「こうしているウチにもマナはどんどん減って行く…。急いで、ブースカブー!」
「パープー」
  デュランの肩に乗りながら、フェアリーがそう言うと、それが聞こえたらしく、ブー
スカブーはさっきよりもぐんとスピードをあげて、海面をすべるように泳いでいく。
「やっぱ速いよなー、ブースカブー…」
  地図を手に、ホークアイがのんびりとつぶやいた。
「…でも、ちょっと恥ずかしいわね…」
  ブースカブーの妙ちきりんな格好が気になってるらしく、アンジェラがぽそりと付け
加えた。
「けどよ、これが定期船だったりしてみろよ。俺らだけじゃねーから、目的地までに寄
り道するしよ。船が出るまで、下手すりゃ1カ月くらい待たされる事だってあるんだぜ?
  いつだったか、2週間くらい船が出るまで待たされたじゃねーか。しかも、今は海が
荒れやすいって、定期船出すのをおさえてるし」
「わかったわよ、わかってるわよ。ただ、言ってみただけじゃないのよ」
  ブースカブーの便利さを説くホークアイに、アンジェラは口をとがらせる。
「…でもぉ、お船みたいにごはんはでないし、おトイレもないし、ベッドもないでちよ」
「…だから、それはしょうがねーだろ…」
  確かに、生活面においては、ブースカブーの上はかなり不便だった。広い甲羅の上と
はいえ、食べ物は非常食でなんとかするにしても、他の面では、どこかに寄りつつ対処
するより他ない。
  なので、地図は片時も離せず、甲羅の上でのパーティの面々は色々我慢させられる。
「文句言ったってはじまんねーだろ?  いーから静かにしてろよ…」
  揺れる甲羅の上でもかまわずに、デュランは寝転がったまま、薄目を開けてそう言っ
た。彼は、ブースカブーの上ではよく昼寝をするのだ。
「おーい!  なんか、雲行きが怪しいぞー!」
  甲羅の上に突っ立ったヘンなポールの上で海原を見ていたケヴィンが、みんなにそう
怒鳴った。
「え?」
  みんなケヴィンの指さす空を見て、デュランもむっくり起き上がる。
  すると、巨大な雨雲が天を多い、大雨をざんざか降らしているのが見てとれた。どう
やら、雷さえも落ちているようで、何かピカピカ光っている。波も、信じられないくら
いに荒れているようなのだ。
「げげぇ…。お、おい、ブースカブー、どーにかなんねーのか?」
「プーパー!」
  しかし、何と言っているのかわからない。あちらは、こちらの言ってる事がわかるら
しいのだが、こちらからは、あちらが何を言っているのかわからない。
「な、なに言ってんだ、ブースカブーは?」
「し、知らない」
  振り向かれて、慌てたようにアンジェラは首をふった。そのうちにも、嵐への場所へ
とぐんぐん近付く。
「ちょ、おい、ブースカブー!  このまま行ったらマズイって!」
「パプープー!」
  ブースカブーは何か伝えようとしているらしいが、やはりわからない。
「パー!  プパー!」
「ああああああ!  何言ってっかわかんねー!」
  思わず、ホークアイは頭を抱える。
「だ、だれかわかんねーか!?」
  デュランも慌てたようにみんなを見回すが、返ってくるのは困った視線ばかり。
  嵐はさらにぐんぐん近づいてくる。
「おい、シャルロットおまえ半妖怪なんだろ!?  なんかわかんねーか!?」
「失礼でちね!  シャルロットはハーフエルフでち!」
  焦ったホークアイがシャルロットにそう怒鳴るが、シャルロットは怒り出した。
  たまに、シャルロットはモンスターと口ゲンカしながら戦闘しているようなので、そ
れがまるで会話しているように見えるからなのだが、それは単なるその場のフィーリン
グでしかなく、本気で言ってる事を理解しているワケではない…。
「って、ブースカブー!  嵐に突っ込むつもりかぁ!?」
「嵐の方からこちらに近づいているようですよ!」
  リースの言うとおりだった。どうやらブースカブーなりに回避しようとしてくれてる
らしいのだが、嵐の方が速かった。上空は凄まじい強風がふいているらしく、雲の動き
は驚くほど速い。
「おい、みんな荷物を体にしっかりくくりつけろ!  特に水と食料!」
  嵐を回避できないと悟ったホークアイはそう叫んだ。
  みんな慌てて荷物を体にくくりつける。
「どうしようでち、シャルロット泳げまちぇぇん!」
  今にも泣きそうなシャルロット。その時ブースカブーは、嵐の入り口へと入ってしま
っていた。
  ドドォーン!  ガシャーン!
