かわってここは飯屋。シャルロットは未だピーマンの前でうんうんうなっていた。
「あのなぁ! 毒じゃないんだぞ、ピーマンは。食ったっても死にゃしねぇんだぞ!?」 「そんらこと言ったってぇ〜!」 半泣き状態でシャルロットはいやいやとかぶりをふる。 「頑張れ、シャルロット」 ケヴィンも声援をとばすが効き目はない。 シャルロットはベソベソと泣きながら、ピーマンをサジですくう。…ピラフのピーマン以外の ものは全部食べてしまったのだ。 「口に入れろ! かんで飲み込めっ!」 「えぐえぐっ…」 シャルロットのサジを持つ手がふるえている。 「やっぱり食べなきゃダメなんでちかぁ!?」 「ダ・メ!」 「はううぅぅぅ…」 大粒の涙をぼたぼた流す。ピーマンの乗ったサジを、どうしても口に入れる事ができない。 「……デュラン……、やっぱりもう良いんじゃないですか?」 泣いているシャルロットを哀れと思ったか、リースが口をはさむ。シャルロットはそれを聞いて、期待をこめた目でリースを見た。 「ダメだ! そうやっていっつも食ってねーじゃねーか」 淡い期待をデュランの言葉が打ち砕く。 なんででちか…。なんでシャルロットはこんなにも、じごくのくるしみをあじわわなきゃいけ ないんでちか…。 シャルロットは自分が可哀想でしょうがなかった。だが、隣には怒ったような顔のデュランが自分を見ているのである。 右に悪魔。左に天使でもいるような心持ちだ。もちろん、悪魔はデュランで、天使はリースだ。 「不味い不味いと思うんだから、不味いんだよ」 「ウソでちー…。それはウソでちー…」 「鼻つまんで食え!」 「あうぅー…」 シャルロットが意を決し、ピーマンの乗っているサジを口にいれたのはこれから約二〇分後の事である。 「むくーっ! むむっ。うぅーっ!」 鼻をつまみ、涙をながし、目もつぶり、懸命にピーマンをかみ砕き、はき戻すしそうになるのを必死になってこらえて、飲み込む。 「はぁっ…、はぁっ…、はぁっ…」 ピーマンの苦い感触が喉元に残っているようで、とても嫌な気分だ。 「よぉーっし、よく食った。偉いぞ」 「本当。ちゃんと最後まで食べられましたね」 「スゴイぞ、シャルロット」 3人はピーマンを全部たいらげたシャルロットをそれぞれに褒めた。 「はふ…。はふぅ、はふぅ…」 目には涙がまだ残っており、鼻水もちょちょぎれていた。 「さて、出るか」 やれやれと、デュランは椅子から立ち上がる。リースもケヴィンも立ち上がった。 「ホラ、行くぞ、シャルロット」 「げぶ…。なんか、まだ、ピーマンが胸のあたりに残ってまちぃ〜」 「喉をすぎちまえば、大丈夫だって。ほらほら、立った立った」 シャルロットを軽く抱き上げて、デュランはこの席を離れる。そして、彼女を下に降ろすと勘定を払いに店のカウンターに向かった。 「デュランしゃんはヒドイ人でち。シャルロットにあんなとてつもなくまずいモノをきょーせー てきに食べさせるなんて…」 ピーマンを食べさせられた事をまだネにもっているらしく、シャルロットはブツブツ言いながら、雑踏を歩く。 「えっと…、一番安い宿屋は…あそこ…だったよなぁ…」 デュランはシャルロットの文句も聞こえないようで、キョロキョロと宿屋の場所を探す。宿屋に確認をとると、間違いなく、先にホークアイ達が来ていたらしい。ホークアイはダブルの部屋を3つとっていた。 案内された部屋の一つに、ホークアイが部屋のベッドで寝っ転がっていた。 「おまえらおせぇよ。いつまでかかってんだよー」 待ちくたびれたらしく、伸びをしながら、ベッドから起き上がる。 「ワリィワリィ。アンジェラは?」 「買い物じゃん? フラッと出て行ったぜー」 「ふーん。ところでさ、ここ、一番安いっちゅーわりには良い値段してたな」 「ああ。もっと安い宿屋がこの先にあったらしいけど、つぶれちまったらしい」 「そっか…」 良い値段するだけあって、それなりに良い部屋である。 「で? どうやって部屋をわける? とりあえず、ここに荷物おいといたけどー」 「そだな。