い時間だが、夜通しでここまで来たんだもんなぁ…。 夜…。俺が気持ちよく寝てる時だった…。 カッ! とばかりに朝日よりもまぶしい光が、窓から差し込んだ。その光の強烈さに、 俺はガバッと跳ね起きる。 「な、な、なんだ!?」 眠い目をこすって、窓から身を乗り出すと、ちょうど、手のひらくらいかな、そんな光 の玉が俺の目の前をふよふよと飛んでいるんだ! 「ゲ! な、なんだありゃ!?」 その光の玉の中、小さな女の子が見えた。!?!?!? こりゃ一体…。 光の玉は、ふよー っとそこらじゅうを飛んでいる。あ、どこに行く気なんだ!? 俺は、身支度を手早くすませ、荷物と剣をひっつかんで外に出る。何がなんだか、わか んないけど、何かありそうな、そんな予感だけで俺は宿屋を飛び出した。 飛び出した途端、また目の前にあの光の玉が浮かんでいた…。 「あ、あ、あ…」 俺があわあわ言ってるのをよそに、光の玉はフイッとどこかに飛んで行こうとする。 「あ、おい、ちょっと待てよ!」 その光の玉、なかなか飛ぶのが早くて。俺は必死になってそれを追いかけた。 途中、襲いかかってくるマイコニドを振り払い、寝ているラビを飛び越して、その光の 玉を追いかけた。 どれくらい追いかけただろうか。ついに、光の玉は動きが鈍くなって、弱々しげにフラ フラと地べたに落ちてしまった。 「ハアッ、ハアッ、ハアッ…」 息を整えながら、俺はその光の玉が落ちた所に行ってみる。そこには、さっき見た羽根 の生えた小さな女の子が、ぐったりと横たわっていた。 「お、おい…。しっかりしろよ…」 しゃがんで、そっと彼女をすくい上げる。随分ちっちゃい女の子だよなぁ…。どこの種 族なんだろう? 話に聞くピクシーかなぁ…。でも、ヤツら、こんな光りながら飛ぶかな ぁ…? なんて考えていると、彼女はやっと気がついて、そしてまたフワリと飛び始めた。 「……はあ、はあ…。あ、ありがとう…。あ、あなたは…?」 「へ? 俺か? 俺はデュランっつーんだけど…。それより、どうしたんだ、おまえ…」 一体なんで光りながら飛んだりしてたんだ? 小さな女の子は、俺をじっと見つめた。 「……デュラン…。このさいしょうがないわね。よし、あなたに決めた!」 「は? 何の話だ?」 「あ、こっちの話。それより、私、光の司祭様に会いに、ウェンデルに行く途中なのよ…。 …ねえ、悪いけど私をウェンデルまで連れてってくれない? もう、疲れてこれ以上は飛 べないのよ…」 女の子は小さな手を合わせて、俺に懇願する。 「あ、うん…。いいよ、俺もウェンデルに行く途中だし。でも、滝の洞窟の前に結界が張 ってあって、入れねえんだよ」 「ああ、それなら私がいればたぶん大丈夫。その結界解けるから」 「本当か!?」 そりゃラッキー! ここまで追いかけた甲斐があるってもんだ。 俺がにわか喜んでいる時だった。 ズドゴォンッ! 凄まじい音と、赤い炎がアストリアの方からあがった。 「な、なんだ!?」 「わ、わかんない。とにかく行ってみましょう…と、その前に…。私はあなたの中で休ま せてもらうね…。もう疲れちゃって…。しばらく、姿が見えなくなるけど、心配しないで ね」 「へえ!? お、おい、中に入るって…、どういう…」 俺が驚いているのをよそに、このちっちゃな女の子はブツブツと呪文を唱え始めた。お いおい、どうする気だよぉ!? 呪文を唱え終わり、女の子の目がカッと見開くと、凄まじい光が俺と女の子を包み込ん だ。 「ど、どわーっ!?」 目の前の女の子がフッと消える。なにか、熱い何かがググウッと俺の頭に入りこんでき たような気がする。 目映い光が消え、俺はおそるおそる目を開いた。 