「……ここ、どこだ…?」
  うっそうと木々がしげる、深い森の中、先頭を歩いているデュランが後ろを振り返った。
  彼が、いつものようにアンジェラとの口げんかに負けて、不機嫌そうに歩いていた10分後の
事である。
「…え?  おまえ、知ってるんじゃなかったの?」
  ホークアイがなにを言ってるんだとでも言うように顔をあげた。
「知らねぇよ!  おまえが何も言わないから、真っすぐで良いと思ったんじゃねぇか!」
「そんな!  おまえが先頭でずんずん歩いていくから、わかってると思ってたんだぞ!」
「…ちょ、ちょっとなによ、まさか、こんっな深い森の中で迷ったなんて言うんじゃないでしょ
ーね?」
  アンジェラが顔をしかめて二人を見る。二人はしばし黙っていたが、デュランが先に口をひら
いた。
「ち、地図をもってんのはおまえだろ!  なんで言ってくんなかったんだよ!」
「だったら、先頭でずかずか歩いていくなよ!  知ってると思うじゃねーか!」
「なんだと!」
「ちょっとやめてください。今はそんな事で口論してる場合じゃありませんよ」
  リースがたしなめるように二人に言う。
「だってこいつが!」
  二人とも声をハモらせて、お互いに指を突き付けあった。
「責任のなすり付け合いはやめて下さい!  …まぁ、任せっきりだった私たちにも責任がないわ
けじゃありませんけど…。とにかく、迷ってしまったものはしょうがないじゃありませんか。口
論してる時じゃないでしょう?」
  諭されて、二人の男は不服そうではあったが、とりあえずおとなしくなった。
「でも、どーすんのさ?  次ぎの村だか町だか知らないけど、近いの?」
  疲れたのか、アンジェラは飛び出た木の根に腰掛けて、肘をつく。
「さーな。俺たちがいま、どこにいるかわからん以上、どこが近いんだかわかんねーよ」
「じゃ、どーしよーもないじゃないでちか!」
  シャルロットもアンジェラの隣に腰掛けた。
「ずっとまっすぐ歩いていけば、いつか森を出られるよ。森にだって限りがあるもの」
  随分悠長なことを言っているのはケヴィン。
「そりゃそーかもしんないけどぉ…」
  疲れたようにホークアイがケヴィンに言う。このメンバーで、そんな悠長なことできるのはケ
ヴィンしかいそうにない。
「あの、方位がわかれば、少しはなんとかなるんじゃないでしょうか?」
「方位ねぇ…」
  ホークアイはぐるぐる回って安定しない磁石の針を見た。いったいどういう磁場をしているの
かわからないが、これでは磁石が役にたたない。
「……ちょっと待ってろ。方角を調べる…」
  磁石が役に立たないとなると、自分で調べるしかない。面倒くさいとため息をつきながら、ホ
ークアイは木やなんかをつぶさに調べはじめた。


「とりあえず南西を目指して歩けば、シャーキン町ってのがあるらしいな」
  地図を見ながら、ホークアイが言う。
「じゃ、南西に向かって歩けば良いんですね?」
「ああ。ただ、ここがどこかわからん以上、近いか遠いかはわかんねーけどな」
「んじゃ、南西目指して歩こうぜ」
  立ち上がって、デュランが早速歩きだした。
「ちょっと待てよ!」
「なんだよ?」
  待ったをかけたホークアイに、デュランは振り返る。
「南西はこっちだぜ」
「………………」


「なあ、デュラン。おまえ、もしかして、もしかしなくても、方向オンチとか言わねぇか?」
「ち、違うよ!」
「あらー?  ウェンデルでいきなり神殿の反対方向に歩きだしたの誰だっけ?」
  アンジェラが意地悪そうに、デュランを横目で見る。
「あ、あれは、ウェンデルがばかに広いから…、だ、誰にだってある間違いだよ!」
「………おまえ、もう先頭歩くなよ。頼むから……」


「モンスターだぞーっ!」
  先頭のホークアイが怒鳴ると、みんなはにわか戦闘態勢に入った。
