「………………」
 なぜかフェイトは笑顔をはりつかせたまま、運ばれたカフェオレのストローに口をつけ
て、そのまま吸いもせずにかたまったまま。
 …なんで…こうなってるんだろう……。
 フェイトの前にはカフェオレがある。他にはオレンジジュースと、アイスティーが2つ。
そしてフルーツパフェが3つ。それは良い。
 問題は。
 ジェミティにある露店の喫茶店で、フェイトは冷や汗をたらして、はりついた口元の笑
みの硬直がとけないまま、目の前の3人を見た。
 ソフィア。マリア。ネル。
 美しい女性に囲まれるというのは、男として悪くないはずなのだが。
 やたら空気がピリピリしているのはどうしてだろうか…。
 きっかけはネルが露店の喫茶店の前で、困っていたのが発端だった。
 どうやらお茶が飲みたいらしいが、どうして良いかわからなかったようだ。下心がまっ
たくないと言えば嘘になるかもしれないけど、仲間としての好意があるのは確かだし、ち
ょうどのども乾いていたから、一緒に飲もうと声をかけたのだ。
 未開惑星出身のネルは、ジェミティは右も左もよくわからない状態だったから、フェイ
トの申し出は有り難かったらしく、ほっとした笑顔を見せた。
 そこへ、ちょうどマリアが通りがかり、自分ものどが乾いたと一緒の席についた。ネル
はにこやかに承諾して、二人で仲良くメニューを眺めていた。
 ここまでは、たぶん、良かったのだと思う。
 今度はソフィアが通りがかるというより、まっすぐに小走りにこちらにやってきて、な
にやら含んだ笑顔を見せながら空いている椅子に腰掛けたのだ。
 ソフィアの笑顔が微妙にはりついていて、その中に多少以上ケンカをふっかけるような、
厳しいものもまざっていたりして。
 その笑顔に、マリアは少し剣呑げに目を細めて。ネルはそれにどちらかと言うと戸惑っ
ているようだった。
 そして、微妙にぎこちなくも空々しい会話をさっきから続けているわけだ。
「けど、こっちのお茶はちょっと変わった苦さだねえ…」
「ネルさん、ミルクを入れればもう少し…」
「あ、これかい?」
 フェイトがネルにむかって声をかけると、ソフィアはつまらなさそうに少しだけ口をと
がらせる。
 彼の一挙一動を見張るソフィアは、確かに可愛いし大切な存在ではあるけれど、うんざ
りさせられる事だってある。
 マリアはソフィアの反応を楽しんでいるのか、からかっているのか、それとも張り合っ
ているのか。そのどれかはわからない言葉をたまに発していて、それがフェイトの神経を
ちりちりさせる。
 せっかく一休みしてるのに、疲れるなあ…。
 声にできない愚痴をこぼし、フェイトはため息をついた。そして、なにげなく見た通り
の先のものを見て、絶句した。
「…でね、フェイト。…………? フェイト? フェイトってば、どうしたの?」
「フェイト?」
 フェイトの様子がおかしい事に気づいたマリアも彼をのぞきこむ。そして、彼の前で手
をぱたぱた振ってみる。
 反応がない。
 いぶかしげにフェイトの視線の先を見て、珍しくマリアも絶句してかたまった。
 石化した二人を見れば、ソフィアもネルも何を見てかたまったのか興味をもち、振り返
り、彼らの視線の先を見て、そして、ネルはいぶかしげな顔付きになり、ソフィアは、文
字通りかたまった。
 そこには、黒いチャイナドレスを着たアルベルと、同じくチャイナドレスを着たスフレ
が並んで歩いていたのだ。
 スフレは丈の短い青地に白の花柄のチャイナドレスを着て、下にスパッツをはいていて、
お団子まで結っていて可愛い。アルベルはと言うと、両腕に二の腕までの黒い手袋に、ス
リットの深い、銀糸の竜の刺しゅうが入った黒いチャイナドレス。いつものニーソックス
をはいているものの、着ているものの色が暗いのが手伝って、歩くたびに彼のももがちら
ちらと白く浮き立っていた。