「な、これは…」 さっきまで目の前にいた女の子はもういない。ど、どこ行っちまったんだぁ? (デュラン! アストリアに急ぎましょう!) 「うえーっ! 声が頭ン中に響く!」 なんだこりゃあよおお!? (早く!) 「は、早くって、何がどうしてどうなったんだよぉ!?」 (後で説明するから! いいから早く!) 「わ、わかったよ!」 も、もう、どうにでもなりやがれってんだ! 俺は半ばヤケになって、アストリアに走 り始めた。でも、内心なんだか、とんでもない事が起こりそうな、そんな気はしてた…。 アストリアまで走りながら、俺は頭ン中の女の子と会話していた。あの女の子は、俺の 中に入って休んでいるらしい。くわしい事はよくわからん。言わば取り憑かれてる状態ら しいのだが…。それにしても、やっぱりこれって、俺が独り言をつぶやいてるように見え るんだろうな…。 「ところで、おまえの名前聞いてなかったけど…」 (ああ、言い遅れたわね。私フェアリーって言うの。よろしくネ!) 「……お、おう…」 けど…なんっか、本ッ当にヘンな感じだぞ、コレ…。 俺がアストリアについた頃には、時既に遅し。アストリアは、全滅させられていた。 「こ、こりゃひどい…」 家という家はみんな焼かれ、そこらへんに死体が転がっている。まだ燃えてる家もかな りあったし、煙りもひどい。獣人たちが去ってからまだそんなに時間が経ってないみたい だ。 (獣人たちのせいみたいね…) 「ひどい事を…」 昨日まで、はしゃぎまわってた女の子…。武器屋のオヤジ…。ボート屋のデレク…。み んな、みんな…。 (…一刻も早く司祭様に知らせなくっちゃ。これ以上被害を出すわけにはいかない…) 「……そうだな。よし、急ごう!」 俺はギュッと剣の柄を握り締め、滝の洞窟入り口へと向かった。 獣人たちがアストリアを襲ってからそれほどたってないから、鉢合わせしないかと思っ たのだが、杞憂に終わったみたいだ。一人二人ならともかく、集団でこられちゃたまらな い。 (獣人たちはもういないようね…) 「ああ…。うん? あそこにだれかいるなぁ」 そうなのだ。滝の洞窟入り口前で、なにやら突っ立っている人が一人。どうやら、女み たいだけど…。 「よう、あんたも滝の洞窟に入りたいのかぁ?」 俺が声をかけると、女はこちらを振り向いた。おお! すっげーイイ女じゃんか。 …ん? でも…どこかで見覚えあるような…。気のせいかな…。 「ダメよ、ダメダメ。結界がはってあって入れないわよ」 女は大袈裟に首をふって見せる。 「ああ、それなら、大丈夫だよ。結界を解けるってヤツがいて…」 「……あーっ! あんた、あの変態男!」 俺が話してる途中に、女は急に叫びだし、俺に指を突き付けた。 「な、なんだよ! いきなり変態とは…」 「忘れたとは言わせないわよ! ジャドの宿屋で、私の着替え中に入ってきた男じゃない のよ!」 「………………………………………………ああ!」 俺はポン、と手を叩く。そーっか、どーりでどっかで見た事あると思ったワケだ…。 「ああじゃないわよ! レディの着替え中に入って来るなんて、サイテエじゃないのよ」 「さ、最低って、あの時はちゃんと謝ったじゃねえかよ。それに、間違えちゃったもんは しょーがねーじゃねーか!」 「どーだか? 間違えたー、なんて言ってわざと入って来たんじゃないでしょうねぇ?」 ムッ! なんだよ、コイツ! (デュラン、デュラン! 今はそんなことしてる時じゃないよ。早くウェンデルに行かな いと!) 「しかしだな、フェアリー!」 ああ! どこ見て話せばいいのかわからん! 