…ラ、ラビがあんなにいて怖いでち…。な、なんか追いかけてくるから、思わず一目さ
んに逃げてきたけど…、追っては…こない…みたいでちね…。
 ふう…。
 やっぱしあんな凶悪で極悪なモンスター相手に、かよわいシャルロットは戦う事はちょ
っと難しい感じしまち。きっとヒースが一緒なら愛の力でどうにかなると思うんでちが…。
 ヒース…。ヒースは、どこかなぁ…。
 ヒースを探しはじめてどんくらい経ったのかなぁ。何匹目かのラビから逃げてきて。ふ
っとなにやら話し声がするんでち。
 ……?
「おまえ達…ビーストキングダムの獣人兵か!? なぜこんなところに…」
 あーっ! ヒースの声だぁっ!
 思わず駆け寄ろうとして、なにやら空気がおかしいんでち。なんか、ヒースがごっつい
おっちゃん達に囲まれているんでち。
「貴様…。なぜここに?」
「くそっ、こんなところで人に見られちまったか!」
「まさか、ウェンデルへの侵攻、本当の事だったのか!?」
 険しいヒースの声。……ウェンデルへのしんこう…?
「な、なんでてめえがそんな事知ってやがるんだ!?」
「…そうはさせない!」
「んだとぉ!?」
 あ、ヒースがあぶないっ!
 シャルロットはもう、夢中で飛び込んでいきまちた。
「こらーっ! わるものっ! ヒースをいじめるのは許さないでちよっ!」
「シャッ…、シャルロット!?」
「なんだぁ、このガキ」
「ガキとはなんでち……わわわっ、は、離すでち!」
 なんたること! 哀れシャルロットはそこのごっつい男その1に捕まってしまったで
ち! 乙女の首根っこをつかむとはなんてヒドイ男なんでちかね!
「やめろ! その子を離すんだ! …………して……たまえ…」
「ん…?」
 あ、ヒースの得意技の…
「ホーリィボールッ!」
 グワァァッ!
 光の玉が次々と男たちに炸裂! シャルロットも離して、男たちはのびてしまいまちた。
「ひ、ヒースぅ!」
「シャルロット! どうしたんだい、こんな所に!」
 ああ、感動の再会!
 シャルロットはヒースにギュッて抱き着きまちた。お日様の匂いのヒースでち…。
「シャルロット。どうしたの? どうしてここにいるの?」
「それはでちね、シャルロット、ヒースが心配で…」
 !
「な…、なに……」
 今、なんか、背中がウゾゾゾッてした…でち…。
「すごく…邪悪な気配が…。シャルロット、下がってて」
 ヒースはシャルロットを降ろすと、なにか気持ち悪い感じがする方をにらみつけて呪文
を唱えるかまえをしまちた。
「…シャルロット、今のうち逃げるんだ!」
「で、でも…」
「早く! ここは危険だから!」
「…わ、わかったでち…」
 こ、ここは、アストリアまで走ってしまうでち!
「あ、ちょっ、シャルロット! そっちは危険だから!」
 早く抜けてしまえば!
「ダメだっ!」
「うわっ!」
 ドンって背中を突き飛ばされて、ふっと後ろを見ると、黒いカタマリがヒースを包んで
いまちた! なっ!?
 ボスンッ!
 黒い煙りがいっぺんにたくさん出て、なにか、爆発した!
 そして…そこには倒れたヒースが…。
 あ……あ、ああ……。
「なにか、高度な呪力爆発があったと思ったら…。…しかし、ホーリィボールの使い手の
ワリにはあっけないな……」
 そして、いつのまにか、もんのすごく怪しいヘンな男が…。サーカスのピエロみたいな
格好をして、手も足も骨みたいに細くて…怖い感じのヘンな男が…。
「……これは…、また、高い精神力の持ち主だ…。ヒヒヒ…。思わぬ手土産があったわい
…」
「ちょ、ちょちょちょっ! ヒ、ヒースに何をしたでちかっ!」
 シャルロットはもらったばかりの武器をかまえ、男に向かって怒鳴ったでち。ふ、震え
ているのは…む、むしゃぶる…い…。
「ん…? なんだオマエは……。ま、いいか…」
 こっちを見たあの黄色いギョロッとした怖い目!
 う、うううう、で、でも! ヒースを助けなきゃ!
