一面に広がる花畑。赤いの白いの黄色いの。シャルロットの好きなお花はピンクのお花。
 それを摘んで、また摘んで…。
 ふっと見上げるとぱぱとままがにこにこしてる。
 ピンクのお花を持ってぱぱとままに…。
 ぱぱとままに…。
 …え…? なんで、ぱぱとままのところに行けないでちか? なんで、走っても走って
もぱぱとままのところに行けないんでちか?
「ぱぱー! ままー! どこいくのー!?」
 走っても走っても、ぱぱとままはどんどん遠くなる。シャルロットがこんなにも…全速
力で走っているのに、ぜんぜん…追いつけない…。
「ぅあっ!」
 何かにつまずいて、顔からどしんと転んでしまう。
 あわてて起き上がって前を見ると、ぱぱとままは随分遠いところにいて…。
「ぱぱぁーっ! ままぁーっ! どこいくでちかー!? おいてかないでえーっ!」
 どんなにさけんでも、ぱぱとままは遠くに行っちゃって…。



「っ!」
 目をあけると、見慣れた天井でちた。
 ………ゆ……め……。
 ふう。
 ちょっと息をついて、目にちょちょぎれた涙をぬぐう。
 …なんでちか…。なにか…こう…最近、ヘンな感じがするでち…。あの夢はこの頃は見
なくなったのに、また見るようになるなんて…。 いやでちね…。
 シャルロットはベッドから起き上がると、なんとかお着替えをすませてヒースのとこに
行こうと思いまちた。
 こーゆー暗い気持ちの時は、ヒースと一緒にいるのが一番なんでちから…。

 えっと…ヒースはどこかなぁ…。
 そこいらをうろついてる他の神官にヒースの事を聞くと、おじいちゃんに呼ばれてると
か、なんとか。じゃ、おじいちゃんのいつもいるとこ、かなぁ…。
 ヒースいるかなぁ…。なんて、ぼんやりしてたのがいけないんでちね。いきなりどんっ
て誰かとぶつかってちまったんでち。
「わちゃっ!」
「わっ! ああ、シャルロットか」
 この声は…、ヒースでち!
「ヒース!」
「ごめんね。考え事してたもんだから。ケガはないかい?」
 偶然ヒースとぶつかるなんて、運命でちね!
「な、ないでちよ! シャルロットはいつも元気なんでちから!」
 ヒースに心配なんかかけちゃいけないんでち。シャルロットはごくじょーのほほ笑みを
ヒースに見せてあげました。
「そうかい? 良かった」
「あ、ねえねえ、ヒース。これからヒマでちか?」
「え? あ…、ごめんね。これから光の司祭様…君のおじいさまに呼ばれてるから、ヒマ
じゃないんだよ…」
「あんなジジイに呼ばれてたってかまうことないでちよ。デートするでち!」
 シャルロットのナイスな意見にも、ヒースは苦笑するだけでち。
「そうもいかないよ。僕は神官なんだから。司祭様に呼ばれたなら行かなくちゃいけない
し」
 んもー! おじいちゃんもヒースの事がお気に入りみたいなもんでちから、すーぐなん
かヒースに頼むんでちから。たまには自分でやればいいのに。
「じゃあね。また今度遊ぼう」
「約束でちよ」
「うん。それじゃね」
 ヒースはそう言うと、くるっと背を向けて、おじいちゃんのとこへ行きまちた。
 ……あのジジイ、今度はヒースになにをやらせる気でちかね…。扉の奥からそろーって
のぞいてみるんでち。
「……昨夜、湖上に現れたという不思議な光の事は知っているな?」「はい。昼かと思うく
らいの強い光と聞いています。どうやら、アストリアの方へ向かったようなのですが…」
「うむ。そこで、おまえにそれの調査をしてもらいたい。ここのところ、なにやら不穏な
空気があり、どうもただごとではないようなのだ…」
「はい、わかりました。それに、ジャドの方からなにか邪悪な気配もいたします。もしも
のために、外部の者を阻むための結界もはっておきましょう」
「頼んだぞ」
「はい」
 またなんかムツカシソウナ仕事をヒースに押し付けてまちね。
 …でも、不気味な光なんて…、随分と危険そうでち。…それに、なんかイヤな予感がし
まちねぇ…。よっし、ここはシャルロットがヒースをまもってあげなくてはいけまちぇん
ね!
 …それじゃ…、ちょっくら旅の支度というのをしなくてはならないでちね。そうと決ま
ったら、即実行でち!
 シャルロットは自分のお部屋(というか、おじいちゃんとの相部屋というか…)に一目
さん。お気に入りのカバンをまず引っ張り出しまちた。
 そんでぇ…えーと、旅には…何がいるでちかねぇ…。まず、お着替えは必要でちね。そ
んでもって、うーん…、あ、そうそう、歯ブラシセットとかもひつよーでち。あとはぁ…
お小遣いもやっぱり持っていった方がいいでちかね。
 ブタの貯金箱を壊すには忍びないんでちが。シャルロットの有り金といったら、今はこ
れがすべてなんでち。
 ヒースのためでち!
 ガチャーン!
 うう、ブタしゃん、ごめんなさいでち。
 えーと、そんで、お金は………。
 ……うーん…。これで、いいのかなぁ…。よくわからないでち。みんな財布の中に入れ
ちまうでち。
 あとは…。あとはー…。……………。
 まぁ、いいかな。じゃ、これらをカバンにつめなきゃ。
 ………お着替えを全部いれるのは無理でちたので、厳選したものをカバンに入れまちた。
あんまり重いと持てまちぇんしね。
 これでよち!
 あ、書き置きもしておいた方が良いでちね。
 とゆーことでシャルロットはおじいちゃんに書き置きを残しておきまちた。ヒースと愛
の逃避行…じゃなくて、ヒースのためにシャルロットは旅にでーまーち…と。
 おじいちゃんの机の上にあった紙に、そこのペンで書く。…ちょっと、袖がインクで汚
れちゃいまちたが、ま、いいでちょう。
 さ、出発でち!
 