「……な、なによ、あんたいきなり独り言なんか叫んじゃって…」 気持ち悪そうな顔して、女が後ずさる。 「…………おい、フェアリー!」 「はいはい!」 俺の呼びかけに答えて、フェアリーがフイッと姿を現す。 「キャアッ!」 いきなり現れたフェアリーに驚いて、女は両手を口に当て、跳ね上がった。 「安心しろよ。ヘンなモンだけど別に危ないモンじゃない」 「ヘンなモンって…、失礼ねえ!」 フェアリーがプンむくれた。しかし、小さく息をついて話しはじめた。 「あのね、私たち聖都ウェンデルに行く途中なのよ。この洞窟の結界、私が解けるから、 それを解いて…」 「あら! あなたあの結界が解けるのね!」 「え、ええ…。そうよ」 「そっか。良かった。入れなくて困ってたのよね。あっ、じゃあ、そこのあんたもウェン デルに行くの?」 「あ? ああ。光の司祭に会いにな…」 そう言うと、女は俺を見て、ちょっと考え込む。 「そっか…。じゃあさ、私も一緒に連れてってよ。私も、あんたと目的一緒なのよね。も う、一人で行くの疲れちゃってサ。旅は道連れっていうしぃ」 ………こ…この女…。さっきまでは俺を変態呼ばわりしてたというに…。でも、確かに こんな娘が一人旅っていうのは危ないよな…。…それに、女には一応でも優しくしないと な…。しゃあねえか。 「……わかった…。いいぜ、一緒に行こう」 「よし、決まり! あ、私アンジェラ。ヨロシクね。あんたは?」 「デュラン…」 「デュラン、か。さあ、行きましょうデュラン!」 態度がコロコロ変わるヤツだなー…。………ま、いっか…。 俺が洞窟に入ろうとすると、いきなり弾き飛ばされた。 「うげっ! な、なんだよう、結界解けてねーじゃねーか!」 「当たり前じゃない。私まだ解いてないもん!」 「…………は、早くしてくれよ!」 急に決まり悪くなって、俺は全然関係のない方向を向く。背後のほうで小さく笑う声も 聞こえた。チェッ! 「わかった。ちょっと待ってね…」 俺の中に入る時と同じように、フェアリーはブツブツ呪文を唱えて、その小さな手から、 洞窟に向けて光を放つ。 パシンッ! といやに軽い音がして、何かが洞窟の前ではじけた。「さ、これで大丈夫。 行きましょう!」 「あ、ああ…」 さっきの事があるもんだから、ちょっとおっかなびっくりに入って行く。大丈夫。今度 は跳ね飛ばされなかった。 中に入ると真っ暗だった。……しょうがねーなー…。俺は荷物の中からカンテラとマッ チを取り出して、明かりをつける。 「へー、カンテラなんか持ってんだ」 アンジェラが関心したように言う。 「そりゃまあ、暗くなった時とか、明かりとかないとツライだろ?」 「ま、まあねえ…」 「……ところで、おまえ…。杖とそのサック以外に荷物は?」 そんなちっこいサックに、旅をするだけの道具が入っているとは思えない。 「ないわよ」 「な、ないわよって、そのサックには何入ってんだよ…」 「えっとねぇ、洗面用具一式と、お財布でしょ。簡単な着替えと、乳液にベビーローショ ン、リップにファンデーション…」 「…ちょっと待て。カンテラとか、旅に使うモンは?」 「ないわよ」 な、ないわよっておめ、そんなそっけなく…。絶句している俺にアンジェラはちょっと だけ頬をふくらませた。 「しょ、しょーがないでしょー! 私は、そんなちゃんとした準備するヒマがなかったの よ。私、別に好き好んで旅に出たワケじゃないもの」 「………っつーと、アンジェラもワケありなんだな…」 「当たり前でしょ。レディが好き好んで旅に出るもんですか」 ……そーゆーもんなのかなぁ…。まあ、俺は女じゃないから、よくわかんなくて当然だ けど。 to be continued... |