エスタミルのリー、ウハンジの「娘」を水竜の元から苦労の末に奪還し、お礼もたんま
りもらえ、一行は打ち上げと称して、バーに集まっていた。
 ただ、南エスタミルのバーはどうにもうるさすぎるし、ガラが悪すぎる。いくら腕に自
信があるとはいえ、コトを荒立てる必要はないし、最年少のアイシャの事も考慮して、少
し勢いが削がれるのの、北エスタミルのこぎれいなバーまでやってきた。
「いやー、今回はほんっとうに疲れたよなー」
 ごきげんな調子で言って、ジャミルはジョッキを机の上に置く。口調にトゲがまったく
ないのは、苦労に見合うだけの礼金があったためだ。
「本当にまったく。ねえ? 水竜からアディリス、アディリスからタイニィフェザー、タ
イニィフェザーの次はフレイムタイラント。世界中走り回っちゃったわねー」
 バーバラがアルコールで頬をわずかに朱に染めながら、幸せのため息をつく。奮発して
良い酒をオーダーしたので、美味しいのだ。
「おいしーい」
 バーバラの隣で、アイシャが同じく幸せのため息を吐き出して、コップを机の上に置い
た。どうやらずっとコップに口をつけていたようだ。
「おまえ、酒、飲んでんの?」
 ジャミルがアイシャくらいの年頃にはすでに酒など普通に飲んでいたが、アイシャはタ
ラール族の族長の孫として、大事に育てられてきた。そのため、彼女が酒を飲むとは、ち
ょっと考えられなかったのだ。
「ううん。ロレンジジュース。すっごく美味しいよ。ジャミルも飲んでみれば?」
「いんや。そんな高ぇのはいらねえ」
 そう言って、ジャミルは再びジョッキに口をつけた。アルツール産の果実はどれも美味
しいが、その美味さに比例して、値段もそれ相応のものとなる。アイシャが飲んでいるジ
ュースは、一杯分だけだが結構な値段だ。奮発したらしく、アイシャはちびちびとそれを
飲んでいる。
「まあ、アイシャにはそれでちょうど良いだろうよ。俺は質より量を飲みてえタイプだけ
どよ!」
 バーバラの隣では、風情もへったくれもないままに、ホークが豪快にがばがば酒を飲ん
でいる。文句を言うつもりはないらしいが、バーバラはそんなホークに眉をしかめて、横
目で見た。
「はあ…」
 酒に慣れていないくせに、わずかな好奇心で飲んでみた酒は、クローディアには少々キ
ツかったようだ。バーバラの倍ほどに顔を赤らめて、両手でつかんだコップを下ろす。
「大丈夫か?」
 ホークとはまるで対照的に黙って酒を飲んでいたグレイが、声をあげた。
「…大丈夫よ…」
 少し強気に言ってみせるが、アルコールで体温が上昇し、脳の方もなんだかふわふわし
た気持ちになっていた。
「ふう…」
 気丈に酒を飲み干してしまおうと、クローディアは意を決したように、コップの中で揺
れる赤い液体を見据えた。
「酒に慣れない人間が無理をするな」
「無理なんか…してないわ…」
 強がって言ってみせるものの、顔は赤い。
「酒に慣れないならば、少しずつ飲め」
「そうしているわ…」
 グレイの保護者的な口調がほんの少しだけ気に障って、クローディアは自分が思ってい
る以上のペースで飲みはじめる。
「………ふう……」
「大丈夫? クローディア。顔が真っ赤だよ」
「そう…かしら?」
 さすがにバーバラも心配になって、クローディアのさくらんぼのように真っ赤に染まる
頬を見た。
「顔、真っ赤だよ、クローディア」
 アイシャにさえもそういわれてしまうと、酔っているつもりがなくても、自分が酔って
いるらしい事を悟る。体は確かに熱いが、頭まで酔っ払っているとは思っていないのだけ
れど。
「……酔ってる…のかしら?」
 熱い頬に手をよせて、クローディアは自答してみる。酒をこんなに飲んだのは初めてで、
酔ったという感覚すらはじめてだから、よくわからなかった。
「…………なんだか………頭がクラクラするわ…」
「酔ってるんだな」
 少しだけ呆れた口調で、グレイがきっぱり言い切った。
「今回の仕事は本当に疲れたからね。あっちこっちおつかいに走り回ってさ。疲れた後っ
て酔いやすいし、今夜はもう休んだら?」
 ウハンジの娘を返してもらうために、四天王のお使いをさせられるとは思わなかった。
世界中に散らばる四天王のおつかいは、正直、疲れた。それに見合うだけの報酬があった
としても。
「そうした方が…良いのかしら…?」
 なんだか正常な判断まで失ってそうな声に、グレイがため息をついた。
「そうした方が良い」
 言って、グレイが立ち上がった。酒が飲みかけであるところを見ると、戻ってくるつも
りがあるらしいが。
「立てるか?」
「大丈夫よ…」
 口ではそんな事を言っているが、クローディアはなんだかおぼつかない様子で席を立ち、
歩きはじめる。
