「はあー……」
 アルベルはらしくなく、深いため息をついて、目の前にそびえ立つ屋敷を恨めしそうに
見上げた。
「なに、らしくないため息をついているのさ。…報告、するんだろ?」
「わかってる」
 不機嫌そうに返事して。そして、面倒くさそうに頭をがりがりとかく。アルベルは一つ
息をつくと。今度はさっきのため息とはちょっと違うようだったが、屋敷の門に向かって
歩きだした。
「あ、アルベル様。いらっしゃいませ。ウォルター様にご用事ですか?」
 立派な鎧を身につけた門番が、やってきたアルベルに敬礼する。
「ああ、まあ、そんなものだ」
「ウォルター様なら、今日はいらっしゃいますよ。案内いたしますか?」
「いい。自分で行く」
「はっ!」
 アルベルが軽く手をふると、門番は大袈裟なくらいにかしこまった。カルサアに屋敷を
かまえるウォルターの部下達は誰も彼も自分の仕事と立場に誇りを持っていて、そして、
全員が見事なくらいに彼に忠誠を誓っていた。
 アルベルの父親と、ウォルターは仲が良く、生前は幼いアルベルを連れてよくこの屋敷
に来たもので、彼自身もわりとこの屋敷には足を運んでいたりするのだが…。
 表の門を通り過ぎ、屋敷へと続く石畳の道を歩く。アルベルは慣れたものだが、ネルは
数える程しか来た事がない。
「ああ、アルベル様。いらっしゃいませ。ウォルター様なら書斎にいらっしゃるはずです
よ」
 屋敷の門の前にいる兵士は、アルベルの姿を見るなり笑顔で敬礼して、まだ何にも言っ
てないにもかかわらず、そんな事を言う。
「…まだ何にも言ってねーだろーが…」
「おや。ウォルター様にご用事があっていらっしゃったのではないのですか?」
「いや、そうなんだが…」
「そうですか」
 門番は、笑顔でアルベルを見る。わりと年季の入った門番らしく、笑うと顔にしわがた
たまれる。そして、屋敷の門を開けてくれた。
 恭しく頭を下げられながら、二人は屋敷の中へと入る。
 広い屋敷を歩きながら、アルベルはまたため息をついた。
「…そんなに言いにくいのかい…?」
「言いにくいっつーか…。…まあ…、言いにくいんだけどよ…。言わないわけにもいかん
しな…」
 珍しく憂鬱そうな顔を見せて、アルベルは勝手知ったる屋敷を歩く。通りすがる執事や
ら、屋敷のメイドやら、風雷の兵士やら。そのほとんどが笑顔で自分達を出迎えてくれる。
 自分達の事を知っているのか。それとも、アルベルが連れているからなのか。みんな彼
に好意的なのはよくわかった。むしろ、アルベルの本拠地たるカルサア修練所にいる漆黒
の兵士たちよりも好意的に思われているようで。ネルさえもなんだかなと思ってしまう。
 そして、とうとうウォルターの書斎の前までくる。
「はあーっ」
 アルベルはまたもやため息をつく。
「私が言うかい?」
 たまりかねてネルがそう言うと、アルベルは力無く首をふる。
「…おまえは隣の部屋へ行ってろ。…行ってくる」
 書斎の右隣の部屋を指さすと、アルベルはノックも掛け声もなしに部屋へと入って行く。
「ほう? どうした小僧。何の用だ?」
 扉を閉めるまで聞こえるウォルターの声。扉がぱたんと閉められると中の声は聞こえな
くなってしまう。…さすがに扉に張り付いて耳をそばだてれば、中の声は聞こえるだろう
が…。
 ネルもやれやれとため息をつくと、言われた通り、書斎の右隣りの部屋に入る。ここは
どうやら客間らしく、高級品らしいベッドやら机やらが、置かれている。
「あら」
 部屋の中では、メイドさんが部屋の掃除をしてる最中だった。品の良い感じの人で、ぱ
っと見た感じ20代のようにも見えるが、10代と言っても通じるかもしれないし、しか
し、どうにもおばさんくさい雰囲気もありそうな、年齢不詳とはこういう人の事を言うの
だろう。
「ごめんなさいね。まだお部屋のお掃除終わっていないんですよ」
「あ、いえ、その、お、お構いなく…」
 慌ててネルがそう言うと、メイドさんは掃除の手を止めて、じっとネルを見つめた。そ
の優しい眼差しに、ネルは戸惑うばかりだ。
「あなた、アルベル様がお連れになっていたお嬢さんね」
「お、お嬢さん…?」