 意気揚々と神殿の門を出ようとすると…。
「あ、シャルロット様! どこへ行かれるのですか!?」
「どこって、いいじゃないでちか!」
 いきなり、門の前の神官がシャルロットをギュッと捕まえたんでち!
「駄目です! ここのところモンスターが暴れて危ないんですから! 今日は神殿から出
てはいけません! おじいさまからそう言われていたでしょう?」
「そんなの関係ないでち! 離すでち!」
「いけません!」
 なんて、こわい顔してにらみつけるのなんて、反則でち!
 …結局、どうちても外に出してくれないんでち。いけすかないでちねぇ!
 んもー…。せっかく旅の用意をしたというのに…。
 仕方なく。シャルロットは本当に仕方なく、神殿内を歩いてまちた。どこか、抜け出せ
る方法はないんでちかねぇ…。
 …おや? あれはミックじゃないでちか。ミックとゆーのはシャルロットの子分なんで
ち。
「ミックー!」
「………なんですか?」
 ミックは立ち止まってこっちを見まちた。幸い、ここらへんには神官達はいないみたい
でち。ちょーどいいでちね。
「ミック。ちょっと顔かすでち。シャルロットはこの神殿から抜け出てアストリアに行き
たいんでち。なにか良い案はないでちか?」
「えー!? そんな無茶な! アストリアっていったら滝の洞窟をぬけていかなきゃいけな
いんですよ? あそこはモンスターが出るから、大人たちみたいに魔法が使えないとダメ
ですよ」
「ダメでもなにも、子分のクセにシャルロットの言うことが聞けないんでちか? 年上の
おねーたまの言うことは聞くんでち!」
「年上って…」
「シャルロットはあんたしゃん達よりも、大きくなるのにちびっと時間がかかるだけなん
でち。もう花もはじらう一五歳! あんたなんかよりずっとずっと年上のおねーたまなん
でちよ! 言うことが聞けないんだったら、おしおきでち!」
 シャルロットがすごんでみせると、ミックは困った顔して後ずさりまちた。
「わ…わかりましたよ…。…えっと………………そうだな、じゃあ、あの方法でやってみ
ましょう。夜、神殿のベランダに来て下さい。たぶんきっとアストリアに行けますよ」
「よしでち。それでこそシャルロットの子分でち!」
 持つべき者は子分でちね!
 じゃ、夜までヒマでちからちょびっとお昼寝でもしまちかねー。

