アンジェラしゃんの崩した壁の先はちょーど近道なのでちた。ラッキーでち。 しばらく、なんかアンジェラしゃんは異常なくらいにはしゃいでて、ちとヘンでちた。 なーんでいきなり魔法を使えるようになったのか、フェアリーしゃんにちと聞いてみたん でちけど、こむずかしくって、よくわからなかったのでち。 デュランしゃんはずかずかと先に歩いて行くし、アンジェラしゃんはそれを追って歩く …、ううう、足が短い…というかまだ成長が遅いから、シャルロットはただそれだけなん だから、もうちょっとこっちのホチョーって…うーんと、歩く速さにあわせてほしいでち。 ……ん…? なんか、後ろの方に誰かいるんでちかね……? ま、いいや、早く追いつかないと…。 「まっぎゅ…」 ぎゅむっ。 だ、誰でちか、シャルロットの服をつかむのは!? うげっ! 振り向いて、ギョロッとした目と目があって、思わず口を閉じちゃいまちた。だ、だっ てだって、大きくてガッチリしたおっちゃん達がうじゃうじゃいるんだもん…。 ……こ、怖くて声が出ない……。 前を見ると、アンジェラしゃんはこっちの様子に気づいて、デュランしゃんに手を伸ば し…あっ! 捕まっちまいまちよ! あ、あ、あ、捕まっちゃった…。デュ、デュランしゃん…。…まだ…気づいてないよ…。 「動くな!」 リーダーっぽい人が、声をかけて、デュランしゃんは初めて気づいたんでち。鈍すぎ…。 「てめぇは!」 デュランしゃん、知ってるんでちか? 「おまえらのおかげで、結界が解けた。礼をさせてもらおうと思ってな」 「なんだとっ!?」 「おっと、この女やガキがどうなってもいいのか?」 ひ、卑怯な…。デュランしゃんも、そう言われては剣を抜けなくて、歯軋りしまちた。 「デュラン!」 「デュランしゃん!」 「やっちまえ!」 「おう!」 ……ひ、ひどいでち…。何もしないからって、デュランしゃんをみんなでいぢめるなん て! 「ちょ、ちょっとあんたたち、卑怯じゃないのよ!」 「そーでち、そーでち!」 まったくその通りでちよ! 「フン。おまえら人間は俺達に何をしてきたか…。それから思えば卑怯などと言えるまい」 「そういうのを逆恨みっていうのよ! デュランがあんた達に何をしたって言うのよ! 一人じゃかないそうにないからって、人質とって集団で袋だたきなんて、あんたら獣人が 卑怯で野蛮で逆恨みするいい証拠じゃないのよっ!」 「そーでち、そーで…」 あの人の顔がすっごく変わったから、シャルロットは思わず口をつぐみまちた…。 「おい、もうやめろ」 その獣人は怖い目付きはそのままだったでちけど、いきなり、そう言ったんでち。デュ …デュランしゃん…。大丈夫かな…。 「あそこに牢屋があったな。こいつらを、そこにぶちこんでおけ!」「はいっ!」 「あ、ちょ、な、なにすっ…」 そして、今度はアンジェラしゃんの目の前に立つと、すごい早さでアンジェラしゃんの おなかを殴って…、わ、痛そう! って思ってすぐ…。 ガンッ! 頭にすごい痛みが……。 あ、あう…。あいたたた…。 あ、頭、痛い…。ひ、ひどい…。 起きると、アンジェラしゃんはすでに起きてまちた。 「かよわいおとめの頭をぶつなんて、なんてひどいんでちかねー…」 あーうー、まだ痛 いでちよぉ…。 ふと見ると、アンジェラしゃんはデュランしゃんの近くにいまちた。…なんか、デュラ ンしゃん、うめいてまち…。変な声だと思ったら、デュランしゃん……。 「あ、アンジェラしゃん、無事だったでちか…? デュランしゃんは…?」 「大丈夫。ひどいケガみたいだけど、生きてるわよ」 「そーでちか…。それは良かったでち」 よかった。なんか、すごいひどい目にあってたみたいでちけど…。「で…? ここは…ど こなんでちかね…?」 なんか暗いし、床や壁はごつごつだし…。 「さあ…。