 そんな事を言われたのは何年ぶりだ。
「うふふ。聞いてますよ。アルベル様、御成婚なさるそうね。そのお相手が、あなたさま
かしら?」
「いっ!? あ、そ、その…。そ、そうなん…ですけど…」
 思わず赤くなって、ネルはうつむいてしまう。そうなのだ。今回、ウォルターに報告す
る事はその事で、気乗りはしないものの、しないわけにはいかないようで、アルベルはネ
ルを連れて、この屋敷にやってきた。しかし、肝心のウォルターに報告にする際になって、
結局ネルは席を外されているのだが…。
 メイドさんは赤くなってうつむいてしまったネルを、ほほ笑みながら眺めた。
「アルベル様のお相手がこんなに可愛らしい方で本当に良かったわ。ウォルター様もご安
心ね」
「いやっ…、そのっ…」
 お嬢さんと呼ばれたのも久しぶりだが、可愛らしいとか言われたのも随分久しぶりだ。
とうとうネルは耳まで赤くなってしまった。
 そんなネルを、メイドさんは柔らかく笑って見ていた。
「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あ、は、は、はい。ネ…、ネルです。ネル・ゼルファーと申します…」
 メイド相手に緊張する事はないはずなのだが、ネルはカチコチに緊張して、モノサシで
も入っているような固さで直角に頭を下げた。
「ネル様とおっしゃるんですね。あのアルベル様のお相手になるくらいですから。さぞか
し立派な方なんでしょうね」
「リ、リッパだなんて、そんな…」
「大変でしょう。アルベル様ってワガママでケンカばかりお好きで」
「ええまあ…」
 照れながら、ネルは後ろ頭に手をやる。
「本当…、大変でしょうに…」
「そう…ですかな…? ええと、その、あれはあれで、その、何と言いますか」
 もはやおかしな丁寧語を口走りながら、ネルは戸惑うばかりだ。どうにもこのメイドさ
んは自分のペースをかき乱す。嫌な感じは決してしないのだが…。
「その、あの、あれはあれで、良いところ…ありますよね?」
 なんでメイドさんに向かって疑問系な言葉を口走ってしまうのか。ネルの脳内は馬鹿み
たいに混乱していた。クロセルのような大きな竜相手にだって、毅然とした態度で挑めた
のに、どうしてこのメイドさんはこんなにペースを乱されてしまうのか。ネルは吹き出し
てきた汗をちょっとぬぐった。
「そうですね。きっと、あなたの方がそのところをよくわかってらっしゃるんでしょうね」
「えと、その、あの、ええ、その、はい…」
「アルベル様も、ああ見えて優しいところもありますから。その、どうか…」
「え?」
 メイドさんは手にしていたモップをそこのベッドのはしに置いて、ネルの手を両手で握
り締めた。
「どうか、添い遂げてあげて下さいね。私が言うのはおこがましい事なんですけど…」
「あ…、は、はい…」
 呆気にとられ、ネルはすこし呆然としながら返事をする。握り締められた強さから、相
手の想いが伝わってくる。
「アルベル様、お父様を亡くされてからだいぶお荒れになった時期がございまして。そり
ゃ昔から天の邪鬼なところがございましたけど、あれからすっかりひどくなってしまった
んです。こんな状態ではどうなる事かと心配していたんですけど…」
 ふっと視線を背け、その顔に陰りを差しながら淡々としゃべるメイドさん。だが、再度
ネルに視線をあわせ、にっこりとほほ笑む。
「もう大丈夫そうですわね。アルベル様も一般的なお年頃を過ぎる頃なのに、世を拗ねて
しまわれて、他人様を寄せつけなくなってしまわれますし、ウォルター様も独身なせいか、
アルベル様にそう強くおっしゃる事もできなくて、少しお困りになっていたようですけど。
こんなに可愛い良いお嬢さんが、お嫁にきて下さるんですから。ウォルター様でなくても
安心いたします」
「…いやっ…! そ、そのっ…」
 真っすぐに見つめられて、少しひいてきた汗がまたぶり返してきた。こんなにも厭味も
なにもなく、真面に褒められると何にも言えなくなってしまう。しかも手をがっちり握ら
れて逃げられない…。嫌な感じはしない。決して嫌な感じはしないのだが…!
