「まったく! またアンジェラ様ですか!」
「きゃははははっ!」
 後ろを向いた兵士を軽く突き飛ばし、私は笑いながら走り去る。
「うふふ、こっちこっちー!」
 お尻をぺんぺん叩いて兵士を挑発する。
「やめなさいよ。相手にするだけ無駄よ」
 もう一人の兵士がその兵士の肩に手を置く。その兵士はすぐにそれもそうねという顔に
なって、それから私を追いかけるのをやめてしまう。
 あ…………。
 二人の兵士は私に背を向けて、そして行ってしまった…。
「い、いいもんっ!」
 私は叫んで、その兵士にくるりと背を向けた。
 気にしてないフリをするのに精一杯。私は口をひん曲げているのが自分でもわかった。
 玉座の間へ行っても、お母様はいつも側近やら大臣やらとお話しばかりしてる。ムズカ
しいお仕事の話だというのはわかってる。大切な話をしているというのはわかってる。
 ……けれど……。

 …………………。
 なんだ、私、寝てたのか…。
 どうやらうたた寝をしてしまっていたらしい。
 ギュッと伸びをして、私は読みかけの本をとじた。小さい頃の夢だった。あれは、私が
いくつの時だったろう…。
 ぼんやりと思い起こして見る。フッと、目の前をだれかが通り過ぎる。
「やっほ。ベンキョしてるー?」
 そいつは私をチラリと見ただけで、ふいと顔を背けて行ってしまった。
 しっつれいねー! 王女様に向かって、あの態度はないんじゃない!?
 …まぁ、アイツもアイツなりに悩んでるみたいだけどね…。ここ、魔法王国アルテナで
魔法を使えないのはアイツと私くらい…。
 いや、国中を探せばいるのかもしれないけどね。ただ、この王宮で魔法を使えないとい
うのはある意味で非常に目立つ存在だ。
「ふぅ…」
 知らず知らずにため息が出てくる。
「姫様。もうすぐ授業の時間ですよー。遅れないでくださーい」
 私の生活指導役という職業のヴィクターが呼んでいる。……やれやれ、行きますか…。
 そして、今日の授業がはじまった。

「やってらんないわっ!」
「姫様! ですから何度も言うように、姫様の魔法は心がこもっておられない。いいです
か、魔法というもの、精神集中が第一に必要で、そんな身振りなどは第二なんですぞ。ま
ずは基本をおさえないと…」
「だって! どうやれってのよ! こんなにやっても火の玉はおろかロウソクほどの火も
出ないなんてさっ!」
 呪文を唱え、それ通りの身振りをつけ魔法を発動させても、杖の先から出たのは煙だけ! 
本当にやってらんない! 魔法ってのは私を馬鹿にしてるワケ!?
「ですから! 基本が大事なんですじゃ!」
「もういい!」
 私はバンッと本を閉じてさっさとこの部屋から飛び出してしまった。
 んもう! なんだってこうも魔法が扱えないのよ! イライラしちゃう。
 しばらく、プンスカして城内をほっつき歩いてたけど、だんだん頭が冷めてきた。
 ………またやっちゃった…。
 毎日毎日毎日。こうやって魔法の勉強をしてるけれど、ちっとも使えるようにはならな
い。お母様はこの魔法王国アルテナの女王として、すごい魔力を持ってるっていうのに…。
 才能ないのかなぁ…。
 それとも、私、中身はお父様に似たのかな?