  アマゾネス・ビー族。メスのみで構成される、蜂モンスターの事を言う。ギャルビーはそのア
マゾネス・ビー族の少女戦士で、戦闘経験は浅いものの、油断ならない相手である。
  2匹のギャルビーは薄い羽を高速で動かし、プーンと飛び回っている。ギャルビーのお供なの
か、アサシンバグも数匹、彼女たちの周りを飛び回っている。
「ギャルビーやアサシンバグなんて、メじゃないわねっ!」
  アンジェラはそう鼻で笑って、早速呪文詠唱にとりかかった。
「アンジェラ!  油断するな!」
  しかし、アンジェラはデュランの声も耳に入らないようで、呪文詠唱を続けている。
「くっ!」
  リースが一匹のギャルビー相手に槍で応戦しあっている。槍の名手リースとは思えない苦戦ぶ
りで、ホークアイは一瞬、いぶかしげな顔付きになる。
「気をつけろ!  このギャルビー、ただのギャルビーじゃねぇぞっ!」
  もう一匹のギャルビーとやりあっているデュランが叫ぶ。ただのギャルビーなら、彼らの実力
ではあっさり倒せるはずなのに、である。
「タリャァッ!」
「しまった!」
  ギャルビーの槍がリースの槍をはねあげた。そのスキを見逃すはずがなく、ギャルビーは槍を
横になぎ払う。
  避けるに間に合わず、槍の穂先がリースの胸に赤い一線を引く。
「キャアッ!」
  血が流れだし、たまらなくなったリースはよろめいた。
「リース!」
  目の前のアサシンバグを切りつけ、ホークアイが叫ぶ。
「ファイアーボール!」
  呪文詠唱が終わり、アンジェラが放った赤い火の玉が次々とアサシンバグを燃やし尽くす。
「チッ!」
  それを見たギャルビー、小さく舌打ちすると、少し高めに飛び上がった。
「召還っ!  ビービーッ!」
  高らかに叫び、槍を頭上でぶんぶん振り回す。
  ウ、ウゥウ…ブゥウゥゥゥーン…。
  すぐに、たくさんの羽音がこちらにやって来る。
「やべぇっ!」
  ガキィン!
  危険に気づいたデュランは、やり合っていたギャルビーの槍を力任せに叩き折り、慌てて後退
した。
  ギャルビーが呼んだのは殺人蜜蜂のビービー。蜂一匹がもつ針の殺傷能力は昆虫のスズメバチ
をも越える程。それが大群になってこちらにやってくるのである。アマゾネス・ビー族の中でも、
この召還技を使えるのはごく一部のはずなのに、このギャルビーは使ってみせたのである。
「アンジェラ!」
  呪文を唱え終わったばかりのアンジェラはまさに無防備だった。しかも、ビービーの大群は彼
女に向かってやってくるのだ。
「危ないっ!  ティンクルバリアーッ」
  シャルロットが慌ててバリアをアンジェラに張る。
  バシバシバシッ!
  大量のビービーたちが次々とバリアにぶち当たる。とっさに張ったバリアなので、強度はたい
した事がない。そのため、最後のビービーがバリアをぶち破り、アンジェラの額に当たった。
「イタッ!」
  針にさされないだけマシというものだろうが、アンジェラはバランスを崩して、大きくのけぞ
った。
  どさっ。
  思わず尻餅をつく。そんなチャンスを、このギャルビーが見逃すはずもなく、素早くアンジェ
ラの横につき、彼女の首に槍をつきつけた。
「うくっ…!」
「お前ラ、動くナ!」
  人質をとられてはかなわない。デュランたちの動きがピタッと止まった。
「ちっ…。アンジェラのやつ…」
  油断するなって言ったのに…。
  デュランは奥歯をかんだ。
「マビー!  ヤツらの武器を奪エ!」
「ハッ!」
  マビーと呼ばれたギャルビーは、動けないでいるデュランたちから一人一人、武器を回収して
いった。
「さァて…。どうしてくれようか、この人間ドモ…」
  武器を奪って大きな気になっているギャルビー。槍の側面で、アンジェラの頬をピタピタさせ
たりしている。
「クイン様…」
「言われなくても、わかってオル!  ヤイ、マビーの槍を折った剣士と、そっちのごっつい金髪
男!」