「あら、ごめんなさいね。嬉しくなってつい…」
 メイドさんはネルの手をずっと握っていた事に気づいて、苦笑しながら離してくれる。
「そうだ。気が効かなくてごめんなさいね。お茶とお茶菓子を用意しなくては」
 メイドさんは手をぽんと叩いて、掃除用具をがたがたと片付けはじめた。
「あ、あの」
「はい、なんでしょう?」
 掃除用具を片付ける手を止め、メイドさんは微笑みながら振り返る。
「その、アルベルは、昔から、よくここに?」
 一応、彼が幼い頃からここによく来ていたらしいという事は多少聞いてはいたのだが。
「ええ。お父様に連れられて、よくいらっしゃいましたよ。あのころのアルベル様は本当
に可愛らしいお坊ちゃんで」
「お、お坊ちゃん…」
 あのアルベルをお坊ちゃん呼ばわりするメイドさんに、なにやらすごいものを感じたネ
ルは少したじろいだ。
「確かこの部屋ですよ。あ、あった。そこの木の柱に傷がございますでしょう」
 メイドさんは掃除用具をそのままに、部屋の壁と壁を仕切る柱を指さす。随分と低いと
ころにこの壁に似つかわしくない傷が走っているのが見えた。
「当時のアルベル様の身長にあわせて傷をつけたんですよ。お部屋を傷つけるのは良くな
いと申し上げたんですけど、どうしてもって聞かなくて…」
 ネルの膝より上あたりの高さだろうか。それくらいの背の高さのアルベルというのがち
っとも想像つかなくて、ネルは思わず困惑した。
「他にもありますよ。アルベル様のやんちゃの跡が。アルベル様のいたずらにはグラオ様
も手を焼いておられたようです。代わりにウォルター様がお叱りになったりして。さんざ
ん叱られたからでしょうね。アルベル様は今でもウォルター様に頭が上がらないようです
よ」
「ああ。なんかわかります」
 叱られたという幼児の頃からの経験だけでなく、慕っているのもあるのだろう。意地っ
張りで照れ屋で変な所でプライドが高い彼は、素直に認めたがらないだろうが。
「アルベル様は本当やんちゃな方で、数え切れないくらいいたずらをしましてね。中でも
傑作でしたのが、風雷の方が管理なさってるルムを、全部小屋から逃がしてしまった事で
しょうか」
「そんな事したんですか!?」
「ええ。ルムが町の方に逃げ出して、町中にルムがあふれかえってもう大変な騒ぎでした
わ。民家に入り込むわ、お屋敷にもルムが闊歩するわであれは大変でした…。それでいて
アルベル様は何してたかと思われますか?」
 知るわけがないので、ネルは首をふる。
「ルムの小屋の中でお一人すやすや眠っておられたんですよ! あの時はみんな怒りを通
り越してあきれましたわ。もっとも、後程ウォルター様とグラオ様にひどく叱られていた
ようですけど。当時はもうおおわらわで大変でしたけど。今となってみれば笑い話になり
ますね」
 カルサア中にルムがいるところを想像して、ネルは少し吹き出してしまった。風雷が管
理しているルムの数はかなりのものだろう。それが町に放たれたとしたら、当時は大変な
騒ぎであったろう事は想像がつく。
「他にも、ここに階段がありますでしょう。ホールに続くあの大きな」
「ええ」
 玄関から入ってすぐに目の前に広がるあの大きな階段の事だろう。ネルはちょっと顎に
手をやって思い出す。
「あのてすりにすべって降りる事が大好きでして。でも、なかなかうまくいかなくて。し
ょっちゅうぶつけたり転んだりしてましたわ」
「アルベルが?」
「ええ。下を歩いている鎧を装備した、兵士の方に頭から突っ込んだ事もございましたわ。
武器を装備している場合もありますし、お互い危険ですから。危ないからやめろと何度言
われてもお聞きにならなくて。しまいにはてすりの下の方に不格好な壁が取り付けられた
事もありました。それでもおやめにならないもんですから、その壁にがんがんぶつかって
ましたわ」
「ばっ…」
 馬鹿じゃないか。
 ネルは思わずその言葉を飲み込んだ。
「もうウォルター様も呆れ果ててその壁が取り払われた頃、やっと着地がうまくなりまし