 ……お父様が誰か、なんて知らないんだけどさ。その事を聞くと、昔ながらの重役はそ
ろって首をふる。お母様だって教えてくれない。知らなくて良い。そればっかり。まぁい
いけどさ。いきなり父親です、なんて言われても絶対実感わかないだろうし。
 ただ、その父親が魔法の才がちっともなくて、それが私に遺伝したのかな? ってのは、
実はけっこうよく考える。でも、いつだったかそれをヴィクターにこぼしたら、お母様が
そんな男を相手として認めるかって、言い返された。確かにそれには何も言えなかった。 
いっつも、こんな調子の繰り返し。いつまでこんな生活続くのかな、なんて考えてる。
 ……でも、最近、少しずつ少しずつ、違ってきている。
 魔法の源であるマナが少しずつ減少してきている。そのため、このアルテナが寒くなっ
てきているのだ。前はいつだって春のような暖かさだったのに…。本当はここは極寒の地。
お母様の魔力によってこの温暖な気候が保たれていた。それなのに。お母様が風邪を引い
たのかって、考える人も少なくない。
 いつだったか、お母様が体調を崩した時、このアルテナがかなり寒くなったのだ。今度
もまたそれなのかと考えてるみたいだけど…。私が見てる限りお母様が体調を崩している
ようなとこはない。けれど、お母様は確かに変わってきている…。
 前は、どちらかというと毅然とした、そんな態度で私と接していた。でも今は無視して
る感じがする……。なんでだろう…。やっぱり、魔法が使えない私にイライラしてるのか
な……。
 そう思うとため息をつきたくなってくる。
 他に変わった事と言えば、以前フラリとここから出て行ったアイツが戻ってきて、お母
様の側近としてふんぞりかえっている事だ。
 アイツっていうのは、私と同じように魔法が使えなかったアイツ。それが、何をどうし
たか知らないけど、いきなりすごい魔力を持ち、高度な魔法をばんばん扱うようになった。
 ハッキリ言ってみんなこれには仰天。私もビックリした。そして、アッと言う間に出世
して、今やお母様の側近に…。
 何を勘違いしてるか知らないけど、王女である私に向かって呼び捨てなんかしてるし。
それを許してるお母様もお母様だわ!
 しかも、紅蓮の魔道士なんてカッコつけた名前で呼ばせて、何を考えてるのかしら!?
 マナ減少は、アルテナにとってただごとじゃない。まがりなりにも魔法王国。魔法の源
であるマナが無くなれば魔法が使えなくなってしまう。魔法で温暖な気候を保っているア
ルテナにとってこれはどうにかしなければならない問題。
 で、その紅蓮の魔道士が打ち出した計画ってのが、聖域にあるマナの剣とやらをとれば
何とかなるとか。本当なのかしら?
 で、その聖域に行くには各地に点在するマナストーンの力全部を解放しなきゃいけない
んだって。で、それは、そこの付近の国が黙っているワケがないから、戦争をはじめるっ
て……。
 戦争………。
 紅蓮の魔道士は兵士たちを厳しく訓練しだした…。
 この世界自体が何かヘンなんだよ。
 お母様だって最近ヘンよ。以前は戦争を仕掛けようなんて言い出す人じゃなかったのに、
お母様…。きっと、あの紅蓮の魔道士が関係してるに違いないんだろうけど…。
 アイツが怪しいから気をつけてって、魔法が使えない私には、そんなことを言う権利は
ない…。
 はぁ…。
 やっぱり今日もため息ばかり。
「姫様! アンジェラ姫様!」
 呼ばれて下の方を見ると、ヴィクターが手を振って私を呼んでいる。
「なにー?」
「女王様と紅蓮の魔道士殿がお呼びですよ! はやく玉座の間へ行ってくださぁーい!」
 お母様とアイツが? 何だろう……。
 紅蓮の魔道士はともかく、お母様が呼んでるなら行かなくちゃ。
 私は急いで下の中庭の方へ行く。ヴィクターが待っていて、かなり慌てた様子。
「大変ですよ、姫様。とうとうマナストーン解放のため、草原の国フォルセナへ侵攻する
そうなんですよ!」
「侵攻? フォルセナへ?」
「ええ。とうとうはじまっちゃうんですね…」
 戦争……。
「とにかく、玉座の間へ。きっとお待ちだと思います」
 
 …やっぱり、最近のお母様ってヘンよ…。
 前はもっと、超然として、毅然とした威厳が感じられていたのに…。
「…お呼びでしょうか? お母様…」
 恐る恐るお母様を見上げる。お母様は私を見ようともしてくれない。無表情なまま…。
「アンジェラ、私から話そう。マナ減少の事態はおまえも知ってるだろう。そしてそれが
この国にとって存亡の危機の事も」
「……ええ…」
 アイツの呼び捨てに気分が悪くなってきたけど、お母様がいる手前、表に出す事はでき
ない。
「その事態をどうにかするために、聖域にあるマナの剣を入手する必要がある。そして、
その聖域へのトビラを開くため、各地のマナストーンを占領すべく各国への侵攻を開始す
る事になった。手初めにこの付近にある水のマナストーンの力を解放させようと思う」
「……でも、どうやって?」
 私を呼んで、この話…。一体何が目的なんだろう…。お母様はこの話を私に聞かせてど
うしようとしてるのかしら…?
