「あーっ! これピーマンはいってるでち、シャルロットピーマンキライでちー!」
 ちょっと遅めの昼食を取っている時だった。シャルロットが、食べていたピラフの中からピーマンを見つけだして騒ぎはじめた。
「またかよ、おめーは。いい加減ピーマンくらいガマンして食え!」
 隣に座っていたデュランがため息をついてシャルロットを見た。
「いやあーあぁん、シャルロット、ピーマンきらあぁーい!」
「オイラが、食べよーか?」
 向かいの席に座っているケヴィンが口の中に食べ物をいれたまま、ややもごもごさせ言った。
「本当でちか? あげるでち」
 喜んで、シャルロットがピラフの皿をケヴィンに差し出したのだが、デュランに強引に戻されてしまった。
「シャルロット! ピーマンくらい自分で食え」
「ええええぇぇ!?」
 すごく嫌そうな顔をして、シャルロットはデュランを見上げる。
「そうよ、シャルロット。好き嫌いしてたら大きくなれないわよ」
 リースもシャルロットの隣で優しく諭す。
「う〜…」
 眉をしかめ、泣きそうな顔でピーマンをにらみつける。
「ホラ、ライスとかと一緒に食っちまえば気になんねーぞ」
 デュランがシャルロットのピラフをさじですくってやる。
「ぶー! シャルロットの舌は繊細なんでち。シャルロットの舌はピーマンのあの苦さをビンカンに感じ取るんでち! でちから、とぉっても苦いんでち!」
「気のせいだよ、気のせい」
「気のせいなワケないでち!」
 頬をふくらませ、デュランをにらみつける。
「いーから食えよ」
「いやでちぃ!」
 ツーンと、デュランから顔をそむけるシャルロット。
「…じゃー、デザートのイチゴショートはナシだな」
「ええええぇぇ!?」
 シャルロットはビックリして、席から立ち上がろうとした。が、背が小さいため、椅子から滑り落ちそうになる。
「はわわ!?」
「あらあら…」
「おっと」
 だが、デュランとリースが、シャルロットが落ちるまえに、彼女の服をつかんたので、落下は免れた。
「はふぅ」
 戻してもらって、シャルロットはちょっと一息つく。
「なんだってデュランしゃんは、こんなにもかよわくも愛らしい美少女にむかって、そんなにもごくあくな事が言えるんでちか!?」
「ピーマン食わないからだろ」
「むかプー!」
 シャルロットは頬をパンパンにふくらませながら、なおもデュランをにらみつける。
「ピーマンこそは女の子達の大敵なんでち! 許す事のできないごくあくにんなんでち! だから、シャルロットはピーマンを食べちゃいけないんでち!」
「なにワケわかんねーこと言ってんだよ。ピーマンが女の子の敵だってんならちゃんと食えるアンジェラやリースはどうなんだよ」
「うっ……」
 言い返されて、シャルロットは言葉に詰まる。何か言い返せないかと、シャルロットは考えあぐねた。デュランの方はシャルロットを無視して自分の食事を片付けていた。
「そ、それは……、その………。シャルロットは繊細なんでち。繊細でかよわいんでち!」
「かよわいんだったら、ピーマン食って丈夫になんなきゃな」
 ホークアイが−意地悪からだろうが−ニコニコしながら、フォークをふりふりシャルロットに言う。
「…うー……、…うー…」
「ほらほら、思い切って食っちまえ。ピーマンなんてそんなにクソ不味いもんじゃねーよ」
 デュランはシャルロットの手にピラフのサジを握らせる。
「いやぁーんでちぃ!」
 嫌がって、シャルロットがじたじたともがいた。と、彼女の握っているサジがピラフをすくいあげ、そのピラフがデュランの顔に当たってしまった。
「うわっ!?」
「あ…」
 しまったと思った時にはもう遅い。デュランが血管浮き上がらせた顔で、シャルロットの事をにらみつけていた。
「シャルロット!」
「はうぅ! ごめんちゃい!」
「今日という今日は勘弁なんねーぞ! そのピラフを全部食うまで許さねーからな!」
「えええええーっ!」
「ったく、食い物を粗末にしやがって…」
 と、言いながら、顔についてしまったピラフをつまんで口に入れる。
「だからって、そんなもん食うなよおまえも…」
 ホークアイがあきれた顔でデュランを見た。
「ふー、ごちそうさま」
 食べ終わったアンジェラは、満足そうにナプキンで口元をふく。
「今日は宿屋に泊まるんでしょ?」
「ああ。今回は二泊くらいしてこーぜ。さすがにみんなも疲れがたまってるみたいだし…」
「賛成。俺も疲れてんだ」
 デュランの意見にホークアイはすぐに賛成した。彼も食べ終わったようである。
「オイラは平気だけど?」
「おまえだけが平気でもしょーがないだろう」
 ホークアイがややあきれて、水を飲む。
「そっか…」
「そーよ。私もうクタクタなんだから。足だってジンジンしてるしさ…。それに、残りのMPも危険なもんだわ」
 確かに、彼らは連戦続きで疲れがたまっていた。比較的体力のある者達はともかくとして、体 力のあまりない者達は、食事する前は疲れきっていて、口もきけなかったほどだ。
「そういや、この町には闘技場があるってな」
 ホークアイが机の上にひじをついて話し出す。
「へぇ、そんなもんがあるんだ」
「トウギジョウ…ですか? 何ですか、それ?」
 リースが不思議そうな顔して尋ねてきた。尋ねられて、意外な顔をしたホークアイとデュラン。 「闘技場って、知らない?」
「ええ」
「オイラも知らない」
「シャルロットもー!」