てね。満足したのかそれから回数が減って、今ではもうさすがに、ねえ」
 そりゃあそうだろう。というかあの年齢であの格好でそんな事をやられたら誰でも引く
だろうが。
「他にも思い出せないくらいやりましたわねー。お酒とお水とを間違えて飲んだりとか…。
そうそう、アルベル様が辛いものがお好きでなくなった出来事があるんですよ」
「え? 何ですか、それ」
「調理場のタバスコをどういうわけだかいたずらして。飲んじゃったんですよ」
「うわ!」
 それはとんでもない辛さだったろう。
「もうのたうちまわるほど苦しんでおられましたけど。悪いとは思ったんですけど、それ
がおかしくておかしくて。一人、苦しんでるのに助けるどころかみんなして笑っていたの
がお気に触ったんでしょうね。次の日の態度が寂しゅうございましたわ」
「ふっ…、ふふっ」
 なんだかそれを想像できそうで、ネルも思わず吹き出した。そんなネルに気を良くした
か、メイドさんのおしゃべりはまだまだ続く。
「他にもね、疾風の方の年の似たお子様もこの屋敷にいらっしゃった時の事ですけど。何
をどうしたかその方とケンカになって。まあそこまでは良いんですけど、そのケンカって
いうのがルムの乳をひっかけ合うケンカだったんですよ!」
「ええ!? そんな事したら…」
 ルムの乳は栄養があり、美味い事は美味いのだがいかんせん匂いがきついため、それが
嫌だという人もわりといるのだが…。
「そうなんですよ。もう部屋中臭くなって大変でしたわ。掃除してもなかなか匂いは消え
ませんし。結局ケンカの原因なんかそっちのけで、お二人そろってかなりしぼられてまし
たわ。お二人自身もしばらく匂いは消えなかったみたいで。グラオ様がぽつりとこぼして
おられたのを思い出します」
「あはは…」
 ネルもその様子をなんとなく想像して苦笑する。
「ふふふ。本当、しょうのないやんちゃなお方でしたわ。今でもその面影がありますわね。
私が抱き上げてさしあげた事もございましたけど。もう随分と前の事になるんですね」
「え?」
 ちょっと待って。ネルは目を丸くした。そういえば。あなた若く見えるけど。一体いく
つなの? このメイドさんの体格からにして、アルベルを抱き上げられたのは彼が本当に
幼い頃の事だろうに。
「ほーんとう、やることはともかく、お顔は可愛い方でしたからね。女の子の衣服を私の
いたずらで着せてしまった事もありましてね。こう言うのも何ですけど。お似合いでした
わ」
「………………」
 そんな事までしたんですか、あなたは。でも、確かに似合いそうだと思ってしまったり
して。
「お父様のグラオ様でさえ、ご自分の息子ってお気づきになられなくて。リボンつけたら
もう、とっっても可愛くて。思いだしますね〜」
 ちょっと…見てみたいかもしれない…。ネルはそんな事を思う。もしかして、アルベル
があんな格好なのはこのメイドさんのせいなのか、とかちらりと思ってみたり。
「そうそう、それでですね…」
 自分の話に喜んでくれるネルに調子を良くして、メイドさんがおしゃべりを続けようと
したところ。
 ばたん。
 当のアルベルが、少し不機嫌そうな面持ちでこの部屋に入ってきた。
「あら、アルベル様。いらっしゃいませ」
 メイドさんはすぐ振り返って、にっこりと微笑んだ。
「あ? ああ…」
 無愛想に頷いて、うしろ頭をかきながら部屋に入ってくる。
「お茶とお茶菓子をお持ちしますね」
 メイドさんは、片付け途中だった掃除用具の片付けを再開しはじめる。
「ん? なんだよ」
 今にも笑い出しそうなネルの視線に気づいて、アルベルは片方の眉をはねあげた。
「いや…べつに…」
「なんで視線をそらす? おい…。ちょっと、おい」
 ネルの態度を不審に思ったか彼女を見て、それからメイドさんをちらっと見て。笑って
いるメイドさんの顔を見て、彼の目が見開かれた。
「ちょっと、おいてめえ! こいつになにか吹き込んだのか!?」
「アルベル様のご幼少のみぎりの事を少し…」
