「日本さーん!」
ガラガラガラーッ この国での仕事が思っていたよりも随分早くに片付いて、仕事相手と軽く飲んで良い気持ちになって、しかしその彼らは明日早いからと夜もまだこれからの時間に帰ってしまって。このままビジネスホテルに泊まるのも味気ないし、ちょうど飲み屋とここがそう遠くなかったので。 台湾はほろ酔いの良い気分で日本の屋敷へと押しかけて、勝手に玄関の引き戸を開け放していた。 屋敷の奥から、慌てた空気が伝わって、ほどなくしてその日本が玄関へとぱたぱた駆け寄って来た。 「た、台湾さん…!? どうしたんですか突然」 「えへへー。仕事が早く終わって飲んでたんですけど、みんなさっさと帰っちゃってですネー。ここから近かったので遊びにきちゃいましター!」 上機嫌で、台湾は玄関の中に勝手に入る。 「え、え〜…。困りますよ突然、連絡なしで……」 「なんでですかー。もーワタシと日本さんの仲なのにー」 「でもですね、えっと…」 本当に何か気まずい事があるらしく、彼はしきりに屋敷の奥の方を気にしていた。その日本の様子に、台湾はいぶかしげな顔をする。 「……なに、日本さん……もしかして、今、別の女連れ込んでるんですかっ!?」 「えっ? ち、違いますよ」 「じゃあなんで私のホーモンを嫌がってんですかぁ!」 「そ、それは、その、ともかく。他に泊まるのに良い場所を紹介しますから、今日は本当に困るんですよ」 急に小声になって、日本は台湾を追い返そうと突っかけを履いて玄関まで降りてきた。 「なによー! やっぱり女がいるんだ!」 「いませんてば! ただ、本当に困るんですよ!」 確かに予定外の事をされると困った顔をされるが、ここまで露骨に嫌がられるのは初めてだ。これは別の女を連れ込んでいるのに違いないと思った台湾は頬を膨らませた。 「なによ! 本当に女がいるんだ!」 「いません! いませんけど、今日は本当に駄目です!」 「だから、何で駄目なんですかぁ!」 「それは、と、ともかく……」 「……おや、可愛らしいお嬢さんですね」 今、この目の前で押し問答している日本とまったく同じ声が、廊下の方から聞こえた。 「あ、ちょ、困りますよ! 出てこられては!」 入って来ないように台湾を押しとどめている日本は、ひどく慌てた様子で、廊下に立つ男へと顔を向ける。台湾も、日本と同じ声を出す男に顔を向けて、目を見開いた。 そこには、日本とまったく同じ姿形をした男が一人、立っているのである。 「そんなに騒がれれば気になるというものですよ。良いじゃないですか。そんなに可愛らしい娘さんが訪ねてくるなんて、喜ばしい事ですよ」 「なに言ってんですか。ともかく、ちょっと引っ込んでてくださいよ」 日本にしては珍しく乱暴な口調で、自分と瓜二つの男へと言い放つ。着ている着物が少し派手なだけで、顔も背格好も全て、日本と同じと言って良い程良く似ていた。 「えっと……? だ、誰、ですか?」 「後で説明しますから。今日はお願いですからお引き取りください」 「そう言う言い方もないと思いますよ。せっかく訪ねてくださったのでしょう? 初めましてお嬢さん。私、日本と申します」 とにかく帰らせようとする日本に、彼は若干咎めるようにそう言って、台湾に向かって礼儀正しく頭を下げた。 もちろん、台湾は混乱して着ている物が違うだけの「日本」を交互に見比べた。 玄関に降りている方の日本は顔に手を当てて深々とため息をつき、廊下にいる方の日本はにこにこと台湾を見つめている。 「お上がりなさいお嬢さん。若い娘が家にいるのは華やかで良いものです」 「あ、ちょっとそんな勝手に…」 「良いじゃないですか。じじむさいのと犬と猫しかいない屋敷にどういった面白みがあると言うのです」 「面白みで生活しているわけじゃないでしょう」 同じ顔した者にじじむさいと言われて面白くないらしく、珍しくイライラした調子で言い返す。 「……これでは童子達が見えなくなるのも仕方がないというものですね……」 「何を言ってるんですか。ともかく…」 「ほらほらお嬢さん。そこに立ってなどいないで。どうぞどうぞ」 「あ、あああ……」 「ちょっと!」 呆然と突っ立っていた台湾の手を握り、廊下にいる日本の方が屋敷に上げようと引っ張った。 「あ、あの、く、靴、靴を」 引っ張り上げられて、台湾は慌ててハイヒールを脱ぎ、引っ張られるままに廊下の奥へと連れられて行く。 「ああ、……もう!」 苛立って頭を軽く掻きむしり、日本はまず引き戸の鍵をかけ、それから脱ぎ捨てられた台湾の靴をきちんと揃えて、彼もまた廊下の奥へと歩き出した。 …続きは同人誌で…。 続きが18禁なのでマジ載せられません。の第三段。 日本さんがもう一人増えて割とアホな感じのハナシになりました。 甘めにはしたつもりですがー…。 |