「ヒースに何するでちかっ!」
 夢中になって、あのヘンな男に飛びかかっていきまちた。
「なっ、うるさいガキだね。すっこんでろ!」
 あの男の服をつかんで、引っ張ったけど、逆にはたき落とされて、投げ飛ばされてしま
ったでち。
「うわぁーっ!」
 そして、男がごにょごにょと呪文を唱え、ばばっと印をきって…。
「オムッ!」
 男に向かって走ったけど、男とヒース中心に、黒いカタマリで包まれて、それがギュッ
と縮んで、またぶわぁって広がって!
「わっ!」
 その圧力にシャルロットは吹っ飛ばされてしまいまちた。
「…あ、あいたた…。ヒ、ヒース? ヒース、どこ!? ヒース!」
 すぐに起き上がって、ヒースを探したけど、ヒースはあの男と一緒に消えてしまって…。
 消えて……。
 連れ……去られ……ちゃったんだ……。
 ……そんな……。……………。
「うっく…ヒース…。ヒースぅぅっ! ヒ…ヒースをかえせえぇぇぇぇぇぇっっっ!!」



 泣くだけ泣いたら…すこし…落ち着いた…。
 そうでちよね。ヒースはつれ去られただけでちもんね。探せば…良いんでちもんね…。
そう…でちよね…。
 袖で涙を拭って、シャルロットは立ち上がりまちた…。
 とりあえず、おじいちゃんに言っておかないと、ダメでちよね…。 泣いてるだけじゃ、
ヒースは帰って…こないでちもんね……。
 ふう。
 一度アストリアに戻る事にしよう…。それから、ウェンデルに…。 ラビの森は来た時
よりも、なんだかラビが減ってる感じがしまちた。なにか、誰か先に通ったような…。そ
んな感じでちよね…。
 会わないなら、会わないでいいから、それでいいや。
 夕方頃、やっとアストリアにつきまちた。
 すごく、すごく疲れてたので、宿屋に行きまちた。宿代が必要なんだそうでちが、シャ
ルロットのお小遣いで大丈夫でちた。
 小さな宿屋で、あんまり客はいないって聞いてたち、実際昨日もシャルロットだけしか
泊まっていなかったんでち。けど、今日は他にお客さんがいるらしくて、なんか、お隣に
泊まってるみたいでち。 そういえば、もうちょっと大きな宿屋がもっと湖の近くにある
んでちけど、もうあそこまで歩く気力ないでちよ…。
 ふう……。
 ベッドに腰掛けて…、寝転んで…。
 うう…、うっ、うう…。ヒース…、ヒースぅぅぅ…。
 涙で目がかすむでち…。悲しくて…眠れそうにないでちよ…。
 ヒース………。ヒース…。
 ……ヒ……………。
 ……………。



「うわっ!」
 いきなりぱああってすっごく明るくなって飛び起きまちた。
 朝っていきなりやってくるんでちか!?
「も、もう朝なんでちか!?」
 ベッドから飛び出て、窓をのぞくと、なにか強い光の玉が…ふよふよと…光の玉の中に
…………、女の子………?
 光の玉は、なんか、あっちに…あ、待つでちよ!
 おじいちゃんが言ってたのはたぶんあれでち! 確かめるでち!
 え、ええと、ええと、出掛けるんだから、出掛ける用意しなくちゃいけないんでちよね!
 うんしょ、うんしょ。お服を着て、パジャマをカバンにしまって、カバンを持って、ク
ツ、はいて…。い、急ぐときちんと用意できまちぇん! で、でも、急がないと…。
 よ、よし、行くでち!
 シャルロットは宿屋を飛びだしまちた!
 あ、らっきー! まだあの光の玉がいまち!
 なんか、なんか、あっちの方に光の玉が飛んでいくのでち!
 あれが何なのか、追いかけて、確かめなくっちゃあ!
 シャルロットは全速力であの光の玉を追いかけまちた!
 走って、走って!