牢屋らしいんだけど…」 ろ、牢屋でちか…。そういえば、そんな事言ってまちたね…。 「…なんか…、困った事になっちゃいまちたね…」 「そうね…」 小さくうなずくと、アンジェラしゃんはぽっけからハンカチを取り出して、デュランし ゃんの顔をふいてまちた。おろ、珍しくやさしーでちね。とゆーことは…。 「ひどいケガなんでちか?」 シャルロットもデュランしゃんのとこへ行きまちた。だって、デュランしゃんあんなに ひどくいぢめられてたんでちもん。…大丈夫かなぁ…。 って、近寄って、デュランしゃんを見たら。 ! …ひ、ひどいケガ…。 体中アザや擦り傷や引っ掻き傷だらけで、血が色んな所から流れてる…。顔が変形して る…。それに、なんか、なんか、腕が変な方向に曲がってるよう…。…こ、こわい…。 アンジェラしゃんはハンカチで血をふいてあげてるけど、あんなんじゃ、治らないでち よ…。 「…どうにか…できないんでちかね…」 こんなとき、おじいちゃんか、ヒースがいれば、治癒魔法ですぐに治してもらうのに…。 「回復魔法が使えれば…良いんだけど…」 ………回復……魔法……。 「…回復魔法…。そういや、アンジェラしゃんも魔法が使えるようになったんでちよね?」 「え? そうだけど…」 それなら、シャルロットだって…。シャルロットだって、呪文は、覚えてるもんね…。 たぶん…。 「シャルロット、おじいちゃんの真似してみまち…。ケガした時によくかけてもらいまち たち…。アンジェラしゃんも魔法が使えるようになったんなら、シャルロットも…」 やってみる価値はあるでち。 え、えっと、えっとぉ…。確か…はじまりの呪文は……。 おじいちゃんや、ヒースが唱えていた言葉を必死で思い出す。 間違えちゃったり、トチっちゃったりしちゃったでちけど、でも、とうとう手のひらに 光があらわれたんでち! ケガしてるところに、ひどい所に光を流し込むように…こんな感じで…。 「ヒールライト…」 集中して、ただ、デュランしゃんが早く元気になりますようにって、それだけを考えて。 シャルロットは、その光をデュランしゃんにあて続けまちた。 ふう…。 せ、成功…したのかな…。一応、キズやケガはもうわかんなくなったし、顔の形も腕も、 元通りになりまちたけど…。もううめき声もきこえまちぇん…。 うまく…いった……かな…。 「………へへ…。シャルロットも魔法が使えまち。これで、みなしゃんの役にたちまちよ」 ちょっと嬉しくなってそう言うと、アンジェラしゃんも笑って返してくれまちた。 「う、うっ…」 あ、デュランしゃんのマブタが動いたでち! 「…あ、…あれ…?」 「あ、気が付いた!」 「デュランしゃん、だいじょぶでちか?」 シャルロットの魔法、うまくいったかなぁ…。 「デュラン、平気? どっか痛んだりしない?」 言われて、デュランしゃんは自分の体を見回して、 「う、うん…。どこも痛くねえぜ」 やったあ! 「シャルロットの回復魔法が効いたんでちね!」 「ん?」 「あのね、ウィスプが仲間になってから、私が魔法使えるようになったでしょ? それと 同時にシャルロットも使えるようになったのよ」「…へー…、そうだったんだ…」 見直しまちた? うふふ。 「ところで、ここは?」 「私も気を失ってたんで、よくわからないんだけど、どっかの牢屋みたいよ」 「なんだってぇ!?」 デュランしゃんはガバッと起き上がって、鉄格子に駆け寄ると、いきなりガンガン叩き 出しまちた。うあ、本当に効いたんでちねー。「げーっ! なんだこりゃあ!? くっそー!」 と、その時でちた。 「おーい、そんなに騒ぐと体に良くないぜー」 ?? 誰でちかね…? 「? どっから声がしたんだ?」 「コッチコッチ」 こっちって、どっち? 「……だれだ? おまえ…」 「どうしたの?」 