「……術者の生命と引き換えになるため、禁じられてしまった封印されし古代魔法を使う
のです…」
 お母様はやっぱり無表情のまま、私を見ているのかいないのかのような目で、とうとう
としゃべりだした。
「……しかし、私や紅蓮の魔道士はまだ死ぬわけにはいかない…」
 そして、お母様は信じられない事を口にした。
「…そこでお前の身体を触媒として使う事にしました。お前の命さえ引き換えにすればマ
ナストーンのエネルギーを放出できる……」
「なっ!? そんなっ! お母様!」
 いくら、いくらお母様が私に冷たいからってそんな事!? 本気なの!?
「魔法の使えないおまえは王家の恥。最後に大魔法を使って名を残せばこの女王の娘とし
てふさわしい散り様…」
 お母様の一言一言が私の心に深く突き刺さる。魔法の使えない…。王家の恥…。女王の
娘としてふさわしい散り様…!
「さぁ…こっちへ来なさい…」
 そんな…そんな! そんなお母様!
 紅蓮の魔道士がお母様の隣でニヤッと笑った。
 お母様の言葉が頭の中でグルグル回る。私は…、わたしは…!
「イヤ! …イヤ…、イヤアァァ││││ッッ!」
 瞬間、私の中で何かがはじけた。体の中から熱いものを感じ、それが爆発した! 周囲
が真っ白になる。



 ………………。
 ひどい寒さに我にかえった。ここは…?
 すぐに大きな城壁が目にうつった。…アルテナ城の外だ…。
 …どうして、私、ここにいるんだろう……。
 …………………。
 もう、お城には帰れない…。
 魔法の使えない…。王家の恥…。女王の娘として………。
 お母様の言葉がまたも私の心をえぐる。帰れない、お城に…帰れないよぉ…。
 ……これから、私はどうしたら良いんだろう……。
 お城に戻れない…、なら、離れるしかない…。ここにいるわけにはいかない…。
 私はにじんできた涙をぬぐって、お城に背を向けて歩きだした。
 零下の雪原。ウワサにしか聞いた事なかった。というのも、アルテナ城から出た事なん
て数える程しかなかったから。出たとしても、何かの乗り物に乗ってたり……。
 零下の雪原はとても寒くて寒くて……。今にも凍えそうだった。ホセが言ってた。これ
からの季節は、零下の雪原の寒さがやわらいでくって…。ウソツキ…。ウソツキ…。すっ
ごく寒いじゃない…。
 …でも、ここで倒れたりしたらもうおしまいなんだ…。私、死んじゃうんだ…。
 …死んだ方が良いのかもしれない…。魔法が使えない魔法王国の王女なんて……。
 ううん!
 私は首をぶるぶるっとふった。
 死にたくない。わたし、まだ死にたくないよ!