 普段も、ももをちらつかせながら歩いているのだが、今度は両方にスリットが入ってい
る。
「うんうん。やっぱいいよね、チャイナは」
「これ、そう言うのか?」
 アルベルは少し顔をしかめて、自分が着ている服を引っ張った。
「そうだよ。可愛いでしょ?」
「…よくわからんが…。俺の服は大丈夫なんだろうな?」
「クリーニング頼んでおいたから、数時間後にはきれいになってるよ」
「今度やったらつぶすぞ」
「わかってるよー。だからごめんってば」
 アルベルがいつもの服を着ていない理由は、なんてことはない。スフレがアイスを食べ
歩きしていると、過って落としてしまい、彼の服を派手によごしたのだ。チョコレートが
べたべたについて、仕方なくクリーニングに出しているのだ。
 そして、それが返ってくるまで、彼が下着のままでいるわけにはいかないので、スフレ
がそれまでのしのぎとして、衣装を借りてきたのだが…。
「…で、なんだっておまえまで着替えてるんだ?」
「えー? そんなのノリだよ、ノリ! ペアルックってヤツ。おそろいで可愛いでしょ!」
 ペアルックが何なのかよくわからなかったアルベルだが、おそろいという単語でどうに
か意味はなんとなくわかった。
 カシャ!
 突然、フラッシュが焚かれた。何事かと、アルベルもスフレもそちらに顔を向ける。
 カシャ、カシャ!
 それから数度フラッシュが光り、思わずクセでスフレは笑顔でブイサインなんかしてい
たが、よくわからないアルベルは怪訝そうに眉をひそめた。
「そこのおねえさん! ほら、笑って笑って!」
 カメラを構えた人がそう言うが、もちろんアルベルには通じなくて、彼はさらに顔をし
かめた。
「もーっと笑顔笑顔! そっちの彼女は可愛い笑顔作ってるんだから!」
「何を言ってるんだ、あいつは?」
 思わず、アルベルはカメラを構えた男を指さした。
「眉間のシワは良くないって言ってるんだよ」
「そう言われてもな…」
「笑顔は無理でも眉間のシワをやめてみるとか。ほら、やっほー」
 フラッシュにこたえて、スフレはにこにこ笑顔を作る。アルベルはやっぱりよくわから
なかったので、眉をひそめていた。
「んー。まあ、最初の方のヤツが良いかな」
 アルベルの笑顔をあきらめたカメラの男は、そんなことをつぶやいて、手持ちのカメラ
をいじくっている。
 やがて、カメラから一枚の写真を取り出して、それを手に持って二人に近づいてきた。
「突然すみません。私、こういう者でして」
 名刺を取り出しながら、アルベルに手渡すと、彼は顔をしかめて眺めて、スフレはそれ
をのぞき込んだ。
「それ見るとわかると思いますけど、私、雑誌付きのカメラマンで、毎月、雑誌の街角美
人っていうコーナーを担当してるんですよ」
「街角美人!?」
 スフレが顔を輝かせて、身を乗り出した。
「ええ。それでですね、肖像権の関係で、写真を載せるにもご本人の確認がいりますから。
こちらの写真、雑誌に載せてもかまいませんかねえ?」
 言いながら、さっきカメラから取り出した一枚の写真を二人に差し出した。
 そこには、突然のフラッシュにこちらに顔を向けたアルベルとスフレの二人が写ってい
た。画面の半分以上がアルベルで、スフレがおまけのように写っていた。
「えー、これアタシがちっちゃいよー。もっときれいに大きく写ってるヤツにしてよー。
写真載っけるの許してあげるからさー」
 その写真をとりあげて、眺めてスフレはぶーたれた。
「ははは、手厳しいなあ。あのー…、…で、そちらさまは?」
「は?」
 ごまかすような笑顔をアルベルに向けたカメラマンは、アルベルの低い声を聞いて固ま
った。
「さっきから何を言ってるのかさっぱりわからんぞ」
「………………あの…………もしかして…………男の方で……?」
「もしかするともあるかよ」
 言われてみて改めて見直してみると。痩せてはいるものの、体つきはがっしりと骨張っ
