「えーっ!? 私一人!? いつそうなったのよ!?」 「昼間」 ホークアイがカードをきりながら、無愛想にそう言った。 「シャルロットのヤツがリースと同室が良いってゴネてな。それで、仕方なく、な…」 「仕方なくって、あんたたちはどーすんのよ?」 「デュランがこの部屋の床で寝るってよ。だって、おまえ俺達の誰かと同室なんて嫌なんだろ?」 「…ま、まぁ、それは…ね…」 てっきりいつものようにリースと同室になると思いきや、帰ってきたらこんな事になっていて、アンジェラはかなり驚かされた。 「ま、今日だけってんだしな…。おまえはあんまり関係ないだろ? 一人で部屋使えんだから」 ホークアイは、円陣を組んでいるケヴィンとリースにカードを配る。 「うん……」 「まぁ、おまえが良いってんなら、俺らの誰かがおまえと同室…あっ、なんだこのカードは…」 配り終え、自分のところのカードを見て、ホークアイは顔をしかめる。 「ホークアイからだぞ」 「……チッ…。良くもねぇカードばっかだなー…」 ケヴィンに言われ、眉をしかめながら、ホークアイは何のカードを切るか迷っている。 「あんたらの誰かと同室ねぇ…」 露骨に眉をしかめながら、アンジェラはホークアイとケヴィンを順々に見る。 ホークアイと同室なんて、まずとんでもなかった。この男たちの中で一番スケベな彼のこと。 二人きりの部屋で何をしてくるかわかったものではない。容姿的には一番良いのであるが、容姿が良いからと言って、気を許すワケにはいかないのだ。 ケヴィンと同室ならば、まぁ、まずなにも起こらない事はわかりきっているし、こちらの言う事に素直に従ってくれる事もわかっていたが、なんとなくイヤであった。彼にはあまりデリカシーというものがない。というか、あまり性差を気にしているような所がないのだ。 ようは子供なのだが、子供でも男は男。全員で一緒の部屋という以外は、遠慮ねがいたい。 「まぁ、デュランが床に寝るなんつってるけど…、誘ってみたらどーだ? ヤツだって疲れてん だ。ベッドの方が良いだろ。…これかな…」 カードを選びながら、まるで上の空のような口調でホークアイが言う。そして、手持ちのカードの中から一枚場に出す。 「うーん…」 出されたカードに対し、ケヴィンが声をうならせる。 「じゃあ、これ」 「そうきましたかぁ…。じゃ、ハイ」 「げげ。いきなりそれを出すかぁ?」 3人がゲームをすすめている中、アンジェラは一人、腕を組んで、なにやら考えているもよう。 「じゃ…。誘ってみよっかな…」 「あー、そーしてみな…………えええっ!?」 カードの事も忘れ、ホークアイが驚愕の声をあげた。思わず、持っていたカードを落としてしまったくらいだ。 「なっ!? おま、本気かよ!?」 「あら。そう言ったのはあんたじゃない」 「そりゃ言ってはみたけど…そんな…」 「あーっ! ホークアイジョーカー持ってるー! ちっとも悪いカードじゃないぞ!」 「あっ! こら、見るんじゃねぇよ!」 ホークアイは手持ちのカードを慌てて拾い上げる。 「アンジェラ。まさか、本気じゃねぇよな…?」 「言ってみるだけよ。あいつが頷くかどーかね」 心なしか、恥ずかしげな表情をするアンジェラ。 「頷くかどーかって…。おまーなぁ! トシゴロのダンジョがだよ? 二人きりでなぁ…、そんな事…」 「ホークアイの番だぞ」 「あいつが頷かなかったら、ここで寝るだけの事でしょ?」 くるっと背を向けて、ドアの方へ歩きだす。 「そりゃそーだけどよぉ。あいつだって…」 「ホークアイの番だってば!」 「だぁもう! ホラこれ!」 手持ちのカードから一枚場にたたきつけ、出ようとするアンジェラを見る。 「デュランだってなぁ…」 「わかってるわよ」 「わかってるって、おまえ…」 「ハイ、あがりです」 「ええぇ!? もう!?」 いつのまにか、リースが手持ちのカードをなくならせていた。 ホークアイが驚いてる間に、アンジェラはパタンとドアを閉め、行ってしまった。 