シャルロットも鉄格子のとこまでいって声の方を見ると、なんか隣にも牢屋があって、 鉄格子があって、そこから誰かが手を振っていまちた。ううーん。顔まで見えないでちぃ …。声から、男の人だとは思うんでちけどぉ…。 「んーっと、俺はホークアイって言うんだ。ところで、君たち随分長い間気を失ってたみ たいだけど、平気なのかい? だれかうめいてたようでもあるけど…」 うめいてたっていうと…。 思わずデュランしゃんを見ると、なんか、バツが悪そうにシャルロット達を見て、そん でもってごまかすように、また隣の男に聞きまちた。 「と、ところで、ここはどこだ?」 うーん。男の人の手……。手しか見えないでち。 「ここはビースト兵に占領されたジャドの地下牢さ。俺もちょっとドジっちまってな。こ のザマさ。ま、こんな牢屋どうって事ねえけどな。もうちっと待ってくれれば、一緒にこ こから出してやるよ。そろそろチャンスだと思うんだ…」 「チャンス?」 「シッ! 見張りがくる。まぁ、見ててくれ…」 見ててくれって、あんたしゃんのお手てしか見えないんでちけど。…でも、ジャドがビ ースト兵に占領? は、初めて聞いたでち…。 「おとなしくしてろよ!」 シャルロットの考えを中断させて、偉そうなヘンなおっちゃんがそう言ったでち。 「ちょっと、キミキミ。見てみたまえよ、このカギ! 開いちゃってるぜー?」 だ、だから見えないんでちよ、ここからは! 「なにっ!? あ、本当だっ! どうして…」 「なぁに、簡単なこった。ちょっと、そこに立ってみなよ」 「こ、こうか?」 「そうそう。それで、いいかい? ここをこうして…。こうするとだ!」 なんか、ガチョガチョやってるけど、どうするとでちか? 「おお!」 「んじゃま、しばらくそこに入ってて!」 なんか音がして、扉が閉まる音。 「ああっ!? てめぇ! だましやがったな!」 「引っ掛かるそちらが悪いのさ。こんなカギ、この俺様にかかっちゃあ、どうってことね えんだよ!」 なんか悪たれつくと、こっちに歩いてきまちた。ほほー、なかなかいい男じゃないでち か。ヒースにはかないまちぇんけど…。 「ちっと待っててな」 と、牢屋のカギに針金突っ込んでなんか動かしてると思ったら、カチャンって気持ちの 良い音がして、カギが開いちゃったんでち! おおおー! 「やあ、助かったぜ」 「ありがと」 「ありがとしゃんでちー」 「なんの、なんの。で、君ら、これからどうするつもりなんだ?」 「どうするって…」 デュランしゃんがアンジェラしゃんを見たので、シャルロットもアンジェラしゃんを見 まちた。 「とにかく、こんな危険なトコから脱出するのが先決だわ。占領されちゃってるんじゃあ、 身動きできないもの」 「そうだな。じゃ、港まで一緒に行こう。獣人達がウェンデルを侵攻してる間の、警備が 手薄になる時を見計らい、マイアまで脱出するための船を出すって、俺が捕まる前に町の 連中が話してるのを聞いたんだ」 獣人のウェンデル侵攻…。そ、そういえば、ヒースもそんな事言ってまちたね…。お、 おじいちゃん大丈夫かな!? 「ウェンデル侵攻って、今、真っ最中なんだろ? あの光の司祭が放っとくわけないし、 もう、戻ってくるかもしれない。あんまり時間がなさそうなんて、急いだ方が良いみたい だ」 そ、そうなの? だ、大丈夫かな、おじいちゃん。た、確かに普通じゃないおじいちゃ んでちけど…。あれはあれでけっこう丈夫なのはシャルロットも知ってまちけど…。 「それはそうと、君たち、なんてーの?」 「あ? ああ。俺はデュラン。こっちの女がアンジェラ。ちっこいのがシャルロットだ」 なっ…、なんでちって!? 「ちっこいのとはなんでちか!」 失礼でちね! そ、そりゃ確かにデュランしゃんよりは年下でちけど、ちょっと成長が 遅いだけなのに、ちっこいのとは! まさに聞き捨てならんセリフ! 