「おまえは早くピラフを食え」
「ぶうぅーっ!」
 頬をふくらませて、またもデュランをにらむ。
「闘技場てのはだな、まぁなんだ、モンスターなり人なりを戦わせて、それがどっちが勝つかどうかを賭けるギャンブル場だな」
「まぁ…」
 説明を聞いて、リースがわずかに眉をひそめる。お嬢様育ちの彼女にとっては信じられない世界らしい。
「でさ、デュラン。明日はフリーにすんだな」
「あ? ああ。明日は丸1日フリーにするよ。それで良いだろ?」
「OK」
「意義なーし」
 丸一日の休みというもの、久しぶりな気がする。それが嬉しいらしく、みんなウキウキした顔をしていた。だが、暗そうな顔をしているのが一人。
「もーうイヤでちぃ。ピーマンなんて食べられないでち!」
「ダーメ! 今日は一人で全部食べろ!」
 すでに自分のものは食べ終わっているデュラン。どうやら、今日はとことんシャルロットに付き合うらしい。
「ぶうぅぅ!」
 シャルロットは口をひん曲げる。そして、大きな大きなため息をついて、さじでピラフをすくう。そして、のろのろと口に運んだ。 ピーマンを外すというならこのピラフをたいらげる事は可能なのだが…。
「…なんでピーマンいりピラフがランチセットの中に入ってるんでちか…」
 シャルロットがぶつぶつ文句たれている。 この飯屋では、只今ランチセットの値引きを期間限定でやっているのだ。そこでなるべく安いものをということで、全員でそのランチセットを頼んだワケなのだ。 シャルロットはやっぱりピーマンは食べたくないらしく、ピーマンのないとこばかりをすくいあげて食べている。
「おいデュラン。おまえ最後までシャルロットに付き合う気かぁ?」
 みんなすでに食べ終わり、シャルロットだけを待っているのだ。彼女の食べるトロくささは半端でなく、待ち疲れしてる連中もでてきた。
「じゃあ、ホークアイ、先にいって宿屋とってきてくれよ」
「OK。一番安い宿屋とっとくよ」
 ホークアイが早速立ち上がる。
「じゃ、私も行こうっと。宿屋とったらもうフリーでしょ?」
「おう」
 アンジェラも立ち上がった。二人とも最後までシャルロットに付き合う気はないらしい。
「じゃあな」
 ホークアイは、軽く右手をあげて去って行った。
「……………………」
 うらやましそうに、シャルロットは出て行く二人をながめている。
「ホラ、出たかったら食う!」
「ぶー!」
 デュランのせいで、このピーマンから逃れられないと思うと、うらみたい気分である。
「リースもケヴィンも。先に行きたかったら行っていーぜ」
 机の上に肘をつき、シャルロットを眺めながらデュランが言う。
「いい。オイラもシャルロットに付き合う」
 ケヴィンは首をぷるぷるとふってそう言った。リースもそれにうなずいたところを見ると、先に出るつもりはないようだ。
「……………」
 シャルロットは困った顔でみんなを見回して、そしてため息ついて、やっぱりノロノロとピラフを食べはじめた。


「ったく、つきあってらんねーぜ」
 首をこきこき鳴らして、ホークアイはこの飯屋を出た。
「よく付き合ってられるわねー。デュランもリースも」
「ヤツらはガキが好きみたいだからなー。勝手に面倒もみたがるし…」
「ガキんちょのどこが良いのかしら?」
 ぎゅうっとのびをして、アンジェラはホークアイについていく。
「まぁ、確かに可愛いは可愛いけどさ」
「シャルロットが?」
「子供が」
 あきれたように、ホークアイがアンジェラを見る。
「あんた…ロリコンだったの?」
「おまえ短絡的だなぁ…。子供が可愛いと思えるからロリコンだなんて、んなことあるわけねーだろ。そしたら世の大人のほとんどがロリコンになっちまうだろーが」
「………………」
 言い返せず、黙るアンジェラ。
「見てるだけなら可愛いんだけどな。面倒みるとなるとなぁ…。シャルロットだって、あれでまだ手のかかんねーほうだぜ?」
「あれで!?」
「おまえ子供の面倒………みた事ねーか…。大変だぜ。ガキは。好きでなきゃやってらんねーよ」
「ふーん…。そんなに大変なの?」
「ああ。すーぐ泣くし、目を離すとすーぐにどっかに行くし、どうでもいい事で大騒ぎするし…」
 あまり思い出したくないように、ホークアイが指折りあげていく。
「やったことあるんだ」
「前にな。ナバールはフレイムカーン様が拾ってくる孤児がいてよ。中には赤ん坊とかもいるんだよ」
「赤ん坊!? 赤ちゃんが、孤児なっちゃうの!?」
 アンジェラは驚いてホークアイを見た。そんな様子の彼女を一瞥し、ホークアイは、小さくため息をついた。
「なっちゃうんだよ。育てきれなくて、赤ん坊を捨てる親なんてけっこういるんだぜ?」
「ウソ…」
「ウソじゃないさ。そんな捨て子ばっかりだぜ、ナバールはよ。それはともかく、子守のおばちゃんが風邪でダウンしちまってよ。その時手間のあいてた俺達が子守やらされたんだけど…。これがまー、すっげー大変だったんだ!」
「へー…」
 意外そうな顔で、ホークアイを眺める。
「好きでなきゃやってらんないぜ。あの仕事はよ。まぁ、確かに可愛い事は認めるけどさ」
「ふーん…」
「さてっと…。一番安い宿屋はと…」
「やっぱり、安い宿屋になるわけぇ?」
「しょうがねーだろ。余計なトコに金をかけるわけにはいかねーんだから」
 そう言って、ホークアイはスタスタと雑踏の中へ歩きだした。アンジェラもため息ついて、彼の後を追った。
続く。