 でも…。寒くて寒くて…。ここは怖いモンスターもいて…。でも、私は武器も何も持っ
ていない。見つからないように、こっそり歩いた。でも、この寒さは……。
 どんなに腕をさすっても、ちっともよくならない。はく息は白く、歯はガチガチ言いっ
ぱなし。いいかげんさすっている手の感覚さえなくなってきた。
 寒いよう、寒いよう…。凍えちゃうよ…。
 …お城に、戻りたいよ…。あったかいお城に……帰りたいよう…。 ……お母様……。
 一瞬だけ、お母様の微笑む姿が見えたような気がした。そこからの記憶はない。

 ………あれ……? ここ……どこだろ……。
 見た事もないような部屋で、安っぽいベッドに私は寝かされていた。寒くない…。
 何がどうなっているのかわからなくて、私はベッドから起き上がって、とりあえず歩い
てみた。
「あら、気が付いたのね」
 二〇代中半かな、後半かな…、それくらいの女性が笑顔で私を迎えてくれた。
「あの…? 私…? ここは…?」
「ここはエルランドよ。零下の雪原で倒れてた所を娘が見つけてね。ここまで運んででき
たのよ。あそこを一人で越えようなんて無理よ」「あ、はあ…。あの、助けてくれて……あ
りがとうございます…」
「いいのよ。困った時はお互い様ですものね。チチー! チチ。お姉ちゃん、気が付いた
わよ」
「本当?」
 まだまだ全然子供。六、七歳くらいの女の子が呼ばれてやってきた。どことなく、この
女性と似ている。
「わぁ、よかったねぇ、お姉ちゃん。お姉ちゃん、チチが見つけたんだよ。動かなくて、
ビックリしたよ! ねえ、一緒にあそぼ!」
「え?」
 いきなりこんなこと言われて、私はかなりたじろいだ。自慢じゃないけど、お子様は苦
手だ。
 そんな私を察したのか、この女性はチチっていう子の目線にあわせてしゃがんでこう言
った。
「だめよ。お姉ちゃん、困ってるみたいじゃない。チチはママと遊びましょう?」 
 チチはちょっと考えて、そしてすぐに笑顔になって「うん!」とうなずいた。
 ……ママ……。…お母様…。お母様は、こんな風に遊んでくれた事…、なかったな……。
「ところで、これからあなたどうするつもりなの?」
「え!? あ、その…」
 どうしよう、そんなのわからないよ……。
「えっと、その、ちょっと、ここに住んでいる知り合いに会いに来たんです。で、もう、
行かなくっちゃいけないんで…」
 口からでまかせをとっさに言う。
「そう。じゃ、お別れね。それと、これからは気をつけるのよ」
「あ、はい。その、お世話になりました」
「いいのよ」
 私はぺこりを頭を下げて…、こんなふうに素直に頭を下げた事って初めてかも…。この
家を後にした。それに、この家には長くいられなかった。あの親子をもうこれ以上、目の
当たりにしたくなかった……。
 はぁ…。
 この家を出て、真っ先に出て来たのはため息だった。
 ……とりあえず、エルランドを歩いてみるか……。
 酒場…。ここはロクなトコじゃなかった。……だって、とんでもない貼り紙を見つけて
しまったから…。お尋ね者…アンジェラ王女反逆罪…一万ルク…。
 ヒドイよ……。私が何をしたって言うのよ…。ただ、ただ魔法が使えなかったって、だ
けで……。魔法…。
 しかも、その貼り紙を見ながら、王女をつかまえるのは自分だ、なんてオヤジがいて…。
怖くなって逃げるように酒場を後にした。
 もう、何もかもがイヤだった。ともすれば涙があふれてしまいそうで、それを我慢する
ので精一杯だった。
 自分があまりにもみじめで仕方がなかった…。一日先、いや一分先でさえ、真っ暗に思
えた。これから私はどうれすばいいの…?
 こうやって一歩一歩歩いていられるのが不思議なくらい、どうしようもなかった。
 何とはなしに、宿屋に出向いてみる。
 ふと、見つめた先になにやら占い師らしい老婆が男を相手になにか言っている。
 占い師……。
 私はフラフラと占い師の方へ歩いて行った。なにか、この先どうすればいいか教えてく
れるかもしれないという小さな期待を持っていたんだと思う。
「ん? あんたも何か占ってもらうのかい? あんまり期待できないよ、あの占い師。ま、
タダだってんだから、やってもらいたきゃやってもらいなよ」
 占いが済んだ男が、占い師の方へ歩いて行く私にそんな言葉をかけていく。
「……どうぞ、おかけください」
 占い師のおばあさんは自分の向かいの席を私に勧める。言われるままに私は椅子に腰掛
けた。
「…あの、占い師さん…。私……これから……どうすればいいのかな……。もう、どうし
たらいいかわからなくて……」
「…人の運命は九九%、あらかじめ決められておる。しかし…一%、残りの一%は決めら
れておらん。人をそれは希望と呼ぶんじゃ…。じゃが、その一%の希望さえもてなくなる
時がある。絶望し、先が暗くて、前へ思うように進めない…」
 私はドキッとした。今の私がまさにその状態だったからだ。
「…その時は聖都ウェンデルへ向かうと良い。ウェンデルの光の司祭に会うてみい。なに
かつかめるじゃろう。よいな、聖都ウェンデルへ向かえ!」
 聖都ウェンデルへ向かえ!