「ちょっと、デュランしゃん! ちっこいのとはなんでちか、ちっこいのとは!?」 「あーあー、いいからいいから」 「よくないでちよう!」 「それより、出立の準備しなきゃいけないだろう。まず、武器と荷物だ…。えっと、俺の 剣は…と」 え? えーと…。シャルロットの荷物はどこでちかね? 「ねぇ、私の荷物どこか知らない?」 「あー! シャルロットのカバン見〜っけ!」 良かった良かった。なにか、なくなってるものはないかな? うんうん、だいじょうぶ。 からざおもありまちね。 ジャドの牢屋を出るとすぐに、大きな犬しゃん達がキバむいて襲いかかってきたんでち けど…。 「うおおおおおおおっ! どぉけどけどけどけどけぇいっ!」 って、デュランしゃんが次々と蹴散らしてくれまちたので、後について走ってるだけで 良かったでち。夜なんでちけど、暗い明かりが灯っているので、明るくないでちけど、見 えなくないでち。 「猪みたいなカレだねぇ…」 「役に立つからいいじゃない?」 「力だけが取り柄でちもんねぇ」 やっぱり、ホークアイしゃんも同じ感想を持ちまちたか。 そ、それにしても、みなしゃんけっこう足速いでち! シャルロット、なかなか追いつ けないでちよう! 「ホラ、急いで!」 ホークアイしゃんがシャルロットの手を取ると、引いて走ってくれまちた…。けど、け ど、は、早くて足がもつれそう…! なんとか、なんとかお船に乗れまちたでち…。でも…疲れ…まちた…。 シャルロットがしりもちをついて息を整えていると、デュランしゃんの声が聞こえまち た。ここまで暗いとシャルロットでも見えないでち。 「みんないるなー?」 「いるでちー」 「いるわよ」 あー、それにしても、運動したから…ていうか、今日はあの洞窟で食べた非常食からな ーんにも食べてないじゃないでちか。おなかへりまちたよおー…。 「……パーティ……」 あー、この前のパーティーで食べたチキン美味しかったでちー。 「………やっぱ組んでるって言うのかな?」 「…言うんじゃない?」 「シャルロットおなか減りまちたー」 「たぶん言うよ、うん」 うう、おなかすいたでち…。 「ねえ、おなかすいたでち。なんかないでちか?」 「なんかないって、あるわけねぇだろ。せいぜい、チョコくらいしないぞ? 我慢しろよ」 「ううー…」 「そのかわり、マイアについたら思いっきりなんか食おう。それでいいだろ?」 「…………ううー…」 「…………ホレ、これでも口に入れてろ」 デュランしゃんはなにか、ごそごそ動いて、シャルロットの手にドロップを押し付けま ちた。…うう…これで我慢するちかないんでちね…。 あう…。甘酸っぱいでち…。 ザザザザーン、ザバババーン 海の音ってこんなんでちねぇ…。…なんか、人がいっぱいだからって、お外で寝る事に なりまちた。毛布、渡されたんでちけど、寒いでちねぇ…。 船の上の外、カンパンってーんでちか? ここで寝るのなんて初めてでちよ。ゆらゆら 揺れるんでち。寒いからぎゅぎゅってみんなで寄り集まるんでち。なんか、おしくらまん じゅうみたいで、おかしいでち。 ああ、なんか、目まぐるしいでちね…。ウェンデルにいたのは昨日とか一昨日くらいの 事なのに(もしかすると、気絶してたからもっと経ってるかもしんないでちけど)、なんだ か、すごく前の事のような気がしまち…。 口の中のまんまるドロップはもうちっちゃくって、噛んで飲み込みまちた。 こうやって目を閉じると、ヒースの笑顔が浮かぶでち…。 ヒース…。シャルロットが必ず、助けてあげまちからね…。 「旅……か……」 隣で、誰かつぶやいているのが聞こえてきまちた…。 旅……。 そうでちよね、シャルロットの冒険はまだ…はじまったばかりでちよね…。 …ヒース…、待っててね…。かならず、シャルロットが……。 ……ヒース……。 END |