じゃ、いつもの通りでいっか。部屋ごとに特に変わりはねぇんだろ?」 「ねぇよ。ただ、この部屋がちょっと広いかな」 「そっか。じゃあ、いつも通りでジャンケンで…」 「ちょっと待ってくだしゃい」 デュランの言う事をさえぎって、シャルロットが手をあげた。 「あ? みんなシャルロットの方を見る。 「『いつもの通りで』って、それだとシャルロットがまたケヴィンしゃんと同じ部屋だとゆー事でちか?」 「決まってんじゃん」 さも当然というようにデュランが言う。 「シャルロットも、たまには女の子どうしで一緒に寝たいでち!」 「なに言ってんだよ。お前以外の適任がいないからこうなってんだろ?」 「いーやーだー! シャルロットは女の子どうしで寝たいんでち! ケヴィンしゃんとばかりはつまんないでち!」 シャルロットはだだをこね、ジタバタを足を踏み鳴らす。 「シャルロット、オイラの事キライか?」 ケヴィンが悲しそうな顔で、シャルロットに話しかける。 「違うでち。ただ、女の子どうしで寝たいんでち。だって、ずぅっと、ケヴィンしゃんとばーっ かなんでちもん」 「それを言うなら、俺だってホークアイとばっかだし、リースだってアンジェラと一緒だぜ?」 「ふーけーつーでーち!」 「何がだよ!?」 「いやーん、とにかく、シャルロット、女の子どーしで一緒のお部屋が良いーっ!」 ハーッとため息ついて、デュランは困ったようにみんなを見る。みんなも困ったように顔を見合わせた。 「けどよー、シャルロット。おまえがアンジェラなり、リースなりと一緒に寝たら、残りの一人 はだれと寝るんだよ?」 「ぐ…」 デュランに言われて、シャルロットは言葉に詰まる。シャルロットも、デュラン達が年頃の男の子だというのはわかる。アンジェラやリースも、年頃の女の子。みんなで寝るならともかく、二人きりで寝る事になるのである。いくらベッドが別とはいえ、気にするなという方に無理があるだろうし、異性どうしでは着替えなど何かと面倒な事が多い。とはいえ、シャルロットも年頃 の女の子というのも、みんなにわかってほしかったというのもある。 「そのーぅ…」 「な? ダメだろ。あきらめろよ。おまえが一番安全なんだから」 「安全って、何がでちか!?」 鼻息もあらく、シャルロットはデュランにくってかかる。 「よっし、わかった」 ホークアイがポンと手をうつ。みんなホークアイに注目する。 「おまえ、アンジェラと一緒に寝ろ。俺はリースと同じ部屋で寝るから」 「…………………」 「……いや、あの、冗談です…すいません……」 リースにキツくにらまれて、ひきつった顔で謝るホークアイ。 「とにかく。あきらめろよ、シャルロット」 「いやーあーん! シャルロット、リースしゃんと一緒のおへやが良い!」 「なおさらまた無理な事を…」 ホークアイがあきれた顔で言う。どうやら、シャルロットは単にリースと一緒の部屋になりたかっただけらしい。リースになついてるシャルロットの事。それはわからなくもないが、そうなると、アンジェラが男の誰かと同じ部屋にならなければならない。そんな事、アンジェラがうなずくワケがないのだ。 「おまえなー。あ・の、アンジェラが素直にそれに応じると思うかぁ?」 ホークアイから鼻先に指をつきつけられ、たじろぐシャルロット。 「でも、でも…」 「よし、シャルロット。んじゃ、おまえ、俺らン中から一人選べ。それで良いだろ?」 ホークアイがデュランと自分を指さしながらそう言う。 「え〜〜…」 言われて、シャルロットは相当イヤそうな顔をする。 「えー、じゃねーよ。ケヴィンで飽きたってんなら、俺かデュランか。選ばせてやるよ」 「どっちもイヤでち…」 「じゃ、ケヴィンと同室だな」 「う…。でーもー、シャルロット、リースしゃんと一緒のお部屋が良いんでち! シャルロット、リースしゃんと一緒のお部屋になったことないんでち!」 「それが無理なんだって! おまえもわかってんだろぉ!?」 「でーも! 今日だけ! 今日だけのお願いでちぃ!」 