「少しって…! てめえ! 何しゃべった!?」
 瞬時に怒り出し、アルベルは思わず腰の刀を半分くらい抜き放つ。
「アルベル様。そんな刃物はお部屋の中で振り回すものではありませんよ。すこしお待ち
になって下さいね。お茶とお菓子を持ってきますから」
「だからっ…!」
「はいはい。大丈夫ですよ。アルベル様のお好きなものをお持ちしますからね」
 軽〜くいなされて。アルベルは有耶無耶のまま刀をしまわれて。メイドさんは恭しく一
礼をして、部屋を去って行く。
 後には、顔を赤くしたままのアルベルがぶつけようもない怒りを胸に、突っ立っている
のみだった。
「はあー…」
 しかし、すぐに気が抜けて、握り締めたこぶしをほどき、アルベルは前髪をその手でか
きあげる。
「勝てないみたいだね」
「うるせえ」
 ネルは肩をすくめて、優しい眼差しでアルベルを見つめる。
「報告は済んだのかい?」
「ああ…まあな…」
 少しだけ顔を赤らめて、アルベルはまた髪の毛をかきあげる。何を言われたのか知らな
いが、どことなくアルベルから安堵の雰囲気がうかがえる。
「…ところでさ」
「なんだ?」
「あのメイドさん。あんたの子供の頃を知ってるみたいだけど。だいぶ若く見えるけど、
あの人、一体いくつなの?」
 ネルはなんだか聞くに聞けない最大の疑問を口にした。
「ああ…。あいつね…。俺が物心ついた時にはもうこの屋敷にいた」
「……それって、まさか…」
「むかーしトシを聞いた時は教えてくれたような気がする。忘れちまったけどな。今じゃ
絶対教えてくれねーだろうな。まあ、昔に比べたら老けたんだろうけど。わりと会ってる
からそれも俺にはわかんねえ。俺と同じくらいの子供がいるって聞いた事あるから。けっ
こういってんだろう」
「本当かい!?」
 思わず、ネルは目を丸くした。アルベルと同じくらいの子供がいるという事は、自分の
母親と同年代と思って良いだろう。とてもじゃないが、そんな年代に見えない。
 そう言われれば、肌にハリやツヤが無かったような気もするが、10代と言っても通用
しそうなあの容姿に度肝をぬかれる。
「勝てないわけだ…」
 ネルに向かってのお嬢さん呼ばわりもなんだか納得がいった。そりゃあ彼女からにして
みれば、ネルの年齢さえもお嬢さんになってしまうのだろう。ウォルターだって未だにア
ルベルの事を小僧呼ばわりしてるのも、彼にとってはじゅうぶん子供だからだろうし。
「はあ…、だからこの屋敷は苦手なんだ」
 ぶつぶつつぶやきながら、アルベルはベッドに腰掛ける。苦手とか言いながら、わりと
来ているところを見ると気に入っているのだろうに。
 そう思うと、ネルは苦笑してしまった。
「なんだよ」
「別に。何でもないよ」
 にっこり微笑んで、ネルはアルベルの隣に腰掛ける。そしてそっと彼の手に手を重ねた。
「フン…」
 アルベルは顔を赤らめて、そっぽをむいてしまった。その様子が可愛くて、ネルは小さ
く吹き出した。
 あのメイドさんが、いや、この屋敷にいるほとんどがアルベルを可愛がっている理由が
わかったような気がして。彼の手を優しく握り締めた。

                                                                         おわり。















あとがき
アルベル幼児期の話を捏造しました。かなりのいたずらっこだったようなので。話のメイ
ドさんは、ウォルターのいる部屋の隣にいるメイドさんです。ゲームやってる時、気にな
ったのですが、アルベルの子供の頃の話をしてるって、このメイドさんいくつなんだろう
と思って、こんな話。
年をとらないっていうと、SO3だとFD人とかいう理由があるのですが、設定的にはこ
のメイドさんはそうではなく、ただの若作りです。
アルベルのいたずらネタを考えるのがわりと大変で。昔、知人が妹と牛乳の引っかけ合い
ケンカをしたと聞いて、そのネタを引っ張ってきたりしましたが。聞いて笑ったよ。