「……アイツ…、本気かな…?」 「さあ…」 「よし! オイラもあがり!」 呆然としている間に、ケヴィンが嬉しそうな顔をして、最後のカードをきった。 「えええ!? ……………げぇ…」 さっさと二人にあがられて、ホークアイは負けてしまっていた。 「ホークアイの負けー!」 「……………………」 渋い顔付きをさせて、ホークアイは無言でカードをかき集めた。 「んっとによー、今日はツイてねーぜ。賭けには結局負けちまうし…」 「賭け?」 「えっ!? あ、なんでもねぇってば」 闘技場の存在に顔をしかめるリースの事。ホークアイがそれで賭博をしたと知れば、自分の事を軽蔑する事は目に見えてわかっていた。 もう一度ゲームをしたが、やっぱりホークアイが負けてしまった。 「……やってらんねーぜ。こうも負けがこんでちゃやる気だってなくすわい…」 ため息をついて、ホークアイはお風呂に入る準備をする。 「今日のホークアイ弱い! どうした?」 「知るか! 俺が知りたいよ…」 さらにため息をついて、ホークアイは風呂セットを持って部屋を出る。ケヴィンも後からついて来た。 「ん?」 「どーし…」 「シッ!」 廊下の階段の前で、ホークアイが立ち止まり、ケヴィンに対しても静かにしろとうながす。 ホークアイはそろそろと階段の下の方をのぞき込む。階段の下の踊り場で、デュランとアンジェラがなにやら会話していた。 風呂上がりのデュランに、アンジェラがなにか言っている。 「……でさ…、どうする? ベッドで寝ても良いけど…」 「…どういう気のまわしようだ? おまえが親切言うなんてよぉ」 「う、うるさいわね! 私が親切言っちゃおかしいっての?」 「うん」 「デュラン!」 「冗談だよ。でもな…、荷物もあの部屋に置きっぱなしだし、なにより毛布をもう借りちまったんだよ」 「……そう……」 心なしか、いや、完璧に残念そうな声のアンジェラ。 「…ま、床での寝心地があんまり悪かったら邪魔するかもな」 「え…?」 「夜が冷えるようだったら、床もキツそうだしな」 「じゃあ…」 「わからん。やっぱ男同士の方が気楽なトコあるしよ。まぁ、とりあえずベッドの上、あけといてくれよ。使わんかもしれんけど、とりあえず、な…」 「う、うん!」 なにかやたら嬉しそうな声をあげ、アンジェラは足取りも軽く、風呂場の方へ向かって行った。 「…なんなんだろーな? アイツ。いきなり怒ったり暗くなったり親切になったり笑ったり……。 わからんヤツだな…」 首をかしげながら、デュランは階段をのぼってくる。のぼってすぐに、ホークアイとケヴィンがいる事に気が付いた。 「ん? どしたんだよ、おまえら」 「…なぁ、デュラン」 「あん?」 首にかけたタオルを両端で握りながら、ホークアイを見る。 「おまえ、アンジェラとこのベッドで寝るのか?」 「うーん。まだどうしようか迷ってんだ。せっかく金だして毛布も借りちまったのが無駄になっちまうし、かと言って、なあ…」 「おまえ……」 「デュランしゃーん!」 「あ?」 部屋のドアあたりから、シャルロットが顔をだしてなにやらぴょこぴょこはねている。 「お風呂あがったんでちか?」 「ああ」 「じゃー、ご本読んで下さいでち! 今日買ったご本でち」 昼間買った絵本を掲げ、またはねる。 「んなのリースに読んでもらえよ」 「リースしゃん、これからお風呂なんでちって。ねぇ、読んでくだしゃいまちよー」 「あーあー、わかったわかったから…」 何だかんだ言ってシャルロットに甘いデュランは、のこのことシャルロットの方へ歩いて行く。 「………ホークアーイ。もうお風呂入ろうよー」 ケヴィンにせっつかれ、ホークアイは我に返る。二人は階段を降りて風呂場に向かう。 デュランのあの様子だと、アンジェラと……な事は考えていないらしいが、というか気づいてないみたいだが、ヤツだって男だ。いつオオカミになるかわかったもんじゃない。 アイツだって女に興味がないわけじゃないし…。しかも相手はあのアンジェラだ…。