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」 
 …で、でも…あの、光の玉……は、早い…でちよう……。
「はぁ、はぁ、はぁー…、も、もうダメ……」
 く、苦しい…。もう、走れ…ないでちよ…。
 ふらふらってへたりこんじゃって、もう、立つのもツライでち…。 ふぅ、はぁ、ふぅ、
はぁ…。
 だいぶ休んで息を整えて…。はあ…。
 ……………。
 …結局、あの光の玉は何だったでちかね…。そういえば、シャルロットよりも前にあの
光の玉を追いかけている人がいるような気がしまちたけど…、気のせいかな…。
 ああー…。でもこれからアストリアに帰る気力もないでちよー。思わず飛び出してきち
まいまちたけど…。あの光の玉がなくなったら、暗いし…。夜だし…。
 仕方ないでち…。今夜はこのへんでお休みするでちか…。…ええと、確か、高い所には
ラビは上ってこれないんでちたよねぇ…。
 んっと…。あ、あのへんがいいや…。
 シャルロットはちょうどいい高台を見つけて、そこまで上ると、ふうって息を吐き出し
て、そして、寝る事にしまちた。だって、なんかもう、疲れちゃって……。
 ヒース…。きっと、シャルロットが見つけてあげるからね…。

「う、う、あいたたた…」
 固い所で寝るっていうのは、寝にくいものなのでちねぇ…。
「ふ、ふわぁぁ…」
 ふう。ぎゅうって伸びをしたら、少し体の調子が戻った気がしまちね。
 おなかがすいたので、まんまるドロップを口に入れて、それから出発する事にしまちた。
 えっと、滝の洞窟を通って、ウェンデルに戻って…。
 …おろろ?
 なんか、ラビがあっちこっちにバタバタ落ちてまちね…。誰か倒しまくったみたいだけ
ど…。誰だろ…?
 それにしても、アストリアの方からみょーにくしゃい匂いがするんでちが、一体何があ
ったんでちかね? 今はウェンデルに戻るのが先決でちけど、後で何があったか聞こうか
な…。
 えっと、滝の洞窟は…、こっちで良いんでちよね。
 滝の洞窟はもちろん初めてではありまちぇん。もっとも、一人で来たのは初めてでちけ
どね。
 入ってすぐはけっこう暗いんでちが、もうちょっと奥へ行けば明るくなるんでちよ。モ
ンスターがいるって言うけど、今のシャルロットには武器もありまちからね。
 ビィンッ!
「わきゃっ!?」
 ど、どーくつの中に入れない? ………あ、あ、ああ! そういえば、ヒースが結界張
ったとか、なんとかって…、この事だったでちか!
 あうー…。これは困ったでち…。ここはアストリアに戻って様子を見……んっ!? だ、
誰か来まちね!
 怪しい人だったら大変でち。シャルロットはぱぱっと見回してちょうどいい岩陰を見つ
けると、急いで隠れてそっと様子を見まちた。
 …なんか…、女の人が来まちたね…。あ、滝の洞窟には入れな…あっ! 跳ね返された
でち。ぷぷぷ。ちょっとおかしいでち。お、もう一度…手を…のばして…やっぱり跳ね返
されたでち。
 …とりあえず、危険そうな人には見えないでちけど……およよ、また一人、誰かやって
来まちたね。今度は男の人みたいでちよ。
 あの人達が何を話しているかまでは聞き取れないんでちけど…知り合い…なのかな…?
 ん? なんか、小さいのが男の人から出て来たような??? およよ? 目をこすって
見るのでちが、どーにも小さくてよく見えないのでち。…なんだろう…? 虫…にしては
大きいような……。
 それからまたなにかしゃべってて、何か話がまとまったらしく、二人は滝の洞窟に歩き
だしまちた。?? 滝の洞窟には入れないって知らないのかな?
 あ、あーあー、ほらぁ、やっぱり跳ね返されてまち。
 およ、また虫が…ん? なに、呪文…? 魔法を感じまちよ。
 そしてそして! そのうち二人はなんと滝の洞窟に入ってしまいまちた。どーやってあ
の結界を解いたんでちかね??
 …うー…。ここにこうしていても仕方ないでちね。シャルロットはウェンデルに向かわ
なければ!
 岩陰から出て、シャルロットはひっついた土埃なんかをぱんぱんってはたいて、さ、滝
の洞窟に入りまちよ!
 滝の洞窟は入り口は暗いんでちけど、そのうち明るくなるので大丈夫なのでち。それに
ちょっとくらい暗くても、シャルロットは平気でち。えるふの血をひいているから、少し
くらい暗くっても見えるんでちよ。
 中のモンスターもさっき入った人達が倒してくれていってるらしく、シャルロットも楽
ちんにすすむ事ができまちた。
 ……んー? おろろ…? えーと…、こっちで良かった…かな…? むぅ…。ちょっと
くらい暗いのはともかく、暗すぎはよく見えないでち。
 たぶんこっちでちよね。二又に別れてる道を右に行って、しばらくすすんでいまちた。
モンスターもなんかいないし、こっちで良いんでちよね。
 ああー、滝でちねぇ。ここまでくればウェンデルへも近いし、明るい……、
「しぃよえええぇぇっっ!?」
 う、うきゃきゃっ! み、道がない、道がないでちっ! お、おまけに滝の近くだから
地面がつるつるしてまちぃっ!