 …夜になりまちた…。相変わらず神官達はウロウロしてまちが、確かにベランダに出る
神官ってのはいないんでち。
 シャルロットは昼間用意しておいたカバンを持って、ベランダに向かいまちた。
「あ、シャルロットさーん。こっちこっちー!」
 お? あっちでちね。ベランダのはじっこの方で、ミックがなにかぴょこぴょこ跳びは
ねてまち。
「ほんとーにアストリアまで行けるんでちね?」
 シャルロットが念を押すと、ミックは不敵にふっふっとか笑ってまち。そして、ふとこ
ろから大事そーになんかヘンなモンを出しまちた。
「じゃじゃーん。これはバネクジャコと言ってですね、チョースゲージャンプができちゃ
う超ナイスなモノなんです! 用意するのがそりゃもー大変だったんですからね!」
「……これが…でちか?」 
「そうですよ。これに乗ってアストリアまでばびゅーんって、ひとっ飛びですよ!」
 ミックは親指をグッと突き出して見せたんでち。…まぁ、信用してあげまちょう…。
「えっと、これを、ここに置いて…と」
 ミックはベランダでも広いところにそのバネクジャコを設置。シャルロットに乗れと合
図しまちた。
「じゃ、大人達が来ないうちに…」
「わかったでち!」
 いざ行かん! アストリアへの旅!
「せーの!」
 助走をつけてシャルロットは大きくジャンプ! バネクジャコの頭をギュムッと踏ん付
けて……ぇえええええええええええええええええええええええっっっっっ!!!!
 うひょひょひょひょひょまわるまわるまわるまわる!!!
 一瞬、ふわりと浮く感触…そんでもってぇぇええええええええええっっっ!!!!!
 うひゃひゃひゃひゃひゃおちるおちるおちるおちる!!!
 おちるぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ! って、あそこになんか人がいるでちーっ!
 ちょっとだけ、そこの人と目があった。気がしまちた。

 ガチーンッ!!!

 もう、もんのすごく頭が痛かった。それだけでち………………。



 あうう…。あ、頭が痛むでち……。
「あ、う……だ、だいじょうぶか……?」
 目を開けると、見た事もない人がシャルロットを心配そうにのぞき込んでいまちた。
「…あんましだいじょぶじゃないでち」
「あ、あたまうって…いたむ……?」
 色黒でガッチリで、ウェンデルではあんまりいないタイプでち。しゃべると口かちらつ
くキバがミョーに印象的でち。
「………いたいでち…」
「そ、そうか…。いきなり落ちてきた。ビックリした……」
 ああ…。そういえば……。アストリアに向かわずにこの人の頭の上に落ちてちまったん
でちねぇ……。
「ここ、アストリアの宿。ゆっくり、休め」
「…そうでちか…。運んでくれたでちか…ありがとうでち」
「…オイラ、もう行く。ゆっくり、休め」
 お礼を言うと、その人はちょっとだけ笑ってそう言うとどこかに行ってしまいまちた。
 まったく、ミックの奴、失敗したんでちね! アストリアに向かわず人の頭の上に落と
すなんて! 帰ったらおしおきでち!
 ……でも、ともかく……休む事は大切でち……。……ふう……。