ている。女性特有の丸みを帯びたラインというのにも乏しい。胸が薄いのはスレンダーだ
からだと思っていたが。というか、いくらジェミティがコスプレOKだからといって、チ
ャイナドレスで男が街を練り歩くとは頭になかった。
 カメラマンの顔に、冷や汗がたらりと流れ落ちた。
「あっ、あ、その、すいません。今の話はなかった事に…」
「どんな話だよ」
「いいんですいいんです。それじゃ、お騒がせしました」
 ひきつった笑顔を顔にはりつけて、カメラマンは足早に去って行った。
「…なんだったんだ…? あれは?」
「写真もらっちゃって良いのかな?」
 アルベルの質問にこたえずに、スフレは手にしていた写真をながめた。どういう材質で
できているのかわからないが、再現性といい、半立体に見えるような特殊加工といい、ス
フレが知っているものよりも性能が良いようだ。
「……なあ」
「なーに?」
 もらっちゃおうと思ったらしく、写真をふところに入れながら、スフレは生返事をする。
「あいつ…俺を女だと思ってたんじゃないのか?」
「えー、そんなの気のせい気のせい気のせい気のせい気のせい!」
 スフレは手をぱたぱたと振って、にこやかにまくしてたてた。
「そう…か…?」
「そうそう」
 うそばっかり!
 今までのやりとりをすべてながめていたフェイト達は心の中で叫んだ。
 しかし、アルベルは腑に落ちなそうな顔をしながらも、それ以上言おうとはしなかった。
「あ、フェイトちゃん達だ! やっほー!」
 スフレがこちらに気づき、手をぶんぶん振りながら、こちらに小走りにやって来た。ア
ルベルもゆっくりと続いている。
「なに、お茶してるの? 美味しそうだねー」
 軽い足取りで、スフレがやって来た。ネルは少しほほ笑んでそれに応えた。
「ん? どしたの?」
「え? あ、いや…着替えたの?」
 やっと金縛りが解けて、フェイトはスフレの服を見やった。
「うん! 貸衣装だけどね。可愛いでしょー」
 言って、スフレはくるりと回転して見せた。
「…ところで…、…その…アルベルの方は…」
「アタシが見立てたの。可愛いでしょー」
 絞り出すようなフェイトの声にも、スフレは動じもしないでにこやかに胸をはった。や
っとこちらに近寄ってきたアルベルはフェイト達よりも、フルーツパフェの方に目が行っ
ているようだった。
「あんた…随分変わった格好してるね…」
「ん? これか? そこの阿呆が俺の服を汚しやがったんでな。今は洗濯屋だとよ。それ
が終わるまでのしのぎだ」
 ネルに声をかけられて、アルベルはやっとフルーツパフェから視線を外し、自分の服に
目を向けた。
「普段のアンタもおかしな格好だけど、それもかなりのもんだねえ」
「うるせえ。俺が選んだわけじゃねえ」
「えー、ネルちゃん。チャイナの良さがわからないかなあ。やっぱチャイナはここだもん
ね!」
 言って、スフレは両方のスリットのあたりをぱしんと叩いて見せた。
「え?」
 それって…。
 ネルは思わずアルベルのスリットに目を向けて、そしてすぐにあさっての方向に顔を向
けた。当のアルベルはまたフルーツパフェに目が行っていたので、ネルの視線に気がつか
なかったようだ。
 雪国生まれからなのか、アルベルは色白い。健康に問題はないのだろうが、痩せた体と
言い、色の白さと言い、雰囲気もあいまってあまり健康的な印象がなかったりする。
「まあもちろん。ガラとかもあるけど、デザインとかやっぱ可愛いよね、チャイナは」
 腕を組んで、スフレは一人でうんうんと頷いている。
「あそうだ。さっきね、雑誌のカメラマンって人がやって来てさー。これくれたんだ」
 なにか語弊がある感じだが、かまわずにスフレはさっきの写真をふところから取り出し
て、机の上に置いた。
 思わずのぞき込む4人。
 そこには不意にカメラ目線となったアルベルと、スフレが写っていた。
 この写真だけ見ると、アルベルのなにげなガタイの良さがわかりにくいし、喉仏だって