「うきゃああぁぁぁーんっっ!」
「キャーッ!」
  雷が激しく鳴り響き、大きな波にもまれ、ブースカブーの甲羅の上は凄まじく揺れた。
大粒の雨がみんなを激しく横から叩きつける。風も雷に負けないほどに、音を轟かせ、
凄まじいばかりの嵐であった。
  みんなは、甲羅の上のポールに集まり、それにしっかりつかまっていた。
「うわあぁぁーっ!」
「キャアアー!」
  誰が誰の悲鳴かわからない。ただ、夢中になってポールにとしがみつく。
  雨が、風が、波が、容赦なく6人を襲う。
  空も海も真っ暗であった。その中を、稲光が単発的に周囲を照らす。激しい波にもま
れ、ブースカブーは大きく上下に揺れる。そして幾度か、波をかぶる。
  大波にも負けず、ブースカブーは転覆だけはしなかった。しかし、その揺れの激しさ
たるや、目も回すほどだ。
  みんな、必死になって、とにかくポールだけにつかまっていた。
「なっ、なんだぁありゃあ!?」
  恐らく、ホークアイの声だろう。その声に、みんな目を開いて、ホークアイの視線の
先を追った。
  それは、断崖絶壁とも言うほどの、高い高い波だった。一瞬でみんなの顔が真っ青に
染まる。
「ゲゲーッ!」
「うしょーっ!」
「イヤァァァーッ!」
  叫ぶ間も許さず、巨大な波は目の前に現れた。
「うわあぁぁぁーっ!」
「キャアアアァ!」
「にゃああああああああっ!」
  ブースカブーは巨大な波に吸い込まれ、上へ上へとすごいスピードであげられていく。
しかし、さすがブースカブー。転覆もされずにうまい具合に波にのっている。もっとも、
そんな事がわかるような余裕は、誰も持ち合わせていない。
  波の一番上に乗り、そして今度はすごい勢いで下降していく。
「ワアアアアアアァァァァァッッ!」
「ぎゃあああああああぁぁぁぁっっ!」
「うおおおおおぉぉぉぉっっ!」
  誰が誰の悲鳴かわからない。その悲鳴さえも暴風、雷鳴、豪雨によってほとんど打ち
消される。
  海水を激しくかぶったものの、何とかもちこたえ、ブースカブーは海面に甲羅を見せ、
懸命に泳いでいた。
  普段の彼なら、もちろんこんな嵐などは海中に潜ってオシマイだ。しかし、そんな事
をしたら、甲羅の上の連中がオシマイであることは、よっくわかっていたのだ。
  デュランは、シャルロットが放り投げられないように腕の中に抱いてポールにつかま
っていた。彼女が彼の近くにいたので、とっさにそういう行動をとったのだ。
  凄まじい嵐の中、腕の中のシャルロットの温もりと、必死につかんでいるポールだけ
が、彼のすべてだった。
  甲羅の上の揺れはあの大波の跡も凄まじかった。みんな濡れに濡れ、寒くなり手もか
じかみ、ポールをつかむ事さえ苦痛になってくる。
  アンジェラはもう限界だった。濡れて、ポールをつかむ手はすべってくる。寒くて感
覚がなくなってくる。
「も…もう……ダ…」
  手がすべった。
「アンジェラーっ!」
  誰かの声が、彼女を呼ぶ。しかし、彼女は荒れ狂う波へと大きく放り投げられた。
  そして、またも先程のにも勝るとも劣らない巨大な波が彼らを襲った。
「うわあああーっ!」
「キャアアアアアァァァー!」
  手の中から、ポールがすべっていく感覚。そして、大きく放り投げられる感覚。そし
て……。

                                                         to be continued...