ミニマジシャンから、メロディが流れる。彼はそのメロディをまともにくらった。
「うわっ…」
  ボボンッと煙りが生じ、パッと姿が消えた。ように見えた。
「バッツ!?」
  近くにいたレナは自分の目を疑った。そこにいたはずの男がいないのだ。
「どうしたっ!?」
  レナの声を聞き付けたファリスが走り寄って来た。
「バッツが…きゃっ!」
  ヒュッとナイフが素早く飛んできた。
「うわぁっ!」
  それを慌てて避ける。ファリスはキッとナイフを投げ付けた者をにらんだ。
  小さいピエロみたいなミニマジシャンは外見は可愛いのだが、実際にはなかなかのくせ者である。
「くっそ…、数多の火の精よ、我に力をかしたまえ、ファイガ!」
  ファリスがそう叫ぶ。彼女の手のひらから凄まじい限りの炎が放たれ、ミニマジシャンの辺りが大爆
発を起こす。
  ドガドガドガカンッッッ!
  断末魔も爆発音にかき消され、ファリスたちには届かない。
「ちっ、てこずらせやがって…」
  そんな口調とは反対に、ファリスは魔法の破壊力に少々爽快さを覚えているようだ。
「いやぁ〜、さすがに破壊力は凄いのう」
  あちらも戦闘が終わったのだろう、いささかのんびり口調で、ガラフが焼け跡を見た。
「そりゃ、買ったばっかの魔法だもんな」
  ファリスは誇らしげにほほ笑んだ。
「ねぇ、バッツが…」
「ああ、そうだ。レナ、バッツがどうしたんだ?」
「さっきの妙な音楽と一緒に消えちゃったのよ」
「なに?  本当か?」
「ええ」
  心配そうなレナ。目の前で消えたのが未だに信じられない。
  そんな彼女の肩をポンとたたいてファリスは慰めた。普段はどーにもキツいが、レナにだけはやたら
優しい面を持つ。
「大丈夫。きっとどこかにいるよ。あいつのことだ。死ぬわけないよ」
「なにか、魔法をかけられたんだろうな。とにかく探してみよう」
  ガラフもうんうんうなずいた。宿敵エクスデスの復活を阻止するために、隕石に乗ってバッツたちの
世界に来たのはいいが、落ちたショックで記憶喪失となってしまった。
  わずかな記憶を頼りに、バッツたちと冒険していくにつれて、記憶を取り戻し、ここまできた。そし
て、長老ギードから命を受け、このムーアの大森林に来てすぐのバトルだったのだ。

  それから3人はバッツを探し始めた。消えたハズはない。どこかにいるハズだ…。
「おーい、バッツーっどこにいるんだぁ?」
「バーッツ!  どこぉ?」
「バッツーっ!」
  3人の声がムーアの大森林にこだまする。
「あ、これバッツの道具袋じゃねぇか?」
  ファリスがバッツの道具袋を見つけた。
「本当だわ」
「じゃあ、このへんにいるんじゃな」
  しばらくして、ガラフは足元から何か聞こえるのに気づいた。
「なんじゃあ?」
  不思議に思い、足元を見下ろした。
  そこには、草むらに隠されつつも、手のひらサイズほどの小さなバッツが、何やら言っているではな
いか。
「おお!  バッツ。おまえそんなとこにいたのか」
  その声にレナたちも気づいた。
「あ、ガラフ。バッツが見つかったのね?」
「バッツの奴、どこにいるんだ?」
  ガラフはにこにこ笑い、バッツを手のひらに乗せて、彼女たちの目の高さまで上げた。
「ああ!」
「バッツ!  その格好は…」
「ミニマムをかけられたんじゃな」
  ガラフの手のひらの上で、バッツはふてくされた顔をしている。
「そっかー、それで、消えたように見えたんだな。そっかそっかー」
「あれが、小さなメロディなんじゃな」
「ふふふっ、バッツ可愛い」
「おめーら、他人事だと思いやがって…」
  好き勝手なことをいう3人を、恨めしげに見上げた。
「まぁ、ミニマムがかかっているということがわかれば、話は早い。打ち出の小槌で元に戻してやろう」
「そうだな…」
「ちょーっと惜しい気がするわね」
  バッツはまるっきり他人事な3人に、憮然とした顔だ。
「あれ、あれれぇ?」
  ファリスは道具袋をさかんに探っている。
「ん?  どうした。ファリス」
「打ち出の小槌がない」
「ええ?」
「本当か?」
「ああ、本当にない。おまえらの道具袋は?」
  言われて、ガラフはバッツを肩の上に乗せ道具袋を探り、レナも自分の道具袋を探る。
「あら、わたしのもないわ」
「わしのもない」
「ええーっ!?  本当かよ?」
「ないもんはないんじゃ。バッツ、おまえの道具袋をちょっと漁るぞ」
「あ、ああ」
  ガラフはしばらく、バッツの道具袋の中を捜していたが、顔をあげて、
「ここにもないぞい」
「あらやだ」
「あらやだじゃないよ。どうすんだよぉ?」
  ガラフの肩の上で、バッツは愕然と3人を見回す。
「どうすんだよと言われてもなぁ。ミニマムを使える白魔道士はいないし…」
「んじゃあ、アビリティとして白魔法使えるのはいないの?」
  3人が顔を見合わせるが、全員が使えないよと言う顔である。
「ま、まさかだぁれも白魔法使えないって言うんじゃ…」
  ひきつった表情で、バッツは恐る恐る聞いた。
「どうやらそのまさかのようじゃのー」
「な…」
「んー…、仕方ないわね。ムーアの村まで戻りましょう」
「そうだな。道具屋で打ち出の小槌を買わないとな」
「そ、そんな…」
  バッツは、ガラフの手のひらでがっくりと膝をついた。
「まぁまぁ、バッツ。幸いまだ森に入ったばかり。すぐ引き返せる」
「もうちょっと奥に進んでいたんなら進むが、まだ序盤じゃからな」
「ほら、あそこに森の入り口が見える」
「おめぇらそれで慰めてるつもりかぁ?」
「かっかっかっ。さあさ引き返そう。足りなかった物を補給しなおそうじゃないか」
  落ち込んでバッツをよそに3人は森を後にすることにした。
「あーあ…こんなんじゃ戦えないじゃないか…」
  バッツは、自分の身なりに、小さくため息をついた。
「装備できるものと言ったら、金の針くらいだな」
  冗談とも、本気ともつかぬファリスの意見。
「そうよね。じゃあこれ」
  と、レナは金色に光る針を、小さなバッツに渡した。
「なにこれ?」
「金の針よ。槍がわりくらいにはなるわよ」
「あのなぁ、俺ぁ時魔道士だぜ?  竜騎士じゃないんだ」
「でも、石の魔物にゃ絶対の威力を誇るぞい」
「ははははは、似合うぞバッツ」
「けっ…」
  バッツはとうとうふてくされて、目を背けた。