ハイネックで隠れている。スレンダーな女性と言えば無理なく通じた。
 黒いチャイナドレスはアルベルの色白さを際立たせているし、振り向き加減がちょうど
良く流し目状態になっていて、長いまつげに何とも言えない色がある。こういうのを撮る
のはさすがプロだとかなんとか。
「なんでも、街角美人ってコーナーに載せるつもりだったらしいよ。なんか、うやむやに
なっちゃったけどね。あ、でも、顔は売れない方が良いんだよね、アタシ達。なら、駄目
になってそっちの方が良かったのか」
「まちかど…美人…?」
 ネルが眉をしかめる。
「やっぱ美人って言われると嬉しいよねー」
 本当はスフレの事を指して言ったわけではないのだろうが、スフレは両頬に手をあてて、
喜んでいた。
 ネルは改めて写真とやらを見た。
 ここ、ジェミティはフェイト達の世界以上に文明が発達しているらしいので、人の肖像
画をあっと言う間に写し取る技術も珍しくないのだろうし、半立体に見える仕掛けもネル
には一生わからないのだろうが。
 ネルにだって、多少なりとも自分の顔の良さは自覚しているが。
 なにか世の中間違ってないか?
 そう言いたくなるような写真だった。
「おい…」
 難しい顔して黙り込むネルに、アルベルが声をかけてきた。
「なんだい?」
「それ…なんでほとんど食ってないんだ?」
 アルベルが指さす先には、ほとんど手をつけられていないネルのフルーツパフェがあっ
た。
「あ、これかい。甘いのは嫌いじゃないんだけど、ちょっと甘すぎてね…。ゆっくり食べ
ようと思ってるんだ。………あげないよ」
「………………」
 表情は変わらないように見えたが、雰囲気が多少落ち込んでいるようだ。
「あそーだ、アルベルちゃん! バーニィ広場に向かう途中だったんじゃない! 行こう
行こう!」
「俺は行きたくないんだが…」
「いいからいいから! さ、行こう!」
 アルベルの声も空しく。スフレの笑顔におされて、アルベルは引っ張られるようにスフ
レに連行されて行く。
 彼らを見送り、背中がだいぶ小さくなった頃。視線はその背中に張り付いたままで、今
まで黙り込んでいたマリアが口を開いた。
「…誰か…、あれが女性用の衣装だって教えてあげないの?」
「…マリアさんこそ…」
 ソフィアも彼らの背中から視線を動かせずに、ぽつりとつぶやいた。
「…え? あ、あれ、女性用の衣装なのかい!?」
 ネルはそれを聞いて、思わず声をあげた。
「ああ、ネルさんは知らないんですよね。あれはチャイナドレスと言って、昔の地球…僕
の生まれ故郷のとある一部地域の民族衣装なんですよ。女性用の…」
「え? じゃあ、スフレはそれを知らないで?」
「あれは…知っててやってるでしょうね…」
 フェイトの目がどこまでも遠かった。
「知っててって、スフレはアルベルが男だってわかってるんだろう?」
「わかってるでしょう。だから…まあ…、なんだろう…」
「まあ、いつもの服装があんなだから、違和感がないと思ったんじゃないのかしら?」
 やっと硬直が治り、マリアは目の前のアイスティーのストローに口をつける。
「本当にそう思います?」
 ソフィアの突っ込みにマリアはこたえなかった。ただ、視線をあさっての方に向けただ
けだ。
「スフレちゃん、写真忘れてる…」
「あ…」
 机の上には、アルベルとスフレの写真が残されていた。思わず写真に注目する4人。
「仕方ないな…あとで渡しておこう」
 フェイトがため息をついて、写真を胸ポケットにいれると、マリアとソフィアがそろっ
て彼を見た。
「まさか…フェイト…」
「な、なんだよソフィア…」
「あとでちゃんと返すんでしょうね?」
「マ、マリアまで、なんだよ」
 戸惑ったフェイトの声があやしいと思ったか、二人はしばらくフェイトを睨みつけてい
た。

「フン…」
 風呂上がりのアルベルはだいぶ見慣れたものの、相変わらず色っぽい。