 気持ちの良い朝でち! さ! ヒースを探しに行かなくっちゃ!
 シャルロットが持ってきていたカバンも、昨日の親切な人のおかげで全部無事でちた。
 カバンを持って、出発しんこーでち!
 昨日の親切な人の言う通り、ここはアストリアでちた。宿屋に泊まったのは初めてなん
でちが、ここには何度か来た事があるんでち。 小さい村でちが、けっこういいとこなん
でち。
 そうでちね。ちょっと挨拶しておくのも悪くないでちね。
 シャルロットはちょびっと迷いながらも、アストリアの知り合いのお家に来まちた。昔、
神殿に勤めてたおばあちゃんで、今はもうここで引退生活をおくっているんでち。
「あ、こーんにーちわーでち!」
 お庭でお花を眺めているところを発見。声をかけまちた。すると、すっごいビックリし
たみたいで、目を真ん丸にしてシャルロットを見まちた。
「シャルロットじゃないか! お前一人かい?」
「そーでちよー! ヒースのためにここまで大冒険したんでち!」
「…なんとまぁ…。シャルロット。あの滝の洞窟をどうやって抜けてきたんだい? あそ
こは今、ヒースによって入り口に結界が張られてるっていうのに」
「え!? そ、そうなんでちか…?」
 シャルロットがギョッとなってそう言うと、おばあちゃんはあきれた顔をしまちた。
「…まったく、驚いたね。モンスターも出て危険だっていうのに…。武器も持ってないの
かい?」
 武器………。………そうだ……。そういえば、それも必要なんでちよねぇ…。
「……あ、あのねぇ、武器とか…ないでちか?」
「武器? そんな物騒なもの、ウチにはないよ」
「じゃ、何か武器代わりになるよーなものとか…ないでちか?」
「……うーん…。持ってどうするんだい?」
「決まってまち! それで悪いヤツらをばったばったとなぎ倒すのでち!」
「………………」
 おばあちゃんは何か少しため息をついてシャルロットを見まちた。
「どうしたんだね?」
 シャルロット達の会話に、庭の奥の方から、なにやらおじいちゃんが顔を出しまちた。
「シャルロットは武器を探してるんでちよ! それで、武器はないかって聞いているんで
ち」
「はははは。武器か。勇ましいね」
 笑い事じゃないんでちけどなぁ…。
「…そうだな、じゃあ、あれをあげよう。ウチじゃもう使わないから」
 そう言って、そこの小さな物置から古ぼけた、棒と短い棒をつないだようなヤツを引っ
張り出してきて、渡してくれまちた。
「これが武器でちか? 軽いでちね!」
「それは農機具だよ。からざおっていうんだ。子供用に作ったヤツだからぴったりだろう。
ただ、それを人に向かって振り回しちゃいけないよ。それでもけっこう痛いから」
「わかったでち!」
 シャルロットはぶんぶんと棒を振り回してみまちた。すると先っぽもぐるんぐるん回り
まちた。なんか、強くなった気がしまちね!
「あ、そういえば、ヒース見なかったでちか?」
「ヒース? ああ、そういえば、昨日あたり来てたねぇ。なにか、北の森あたりを調べる
とかいってたけど…」
 北の森でちか!
「あのへんは危険だから行くんじゃないよ。ヒースに会いたければここで待ってるんだよ」
 シャルロットはにっこり笑いまちた!
 本当は待ってなんかいられないんでちけどね。
 よぅし、武器も手に入れたし。今度こそヒースのところに…………行く前にまんまるド
ロップを手に入れた方が良いでちね…。あれって、疲れが取れるんでちよねぇ。まぁ、疲
れてなくても、時々シャルロットはおやつ代わりに食べちゃったりしてるんでちが…。
「じゃ、買い物に行って来るでち!」
「はいはい」
 おばあちゃんはそううなずくと、また庭の花を眺めまちた。隣のおじいちゃんともなに
かしゃべってたりしてるでち。
 雑貨屋さんでドロップを買って、カバンのポケットに入れまちた。さ、これで非常食は
カンペキでちね。
 街の人にヒースの事を聞いてみて、どうやらジャドの方に向かったみたいなんでち。ジ
ャドまで、ちょっと遠いけど…、だいじょぶでちよね。シャルロットの愛の力でそんなも
のは乗り越えてみせまち。
 さぁっ、アストリアを出まちたよっ! 愛と感動の冒険の第一歩でちね!

                                                             to be continued...