「送ってくる。俺の分は残しておいてくれ」
「戻ってこなくっても、俺は構わないぜー」
 ジャミルが茶化した声をあげたが、それを完璧に無視して、グレイはクローディアに付
き添ってバーから出て行く。
 それを、思わず見送る4人。
「ねえねえ、あの二人ってなんか、わりと一緒にいるよね。もしかして、オツキアイして
るのかなあ?」
 二人がバーから出て行った後、アイシャがはしゃいだ調子で声をひそめる。わりと開放
的で少しうるさめのバーなので、誰もこちらの会話など聞きはしないのだが、アイシャは
声をひそめたくなる。
「オツキアイって、おめえ…。…ま。そのうちわかるんじゃねーの?」
 アイシャの言った言葉に苦笑して、ジャミルはつまみの豆を高く放り上げて、口に入れ
る。
「ありゃあ、アレだな」
 顔が少し赤いホークが豊かに顎鬚に手をやり、にやにやした下品な笑顔を浮かべる。
「アレって?」
 アイシャが首をかしげてホークをのぞきこむ。この時、まだそれほど酔っていなかった
ホークは少し言葉を詰まらせた。
「いや…まあ、アレはアレだ。な、そのうちわかるさ」
「わかんないよ!」
 確かにわからないなと思いながら、バーバラはコップに口をつけた。
 やがて、酒とつまみで今回の冒険の感想なんかをみんなでしゃべくっていると、いつの
まにか、グレイが戻ってきていた。
「あ、お帰り、グレイ。グレイの分のおつまみ、とっておいたよ」
「すまんな」
 ホークとジャミルががんがん食べてしまうので、アイシャがグレイのためにつまみをと
っておいたようだ。皿の上に盛られた豆や小魚などのつまみを、グレイの席に置く。
「なんだよ、おめえ。送ったんなら、男らしくオオカミになっとけよ」
 グレイがクローディアを送った時よりも、さらに酔った口調でホークが言う。しかし、
グレイの態度は相変わらず無言のままで、席について、飲みかけの酒を飲みはじめた。
「オオカミ?」
 ホークの言葉に、アイシャは眉をしかめた。族長に大事に大事に育てられた娘は、隠語
を解さなかったのだ。
「おうよ。そりゃーおめー、男と女なんて○○×(ピー)が△■□(ピー)で、□■×○(ピー)
ってものでよう!」
 酔っ払ったホークはシラフなら、アイシャ相手に口にするはずもない、はしたないを通
り越した下品極まりない単語を大声で羅列しはじめた。
「え…? え? えと?」
 知らない単語に、アイシャはさらに眉間のシワを深くした。
「ハハハハハ! だからな! 女の○×△(ピー)が■△▼○(ピー)の…」
 ガッ!
 調子よくしゃべっていたホークの頬に、バーバラのげんこつが炸裂した。
「ぐうおおっ…!」
 くぐもった悲鳴をあげて、ホークは椅子から落ちて横に倒れこむ。
「え? え? えと、どうしたのバーバラ?」
「季節はずれの蚊が、ホークのホッペに止まってたからねえ」
 むしろ怖いくらいににこやかな笑みを浮かべ、バーバラがアイシャに説明する。それだ
ったら平手で叩くものだろうが、先ほどは思い切り握り締めたゲンコツで殴っていた。わ
からなくて、アイシャはもっともっと眉間のシワを深くした。
 ホークに同情する気はないらしく、グレイもジャミルさえも反応もせずに静かに酒を飲
んでいた。
「…ねえ、グレイ」
 眉間にシワを寄せたまま、アイシャは考えこんでいたが、さっぱりわからないので、隣
に座るグレイに声をかけた。
「なんだ」
「ホークの言ってた事って、何か意味あるの?」
「……………」
 いつものように無視するのか、それともアイシャにはきちんと答えてやるのか。ジャミ
ルは好奇心で、グレイの顔色をうかがった。
「……世の中…知らなくても別に構わないものなど、たくさんある。気にするな」
「でも、わからないって、なんか気持ち悪いし、気になるよ」
「その気持ちもわからんでもないがな。だが、知らなくて良い」
「……ちえっー」
 どうしても教えてくれそうにないグレイに、アイシャは不満そうに口をとがらせた。
 そして、やはり不満そうな顔のまま、大事に飲んでいた最後のロレンジジュースを飲み
干した。
「あのさ、グレイ。前々から、気になってたんだけどさ」
「なんだ?」
 ほとんどの相手にはそっけないグレイだが、どうにも、アイシャには対応が柔らかい。
もっとも、グレイに限らず他のみんなもアイシャには優しいのだが。
「グレイとクローディアってよく一緒にいるよね? なんかあるの?」
「前にも言ったと思うが、彼女の護衛が俺の仕事だ」
「お金、たくさんもらったから?」
「仕事とは、そういうものだ」
「でも、護衛って、どこからどこまでとか、いつからいつまでとか、決まってるものじゃ
ない? もう、かなりの距離も時間も護衛してるんじゃないの?」