  辺境ムーアの村、。彼らは潜水艇でここまでやって来た。
「さあて、道具屋はどこにあっかのう」
「宿屋と一緒にあるんじゃなかった?」
「んじゃ、ついでに泊まってくか」
「そうね。マジックパワーも残り少ないしね」
  よくもまあこんな状態で、ムーアの大森林に向かったものだ。
「おまえら、俺のミニマム回復忘れるなよ」
「わかってるって」
  その気楽げな返事は、バッツをしごく不安にさせる。
「おや、この前の人かい」
  宿屋のおやじさんはにこにこと一向を出迎えた。
「あの、すみませんが道具屋さんは…」
「ああ、すぐそこじゃ」
  おやじさんは指先で案内した。
  その通り道具屋はすぐあった。
「おお、あるある。んじゃ、打ち出の小槌を六つほどくれ…」
  ファリスがそう、道具屋のおやっさんに注文つけた時であった。
「きゃ…」
  レナが小さく悲鳴をあげた。
「あ、こらっクロっ!」
  鋭く宿屋のおやじの声が飛ぶ。
  ハッと振り向くと、真っ黒い大きめの猫がレナにぶつかった。
  そして。クロという黒い猫はレナの肩に乗っていたバッツを、さっとくわえてだだだっと走りだした
のだ。
「あーっ!  バッツ!」
「どうした!?  レナ」
「バッツ、バッツがさらわれた!」
「なにぃ!?」
「なんじゃと!?」
  みんなのパニックをよそに、そのクロという黒猫は、バッツをくわえたままあっと言う間に、どこか
に走り去った。
「うそ…」
  あとには呆然とした3人が残された。

「なっ、ちょっと待て待て待てぇーっ!」
  いくらバッツが叫んでも黒猫はおかまいなく走る。
  猫だけあってさすがに素早い。おまけに床スレスレなもんだから、スピード感がすごい。
「うわああぁああああぁぁぁぁぁーっ!!!!!」
  バッツの悲鳴もなんのその。黒猫はさっさとタンスづたいに天井まで上り詰め、はじにあったすきま
に入り込み、天井裏にまでバッツを連れてきてしまった。
  それでもなお黒猫は走り続ける。ただでさえほこりっぽい天井裏だ。走るともうもうとほこりがたつ。
「げほっけっげほっ…」
  もう、むせてむせてしょうがない。
  やがてドサッと粗雑に落とされた。
「うげっけほっ…いってて…」
  打った背中をさすり、猫に文句を言おうと猫を見ると、猫はくるりと背を向け、そしてまたあっと言
う間に走り去ってしまった。
「あ、おい待てよーっ!  俺を置いていくのかぁ!?」
  呼べど叫べど猫は帰って来ない。
「ど、どうしろって言うんだよぉ…」
  バッツは独り、途方に暮れるほかなかった。

「……あーあ…俺は猫のおもちゃのためにここに連れて来られたのか…」
  そうとわかるのに時間はかからなかった。なぜならバッツの回りには、猫の玩具と思われるがらくた
がごろごろしてるのだ。
  壊れた人形。穴の空いたボール。ボロボロの片方の靴。どう考えても猫の玩具である。
  しかし、このほこり。ほこりで息がつまりそうだ。バッツは袖で自分の鼻と口を押さえ我慢する他な
かった。
「さて、なんとかしなくっちゃなぁ…」
  と、言ってはみたものの、今はミニマムをかけられた小人。どうしようもない。
  ここはどこなのか。宿屋のどこらへんなのか。全くわからない。
「とにかく、歩く他ないな…」
  自分自身に言い聞かせ、ここから立ち去るべく、バッツは歩きだした。

                                                                          to be continued..