  指名されて、デュランとケヴィンは何事かと顔を見合わせた。
  クインがニヤリをした笑みを浮かべる。
「これから、こちらノ願いを聞いてモラオウ…」
  ごくり…。誰かの喉がなった。
「さあ……、ズボンを脱ゲ!」
  ……………………………。
  ……………………。
  深海に勝るとも劣らない沈黙が周囲を支配した。
「さあ、早ク!」
  しかし、誰も何も言わない、動かない。
「何をしてイル!?  早くズボンを脱いで、そこに置かぬカッ!」
  イライラして、クインは手足をバタバタさせた。
「ばっ…」
  やっとの事で、デュランが一言発した。
「ばっっかやろーっ!  なぁんで俺とケヴィンがズボンを脱がなきゃならねーんだよっ!?」
  デュランがダン!  と足をふんで怒鳴った。
「良いから脱ゲ!」
「やだっ!」
  デュランは真っ赤になって叫ぶ。
「ちょおっと、デュラン!  この私が人質になってんのよ!?  命が危ないのよ!?  ズボンくらい
脱いでくれたって良いでしょっ!?」
「やだっったらヤダ!」
  デュランはベルトをもってズボンをずり上げた。
「ズボン脱いだら、パンツいっちょになっちまうじゃねーかっ!  そんな格好で外を出歩けるか
っ!」
「いーじゃないのよ!  パンツいっちょくらい!」
「良くねーよっ!  それじゃ俺が変態じゃねーかっ!」
「なによ、私の命がかかってんのよ!?  それくらい、良いじゃないの!」
「それくらいじゃねーよっ!  おまえだって…」
  そこまで言って、デュランをアンジェラを見た。ほとんど下着同然のようなレオタードを着て
いるのはアンジェラである。
「…………………」
  デュランは渋い顔して、考え込んだ。
「だっ、大体、どーしてズボンなんか脱がせるんだよっ!?」
  ちょっとあせったように、デュランはクインを指さした。
「貴様が知ることカ!  いーカラさっさと脱ゲ!」
  肩を怒らせて、クインもやっきになって叫ぶ。
「やーめーてー!」
  しびれをきらしたのか、マビーがケヴィンのズボンに手をかけている。彼は半泣きしながらズ
ボンを必死になっておさえている。
  デュラン達がぎゃーぎゃーやっているスキに、ホークアイが懐に手をつっこんだ。クインはデ
ュランと怒鳴りあっているので、まるで気づいていない。
  ホークアイが一瞬、ニヤッとした笑みを浮かべた。
  彼の手が素早く動く。
「ぎゃーッ!」
  銀色のダーツがクインの手にささり、痛さに悲鳴をあげる。
  無論、そのスキを見逃すデュランではない。ダッシュで近づき、クインから槍を取り上げ、さ
らに腹にひざ蹴りをくらわす。
「ぐふウっ!」
  あまりの痛さに涙がぼろぼろっとこぼれた。
「クイン様ァーッ」
  マビーが慌ててクインに駆け(飛び)寄った。
「オノレ、何ヲスル!?」
「げほっけほっ…」
  腹をおさえ、泣きながらせきこむクインの背中をさすり、マビーはキッとデュランをにらみつ
けた。
「それはこっちのセリフだ!」
  取り戻した剣を握りなおし、デュランが言い返す。
「そーそー。それに、なんなんだよ、そのズボンを脱げっつーのはよ」
  ダガーを片手でもてあそびながら、ホークアイはしゃがみこんでいる、ギャルビー二匹を見下
ろす。
「そーだよ!」
  デュランも強く同調する。ケヴィンもうんうんうなずいている。
「あ、ちょっとデュラン!  あんた、私の命がかかっているってのに、冷たいわねー!」
  さっきの事を思い出したか、憤慨してアンジェラはデュランをこついた。
「な、だって、あんな命令聞けるかよ!」
「なによ、私の命は、あんたのパンツいっちょより軽いワケ!?」
「オイラも入ってるぞ」
「あのゥ…そーゆー問題じゃあないのでは…?」
  リースは戸惑ったように口をはさむ。
「お、お前タチ、許さないカラぁー!」
  目に涙をためながら、わがままな子供のように叫ぶクイン。