 この言葉は、どうしたらいいかわからない私になにかこう、グッときた。そこへ行けば、
なにかつかめる…!
 私は、さっきよりも未来が暗くなくなったような気がした。
 聖都ウェンデルへ行くっていう目的ができたんだ。それだけでも、今の私にはじゅうぶ
んだった。
 目的を持つって…、良い事なんだな…。
 今までこんなこと改めて考えた事なかったよ…。
 よし! 聖都ウェンデルへ行こう。そこで、なにがあるのかわからない。でも、このま
までいられない。このままでいいわけない。なら、少しでもどうにかしなくっちゃいけな
いんだ。
 もしかしたら、その光の司祭なら、私が魔法を使えるようにしてくれるかもしれない。
魔法が使えるようになれば、きっとお母様だって認めてくれる。理の女王の娘として!
 じゃ、まず聖都ウェンデルへ行くための準備をしなくっちゃ。
 …そこで私はハタと考え込んだ。……しまった、私、何にも持ってないじゃない…。
 モンスターから自分の身を守る武器もない、旅費もない、旅に必要な道具もない…。
 どうしよう!
 私、私、何か持ってないかしら?
 慌てて色々探ってみる。
 …そうだ。白金のイヤリングを今日はつけてたんだっけ。これを売れば、お金は何とか
なるかも……。
 ……町の人に聞いて、とりあえず道具屋へ行った。…確か、ここって買い取りもしてた
…ハズだよね……。
「あ、あの、これ、買い取ってくれない?」
「ん?」
 私は取り外しておいたイヤリングをカウンターに出す。しまったなぁ、こんな事になる
んだったら、もっと宝石のついたヤツをつければ良かった。
「ふむ…。白金か…、本物だね…」
 店のおじさんはそれをしげしげと見つめて、ルーペなんか取り出してさらによくながめ
ていた。
「…ほう…。ブランド物じゃないか…。じゃ、これくらい出そう」
 お金になった!
 お金なんて、ホセやヴィクターに言えばすぐにもらえたけど…。
 私はそれを受け取って、店を出た。
 ……良かった…。お金になった……。これで、何とかなるよ!
 …旅なんてもちろんしたことなくて、何が必要なのかちっともわからない。とりあえず、
簡単な着替えと、洗面用具。忘れちゃいけない化粧品。あと、それらをいれるサックを買
った。
 そうだ。食料も必要なんじゃないかしら? ……でも、よくわからないなぁ……。
 ここでお金を全部使うワケにはいかないし……。あ、そうだ。旅なんだからモンスター
もどうにかしなくちゃいけないのよね!
 それで、武器屋の人にみつくろってもらい、木の杖を買った。最初ちょっと立派なナイ
フにしようかと思ったんだけど、あれって重たいのね。こんなの持ち歩いてらんないわよ。
で、魔法使いだって、ウソ言って…。でも、ちょっと嬉しかった。この木の杖を持ってい
ると、なんとなく魔法使いになれた気がして…。
 そんでもって、ウェンデルに行くにはジャドを経由しないとダメなんだよって事を人か
ら聞いて、ジャド行きの定期船に乗る事にした。
 流氷が流れてきていて、もう最後の定期船なんだって…。このエルランドもお母様の恩
恵を受けてあったかかったハズなんだけどね…。マナの減少がだんだん深刻になってきて
るな……。
 出航するだいぶ前から定期船に乗り込んで、私は不安と期待でソワソワしながら、船内
を歩き回っていた。船に乗っている人はまばらで、私以外のお客は本当に少なかった。
 私はもちろん、こんな古い感じの船に乗るのは初めてだったし、大部屋の存在にも驚い
た。お客がたくさんいる時はこの部屋でみんなで寝るんですって! 考えられないよ。
 幸い、お客が少なすぎるからって、個室がタダで使えて助かった。見ず知らずのよくわ
かんない人が隣に寝るなんて、なんか、とんでもない感じがした。

                                                             to be continued...