 思わずネルが凝視するので、彼は不機嫌そうになるのだが。
「なんだよ…」
「いや…」
 すぐに顔を背ける。
「はーあ…」
 あくびをしながら、アルベルはラフな格好でベッドに仰向けになる。
 同室にほうり込まれる事自体、もういい加減慣れてしまっている自分が少し嫌なのだが。
男女の割合やメンバー構成においての部屋割りを考えると、これも仕方ないのかとも思う。
 こうして見ると、アルベルは別に女に見えたりはしない。
 普通に男の格好をすれば男に見えるのに。上着がはだけて胸板が見えるからだけでもな
いだろうと思う。
 ネルは思わず投げ出された足を見る。
 どう目ではかっても男の人のサイズである。
 今度は手の方に目を向ける。
「なんだよ?」
 ネルの動きを不審に思い、怪訝な目で見てくるが、ネルは気にせずにアルベルの手をと
り、自分の手と重ね合わせる。
 ネルよりも全然大きな手のひらだ。ただ、刀をさんざん握り締める手にしては、妙にな
めらかな気もするが。
「だから、なんなんだ、さっきから」
「なんでもないよ」
 アルベルの言うことにとりあわずに、ネルは思わず考え込む。あれは服装の力というヤ
ツなんだろうか。
 写真のアルベルは確かに美人だったし、あのチャイナドレスとかいう衣装を身につけて
いた彼は確かに、女の人に見えたのだ。
 スフレの言うとおり、スリットからのぞく足がそう見させるのか。
 そもそも漆黒団長のくせして痩せていて色白なのが原因なのか。
 今度は顔の方に目を向けると、アルベルは不機嫌そうに顔をしかめた。
「なんでもないって…なんなんだ、てめえ…」
 そう不機嫌そうに眉をしかめていれば、男の人に見えるんじゃないかと思う。でも、女
顔と言えばじゅうぶんに女顔だ。
 それらしく化粧すればたぶん、大抵の人をだませると思う。
 それらしく化粧する…。
「!」
 突然、ネルはスフレの気持が半分くらいわかったような気がした。
 しかし、化粧させてくれと言って、この男が素直に応じてくれるわけがない。まあフェ
イトやクリフだって素直に応じるとは思えないが。
「だから! なんなんだよ、てめえ。さっきからよ」
 とことん行動が怪しいネルに、アルベルは不機嫌さを隠せずに上半身を起き上がらせ、
あぐらをかいて彼女を睨みつけた。
「化粧…」
「は!?」
「させろと言うわけにはいかないか…」
「わけわかんねーぞ、てめえ」
「わからない方が良かったかもしれない」
「……………」
 話が通じないと悟り、アルベルは不機嫌そうに黙り込んだ。
「おい!」
「わっ!?」
 話が通じないと分かるや否や、アルベルはネルに向かって手をのばし、引っ張り込んだ。
 あっと言う間に懐に抱き込み、彼女の顎を軽くつかむ。
「…………」
 ネルの瞳が険しく半開きになった。
 こうして「女」を求めてくる時などもう、完璧に「男」なわけだが…。
 容赦のないネルの鉄拳がアルベルの顔面にめりこむのは、それから数秒にも満たなかっ
た。
「ったく。男っていうのは…」
「フン」
 顔面に拳の跡をつけながら、アルベルはやっぱり不機嫌そうに黙り込んでいた。

                                                                      おしまい。


































あとがき。
こう、読み返してみれば、けっこう色んなサイトさんの影響を受けてるなあとか思います。
しかし…スフレ書いてて楽しいんですけど…。本当はこっちの方が先に書いた「チラリズ
ム」だったりするわけですが…。なんつーかこう、アルベルの片思いっぷりを書きたくて
こっちはお蔵入りに。
しかし、このハナシ、最近読み返してみたら、なんかダメダメです…。お蔵入りして正解
だったなとか。…でも、もったいないのでのっけてしまいます。