 う、うそうそうそっ!
「うわきゃっ!?」
 ひゃっ! 足がすべった!?
「うきゃあああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
 お、落ちる落ちる落ち……、
「るぎゃっ!」
 ドンって、お尻をうって、勢いでごろごろって転がって…! う、うひひ、ガ、ガケっ!?
「キャ…」
 もー、必死で橋の端っこをつかみまちた。こ、ここで落ちたらアウ、アウト……!
「キャーッ! キャーッ! だれかぁーっ! キャーッ!」
 この時は本当に頭の中がパニックでちた。頭の中がぐるぐる、ぐるぐる。
「キャーッ!」
 夢中で叫んでいると、さっきの男の人が走ってきて、シャルロットの手をつかんで、引
っ張り上げてくれまちた。
 ふ、ふあ…。た、助かった…。
「ふ、ふいーっ…、た…助かりまちたでち。ど、どーもありがとしゃんでちた…」
 あ、あ、ビックリしたでち…。ふあ、あ、ふあーっ…。
 胸をおさえて、ドキドキをどうにか静めて。
「…おまえ、どうしたんだ? こんなとこ、女の子一人でなんて危険だぜ?」
 やっと落ち着いたシャルロットに、そこのおにーしゃんが話しかけてきまちた。後ろの
おねーしゃんもうんうん頷いていまちた。
「だ、だって…、シャルロット、ヒースが心配だったんでち。でちから…」
「ヒース?」
 うう、旅の人ならヒースは知らないのは仕方ないでちよね…。そこでシャルロットはヒ
ースとシャルロットの関係とか、ヒースが調査に行ってしまい、それを追いかけた事。で
も、ヒースはヘンな男につれ去られてしまった事、そんでもって滝の洞窟で迷って、ここ
に落ちてしまった事を話して聞かせまちた。
 なんか、話してるうちにシャルロットは自分がなんて大冒険をして、とても悲しい境遇
にあっている事に気づいてきまちた…。
「あんたしゃん達が来てくれなかったら、シャルロットは今頃…。あうう…なんて可哀想
なシャルロット…!」
「あーあー、わかったから、泣くなってば…。んで? おまえもウェンデルに行くのか?」
「シャルロットはウェンデルに住んでるんでち。でちから、行くんじゃなくて、帰るって
言いまちね」
「そっかそっか。んまぁ、俺らもちょうどウェンデルに行く途中だし、この先一人じゃ危
険だろ。来いよ、ウェンデルまでなら送っていってやるからよ」
 およよ、このおにーしゃんなかなか親切じゃないでちか。ちょっと怖そうな感じしまち
けど、本当はそうでもないかもしれないでちね。
「ひょー、助かりまちた! で、あんたしゃん、なんでウェンデルに行くんでち?」
「ん? 光の司祭殿に会いに行くのさ」
「ありゃま! んじゃあ、あんたしゃん、このシャルロットを助けてじぇんじぇん損はな
いでちよ。その光の司祭って、シャルロットのおじいちゃんの事でち」
「へぇ!?」
 ビックリしたらしくて、おにーしゃんはすっとんきょうな声をあげまちた。でも、なん
か信じてないみたいでち。失礼でちねぇ! ここはひとつ、光の司祭のお孫しゃんという
ことをアピールしておかなきゃいけまちぇんね。
「シャルロット、ウソはつきましぇん! コホン。あー、チミチミ。このシャルロットを
てーちょーにウェンデルまでお連れしなしゃあい」
「………………」
 おにーしゃんはなんか、疲れた顔でため息をつきまちた。失礼でちねぇ!
「しゃあ! 行きましょ!」
 そうと決まれば早くウェンデルに帰るんでち。シャルロットは荷物を急いで拾い集める
と、おにーしゃんの手をとって、さっそうと歩きだしまちた。
「あ、そうだ。まだあんたしゃん達のお名前きいてなかったでち。なんてーんでちか?」
 そうなのでち。まだ、名前も聞いてなかったんでちよ。
「俺か? 俺はデュランだ」
「そっちのおねーしゃんは?」
「アンジェラよ」
「そーでちか。シャルロットはシャルロットって言うんでち。よろしくでち!」

                                                             to be continued...