とうとう、今にも泣きそうな顔になって、シャルロットはじたばたする。 「……っとにもう……」 困った顔で、またみんなは顔を見合わせた。 「………ったくぅ…しょうがねーなー…。今日だけだぞ」 「デュラン?」 ホークアイが驚いた顔で彼を見た。 「俺が床に寝るよ。アンジェラが一人で寝るんなら、アイツも文句も言わねぇだろ?」 「つまり、それって…?」 「俺たちが3人で一緒の部屋に寝るって事だよ。それしかねぇだろ? あのアンジェラが俺らの誰かと同室だなんて、承知しねぇに決まってんだから」 「まぁな…」 なんとなく、ムサそうな部屋になるなと思うホークアイ。しかし、シャルロットの願いを通してやるにはそれくらいしか方法はない。 「あの…本当に……いいんでちか…?」 あんなにワガママ言ってたくせに、いざそれがかなうとなると、シャルロットは急にシュンとなって、おずおずとデュランを見上げる。 「だって、おまえ、リースと同室が良いんだろ?」 「…うん…」 「良いよ。ただし! 今日だけだからな」 「……………」 今までさんざんゴネてたシャルロットだが、なんだかデュランに申し訳なく思って、ワガママ言ってた自分が恥ずかしくなった。しかし、リースと同じ部屋になれるという事は嬉しかった。 「ほら。シャルロット、デュランにお礼を言わなくて良いの?」 リースが中腰になって、そっとシャルロットの背中を軽くさする。 「…あ…ありがとしゃんでち…」 「いいよ、別に」 それだけ言って、デュランは自分の荷物を持ち、それからみんなに振り返った。 「ところで、どうやって部屋わける?」 「あの、ここをあなた達が使ってください。ここが一応、一番広いんでしょう?」 「あんまり大差ないぜ?」 部屋を取ったホークアイがそう言う。 「それでも、広い事は広いんでしょう?」 「…まぁな…」 「じゃあ、私たちは違う部屋に行きましょうか。えっと、あとはどこの部屋を取ったんですか?」 そう言って、リースは自分の荷物を持った。 「取った部屋はここと、隣の部屋と、そのまた隣の部屋だ。違いと言えば、ベッドのシーツの柄くらいだけど」 「じゃ、部屋を見てきましょうか」 「はいでち!」 リースに連れられて、シャルロットが部屋を出て行く。それを見送って、デュランは持ち上げた荷物を下に降ろした。 「……それにしてもおまえ、本当にシャルロットに対しては甘いなぁ」 あきれた表情で、ホークアイはデュランを見る。 「しょーがねーだろ。ヤツぁまだガキなんだからよ。ところで、おまえらこれからどうする?」 「俺は闘技場でも見に行くつもりだ。この町に来たからには、一応見ておきたいからな」 「ふーん…。ケヴィンは?」 「オイラ? オイラ…、どうしようかな…。デュランはどーすんだ?」 「俺は買い物に行くよ」 「そっか…。…オイラ…どうしようかな…」 そう困った顔で、うんうん悩みはじめた。 「好きにしろよ…」 そう言って、デュランは自分の荷物を探りはじめた。 「んじゃ、俺は闘技場に行ってくるわ。夕飯は勝手に取って良いんだろ?」 「ああ」 ホークアイはポンと飛び出して、部屋から出て行った。 「オイラ…どうしようかな…」 ケヴィンはまだうなって悩んでいる。 「じゃ、俺は買い物に行ってくるから。ケヴィンは留守番してるか?」 「…………やっぱりオイラも買い物行く…」 「そっか。じゃ、行こうぜ」 「おう」 二人は連れ立って部屋を出る。一応、カギをかけておく。 「あら、デュラン達もお出掛けですか?」 ちょうど、リースとシャルロットが部屋から出てくる所だった。 「ああ。買い物にな」 「そうですか」 「夕飯は勝手にどこかで食ってこいよ」 「はい」 「んじゃな」 「じゃーな!」 ケヴィンは手をふって、それから小走りでデュランの後を追った。 「じゃ、シャルロット。私たちも買い物に行きましょうか?」 「はいでち!」 シャルロットは嬉しそうにリースを見上げた。 |
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