「くらえっ、ビービーしょうか…」
  手を頭上にかかげ、再度ビービー召還を試みる。
「やめろっての」
  ボコッ。
  しかし、デュランに殴られて、あっさり召還は終わりを余儀なくされた。
  殴られて、クインは口をへの字口に曲げて、しゃくりあげていたが、やがて派手に泣き始めた。
「ひっく…。ふぇっく…。………ヒックヒック、うわあああああぁぁぁ〜んっっ!」
「クイン様!  ソノヨウニ泣クモノデハアリマセン!」
  たしなめられても、クインはわんわん泣いた。
  こうも派手に泣かれると、気分もどっちらけになってしまう。デュランたちは顔を見合わせて
大泣きしているクインを見た。
「ったくぅ…。しゃーねーなー…」
  面倒くさげに、デュランは頭をかいた。モンスターと言えど、女の子に泣かれると、さすがに
デュランも弱い。
「行くぞ」
  クインたちをほっといてその場を後にしようと歩きだした。が、しかし。
「ズボン、置いてけ!」
  目を真っ赤にして、涙をためながらも、クインがデュランのズボンにしがみついてきた。
「あのなーっ!」
「命はもうトラナイカラ!  ズボンだけで良いカラァ!  ズボンちょーだいっ!」
「ダメなモンはダメなの!  大体、なんだってそうもズボンを欲しがるんだよ!」
「そーそー…。そんな、男がはいてたズボンなんて、もらっても全っっ然嬉しくねぇぜ」
  ホークアイがあきれたように全然を強調した。
「…オマエは、そうかもしれないが、我々は違うんダ!」
  頬をふくらませて、クインはズボンを離さない。
「我々は違うって…、じゃあなにか?  アマゾネス・ビー族は、男のはいてたズボンをもらって
嬉しがるってのか?」
「そーダ!」
「っ……」
  力強く即答されて、さすがのホークアイも言葉を失う。
「我々ワンダー・アマゾネス・ビー族は男、特に人間のはいていた
ズボンを集める!  そして、一番のズボンを持つ者が栄えある女王に選ばレルのダ!」
「……………………」
  その時、ホークアイ含め、彼らの顔はいったいどんな顔をしていただろうか。
「ナンだよー、その顔は!?」
  無理もない事だろう。
「とーにーかーく!  ズボン!  チョーダイ!」
「やれるかっ!」
  デュランはベルトを持ってズボンをずりあげる。
「おーねーがーいー!  クイン、一生のオネガイだからーっ!」
「ダメなもんはダメなの。あきらめてくれよ!」
「イーヤーダー!  ちょーだいちょーだい!」
  クインは首をぶんぶかふって、ズボンから手を離さない。
「ダメ!」
「チョーダイったらちょーだい!」
「ダメったらダメ!」
「まーいーじゃねーか、デュラン。ズボンのひとつくらい、くれてやれよ」
  まったくの他人事で、ホークアイがヘラヘラしながらデュランに言う。
「冗談じゃない!」
「なぁ、クインっつたか?  ここの近くに村か町かねぇか?  教えてくれたら、俺がデュランに
説得してやるよ」
「本当カ!?」
「おいっ!」
  ホークアイの交渉の持ちかけにクインは顔をかがやかせ、デュランは怒った。
「そこで新しいズボンでも買えばいーじゃねーか。こんなに欲しがってんだ。ちったぁ可哀想と
思わねーかぁ?」
「………おまえ、面白がってるだろ……?」
  青筋はいった顔でデュランは、にこやかなホークアイをにらみつける。
「ここから南にちょっと、西にそこそこの場所にシャーキンという町がアルゾ!  さあ、ズボン
くれ!」
「あのなーっ!  ズボンならケヴィンだってはいてるだろーがっ!」
  言われて、クインはケヴィンの方を向いた。
「ヒッ!  お、オイラだってダメだぞ!」
  ケヴィンは慌ててズボンをおさえた。
「ところでさー、なーんだってズボンなワケ?」
「(人間の)男がよくはくカラだって、女王様、言ってた!」
  その理由に、一瞬、眉をしかめたアンジェラだが、また続けた。