美人な上にグラマラスボディの持ち主。性格はともかく、容姿の面では百点満点になおボーナスがついてもおかしくないような女だ。 そのアンジェラと同室! しかも二人きり! 暗闇の中で二人きり! 「………………羨ましい…」 「は? なんか言ったかホークアイ?」 体を洗いながら、ケヴィンがホークアイを見る。 「別に…。デュランはどこで寝るのかなーって思ってよ」 「……そーだなー。やっぱりベッドの方が、良いんじゃないか? ベッド、柔らかいし…」 「柔らかい………」 アンジェラの胸ってデカくて柔らかそーだよなー。一度で良いから触らせてほしいもんだ。カノジョにしたいとはさらさら思わないが、あの肉体は魅力的だ。 「どーしたホークアイ! 鼻血出てるぞ!」 「! な、なんでもないなんでもない!」 「フンフンフフーン 」 鼻歌を歌いながら、アンジェラは体を洗う事に熱心だった。 「どうしたんですか? 何か良いことあったんですか?」 湯船につかりながら、リースも笑顔で尋ねてきた。 「え? 別にぃ。そんなことないよー」 と、言っている口調がすでに嬉しそうである。 しばらく、にこにこと体を洗っていたが、やがてハタと考え込み、洗っていた手を止めた。 「……ねえ、リース」 「はい? なんですか?」 「あのさ…、デュラン…どこに寝るんだろ…?」 「? デュラン…ですか。彼、ホークアイ達の部屋で寝るんじゃないですか?」 「…うん…。床じゃあんまりだからって、こっちで寝たらって言ったの」 「…はあ…」 「そしたらわかんないって、言われた。どっちで寝ると思う?」 「………ええ…」 聞かれて、リースはちょっと考え込む。 「…そうですね…。やっぱり、ホークアイ達の部屋で寝ると思いますけど…。あの人、私たちと同室だと嫌がる傾向ありません?」 「…ま、まぁね…」 朝など、着替える時に廊下に男たちを追い出すので、それが面倒くさいらしい。 他に、男同士の部屋だと女の子達に気を使う事もないのが良いらしい。いつだったか、パンツ一つで寝てたらしく、そのまま出てきて、朝早く訪ねたリースを赤面させた事があった。 「……どうしたんですか?」 「あっ、その、なんでもないのよ」 急にションボリになったアンジェラを、リースは不思議そうにながめた。 「…私、もう出ますね…。お先に」 「う、うん!」 アンジェラは急に笑顔になって、リースを見送った。 脱衣所で、服を着ながらリースは風呂場の方を眺めた。 「……あれだけ露骨なのに…、気づかないデュランもデュランですよね……」 リースも人の事を言えるほどではないのだが、本人に自覚がないのだからしょうがない。 「ふぅ…。良いお湯だった…」 部屋のドアを開け、リースは戻ってきた。お風呂セットを自分の荷物に戻し、タオルを部屋に張ったヒモに干す。 「…あら? デュラン…?」 ふと見ると。シャルロットのベッドにはデュランもいて、なにやら二人で横たわっている。彼らの頭の上あたりに開きっぱなしの絵本があった。 「シャルロット? デュラン?」 リースは近づいて、彼らの様子を見る。 どうやら、デュランがシャルロットに本を読んであげてるうちに、二人とも眠くなってそのまま眠ってしまったらしかった。 「まったくもう……」 リースは小さく苦笑した。 「ホラ、デュラン。起きて下さい」 絵本を閉じ、片付けてから、デュランを軽く揺らす。 しかし、かなり疲れているらしく、デュランは起きる気配はない。まぁ、疲れているのはリースも一緒だ。 起こすのは悪いと思ったリースは、そのままにしてあげる事にした。 「しょうのない人ねぇ…」 苦笑しながら、リースは二人の上にそっと毛布をかけた。仲睦まじく寝てる姿は、本当の兄妹のようだ。 「うふふ…」 あどけない二人の寝顔をくすくす笑いながら見るリース。 「……おやすみなさい、二人とも……」 そう言ってから、リースはベッドにもぐりこみ、そしてランプを吹き消した。 …夜はゆっくりとふけていった。 |
オシマイ。 |