 わりと適切でするどいところで突っ込みながら、アイシャはグレイの顔を下から覗き込
む。どういう反応を返すのか見たくて、ジャミルもバーバラもグレイを見ていた。
「人の仕事内容にあまり立ち入った事を聞くものじゃない」
「でも、気になるんだもん」
 さらに問おうとするアイシャに、グレイが断ち切るように声を出した。
「アイシャ」
「なに?」
「おまえの飲んでいたもの。美味かったのか?」
「え? ロレンジジュース? あ、うん! すっごく美味しかったよ! その分だけ、お
値段も……したけど。でも、それだけの美味しさだったよ」
「そうか。俺も飲んでみるか」
「あ、そうすると良いよ! すっごく美味しいから!」
 話題がころりと転換されたことにも気づかず、アイシャは無邪気な笑みを顔いっぱいに
浮かべる。
 グレイが相変わらず愛想のない調子で、そのジュースをオーダーすると、アイシャはそ
のロレンジジュースがどんなに美味しかったかを、グレイ相手に説きはじめた。余程、気
に入ったらしい。
 程なくして、ロレンジジュースがグレイの前に来ると、一口、含んでみる。確かに甘く
て美味しいが、やはりグレイの舌には少し甘すぎる。結局、彼はそれをほとんど飲まない
まま、アイシャの方にずらす。
「え? 飲まないの?」
「確かに美味いが俺の口には甘すぎる。飲みたければ飲め」
「えー? でも、高いんだよ、ロレンジジュース」
「高くても、俺の舌にはあまり合わん。いらなければ捨てるだけだ」
「そんなもったいないことしちゃだめだよ。……いいの? もらっちゃって…」
 上目遣いに、アイシャはグレイを見るが、彼は相変わらずそっけなかった。
「構わない」
「なんか、悪いけど…。もらうね。ありがとう。…へへ…」
 また美味しいロレンジジュースにありつけて、アイシャは喜びを満面に示すと、早速ジ
ュースに口につける。
 それらのやりとりを眺めていたジャミルが、ポンと手を打った。
「なあ、グレイ」
「なんだ」
 言葉は同じだが、アイシャに返すものと明らかに語調が違っていた。
「俺もよー、あんたとクロー…」
「ジャミル」
 ジャミルが言おうとしていた名前を最後まで言わせずに、グレイが珍しく語気の強い調
子で、ジャミルを呼ぶ。
「へへっ。俺は安いエールで良いぜ」
 グレイの弱みをつっつきまわして、たかってやろうという魂胆で、ジャミルがそういう
事を言うと、グレイは腰にさした、護身用の細剣を鞘ごと握り締めて、少し上にずらすと
机のへりにそれをごつんとぶつけて見せた。
「俺のスクリュードライバーでいいか?」
「……あ…、あ、いやー! やっぱ、なんでもねえ! 聞かなかったことにしといてくれ!」
「そうか」
 幾分かひきつったジャミルの声を聞くと、手にした細剣を離し、再び机の上に腕を戻す。
「馬鹿だね、あんた」
 あきれはてたバーバラの声に、ジャミルは苦笑いをして見せる。肩をすくめて見せたと
ころ、あまり懲りている様子はないようだ。
 こうして、北エスタミルの夜は更けていく。
 やけに明るい月が、街を照らしていた。先頭でひょこひょこ揺れるように調子よく歩く
ジャミルに。疲れて眠ってしまったアイシャを背負うグレイと、バーバラにどつかれてそ
のまま気を失ったホークの足を引きずったバーバラの影を長く長く伸ばしながら。

                                                                  おしまい。













     
























短めにあっさりと。最初はグレイ×クローディアの予定だったんですが、できあがってみ
たら、ちっともカップリングじゃないような気がします。匂わせてるだけ?
しかし、ミンサガの二人はどうにも掴み難い性格してますなあ。くっつくの? みたいな
性格してるよなー。やたらとデフォルトで二人でいますけど。
ホークを殴るのはシフの方が痛そうだとは思うんですが、シフは隠語とかにはちょっと疎
そうな感じがしたので、バーバラ。バーバラのゲンコツも痛そうですが。
あのグラフィック、ゲームショウで初めて見た時はそりゃもうすーごいショック受けてた
んですが、慣れるものですね…。それでも、グレイとか、忘れた頃にムービー入るので、
結構「グワッ!」とかなるんですが…。ムービーはやっぱり…等身が…ヘンだと思う…。
それでも、ムービー前にセーブをとっておくのはファンの基本ですが…。
それにしてもミンサガのキャラは衣装が本当に面倒臭い。クローディアの服の模様ってど
うなってるの? あと、グレイの衣装って、等身低いと結構可愛いと思うんですが、等身
を高くすると、マヌケっていうか、格好悪いような気がするんですが…。