「それなら、ホークアイだってズボンじゃないけど、はいてるじゃない?」
「タイツはダメ!」
  クインはぶんぶか首をふった。
「なんで?」
  ズボンをおさえる手をやめられないまま、デュランが尋ねる。
「タイツだからダメなの!  タイツは気持ちワルイ!」
「こらっ!」
  今度はホークアイが怒り出した。
「だれがそんな事言ったんだ、だれが!?」
「女王様」
「偏見だ、偏見!」
  ホークアイはそう怒鳴った。
「…フフフ、ホークアイしゃん。ここはシャルロットに任せるでち。いいでちか?  こりはタイ
ツに見えまちが、じつわ、タイツでないんでち」
「ほ、本当か…?」
  不適な笑みを浮かべるシャルロットに、疑わしげにデュランがつぶやいた。
「タイツでなければ、ナンなのだ?」
  ふっ、とシャルロットが鼻で笑う。
「ストッキングでち!」
「…………………………」
  その場の時が凍りついた。
「バカヤローッ!  なんで俺がストッキングなんかはいてんだよ!?」
「変態じゃん…」
  眉間にシワを寄せてアンジェラが言う。
「違うよっ!  シャルロット!  全然フォローになってねぇよっ!」
「最近の男はストッキングまではくノカ…」
「違うっちゅーにっ!」
  ちっとも聞いてくれないクインにホークアイが怒鳴る。
「とにかく、ズボンでなければ、女王様、認めてくれナイ!  ちょーだいっ!」
「だーめだって、何度も言ってるだろ!?」
「お願い!  お願いダカラ!  きっとオマエのズボンは一番のズボン!」
「なんで!?」
「ワタシのカンでわかるノ!  きっと、女王様、喜ぶ!」
「喜ばんでいーよ!」
「お願いだってバ!」
「デュランー。そーこまで言ってんだもん。あげなよ。ちょうど良いから、新しいのに買い替え
たら?」
  アンジェラが腕を組んで、杖をぶらぶらさせる。
「おまえら、ほんっとに他人事だなー…」
「くれたら精一杯のお礼スルから!」
「どんなお礼よ?」
  お礼という言葉にアンジェラが反応する。
「……えっと…。ハチミツ。そーだ、我らの特別なミツをアゲル!」
「特別なミツってどんなミツよ?」
「お前らで言う、ローヤルゼリーみたいなモノだ。女王様から少しもらってきてヤル!」
「ローヤルゼリーねぇ…。なんか特別な効き目でもあるの?」
「あるに決まっテル!  美容と健康に良いだけでなく、長寿の薬にもなる。ソレニ…」
「それに?」
「それに、これは惚れ薬にもなるノダ!」
  惚れ薬!
  アンジェラの目が見開いて、ホークアイが振り向いた。シャルロットも顔をあげた。
「そんなもんいらねーよ」
「ちょっと!」
  あっさり言い放つデュランに、アンジェラが怒鳴る。
「良い?  惚れ薬ってのは魔法のチャームとはワケが違うのよ?  無差別で強力で、魔法耐久力
が強い相手にも関係なし!  しかも相当な値段で売れる事だって間違いないわ!」
「そーなのか?」
「そーだよ。男と女がいる以上、誰もが欲しがる薬だよ」
「……そうかなぁ。俺、別にいらねーけどなぁ…」
「オイラもー」
  そりゃおまえらはなあ。
  ホークアイは出かかった言葉をのみこんだ。
「とにかく。その取引はOKよ。早速町に行きましょ」
「おいっ!  なんでおまえがOKすんだよ!」
「いーじゃないのよ。ズボンくらい。新しいの買ってからで良いんでしょ?」
  怒るデュランを軽くあしらって、今度はクインの方に顔を向ける。
「これをくれタラ、なんだって良イ」
「よーし、決まり!  んじゃ、早く町に行きましょ!」
「勝手に決めんなっ!」
  しかし。みんなが町の方へ歩きだしたら、デュランだってそこで突っ立っているわけにはいか
ない。
「あーっ、もうっ!」
  苛立たしげに頭をかかえ、やがて、ため息をついてみんなの後に走りだした。

                               続く→